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ボン  作者: ボン
2/3

やっぱり人選間違えた?

第2部です。

「キャー!」


青空の下、響き渡る悲鳴。


「こらぁ! ボン!」


続く怒声。

道の先から、小さな影が必死に駆けてくる。


「待たんかーーー!!」


その後ろから鬼のような形相の、笑顔ならば美人ではないかという女性が走ってくる。

ボンと呼ばれた少年が、必死に目の前に見えて来た街に向かって走る。

女性が道端にあった少し大きな小石を拾い、ボンに向かって投げつけた。


ゴン!


「ぶ!」


見事後頭部にヒット。ボンが道端に転がった。

追いついて来た女性、リオンが、顔を赤くしながらボンを掴み上げる。


「こんのエロガキ~!」

「あはははは~」


ボンは白目をむいて、頭の上で小鳥がピヨピヨ飛んでいる。打ち所が不味かったようだ。


「いい加減人のお尻を撫でるのをやめい!」


リオンがボンの頬を往復ビンタで袋だたきにする。

何発殴ったのか、頬を赤く腫らしたボンを道端に投げ捨て、リオンはプリプリと怒りながら、一人道の先へと進むのだった。


「まったく! やっぱり、人選ミスったかなぁ…」


頭を抱えつつ、道の先に見えて来た街へと向かった。ここまで来て流石に後戻りなど出来やしない。とにかく前に進むのみだ。


門で検問を受け、街に入る。イムラックの街を同じくらいの大きさのなかなかに栄えている街だった。

初めて訪れる街に、キョロキョロと辺りを見回してしまう。似ているようでやはり何処か違うなと考えながら道を進んだ。

すると、少し開けた広場の噴水の前に、座ってリュートのような楽器を弾く男がいた。

男の前には箱が置かれ、そこに数枚のコインが入っている。

噴水の側のベンチに座っている人達が、その耳障りの良い音楽に耳を傾けているようだった。


(綺麗な曲…)


奏でる調べに惹かれて、リオンが男の前に立つ。

ポロン、と最後の調べを奏でて、演奏が終わった。

パチパチとリオンが盛大な拍手を送る。

リオンの拍手に、目深に帽子を被っていた男が顔を上げ、帽子を上げてリオンを見上げた。


「凄い! 綺麗な曲ね!」


リオンの素直な感想に、嬉しそうに微笑む男。


「やあ、まさか拍手を貰えるとは思わなかった」


照れたように頬を掻く。


「もう一度弾いてくださらない? ちょっと踊ってみたいんだけど」


そう言って、リオンが男の前で軽くステップを踏む。


「光栄だね」


男が再び楽器を構えて、演奏をし始めた。




















「いい加減にしないと顔が変わるな」


ヒリヒリと痛む頬を抑えながら、ボンが街中を進んでいた。

リオンはどれだけ先にいってしまったのか、それとも愛想を尽かして置いて行ってしまったのか。

どうやって探そうかと思案するボンの前に、人だかりが見えた。その中から綺麗な調べが聞こえてくる。


「なんだろ?」


何か面白いことでもやっているのかと、人々の足元の間を潜り抜けて行くと、そこには綺麗な調べに合わせて舞うリオンの姿。とても楽しそうに嬉しそうに踊っている。


「・・・・・・」


舞い踊るリオンの顔は、本当に幸せそうに輝いていた。



















楽器を弾いていた男は、グリオと名乗った。


「おかげで随分儲かったよ。本当に分け前はいいのかい?」

「そんなつもりで踊ったんじゃないから」


気持ちよく踊り明かしたリオンは、お金を受け取ることを辞退した。元々男が弾いているのに割り込んだ形なのに、貰ってしまうのも悪い気がしたのだ。


「一杯くらいは奢らせてくれよね」

「まあ、一杯だけなら」


近くの酒場に入って、一杯だけ奢ってもらうことにする。そうしないとグリオも稼いだお金を全部もらうことに引け目を感じてしまうから。

同じエールを頼み、とりあえず乾杯。自然にお互いのことを話し始めた。


「ふ~ん、世界一の踊り子にねぇ」

「技量はまだまだだけど、色んな国で色んな踊り子達の踊りを見てみたいの」

「凄いなぁ。僕も旅に出る時はそのくらいに思ってたけどね」

「今は? 思ってないの?」

「自分の小ささってのを嫌という程に感じてね。僕くらいの奴は世界中にゴロゴロいるんだ」

「そんな! そんなことないわ! あれだけの曲を弾ける人はそうざらにはいないわ!」

「君はまだ世界を見ていないからさ」


そう言われてしまえば、リオンも何も言うことが出来ない。そうだとしても、なんだか悔しかった。

グリオが真剣な眼差しでリオンを見つめた。


「リオン、僕と一緒に行かないか?」

「え?!」

「君と一緒なら、僕は、また、世界を目指せるかもしれない」


リオンの手を取り、その瞳をしっかりと見据える。

その強い眼差しに、リオンも目を背けることが出来なかった。


「今の奴といても、何も得られるものはないんだろう? 僕だったら君を支えられる。僕らは最高のパートナーになれる」


確かに、弾き手と踊り子ならば、最高のパートナーだろう。


「少し…、少し、考えさせて」

「分かった。明日の朝、東門の前で待ってる。それまでに決めてくれ」


グリオがリオンの手を離す。


「君にとっても悪い話しではないはずだ。僕なら、僕の音楽なら、君の可能性をもっと引き出せるかもしれないよ」



















ぼんやりと街を歩くリオン。その足は何処へ向かっているのか、多分本人にも分かっていない。

先程のグリオとの会話が頭の中で繰り返す。


「最高のパートナー」


確かにそうかもしれない。だがしかし、自分が最初に選んだのはボンなのだ。

ボンを探して、宿を取らねばならない。

しかし、明日の朝までに彼と行くか決めなければならない。

悩みに悩むリオン。すると耳元で突然、


「リ~オ~ン~~~~~」

「キャアアアア!」


我に返って見れば、目の前の壁にボンが張り付いていた。


「な、何してるのよ! そんな所で…」

「リオン来るの待ってた。で、何処まで行く気?」


ボンがするすると壁を下りて、看板を指さす。

宿屋の看板だった。


「あ、そか」


そうです。ボンと宿屋を探していたのです。

カウンターに行き、受付のおじさんに確認する。


「相部屋で!」


とボンが冗談を口にするが、反論が出ない。


「あれ?」


いつもならここでどつかれるはずなのにと振り返るが、リオンの目は何処か遠い所をぼんやりと見つめていた。

受付のおじさんは、姉弟の組み合わせ、しかも弟が7歳くらいの子供なのに、わざわざ相部屋と宣言することに首を傾げていたのだった。


反論が出ないので、結局相部屋となるわけなのだったが、部屋に行く間もぼー。ベッドに案内してもぼー。話しかけても「ああ」とか「そう」とか気のない返事。

これはとうとう頭がどうにかしてしまったのかと、これまた丁度良いとばかりにボンがリオンの胸に張り付いてサワサワとマッサージをし始める。


「何しとるか!!」


すぐに反応したリオンが、膝と肘でボンを挟み潰した。


「いえ、その…」


肘膝サンドイッチから抜け出したボンが、どうやら正気に戻った様子のリオンに状況を説明する。


「相部屋だけど、いいの?」

「え?」


一瞬呆けたリオンが、ボンの襟首を掴んだ。

手を交差させ、首を絞め始める。


「何を企んでる?」

「リオンが何も言わないから~~~」


冗談で言ったのが否定されなかったので、そのまま親切な宿屋のおじさんが二人部屋の鍵をくれただけのことだったのだが。


「変なことをしたらトドメを刺すからね?」

「しません」


般若顔のリオンに、真面目に答えるボン。実際何かしたら色々ヤバそう。


「それよりさぁ、どしたの? 何か変だよ?」

「え?」


リオンの般若顔が普通の顔に戻り、目をパチクリさせる。


「なんだかすんごくぼーっとしてるし」


リオンの手から抜け出たボンが、もう一つのベッドに移動して、リオンを心配そうに眺めた。


「う~~~~む」


話すかどうか悩むリオン。しかし、どう決着をつけるか。決着のつきかた次第では、確実にボンに話さなければならない。そして、まだ心はまったく決まっていない。


「あたし…、他の人から、一緒に来ないかって、誘われて…」


何か答えが出るかもしれないと、リオンがボンに向かって話し始めた。


「ふ~ん?」

「その人ね、音楽家でね、すっごい綺麗な曲を奏でるの! イメージもどんどん湧いてくるし、人柄も悪くないし…」


なんだか言い訳のようになって来たと、リオンの声が萎んでいく。


「リオンが思うならそうしたら?」


ボンの言葉に、ドキリとなるリオン。


「昼間、踊ってるの見たんだ。リオン、活き活きしててさ。リオンがそうしたいならさ。おいらリオンの可能性を止めたくないものね」

「ボン…」


リオンは不意に思い出した。そうだ、自分が旅立ちを決意したのは、ボンの言葉だった。ボンが自分の踊りを最高だと言ってくれたからだ。

リオンの胸がズキリと痛む。この胸の痛みは…?


「てことで、おいら夜遊びしてくるから」


いつの間にか窓の所にいたボンが、窓を開けて外へと出て行く。


「え? て、ちょ、ボン?!」

「そのほうがリオンもいろいろ考えやすいでしょ~」


ひらりと窓の外へ飛び出し、あっという間に消えた。


「ボン…」

(まさか、気を使ってくれたの…?)


しかし、と思う。


(あのエロいことしか考えないボンが…?)


いや、彼なりに色々考えてると、思うよ。多分。


「ていうか…、子供が遊べる時間じゃないわよね…?」


すでに時計の針は、お子様は寝る時間帯を差していた。

しかし、追いかけようにも、あの小さな身体で、何気にボンはすばしっこくて身軽だ。追いつけるわけもない。

諦めてリオンはベッドに横になった。


(また適当なこと言って、誰かの胸、触ってるんじゃ…)


ママとはぐれたなどといって抱っこして貰い、その隙に女性の胸をお触りしまくる。ボンの常套手段である。


(そして事故を装っておしりにぶつかるとか…)


前を良く見てなかったとか、こけたなどと言っておしりにぶつかってくる。そして何気ない風を装ってお尻を撫でていく。これも奴の常套手段。

ちなみに、もちろんリオンも上記のことはやられている。


「あんな奴、野放しにしたら大変だわ!」


やっぱり寝てなんていられないと身体を起こした。そしてふと気付く。悩むことを忘れていることに。


(あたし…)


リオンは自分の中で答えが出ていることに気付いた。






















「アオ~~~~~~ン」


野原で野良犬が月に向かって吠えている。


「ガウ!!」

「キャイン!」


不機嫌なボンが野良犬を蹴散らした。


「こっちが泣きたい気分だい!」


ボンが月に向かって吠えた。


「やっぱり子供の姿だと不便だ…。あの店主め、人の尻おもくそ蹴たぐりやがって」


と、蹴られた尻を撫でさする。

野原にゴロリと横になり、月を見上げる。


「・・・・・・。いなくなっちゃうのか」


ぽつりと呟いた。


(せめて、1度でいいから…)


ガバリと起き上がると、


「XXXXのXXXXをXXXXXしたかったーーーーー!! お月様のバカーーーーー!!」


と叫んだ。

バカはお前だ。


















朝、東門に向かってリオンが走る。

門の前の広場に、グリオが立っていた。


「やあ、来てくれたんだね」


リオンの姿を認めて、近寄る。


「ええ」

「決心はついた?」

「ええ、あたし…」

















「ぶひぇっくしょーい!」


壮大なくしゃみをしながら、ボンが宿に向かっていた。


「あのまま草原で眠りこけてしまった。うぃ~」


なんとかは風邪引かないというが…。


「どーせもう、リオンはいないんだし。とっとと帰って仕度して、さっさと街を出るか~」


と、扉からではなく器用に壁を上って窓から部屋に入り込んだ。


「お帰り。遅かったわね」


ボンが部屋の中に転がり落ちた。


「な、な、な、な、な、な、…」

「なんでいるかって言いたいの?」


リオが仕度を終えて待っていたのだ。


「それはね~、教えてあ~げない」


と可愛く口元に指を当てた。


「うえ~~~~?」


訳が分からず首を傾げるボン。絶対にいなくなっていると思っていたのだ。

ボンに見えないようにリオンが舌を出す。


(自分でもよく分からないんだもん)


そう、ボンと行くと決めた。そう決めたのだが、何故ボンと行きたいのかは良く分からないのだ。まあ、こんなスケベな奴を操縦出来る者が一人くらいはいた方が良いのではないかという心配かもしれないが。


「そうか! 分かった!」

「え?」

「そんなにおいらの事が好きだったなんて…」

「違う!!」


飛びついて来たボンに、肘鉄を食らわす。


「ふおおおおおおおおお!」

「アホ」


痛みに悶えるボンを冷たく見下ろす。

そんなアホな姿を見ながら、つい笑ってしまう。


(あの人に付いて行った方が、本当は良かったかもしれない。でも、旅に出るきっかけをくれたのはボンだし、私、ボンのこと、まだ何も知らないし…)


いつまでも痛みに呻くボンを少し心配し、


「ちょっと、大丈夫?」


と優しく声をかけてみれば、


「心配してくれるの~~~?」


と胸に飛びついて来る。

それを黄金の右ストレートで弾き返し、リオンは思う。


(もうちょっと知ってからでも…、と思ったけど…、やっぱり間違えたかなぁ…?)















「ねえリオン?」

「ちょっと黙ってて。今後悔してる所だから」


街を出て歩く2人…、いや1人?

ボンはおいたが過ぎたのか、グルグル巻きにされて棒の先に吊るされながらリオンに運ばれている。

リオンは深い溜息を吐き、頭を抑えながら歩く。心中お察しします。


「リオ~ン」


悲しげな声でボンがリオンを呼ぶも、


「あなたはお尻を触らないと歩けないの?」


怒気の籠もった声で返事。かなり怒っている模様。


「しょ~がないじゃないか~。上を見るとさ~、美味しそうなお尻がぷりんぷりんと…。思わず飛びつきたくなるのをぐっと堪えるんだけど、身体が言うことを聞かなくて。これでも大分我慢してるんだよ~…って、リオンさん?」


リオンが近くの木にボンをぶら下げ、何やら地面を掘り出した。ザックザクザックザク。

無心で掘り続け、丁度ボンが押し込めば入れそうなほどの深さになった。

無言でそこにボンを押し込め、土をかけ始める。


「あの…、もしもし?」


無言で土をかけられ続けて、首から下は完全に埋まってしまった。これでは動けない。


「さよなら」


無情にも一言告げて、リオンは立ち去っていった。


「生首は嫌―――――!!」


最後に言うことがそれでいいのか?




















「絶対間違えた…」


リオ~ンという悲しげな叫び声を無視しつつ、リオンは1人先へと進む。自分の選択を後悔しながら。


「あのスケベがなかったらね~」


子供の姿でも中身はバリバリの青年。どこかで聞いたなこの設定。

グリオを追いかけてやっぱり一緒に行こうかと思案していたら、道の先に誰かが立っていた。

見れば、なんだか人の良さそうなおじさん3人。

何かしら?と近づいてみれば、


「こんにちは。ここで荷物は全部置いて行ってね」

「はあ?」

「山賊で~す」


親切な山賊もいたものだ。


「逃げないでね~。大人しくしてくれないとちょっと痛くしなきゃいけないから」

「女の子に傷をつけるのはねえ」


親切なのか?


「そしてそこへ登場する正義の味方」


と叫びながら、小さい影が山賊の1人の顔に跳び蹴りを食らわした。


「ぎゃ!」

「誰が正義の味方?! てかあの状態からどうやって?!」


リオン、ツッコミご苦労様。


作者都合によりあっという間にボコボコにされる山賊。


「覚えてなさ~い」


と微妙なおねえ言葉で逃げ去っていく山賊達。


「そしてそれを尾行する正義の味方」

「なんでやねん!」


ツッコミご苦労。


「じゃなくて、深追いは危ないわよ!」

「違うよ~。奴等の塒を襲って金銀財宝取り上げるの! いい稼ぎになるんよ~」


とうっほうっほ駆けて行ってしまう。


「性悪…」


ぼやきながらも追いかけていくリオン。

思い出してみれば、リオンが捕まったのを助けた後に、塒を漁っていた。あれはそういうことだったのかと納得したのだった。


















どっかーん


山の中、響き渡る爆発音。

命乞いをする山賊達の弱々しい声に、命が欲しくばと脅迫するボンの声。どっちが悪者だ。


(ボンて、実はかなり実力のある魔術士なんじゃ…?)


危ないからと少し離れた所でそれを見守っていたリオンが考える。話しに聞いていた魔術士よりもなんだか凄い気もするが、他に見たことがないのでリオンには分からない。


「リオン、いいよ~」

「はーい」


ボンの声が聞こえ、リオンが山賊達の塒に入って行く。

転がる山賊達。全員気絶させられているようだ。


「うわ…」

(ちょっと同情しちゃうかも…)


あまりにもあっけなくやられてしまった山賊達に、哀れみの視線を向ける。

いや、本当は悪い人達なんだけどね。


「あれ?」


宝物庫を漁っていたボンが、慌てて何かを持って走って来た。


「リオン、これって…」


見覚えのある楽器を掲げる。


「それって…、あの人の…。どういうこと?」


リオンの反応を見て、ボンが間違いないと頷き、一番近くにいた山賊に近づいた。


「おーい。聞こえますか~?」


丁寧な口調に反して、荒々しく頭を掴み上げるボン。


「は…?」


意識の朦朧としていた山賊が、ぼんやり目を開ける。


「これの持ち主について知ってること全部教えて欲しいなぁ」


有無を言わさぬボンの顔に、山賊は震えながら言葉を紡いだ。


















山賊が言うには、1人で歩いていたその男、グリオが抵抗した為、痛めつけて森の中に捨ててきたという事だった。

急ぎその現場に向かう2人。先程リオンが襲われた?場所の近くだ。


「リオン」

「え?」

「大丈夫、彼はきっと生きているから。涙は必要ないよ」

「あ…、うん」


心配のあまり涙目になりながら走っていたリオンに、ボンが優しく声をかける。

しかし、その身長差があって、何故ボンの方が足が早いのか…。

ボンが何かに気付いたように、藪に突っ込んだ。リオンもそちらへ向かう。

グリオが倒れていた。


「大丈夫! まだ生きてる!」


ボンが走り寄り、呼吸を確認すると、すぐに魔法で治療を始める。


「よ、良かった…」


安心して、その場に座り込むリオン。ボンに任せれば治療も大丈夫とは身をもって体験している。

ボンの掌が光り、優しくグリオを包み込む。

ふとリオンは思う。あれ? 口は?

しかし、次の瞬間、ボンの顔が歪み、その考えも吹っ飛んだ。


「リオン、不味いことが…」

「え?」

「魂が抜き取られてる…」

「…? どういうこと?」

「森には、悪戯好きな妖精なんかもいて、時に行き倒れの人間の魂を抜き取ってしまうことがあるらしいんだ。魂がなければ肉体は生きられないし、魂も身体を探して永遠に森を彷徨い続けるらしい」

「そんな…。じゃあ、彼は、死ぬの?」


目の前がくらりと揺れる。今朝まで元気でいた人が、今目の前で死にかけている。


「その人間と縁の深い者で魂を呼び寄せることが出来るとは言うけど…。幸い楽器があるし…」

「楽器を弾けば良いの?!」

「弾けるの? リオン」

「う…」


リオンは踊る専門。楽器を弾いたことはない。


「だろうね」


ボンが顔をポリポリと掻くと、身体に対して大きめの楽器を構えた。


「仕方ない。覚えてるかどうか分からないけど…」


そう呟くと、その指先で弦を弾き出した。


シャラン…


澄んだ音が鳴り響き、森に広がっていく。

まるで音が風になっているかのように。


(ボン…、楽器弾けたの? それに、この曲…)


それは、昨日グリオが弾いていた曲そのものだった。それをやすやすと弾きこなしていく。


(彼が弾いていた時とはまるで印象が違う。彼の弾き方は楽しそうだったけど、ボンは、まるで、聞いた誰もが踊り出してしまいそうな…)


ビン!


「あ…」


思わずガクリとなってしまうリオン。


「やっぱこの姿じゃ弾きにくいな~」


ボンが間違えて変な音を出してしまったらしい。


(聞き惚れてたのに~~~~!)

「ボン!」

「はい?!」

「あたしも踊るわ!」

「は、はい…、ご自由に…」


なにやら妙な迫力でリオンが宣言する。

ただ踊りたいだけなんじゃ…。ボンは言葉を飲み込んだ。

まあ一応、リオンがこの曲で踊っていたこともあるし、余計に彼の魂を喚べるかもしれない。

ボンが再び音を奏でる。リオンがその側で舞う。

リオンの舞う姿を見て、ボンも調子に乗ってきたのか、余計に音が楽しそうに流れ出す。


(あたし、今、彼の為じゃない。自分が踊りたいから踊ってる…。不謹慎かしら?)


軽やかに舞いながら、リオンは考える。


(でも踊らないわけにいかないわ。こんな音楽を聴いてしまったら!)


曲が最高潮を迎え…


ビン!


「あ…」


リオンがこけた。


















ゆらりと風もないのに木の葉が揺れる。薄い靄のようなものが、森の中、音が鳴る方へと引きつけられるように漂う。

音源の元にいたのは、楽しそうに曲を弾く少年と、舞い踊る美女。

靄のようなものは、ゆっくりと彼らの元へと近づいていった。

















シャン・・・


余韻を残して、曲が終わる。

リオンも動きを止め、まるで観客でもいるかのように礼をした。これは舞台でのいつもの癖のようなものだ。

だが。


パチパチパチパチ


1人だけだったが、手が壊れるのではないかという熱烈な拍手を送る者がいた。

リオンが気付いて顔を上げる。

と、今朝まで見ていた元気なグリオが、起き上がって拍手を続けていた。


「お見事。としか言いようがないね」

「あ…」

(忘れてた…)


すっかり彼のことを忘れて踊っていたリオン。こっそり目を逸らした。


「なんだ。君にはいいパートナーがいるんじゃないか」

「え?」


リオンがボンを見る。ボンもリオンを見た。


「まいったな。自分の未熟さを思い知ったよ。あの曲をそんな風に弾きこなしてしまうなんて…」

「へ?」


無自覚なボンが首を傾げた。

グリオに楽器を返し、治療の続きを施す。いつもなら高額な料金を取る所だが、それは山賊からもらったからと言い訳を吐いて。


















元気になったグリオと森を抜ける間にボンがとある街の事を教えた。


「サルージャワ?」

「音楽の都と呼ばれてる、世界中の音楽が集まる街だよ」

「ありがとう! 行ってみるよ!」


グリオはサルージャワへ向かう道を選んで歩き出した。数回振り向いて手を振り、ありがとうと叫んだ。その後は振り向く事もなく、真っ直ぐ前を向いて歩き去って行った。


「ボン?」

「ん?」

「なんでそんな街を知っているの?」

「おいらの育った街だかんね」

「へーーーーーーーーー」

(想像出来ない…)


音楽の都、様々な楽器を弾きこなすボン。今の姿からは全く思い浮かべる事が出来ない。いや、子供の姿だしね。


「あたしも行きた~い!」


音楽がいっぱい、と言うことは踊り子もいっぱいだろう。それに、そんなに音楽があるならば、是非踊ってみたい。


「おいら行かない」


すたすたとグリオと反対方向に歩き始めるボン。


「なんでよ! 故郷なんでしょ?! 帰りたくないの?!」

「んなこと言ったって、おいらこの姿だよ? 元の姿に戻るまで帰れないよ」


と肩を竦めた。


「! そういえば、その呪いって誰にかけられたの?」


ボンがギクリと足を止めた。何やら聞いてはいけないことだったか?


「え~~~…」


ポリポリと頭を掻く。


「企業秘密です」


そう言って走り出した。


「ちょっと! ボンーーーーー!!」


逃げるボンを追うリオン。いつもの光景が繰り広げられる。


「ちょっとくらい話し聞かせてよーーー!」

「やっだも~~~ん」


ただ、いつもよりは平和的な追いかけっこなのだった。


寒くなってきたので、猫が膝に乗るように・・・。

可愛くて幸せ!

でも動けなくて辛い!

寒くて嬉しいけど重い!

難しい季節の到来です。

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