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ハーレムヒロインたちは、主人公を探している  作者: まつり
第一章 ヒロインと荷物番さん
3/8

3話:荷物番さんは疑う

 ――荷物番、ファルラスの人生は不幸そのものであった。


 王都の衛兵を目指すため、八歳で村を飛び出したはいいものの、道中で夜盗と遭遇し、身包みを剝がされた。さらに追い打ちをかけるが如く、『カミツキ兎』に尻を噛まれ、村へ引き返し笑いものになった。

 傷が癒えて再び村を飛び出すも、次は奴隷商に捕まり、別の形で王都へ到着。こうして奴隷として二年を過ごし、『聖騎士』によって解放されるも一文無し。

 宿屋で働いて資金を貯め、念願の冒険者になるも、所属していたパーティーーが壊滅(×3)。命辛々王都に到着すると、眉目秀麗な男たちの集団に保護される。その時の生活費やら介護費などを返済するために、今の荷物係りの立場に落ち着いているわけだ。


 荷物係りと言っても、一口に彼らの武器や防具を運ぶだけでない。

 掃除や食事の手配、武器の管理やメンテナンスなど、雑用も彼の仕事に入っている。いわゆる、なんでも屋だ。

 年中無休低月給のデスマーチに加え、軽薄な男どもの罵詈雑言付き。とてもとても、良い環境とは言えない。


 しかし、そんなファルラスだが、他人に誇れる特別な異能を身に着けている。否、この不幸な人生で培われた、と表現するが適切か。


 身に滂沱と降り注ぐ不幸の嵐を切り抜けた(切り抜け中)の経験から、ファルラスには『危機感知能力』が身についていた。

 誤解のないように説明しよう。

 危機回避能力でも、危機対処能力でもない。危機感知能力だ。

 すなわち、自分の身に危険や不幸が降り注ぐ可能性があることを、事前に知ることが出来る。以上だ。悲しきかな、ファルラスの才能では、危機を知ることは出来ても、対処する術を持たない。

 事前に危機を感知することが出来、心の準備を整えることが出来る。と。たたそれだけだ。


 ――そんなファルラス。彼の危機感知能力は、かつてない程の雄叫びをあげていた。


「ヤバくね? ちょーヤバくね? 魔獣全然来ねぇじゃん。俺たちの相性が超良くてビビって逃げてんのかもね?」


「そうだといいわね。一応、警戒は怠らないようにね」


「任せとけって、リーちゃん!」


 クエストへ向かう森の中。リーリエと名乗った少女の忠告へ、グラダスは芯のない返答を返す。

 明らか聞き流す適当な返答だが、リーリエは特に表情を変えることなく、腕を断崖絶壁の胸の前で組んだまま――


「――」


 睨まれた。将来性のある胸の前で組んだまま、と、訂正。

 閑話休題。

 リーリエは警告を促す割に、軽薄な返答を咎めるつもりはないらしい。元々彼の戦力を宛てにしていないからだろうか。


 彼女の胸中を覗き見ることは出来ない。しかし、分かっていることが一つある。

 それは、魔獣が跳梁跋扈するこの森で、一度も戦闘がない理由だ。


 ――眼前に、暴力を具現化したような少女がいるからだ。

 リーリエ、マルティア、エリカと名乗った少女。後者二人はかの有名な≪勇者≫パーティーの団員であると音に聞く。しかし不思議なことに、二人よりも遥かに強大な戦力を、リーリエが孕んでいると感知したことだ。


 一歩、彼女の領域に踏み込めば、一瞬で命が刈り取られる――そんな確信。

 天災を彷彿とさせるリーリエに、森に潜む魔獣は牙を剝けることが出来ないのだ。

 ただひたすら時を待つ。四肢を丸め、目を伏せ、ガタガタと震えながら。リーリエがその場を過ぎ去る、安息の時間に祝福される時を。


「な? 分かったでしょ、リーちゃん。きっと俺らの戦力が化け物過ぎて、魔獣共も尻尾巻いてんだよ! 凄くね、俺ら?」


「そうね」


「な? いやーこれは速くに帰れて、乾杯出来るかもね?」


 彼らがリーリエの異常性に気が付かない理由は簡単だ。

 あまりに戦闘に慣れていなさすぎる。これに関しては、冒険者のほとんどが当てはまるが。家、宿屋、街、国――人間は各々の役割を分割することで、より長くの時間の平和を保障された。しかしそれは逆に、野生という残酷な世界から、乖離したという結果に繋がる。

 故に、戦力差を見極める能力が、減衰してしまった結果であろう。


 ふと、前を先行していたリーリエの足が緩む。代わり、真ん中で左右を警戒していた少女、エリカが歩速を速め、リーリエと位置を入れ替えた。

 戦列の性質上、最前列を歩む者の警戒心は群を抜く。当然疲労が多い分、中列と交代するのが基本。だが、声を掛け合うパーティーがほとんどである故、阿吽の呼吸で役割を交代する三人の絆が相当高いものだと窺える。


「大丈夫? 荷物、持とうか?」


 ふと、隣から声を掛けられ、ファルラスははっと顔を上げた。

 自身の体の二倍はある荷物を背負う自分を憐憫に思ったのだろう。小首を傾げるリーリエ。表情は豊かでないが、口角を僅かに緩め、端正な顔立ちを向けられ、思わずドキリと心臓が跳ねる。


「い、いや。大丈夫だ……まぁ、何と言うか、慣れているからな」


「そう? でも、ここで戦闘が起きたら、すぐに荷物は捨てるのよ? いざとなった時には、誰も貴方のことを守ってくれないわ」


「分かってる……異常事態も慣れてるから」


「あら。心強いわね」


 積極的に話しかけるグラダスたちに対し、三人の少女はけんもほろろな返答であった。その対応とは打って変わった対応へ、『砂原の黒蠍』団の全員が眉を顰める。

 これ以上不満を買わないよう一歩距離を取ると、今度はリーリエの方が、距離を埋めるように一歩と近づいてきた。


「それはそうと……貴方、この仕事に満足はしているの?」


「はい?」


「危険な森に入る人間の表情は僅かに三つよ。強さに関わらず、常に警戒を怠らない者。驕り、森を舐めてかかる者。――諦めている者。貴方がどれに属するかを言わなきゃいけないほど、貴方は愚かでないでしょう?」


 リーリエが言外に伝えようとしていることは、何となく伝わってくる。

 今、自分の顔に張り付いている表情は、とても命の駆け引きをする男の顔ではないであろう。

 魔の大陸から人族を守る≪勇者≫パーティーの一味である彼女たちからしてみれば、その表情が酷く不快であることへ、一定の理解は示せる。


「何が言いたい?」


 しかし、今まで歩んできた人生を踏まえれば、とても彼女たちの功績を称えるような生き方は出来ない。


「いえ、別に生き方は貴方の勝手なのだから、好きにすればいいわ。私たちが魔の大陸へ行った目的は、貴方達を生かすためでない。奪われないことを保証するためなのだから」


「確かに、貴方達の功績は音に聞いている。その点には感謝するが……魔の大陸以外にも、脅威は多くあるんだ。分かってくれ」


「そう。私たちは完璧ではないわ。悪いけど、中の警戒に関しては、私の関知するところでない。もし内部に敵がいるとしたら、それは国の怠慢でしょうね」


 王国直近の森で、何と不遜な。思わず誰かに聞かれていないか確認してしまう。


「……ってか、随分と勇者みたいなことを言うんだな? もしかして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「ぇ、リーリエよ? なんで皆聞いたことがないのよ? リーリエって聞いて、心当たりはない?」


「さぁ?」


「うぐ……ま、まあいいわ。全然気にしてないもの。ええ、全然……」


 獣人族特有の、大きな耳と尻尾が垂れ下がるリーリエ。言葉と相反し、体は随分と正直だ。


「とにかく! 貴方がこの立場に満足していないというのなら、私たちのパーティーに入らないかしら?」


「――は?」


 咳払いで仕切り直すリーリエ。次いで出た提案に、ファルラスは返答に窮する。


「いや、意味が分からん……お前ら、勇者パーティーだろ? 俺みたいな荷物係りが役に立つはずもないし……そもそも、俺とお前達じゃ、一生埋められない程の戦力差があるぞ?」


「それに関しては気にする必要はないわ。別に、戦力を求めているわけじゃないもの……恥ずかしいから、その大きな声では言えないけど……その……パーティーの発展に欠かせないのよ」


 頬を僅かに赤らめ、尻尾をぶんぶんと振るリーリエ。対しファルラスは――


(怪しい―――――――ッッ!!)


 そもそも、リーリエとファルラスの戦力は、三度人生をやり直しても覆らない程圧倒的なものであろう。

 戦闘に似つかわしくないポンチョを着飾っているにも関わらず、リーリエから滲み出る闘気は、不落の城壁を彷彿とさせるほどだ。


 そんな彼女が、無条件でファルラスを迎え入れる理由が分からない。


「――ッ!」


 頭を巡らせ、はっとする。

 戦闘に関してファルラスは何も役に立てないように思えるが、実は一つだけ、彼女たちに貢献できる役割がある。


 ――肉壁だ。

 彼女たちは今後強大なクエストを消化するつもりであり、そのための盾を、幾ばかか用意するつもりなのかもしれない。

 奴隷の経験と不幸な人生がなければ、思わず彼女の美貌に騙されるところであった。


「まぁ……考えておくわ」


「そ? 前向きに考えてもらえると嬉しいわ」


 そう、恐ろしい笑顔を向けられた。

 ――そんな二人を横目に、グラダスは凶悪な笑みを浮かべた。


如何でしたでしょうか?


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それではまた明日!

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