四つ目の願い
「クロナさん。こんにちは。今日こそ僕との婚約を了承していただけますか?」
「だから、何度も言っているでしょう?クレーさん。私はあなたと婚約する気はありません。」
「僕の名前はグレイです。いい加減覚えて下さい、もう九回目ですよ。」
「あら、そうでしたっけ?ごめんなさい、クレーさん」
「もうわざとやってますよね?」
この人はグレイ。隣の国の男爵らしいのだけど、二カ月前に一度すれ違ってから、わざわざ自分の家からここまで、週一で通ってくる。
顔もまあまあいいし、清潔感あるし、爵位も持っているし、文句の付け所がないグレイさん。ただ1つを除いては…。
「ところで、何故私と婚約したいんでしたっけ?」
「貴女の美しい顔立ち、スラッとしたボディライン、透き通る声…。
女性が憧れる全てを持っていらっしゃる!
僕は貴女を見た瞬間、衝撃を受けました。一目惚れでした。
僕は貴女よりも美しい女性を見たことがない!!
そんな貴女が壊れていく様を見ていたいのです!
私の城の地下にある狭い牢屋に閉じ込めて観ていたいのです!
だんだん廃れていく美しさ、だんだん死んでいく心!ああ、考えただけで興奮する…。
僕は、僕の手で、貴女を握り潰したい!そのためには、貴女に婚約を了承してもらうしかない!
さあ!僕に一生を握られる覚悟を!ここに記して下さい…!!」
グレイが、半分記入済みの婚姻届けを差し出す。
婚約するわけないじゃない。私だって、伴侶には大切にしてもらいたいのに。
「あのグレイさん、一つお聞きしますが…私がまだ高校生だということはご存じなんですよね?」
「ええもちろん。ですが、婚約だけならいいでしょう!私はあなたの婚約者、結婚はあなたが高校を卒業してすぐです!さあ、婚約者同士になりましょう!」
「お断りします。お帰りください。」
私はいつものように、婚姻届けを突き返す。
グレイはこの性格のせいで、自国でも婚約者がいないらしい。
「…。また来ます。次こそは、婚約の了承を…!」
「致しません。それでは。」
周りの使用人に担がれ、玄関から追い出されるグレイ。もう来ないといいけれど。
部屋に戻ると、怜がウッキウキで何かを用意していた。
「あっお嬢様!おかえりなさいませ。」
「何をしているの?」
「わたくしの四つ目の願いは、お嬢様とゲームをする事でございます!というわけで、いろんな種類のゲームをご用意致しました!」
「あら!いいじゃない!」
私はゲームを持っていない。お父さんが許してくれなかったからだ。でも小・中学校の時は、友達と一緒にこっそりやっていた。だが、高校生になってゲームをするのは、今回が初めてだ。
「わたくし、今日のためにたくさん練習して参りました。わたくし強うございますよ、お嬢様。」
「望むところよ。私だって負けてないわ。」
私たちはまず、レースゲームをやった。
怜は強かったが、私も失われた感覚を取り戻し、勝負は白熱していった。
「いけ!黄色爆弾!」
「残念でした、お嬢様!わたくしには、防御アイテムの傘が…」
「今、ゴーストを使ったわ!あなたの傘はもうこちらのものよ!」
「ああ!ずるいですよ、お嬢様ぁ!」
次に、対戦ゲームをやった。
歴史上の人物がキャラクターだった。
「頑張って下さい、大塩平八郎!!あなたの剣捌きで、お嬢様のガードを崩すのです!」
「きゃー、ガードが崩れた!…こうなったら!」
「な、必殺技?!ああ、平八郎が死んだ~!!」
次はアクションゲームをやった。協力プレイで、ボスを倒した。
「あっお嬢様、申し訳ありません、アイテムを二つとも取ってしまいました…」
「いいわ怜、その代わり死なないようにして。」
「はい!…あっ」
「高速で死なないでよ!」
リズムゲームもやった。
「タンタン、タタタン!ふう、なんとかランクAを取れました!楽しいですね~お嬢様!」
「…。」
「…あれ、お嬢様?ランクE…?」
「るっさいわね見ないでよ!」
楽しかった。あっという間に時は過ぎていった。
「あっお嬢様!もう夕食のお時間でございます。そろそろ終わりに致しましょう。」
「ええ~?もう終わり…?」
「とても楽しゅうございましたね。わたくしも我を忘れて、お嬢様に失礼な事を口走った気も致しますが…。」
「今日ぐらいは無礼講でいいんじゃないかしら。私も言っちゃった気がするし。」
私たちは、顔を見合せ、微笑みあう。
「お嬢様、ありがとうございました。お陰で、わたくしの願いは叶えられました。」
「…そういえば、あの大量のゲームは、一体どうしたの?」
「他の使用人から以前、もらったことがありまして。捨てられていなくて、良かったです。」