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ハーレムヒロインたちは、主人公を探している  作者: まつり
第一章 ヒロインと荷物番さん
2/8

2話:≪勇者≫様は、靡かない

 アルフィレア王国、首都アルフィレア。

 アストラ大陸南方に国を構える、人族四大大国の一つだ。

 四大大国と冠を称す首都なのだから、当然、首都の規模は他の国の比ではない。長軸八百メーラーの土地に、五万の国民が詰め込まれている。


 その国の特色は。

 冒険者の集う街、だ。


 大小含め三種のギルドが威容を誇る首都は、必然的に優秀な冒険者が集まりやすい。

 世界で最も名うてのギルド――『聖女の祈り』が存在している理由も大きい。


 いずれにせよ。優秀な冒険者が集うギルドであるが故――


「そこの貴方。私のパーティーに加えてあげてもいいわ。明日発つから、さっさと準備しなさい」


「断る、ボケ」


 ≪勇者≫とは言え、そのことを認知されないリーリエの勧誘など、誰も乗る訳がなかった。

 まぁ、無名の冒険家が上からパーティーに入れてやると言い寄って来て、首を縦に振る熟練者は、よほど酔狂な性格の持ち主でない限り厳しいであろう。

 冒険者は、一つ一つが命のやり取り。当然、パーティーを組むのは、信頼できる仲間同士に限定される。


「おかしいわ……信頼という面では、私の戦力は保証されているのに……私、世界で数人しかいない≪勇者≫なのよ?」


 青息吐息のリーリエ。ギルドの中央でケモ耳を項垂れると、後ろから「リーリエ!」との呼び声。


「団長と呼びなさい。エリカ」


「ぁ、さーせん。リーリエ団長、なんだっけ……えっと、ハーレムの主人公? は、見つかりましたか?」


「……い、今から探すところよ。ええ、今からね」


「もう一時間位ここにいるんっすけど……腹減ったし」


「まぁ、そうね……ここでいい?」


「ん、腹に入れば何でもいいですよ」


 こうして、マルティアのいるテーブルを囲み、武骨な肉を頬張る三人。浮かない顔をするリーリエへ、マルティアはため息を一つ。


「そんな浮かない顔されると、食欲がなくなるっぺ」


「食欲がない人は、骨付きチキンを両手で四本も食べないわよ」


「デブって言いたいっぺ!? 女の子にそれは酷いっぺ。喧嘩っぺ!」


「何も言ってないわよ、田舎娘」


「ならいいっぺ。……そもそも、このレベルのギルドじゃ、パーティーメンバーを探す方が大変っぺさ。メンバー募集なら、小さな町に行かないと厳しいっぺ」


「合同パーティーにして、高難度の依頼に取り組むってのはどーっすか? 人は多くなるけど、お眼鏡に叶う奴がいるかもしれないっす」


「駄目ね」


 二人の提案を一蹴したリーリエは、フォークの先を彼女らに向ける。


「いい? ハーレムの主人公は、誰でもいいわけではないのよ。適性がいるの。化け物みたいなパーティーで、獅子奮迅の活躍をしている奴とラブラブになったって、疎まれるだけよ。みんなに応援されるような、ハーレムを目指さないと」


「マルティア、分かったっすか?」


「全然分からないっぺ。つまり、どういうこと?」


「最低でも、パーティーの荷物係りとか、役に立たないスキルで追放された人とかが良いわね」


「そんな人、余計にこんな場所にはいないっぺ。そもそも――」


 マルティアはため息を吐きつつ、


「一度パーティーを抜けたら、一年間は同ギルドのパーティーに入れないっぺ」


「な、なんですって……ッ!?」


「冒険者登録のマニュアル、読んでないんっすか?」


「読めないのよ、字は」


「……強力なパーティーメンバーが金で引き抜かれて、死者が出ることを防止したシステムっぺさ。恐らく、どのギルドも同じだから、こんな場所で探しても、なんの意味のないっぺよ?」


「困ったわ……」


 項垂れるリーリエ。エリカは肉を頬張りながら、


「実際問題、マジで合同パーティーを組むしかないんじゃないですか? 本来の目的とは違うっすけど、上手くいけば、いい出会いがあるかもしれないし」


「合同、ね。でも――」


 エリカの提案に頷きつつ、首だけを後ろへ向けるリーリエ。

 本来のギルドなら、まるで居酒屋の様に騒がしいはず。無論、この場も騒がしいが、その内容は並みのギルドとは異なっている。


 皆が皆、依頼書の内容の摺り合わせや、事前調査の共有を行っているのだ。

 その顔は真剣で、さながら行軍前の戦士の面持ち。

 流石は優秀な冒険者集団だ。そんな彼らを――


「弱すぎる。お話にならないわ」


 と、一蹴。


「正直な話、組むメリットがない。人が多ければ多いほど、守らなければならない対象が増えるだけ。難易度も難易度だし、イレギュラーがあったら、確実に彼らの命を守れる保証はないわ」


「あら、意外と考えてるっぺ」


「当然でしょう? 私たちがやっているのは、お遊びじゃない……まぁ、ハーレム云々はおいておいて……いずれにせよ、百%成功するような依頼でない限り、受けることは出来ない。その点で、合同パーティーの話は――」


「――ねぇ、そこのお嬢さん方ぁ? ちょっといいかなぁ?」


 論舌するリーリエの後ろ、いやに神経を触発するような声が飛ぶ。

 目だけ声の主に向けた彼女は、今日何度目かのため息で応じた。


「絶対になし、ね」


「なぁなぁ? 冒険者探してんだって? 見つかったかよ?」


 軽薄な声の主は、その声調を裏切らず、見た目も軽薄なものであった。

 短い金髪に筋骨隆々な体付き。しかし、それは戦いのための筋肉というより、魅せる筋肉だ。余計な重量を搭載しているせいで、さぞ、戦闘には不向きであろう。


 目の前の男以外にも、二人男が後ろにおり、時折女性から黄色い声がかかる。

 ――正直、苦手なタイプだ。


「鋭意努力しているところよ。悪いけど、冷やかしに付き合えるほど暇ではないわ」


「えー、それはなくねぇ? ちょっとくらい、話してこーぜ。この昼食代、俺が持つからさぁ」


「……後悔するわよ?」


 と、リーリエ。しかし男はへらへらと諂うように笑う。


「後悔とかマジパなくね? こんな美少女と飯食えるとか、マジ最高だし」


 そういうと、リーリエの返答を受け付ける暇もなく、隣へ座り込んだ。

 すると、他の男たちも男性、女性、男性と女性を挟むように座ろうとする。


 それを感知したエリカとマルティアが、リーリエの脇に、ぴったりと体を近づけた――のではなく、リーリエを盾にして、男たちの陰に隠れる。


「……私を押し付けるの、やめてもらっていいかしら?」


「助けて、団長。怖いです」

「はわわ。団長、ここは田舎娘には厳しい局面だっぺ」


「だ、団長!? そ、そうね。団長として、ここは私に任せておきなさい!」


 結局、リーリエを真ん中に、女性の列、男性の列で席を囲む座組になった。

 男たちは初めにリーリエを攻略した方が手っ取り早いと踏んだのか、リーリエを主軸に会話を始める。


(マジでつまらないわね。話に内容がないとはまさにこのことだわ。よくもまぁ、ペラペラと)


 適当に頷くリーリエ。

 そうこうしていると、お腹いっぱいになったのか、マルティアがエリカの肩に寄り掛かり、小さく寝息を立ててしまった。


「食費が浮いて助かったわ。この子、結構食べるから……ふふ。お財布、大丈夫?」


「だ、大丈夫だ……き、気にすんなって!」


「――で。まさか、無償で食事代を驕るつもりはないのでしょう? いいわ。話くらい、聞いてあげる」


「あ、そう? いいね、話が速くて助かるぜ。ウェーイ」


「……」


 何故か拳を合わせようとしてくる。無論、リーリエは応じない。


「いやさぁ、ぶっちゃけ、俺らの顔知っているでしょ? 『砂原の黒蠍』。まぁ、俺らって結構強ぇじゃん? 君たちも、俺たちのことを見た時から、そう思ってたでしょ?」


「……まぁ確かに、ここの水準に比べれば高い方なのは認めるわ。パーティーの方も中々バランスの取れた編成じゃない? ……荷物が少ないのは、あまり褒められた事ではないと思うけど」


 近接戦闘が得意な戦士。中距離を主軸とする魔術師。遠距離を主軸とする弓兵。

 オーソドックスな形であるが、三人で陣形を組むのなら、もっとも安全性の高い編成であろう。軽薄な男たちだが、ある程度の素養はあるようだ。


(だけど……外見ばかりに気を取られて、防具や武器を疎かにしているタイプね。……早々に死ぬ典型的なタイプだわ)


 荷物が少ないということは、イレギュラーに対応できないということだ。

 クエストにどれほどの危険が潜んでいるのか。その全容を理解できていない典型的な例であろう。


 その疑問を裏付けるように、男はリーリエの褒めた部分のみを受け取ったようで、


「だしょー? 流石だわ。えっと……」


「リーリエよ」


「そ、()()()()()。俺の名前、グラダスね」


 握手をしようとするも、無論応じない。

 ――あの目、やはり苦手だ。


 女性を心ではなく、肉としてとらえる目付き。

 特に自分がそうみられたことはないが、マルティアやエリカにそのような目を向けられるのは、良い気持ちはしない。否、不快だ。


「まぁ、荷物に関しては他に任せてるから、心配しないでよ。それでさ、リーちゃんのパーティーー、冒険者を募集しているってことは、人数足りてないんでしょ? でっかいクエストでも受けるつもりなんでしょ?」


「今の所そのつもりはないわ。リスクを負うのは好きじゃないの」


「ぇ、これ、腹の探り合いってやつ? マジウケる」


「……ごちそうさま。他を当たってちょうだい」


「ジョーダンじゃん、リーちゃん。怒るなって!」


 エリカにマルティアを担がせ退散しようとするも、グラダスと名乗った男は、此方の手首をひっ捕らえた。


「いやさ。俺らとしても、そろそろ合同パーティーーってやつに慣れて起きたんだよねぇ? それでなんかいい感じの奴探してたら、君たちが目に留まった訳。なぁ、良いだろ? 一緒に冒険しようぜ」


「寒気がするわ。貴方達と一緒に外へ出たら、常に武器を構えてないといけないもの」


「うは! 流石リーちゃん、ジョーダンキツイよぉ!」


 今度こそ、リーリエは男の手を跳ね除けて、その場から離れる。


「……良かったです。リーリエ、昨日は結構追いつめられてたから、あんな奴にも尻尾を振ったらどうしようって思ってたっすよ」


「ふ、甘く見ないで頂戴。私は≪勇者≫よ? あんな軽薄で雑魚な男と組むほど、安い女じゃないわ」


 安心したのか、エリカは小さく微笑んだ。

 とはいえ、彼女たちには嫌な思いをさせてしまった。今日のハーレム探しは、ここでお開きにしようと決意。


(先が思いやられるわね……)


 なんて、本日何度かのため息を吐いていると、背中から怒号が飛んできた。


「オラ! テメェが遅れたせいで、あの子たちが逃げちまったじゃねぇか! 準備不足な奴らって思われたのは、テメェのせいだぞ!」


「す、すみません!」


 先の軽薄な男どもの声だろう。目だけを向けると――思わず、目を疑った。


 眉目秀麗な男たちに囲まれ、袋叩きにあう少年。右胸のワッペンから同じパーティーメンバーと判断するが、少年の服装は、男たちとは全く異なるものであった。


 襤褸とはいないまでも、至る所が擦り切れた服。洗う余裕すらないのか、泥が乾いて繊維にこびりついている。

 痛めつけられるのも日常茶飯事なのか、擦過傷や打撲痕も見て取れた。そんな少年は、自分よりも大きな荷物を持たされ、既に満身創痍の状態であった。


「気が変わったわ。良いでしょう。合同パーティー――結成ね」


「うわぁ……」


 その姿が、リーリエのお眼鏡に叶ったなど、言うまでもない。

 したり顔で軽薄な男共と握手を交わすリーリエへ、エリカの引く声が、ギルドに悲しく響いた。


如何でしたでしょうか?


もしも『気になる』や『続きが読みたい』と思われましたら、広告の下の評価を☆☆☆☆☆→★★★★★にしていただけると幸いです!

ブクマや感想も大歓迎です!どうぞよろしくお願いいたします!


ではまた明日!

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