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ボン  作者: ボン
3/3

何故共に行くのか

最終話です

「来た…」

「何が…?」

「新月の日だー!」


リオンがハッとなった。

そう、あれから月日は流れ、再び新月の日が訪れた。

だがしかし、リオンもただぼーっとこの日を待っていたわけではない。


「陽が暮れたらさっそく、女の子をナンパしに…」


ガチャリ


窓の外を覗いていたボンの首に、鉄の首輪が嵌められた。


「あの…、これは…?」


振り向くと、首輪についた鎖の先を握り締めるリオンの姿。


「鎖と首輪」


見て分かる答えをそのままリオンは言った。

いや、聞きたかったのはそういう答えではない。


「あんたみたいなドスケベ街中に放流出来るわけないでしょう!」

「あはははは~」

(ひどい言われようだけど、否定できない…)


自覚はあるようだ。


「でも元の姿に戻ったらそんなに触ったりしないよ?」

「どうだか」

「だってさ~、この姿だと笑って済ませてくれるけど、大きくなると「変態!」って殴られるもの」


確信犯か。


「この、「変態!」」


バッチィン!


世の女性達の代わりに、リオンが天誅を下した。


「・・・にゃぜ?」


それは、変態だから。

顔を赤く腫らしたボンが、床に転がったのだった。

そして、時を置かずして陽が山の向こうに完全に隠れた。


「やった! 陽が沈んだ!」


そうボンが叫ぶと同時に、ボンの身体が光る。


「きゃ」


眩しさに目を閉じたリオンが目を開けると、そこには青年の姿になったボンがいた。


「ふむ」


そう言って身体を動かし、具合を確かめている。

久方ぶりに見るその姿に、一瞬呆けるリオン。


「はい、リオン、これ返す」

「え?」


ほいっと投げられた鎖付きの首輪。


「ええ?!」


鍵はちゃんとリオンが持っているのに、どうやって?


「この姿になれば、そんなものお茶の子さいさい」


そういえば、かなりの実力のある魔術士だったっけ…。


「それじゃあ、行ってきま~す」


そう言い残し、ボンは窓から颯爽と飛び降りて、街中に消えて行った。


「ちょ、ボーン!」


慌てて外を見るが、その姿はすでに見えない。


「あんの、エロ魔神が…」


鎖と首輪を握り締め、歯ぎしりするリオン。

このまま野放しには出来ないと、リオンも慌てて扉から外に出て行くのだった。















賑わう街中。酔っ払いの姿もちらほらと見え出す。

キョロキョロと辺りを見回しながら、リオンは通りを進んで行く。


(どこ行ったのかしら、ボンってば…)


何しろ相手は屋根の上を軽々と走ったり、路地裏を駆け抜けたり、平気で人の家を横切って行ったりと、まったく行き先に予想が付かない。

女の子をナンパと言っても、商売女を口説きに言っているわけでもないので、そういう通りにいるとは思えない。仕方なく虱潰しにリオンは街中を歩いていた。


「きゃ」


キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていたせいか、前から来た男にぶつかってしまった。


「あ、ご、ごめんなさい…」


目つきの悪い男が、ギロリとリオンを睨み付ける。そして、リオンの顔を見て、その身体を上から下まで眺め回すと、


「あだだだだだ! 腕が折れた!」


突然下手な芝居を始めだした。


「え?」


いや、いくらなんでもぶつかってから時間が経ちすぎるだろう。

訳が分からず戸惑うリオンに、連れの少し痩せ形の男が近づいて来て言った。


「よう姉ちゃん、どうしてくれんのよ?」

「は?」


なにがどうと言うのだ?

怪訝な顔をするリオンの前で、


「いだだだだ! いだいいだい!」


男がわざとらしく痛がる振りをする。


「そ、そんな、ぶつかっただけで折れるわけないでしょう!」


明らかに芝居と分かるその振りに、リオンも言い返す。


「弟は身体が弱いから、すぐポッキリいっちゃうのよ」


いや、どう見てもお兄さんよりも太めなんですけど。


「金払うか? それとも身体で払うか?」


そこまで来て、リオンも気付く。

こいつら、身体目的だ。


次の瞬間、リオンは踵を返して駆け出した。


「逃げた?!」

「待ちやがれー!」


2人の男も追ってくる。


(もう! ボンのバカ!)


心の中で悪態を吐きながら、リオンは必死に足を動かし、街を逃げ回った。


しかし、初めての街、すぐに袋小路に追い込まれた。

逃げ場を失い、振り返ると2人の男がゆっくりと近づいて来る。

暗い路地、人通りも少ない。助けを求めようにも誰もいない。そして逃げ場もない。


「もう後がないぜ」

「安心しな。俺達は優しいから」


優しいならこの場から逃がせ。


「いや! 来ないで!」


この後に繰り広げられるだろう自分の姿を想像し、絶望にくれるリオン。

男達は面白がるようにゆっくりと腕を伸ばし、にたにたと下卑た笑みを浮かべて近づいて来る。


「いやあっ! ボン!!」


恐怖のあまり、リオンが叫んだ。


「呼ばれて登場、正義の味方♪」


と上から声が振ってきた。

すると、リオンの目の前に風が巻き起こった。


「ぎゃ!」

「うわ!」


旋風に男達が吹き飛ばされる。

そして、リオンの目の前にボンが降り立った。


「ボン!」

「は~い、リオン。トラブルに巻き込まれるの好きだね~」

「なわけないでしょ!」


リオンも好きでトラブルに巻き込まれているわけではない。決して。


「なんだてめえは!」


骨が折れて痛いと言っていたはずの男が、折れたと騒いでいた腕を振り上げ、ボンに殴りかかってきた。

ところが、ボンが何か呟き軽く腕を上げると、


ドゴッ


地面が柱のように盛り上がり、男の顎にヒット。男はそのまま倒れ込んだ。


「ま、魔術士だ…」


お兄さんの方は魔術士の存在を知っていたようだ。


「うわあ!」


慌てて逃げようとするも、


「逃がすかよ!」


ボンがまた何か呟き腕を振ると、石の礫が降り注ぎ、兄の方も倒れ込んだ。

当分2人共起き上がっては来ないだろう。


「にっしっし。この姿だと魔法が思いっきし使えるからいいな」


ボンは力が振るえてご満悦のようだ。


「大丈夫か? リオン」

「う、うん…」


ボンの問いに、少々頬を赤らめて答えるリオン。


「い、今までどこにいたのよ!」


恥ずかしさと怖さと、もっと早く助けに来てくれたらという責める気持ちがない交ぜになり、言葉がきつくなる。


「ん? 上から可愛い子いないか探してた」


ボンは正直であった。

がっくりとなるリオン。こいつはそーゆー奴だよ。


「そしたらリオンが走って行くのが見えて、どしたんだろって付いてったら、なんだか襲われそうになってんじゃん? 慌てて助けに来たのよ」


気付いてくれたことには感謝すべきなのだろうが、ついで感が否めない。


「リオンは綺麗なんだからさ~、不用意に夜出歩かない方がいいよ~」


それもこれも全部お前のせいだ! という言葉を吐き出す前に、「綺麗」という単語に反応してしまったリオン。


(綺麗って、あたしのこと、綺麗って…)


何故こんなにも嬉しいのか。赤くなる頬を両手で押さえ込む。


「さ、宿まで送るよ」


親切に手を差し出し、送ることを提案してくるボン。


「だ、だめよ! あなたを野放しになんて出来ない!」


本来の目的を思い出し、ボンの腕にしがみつくリオン。


「お?」


しがみつかれたことに驚くボン。そして、その膨らみの柔らかさに驚くボン。


(こ…、これは…)


リオンにしがみつかれ、その胸の間に腕がめり込んでいる。その破壊力。


「何?」

「ナンデモナイ」


自覚してないならいっそこのままと、白を切る。


「だ、大丈夫だって。おいらは元の姿に戻りたいだけなんだから、変なことしたら女の子皆逃げてっちゃうじゃん?」


リオンがいたらナンパ出来ない。なんとか穏便にリオンを宿に返そうと言い繕うボン。


「ね?」

「それも、そうね…」

(なんか、釈然としないけど…)


確かに、この姿で平気で女性の胸や尻を触るようなら、痴漢と騒がれて下手すれば捕まってしまう。それでは本来の目的を果たすことは出来ない。ならば、ボンが痴漢をすることはないだろう。この姿では。

ボンの腕に掴まったまま、大人しく宿への道を進む。


「折角だから、一杯飲んで行く?」

「うん」


一杯引っかければ寝付きも良くなるだろうと、気軽に誘ったボンだったが、この後後悔することになった。














ごきゅっごきゅっごきゅっごきゅっ


「ぷはあ~~~」


どん!


どこぞのビールのCMか。


「ふ~~~~~~」


一杯飲み終わったリオンが、荒々しくコップをテーブルに置き、エールの余韻を楽しんでいる。

しかし、その目の前には、その一杯がすでに終わったコップがずらり。


「あの…、リオン…? いい加減…」

「あによ」


さすがに飲み過ぎを心配してボンが声を掛けるも、酔って座った目つきでリオンに睨まれ、苦笑い。


「あらしのころなんれほっろいれ、ろこにれもいきゃーいーでしょー!」

(訳:あたしのことなんてほっといて、何処にでも行けばいいでしょ!)


(出来るかーーーーー!!)


ボン、心の中で突っ込む。


リオンは美人だ。スタイルもいい。色々絡まれるのも、この美貌のせいだと分かっている。

そして、ここは荒くれ共も集まる酒場。先程からちらちらとリオンをチラ見する視線も大勢感じている。


(こんな所に女の子1人置いて行ったら、それこそいいカモだよ…)


ボンがいなければ、すでにどこかで誰かに色々されていたかもしれない。というか、あわよくばボンをどうにかしようとする気配も感じている。

さすがにこんな状態の女の子を放り出して行けるような、人でなしではなかった。


騒ぎ始めるリオンを宥め、もっと飲むというリオンを抑え、フラフラの状態のリオンを支え、なんとか宿に向かい始めたのは、そろそろ朝になり始める時刻。

さすがのボンも泣きたくなってきた。

女の子をナンパするのはすでに諦め、足元が覚束ないリオンを支えながら、橋のたもとまでやって来た。


「大丈夫か? リオン」

「う~~~ん…」


半分意識のない状態で、ボンに寄りかかりながら歩くリオン。

抱っこがおんぶで運ぼうとすると、


「痴漢!」


と言って頭にチョップしてくるのでそれも出来ない。面倒な酔っ払いだ。


「う“・・・」


リオンの顔が青くなる。


「ううううう“・・・」


丁度橋だし。


「吐いてもいいよ」


と背中をさすってやる。

ヒロインにあるまじき醜態をさらして、多少意識が戻って来たリオン。


「飲み過ぎた…」

「そーね」


橋の欄干に寄りかかり、夜風に当たって酔いを覚ます。


「ねえボン?」

「ん?」


黒い川面を見つめていたリオンが、問いかけてきた。


「真実の愛って何?」

「・・・・・・」


言葉に詰まるボン。

深く溜息を吐き出し、欄干に肘を付き、手に顎を乗せる。


「実際の所、おいらにもよく分からん」

「え?」

「真実の愛を見つけたら呪いは解けるって言われたけど、そんなあやふやなものどうやって確かめりゃいいのかね?」

「キス、とか?」

「あはは~、キスで呪いが解けるね~。昔話でも良くある話だよな~」


童話や神話でもよく聞かれる話だ。キスで呪いが解ける、目が覚める、元の姿に戻る等。


「してみる?」

「ハイ?」


ボンの声が裏返る。リオンが潤んだ瞳でボンを見つめてきた。


「ん」


そう言って、唇をボンの方に突き出してくる。


(ん、ってあーた!)


さすがに焦り始めるボン。


(こ、これって、酔いが覚めたら殺されるってパターンでない? で、でも、誘ってきたのはリオンからだし…)


後で正気に戻った時のことを考えると、恐ろしくて手が出せるものではない。しかししかし、リオンの方から積極的にこんなことをして来たわけでもあるし、ボンが全て悪いわけではない。だがしかし、だがしかし、…。

ボンはグルグルと考える。その目の前には艶めく唇。ここで味わっておかなければ、この先味わう事は決してないだろう魅惑の唇。


(殺されてもいい!)


理性よりスケベが勝った。


「り、リオン!」


しっかりとリオンの肩に手を添え、ブレないように見定めながら、顔を近づける。

一瞬目を開いたリオンも、ゆっくりと目を閉じ、ボンの唇が迫るのを待っている。

酒臭いのがちょっと雰囲気ぶち壊しであったが、その赤みを帯びた頬、艶やかな唇はそれ以上の魅惑でボンを惹きつける。

数㎝、数㎜、と唇が近づき・・・。










キラッ


山の端から太陽が顔を出した。

途端、ボンの身体が光り、あっという間に少年の姿に…。

目をぱちくりさせながら固まるボン。

リオンも少年の姿に戻ったボンを呆然と見下ろす。


「ぶふうっ!」


リオンが噴き出した。


「あはははは、あはは、あははははははは!」


そして、何がおかしいのかしゃがみ込んで笑い出す。


「あの…、リオン? 続き…っつっても無理よね…」


肩を落とし、笑い狂うリオンに手を伸ばすも、リオンは笑うばかり。


(ああ、あたし、分かっちゃった。どうしてボンと旅がしたいのか…)


笑いながら、リオンは自分の気持ちに気付いた。本当にどうでもいいならば、ここまでボンのことを追ったりはしていないはずだ。


「あああ…、いつになったら元に戻れるのやら…」


ボンもがっくりと膝を抱えてしゃがみ込む。


「この姿の方が可愛いわよ」

「嬉しくないって」


子供の姿では色々制限も厳しい。それになにより、女の子をナンパ出来ない。

先の見えないことに、ボンが長い溜息を吐く。


「元の姿に戻れるのも、そう遠くないかもよ」

「へ?」


ボンの顔を見て、リオンがウィンクした。


「さ、宿に帰って寝直しますか!」


そう言って立ち上がると、軽い足取りで宿へと向かって歩き始めた。


「リオン~! 今のどーゆー意味―!」


慌ててボンもリオンの後を追ったのだった。







ちゃんちゃん♪

短いお話ですが、お読み頂きありがとうございました!

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