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半透明な執事  作者: 真奈吉
3/10

三つ目の願い

『「美麗様、ご機嫌麗しゅう。わたくし、貴女の執事を勤めます、伊織と申します。宜しくお願いします。」

「まあ、うふふ、宜しくね。」』



 怜の三つ目の願いは、映画を一緒に見ることだった。


 私たちは二人とも、映画を映画館でみたことがなかった。私はお父さんから許可が降りなかったし、怜は家柄上、禁止されていた。


 だから、ここにいるのがバレたら、相当ヤバい。


 外出禁止待ったなしよ。



 私たちが選んだ映画は、『執事達の願い』。

 結婚するお嬢様と、その執事のお話。

 私たちの境遇にちょっと似ているから、という理由で選んだ。


 隣に座る怜は、事前に調べた映画館のマナーに従って、大人しく見ている。


 別に声聞こえないから、あなたは喋ってもいいんじゃないかしら、と思わなくもないけれど。



『「いけません、お嬢様…。こんなことをしては。」

「いいじゃない、別に。誰にもバレやしないわ…。」

「しかし…。」

「最後の日なのよ?これぐらいさせて。」』


 あら、バレちゃいけない事してるわ。まるで、今の私たちね、怜。


 怜をふっと見ると、ちょっと顔がこわばっている。お父さんに怒られてるところを想像しないで。こっちまで不安になるじゃない。


『「伊織…私、幸せになるわね。」

「…はい。行ってらっしゃいませ。…お幸せに。


 …お嬢様!少し、お待ち下さいませ。」

「…どうしたの?」』


 伊織が、背後から薔薇の花束を出す。それを、美麗に差し出す。


『「お嬢様。こんなこと、許される筈もない。分かっています。けれど、伝えなければ、わたくしの胸は、今にも張り裂けそうで…。」

「伊織?」


「…愛しています。お嬢様。親愛ではありません。愛惜でございます。


 行ってほしくございません、お嬢様…。どうか、わたくしの側にいて…。」』


 その時、肘掛けに置く私の手に、何か温かいものが被さり、それは私の手を包み込み、ぎゅっと握った。


 見ると、怜の手だった。怜の方をちらっと見ると、画面に釘付けになりながらボロッボロ泣いている。


「スンッスンッ」


 めっちゃ泣いてる。


 やがて、私の右手が持ち上げられ、怜の両手に包みこまれた。


「…お嬢様。グスッ、わたくしも貴女をッスっ、あ゛な゛た゛を゛ォ」


 怜はこっちを向いて嗚咽しながら喋っている。そうこうしているうちに怜は、映画の一番大事な所を見逃してしまった。もう行っちゃったわよ?美麗お嬢様…。


 映画館を出て、車を運転してくれている怜に、「良かったわね、映画…。」と話しかけた。


「ええ。大満足にございます。こんなに素晴らしいのなら、もっと生前に行っておけば良かったですよ。」


 軽く笑いながら怜が言う。


「お嬢様、ありがとうございました。わたくしの願いは、叶えられました。」



 結局、お父さんには映画館に行ったのがバレてしまった。


 そして私はこっぴどく叱られた後、なんとか頼み込んで、一週間の外出禁止を三日にしてもらった。



「というか、あなたは私に触れられるのね。」

「ええ、そのようでございます。」

「不思議ねぇ」

「不思議ですねぇ」

「「あはははは」」


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