不二、三峰来訪。(その8.見送りと帰路の途中で)
五十嵐を先頭に獅子たちを帰らせ、数名残った人たちに挨拶をしながら駅までの道を辿る。
「それで、どうだったんだ?」
「思った以上だったけど、だからこそ勿体ないって感じー
じいちゃん、もっと子獅子を鍛えないと駄目だよ。」
「そうか?」
紅白に別れた模擬戦の結果を聞けば、収穫ありとヒサ君は力強く答え、さりとて、それなら良いと言う気にもなれないのか、シズの眉間のしわは取れないまま。
子獅子たちは天祥を先頭にいつもの三角形の陣を取り、尻尾をふりまわしながら自信満々な体で歩いて行く。
誰からとも無く、フガフガお気に入りの歌を歌いだした。すれ違った人と目が合えば、尻尾を揺らして挨拶する。
「では、今日は騒がせたな。」
「じいちゃん、またね!」
『お世話になりました。』
「ああ、またな。」
幸い電車の時刻に余裕を持って駅に到着する。
上から順番に別れの挨拶をする狼たちに、子獅子たちもガウガウ吠えて名残を惜しむ。
珍しそうに子獅子達を眺めながら、少し離れたところを歩いていた人が、驚愕で目を見開き、固まった。
何事かと振り返れば、真っ白い塊が稲妻のように突っ込んでくる。
『待って! じいちゃん、待ってよ!』
「八幡!?」
息を切らせて駅前に突っ込んできた当社の最年長子獅子は、自分たちに追いつくとハアハア荒い息をしながら、ガオウと吠えた。
『ああ、よかった。追いついた。ねえ、時間はまだ大丈夫?』
時計を確認してシズが頷き、困惑するような視線を向けてくる。
「どうしたんだ、八幡!? 何かあったのか?」
『時間が大丈夫なら、ちょっとだけ待ってよ!
ほら、もうすぐ来るよ!』
子獅子単独で、村の中を走るとは。聞いても事情を説明せず、後を振り返った八幡に釣られて顔を上げれば、ガオウガオウと聞き慣れた咆哮が飛び込んでくる。
「どうしたんだ、二前!」
見慣れた姿だけに信じられず、大きな声を出してしまったが、現れたのは長兄だけではなかった。わらわらと子獅子を引き連れて、二前と護矢が追いかけてきた。
確かに二匹以上であれば獅子たちだけの行動も許可しているが、前もった申告の上で、決まった場所だけ。まして子獅子を連れてなど認めていない。
「二前、お前、」
『ごめんなさい、おじいさん。』
咎めるにも状況が分からず、何があったと戸惑う自分に渋面を作った二前が申し訳なさそうに低く唸り、それを遮るように護矢がガウと吠えた。
『じいちゃん、ニノ兄を責めないで!
俺の責任でやったことだから!』
『じいちゃん、モリヤ兄ちゃんが悪いんじゃないよ。ボクが悪いの。』
『じいちゃん、イツを怒んないで!』
『じいちゃん、逸信を許してあげて。』
リュックを咥えた逸信が荷物を降ろし、耳をピタリと頭につけて護矢は悪くないと言い、瑞宮と陸晶が兄弟を庇って吠える。揃いも揃って、じいちゃんじいちゃん言わなくてよろしい。
「なんだか分からん。何で来た、お前ら。」
『だって、神職なしの移動は、大人の獅子二匹以上って決まっているし、子獅子だけじゃ外に出せないし。』
『……陸奥や、五十嵐が行くと言ったんですが、彼奴らに行かせるなら自分がと。』
外出用の建前を揃えたと護矢と二前が説明するが、聞きたいのはそういうことではない。
困惑のまま額を抑えれば、逸信が申し訳なさそうにミャアと鳴いた。
『ボク、どうしても渡したいものが有って、モリヤ兄ちゃんにお願いしたの。』
『ボクは、逸信の付添。』
『ボクも! 後、テンちゃん達を迎えに。』
『オレはリクたちの付添。』
逸信に続いてガアガア騒ぐ兄獅子たちに、嬉しくなってしまったらしい巳壱たちも一緒になって吠え始め、天祥が瑞宮に体当りする。
『ミミ兄、テンちゃん迎えに来たの?』
『そうだよ。だって、見てないと心配だから。』
『テンちゃん達、仲良しだもんね!』
仲が良いのはまだしも、跳ね回ってじゃれ合い出すのを二前が一喝する。
『静かにしなさい! 遊びに来たんじゃないだろう!』
非常に不本意な行動であることも加わって不機嫌に唸る長兄に、子獅子たちは背筋を伸ばし、すぐさま大人しくなった。
シッと威嚇するように二前に促され、逸信がおずおずと前に出る。
『あのね、えーっとね、シズ兄ちゃん、これ。』
自分専用のリュックを咥えて突き出すも、他所の霊獣相手に気後れしたのかシズの側には近寄れず、結局自分の所に渡してくれとやってくる。
リュックの蓋を開ければ、以前、特性の薬としてもらった飴玉がからりと音を立てて現れた。
ああ、それでかと納得する。
『前ね、加賀見の兄ちゃんに、貰ったの。特別な、薬。凄い効き目があるんだよ。
それに凄く、美味しいの。ボク、どうしても、ミオちゃんにあげたいって思って。』
どうも様子がおかしいと思えば、ずっとその事を考えていたのだろう。言い訳するように頭を左右に振りながら、上目遣いに自分達を見上げて、とぎれとぎれに説明する逸信の首を撫でてやり、飴の瓶をシズに渡す。
中身が何であるかは見当がついたようで、シズが柳眉を動かした。
「これは……気持ちはありがたいが、自分で持っていたほうが良いんじゃないのか?」
簡単に手に入るものではなかろうと言われた逸信は、耳を頭にくっつけたまま、ミャアと鳴いた。
『うん、でも、加賀見の兄ちゃん、ボクの好きに使っていいって。
ボクら、元気だし、兄ちゃんも強いから、邪鬼になんかやられないし、じいちゃんもいてくれるよ。
だから、ミオちゃんにあげる。』
一生懸命、想いを伝えようとする子獅子をぼんやりと眺め、兄狼の懐から頭だけだした黒い子狼は黙って首を傾げた。
兄たちとは異なる翠掛かった青い瞳を瞬かせるミオちゃんをジツと見つめ、逸信は遠慮がちにではあるが、びゃうと強く鳴いた。
『だから、病気が治って元気になったら、一緒に、ボクらとも一緒に遊ぼう。』
『そうだよ! 沢山食べれば、きっと良くなるよ!
ボクも、待ってるからさ!』
『早く治ると良いね。』
瑞宮と陸晶も同意を示して鳴き、ミオちゃんは諦めたように耳を動かした。
『……ありがとう。』
社務所での利発そうな様子とは異なり、どうにも反応が鈍い。
もしかしたら、慣れない外出で少し疲れてしまったのかもしれない。元気のない妹の様子にシズも気が付き、頭も懐に仕舞ってしまう。
心配そうに眉間にシワを寄せた兄狼は、無言で側に控えている弟に少し目をやり、子獅子たちに向き直ると視線を合わせるため膝をおった。
「逸信と言ったな。すまない。ありがたく受け取らせてもらおう。」
『ううん。ボクが勝手にあげたいって思っただけだから。』
他所の大人の霊獣に真っ直ぐお礼を言われた逸信は照れくさそうに尻尾を揺らし、見えなくなったミオちゃんがいる辺りに向かって、名残惜しそうにもう一度びゃうと鳴いた。
「兄ちゃん、そろそろ。」
「ああ。それでは俺達は帰る。邪魔をしたな。」
時間を気にするヒサ君に頷き返し、シズはゆっくりと立ち上がった。その何気ない仕草すら優美に思える、人の姿をした美貌の狼たちはそのまま改札口へ消えていった。
遠くない辺りにまた、連絡があるだろう。こちらも色々と纏めて置かなければなるまい。
さて、と一息ついてから、問題児共を改めて眺める。
「理由は分かった。しかし、これはどうしたもんかな。」
状況が違えば褒めるところであるが、決まりを破ってまで、外に飛び出すのは如何なものか。
只でさえ駅前は人通りが多い。こんなところで騒いだら物凄く迷惑だ。
見ろ、一定の距離を置いてはいても人目を集めているし、駅員さんが心配して出てきたじゃないか。
「何か、問題でもありましたか?」
「ないです。大丈夫です。これからすぐに帰ります。」
只の見送りではなかったのかと眉尻を下げて近寄ってくる駅員さんに全力の笑顔で返し、足早にその場を去る。
「逸信も、他のも。話は沢山あるが、取り敢えず帰ってからだ。」
厳しめの声で言い渡せば、獅子たちは揃ってガアと鳴いて答えた。
『俺も悪いが、今日は騒ぎ過ぎた。人目を集め過ぎだ。』
村からなにか言われたらどうしようと、今更ながら難しい顔で心配する二前を慰めるように、護矢がグルグル鳴く。
『まあまあ、別に悪いことはしてないんだし。こういう時もあるよ。
ニノ兄は気にし過ぎだよ。』
『お前は少し、気にしなさ過ぎる!
同じ人目を集めるにしても、広場のは訓練の域を出ないが、こんな大人数、しかも子獅子を連れての移動は規則違反だぞ。』
『でも、逸信のああ言う優しいところを、決まりだからって否定するのは嫌だよ。
勿論、危ないのは駄目だけど町中だし、大人が守ってやれば済むんだし。
もし、役場からなんか言われたら、じいちゃんの許可を取らずに僕の責任でやりましたって、自分で謝るから。』
『謝るときは、俺も一緒に謝る。だが、そういうことじゃない。』
苛立っているのか、足早な二前の隣に付いていくのは、少し小柄な護矢ならずとも辛い。
それでも逸信は長兄に追いついて、懸命に謝った。
『ニノ兄ちゃん、ごめんなさい。ボクが、どうしてもって我が侭言ったから。』
『……逸信、もう謝るな。陸奥や五十嵐も認めたことで、俺もそれでいいって言ったんだ。
だから、俺達も同罪だ。それに護矢が言うように、悪いことをしているわけじゃない。
お前の優しさは、褒められるものだと俺も思う。
だが、もし問題になれば、責められて責任を取らされるのはおじいさんなんだ。
それは覚えておきなさい。』
帰りながらガウガウお説教する古参の獅子を眺め、自然と溜め息が溢れる。
また、ニ前が貧乏くじをひいている。
「ニノ、ちょっと待て。スピードを落としてくれ。」
声を掛けて、長兄を立ち止まらせ、ゆっくりと言う。
「二前、護矢が言うとおり、心配しすぎだ。
確かにルールには沿っていないが、お前が良いと判断したなら、それでいい。
なにか言われたにしたって、そういう特別な事情がある時、きちんと説明するのもじいちゃんの仕事だ。
イレギュラーの対応が出来なきゃ、職務怠慢になっちゃうだろ。」
決まりは決まりだが、其々、最善を尽くそうとしての結果だ。
それを叱りつけるつもりはなく、苦労症の長兄の鬣をワシワシ撫でてやる。
「大丈夫だ。村の人だってちょっとは驚いたかもしれないが、話を聞けば納得してくれる。
寧ろ、そんな薬を持ってるなら、何でもっと早くあげないんだって、逆に怒られるかもしれないぞ。」
少し冗談を混ぜれば、二前には珍しく、なんとも言えない情けなさそうな様子でグルウと唸った。
これ以上は神社の外でする話でもなく、後は帰ってからにしようと伝える。
ただ、足を止めた間に、幼い子獅子たちが座り込んでしまった。
『ミイチ、ちょっと疲れた。』
『ボクも。』
『テンちゃん、もう歩きたくないー!』
ずっと広場で走り回っていたのだ。それは当然、疲れているだろう。
お客さんが帰ってしまい、急にやる気がなくなったのか、ぐるぐる愚図りだす弟たちを、シャッと八幡が怒る。
『駄目だよ! 最後まで自分で歩いて帰る約束だっただろ!
何より天祥は途中、抜けてたじゃないか。
なのに、この程度で疲れてたら駄目だよ。
そうやってサボっていると、瑞宮みたいに丸くなるよ!』
『テンちゃん、ミミ兄みたいに丸くないもん! ちょっと、毛並みがふっくらしてるだけだもん!』
お前もそろそろ怪しいと、横っ腹を突かれた天祥が即座に言い返す。
何もしていないのに貶された瑞宮が憮然とした顔をした。
『ボク、今日だって頑張ったし、今だってお腹減っててもちゃんと歩いているのに、何でそんな事言われなきゃなんないの。』
『瑞宮なりに、頑張って走ったのにねえ。』
瑞宮はそれほど足が速くない。陸晶にまで憐れむような視線を向けられ、瑞宮は黙って弟を前足で叩いた。
当然、陸晶もやり返し、そのまま無言で叩きあいを始めた二匹に、逸信がしょんぼりと頭を下げて近寄っていく。
『ミミ兄もリクちゃんも、ボクのせいで、ごめんね。』
我が侭に付き合わせてしまったと落ち込み、謝るのに、瑞宮たちは喧嘩を止めて顔を見合わせた。
『何、言ってるんだよ! イツは偉いって思うよ!
それにミオちゃん、あんなにちっちゃくて、走れもしないなんて可哀想だもんね。』
『薬、効くと良いね。』
あんなに美味しいの、自分だったら上げずに食べちゃう。
そう言って、瑞宮は鼻をピクピクさせ、陸晶ものったりと尻尾を揺らす。
兄弟たちが怒っていないのに、ホッとした様子で逸信は耳を動かして、今度は八幡に向かってミャアと鳴いた。
『ハチ兄も来てくれてありがと。』
『オレが一番足が速いからな! 先に行って呼び止めるぐらい簡単だよ!』
間に合ってよかったと尻尾を振り回して威張る兄獅子を、流石だと子獅子たちがミャアミャア褒め称える。
まるで一仕事終えたかのような達成感をにじませ、騒ぐ彼らに、二前とはまた違うものを感じる。
「お前たち、何か勘違いしてないか?」
確かに、頭ごなしに規則違反を怒るつもりはないが、けして褒められる行動でもない。
逸信はまだしも、何を一緒になってくっついてきているのだと叱れば、揃って耳を頭にくっつけた。
『だって、イッちゃんが心配だったんだもん。』
『でも、今思えば、逸信やボクらが直接行かなくても、其れこそニノ兄に預けて運んでもらえばよかったね。』
『そんな事言ったって、仕方ないよ!
もう来ちゃったもんは、来ちゃったんだから!』
瑞宮はしょんぼりと肩を落とし、陸晶も反省した様子で俯いた。
八幡は開き直っているのか、ガアガア吠える。
「ハチ、子獅子の見本にならなきゃいけないお前が真っ先に出てきた上に、そんな調子でどうする。」
『だって、オレは鬣生えてないだけで、大人だもん! だから、外出したって良いはず!』
「大人は規則を守るし、叱られたらちゃんと反省する。」
まるで他人事のような態度だと思ったら、本当に他人事だと思ってやがった。
頼りになるのに頼りにならない子獅子最年長の頭をはたく。
叱られて不貞腐れる八幡を頭を低くして眺めながら、始めから規則違反を自覚している逸信が申し訳なさそうにミャアと鳴いた。
『じいちゃん、ごめんなさい。でも、ボク、どうしても、』
言い訳を途中で止めて、俯く子獅子に追い打ちを掛けるのは気が進まないが、言うべきことはきちんと伝えておかねばならない。
「逸信、二前たちに伝えたとおり、例外はあるものだし、それに対応するのがじいちゃんの役目だ。だから、怒ってはいない。
けどな、規則は必要だからあるんだ。
うちの村は良い人が多いけれども、他所から誰が来るかわからないし、少ないとは言え、車だって走ってる。どれだけ安全に思えても絶対じゃない。
お前の優しいところはじいちゃんも好きだし、偉いとも思う。
それでも、もう二度としないと約束して欲しい。お前たちに万一のことがあったら、じいちゃん、どうしたら良いんだ。」
『……うん、ボク、約束する。もうしない。』
暴れられれば危険で、持ち運びも一苦労な大きく重たい成獣と違って子獅子は小さく、まだ力も弱い。
一瞬の隙に袋にでも放り込まれて、車のトランク等に放り込まれたら、自力で脱出は出来ず、見つけるのも容易ではないだろう。
想像して暗い面持ちになる自分を見上げ、逸信は泣きそうな声でミャアと鳴いた。
その頭をゴシゴシと撫でてやる。
「さ、今度こそ帰るぞ。」
本当に、道の真ん中でやる話ではない。
両手を叩いて出発を伝えれば、座り込んだ子獅子たちも渋々立ち上がった。
只、天祥がグズグズ文句を言う。
『テンちゃん、もう疲れた。歩くの、面倒臭い。』
『運んでもらえば。赤ちゃんみたいに首根っこ咥えられて、ぷらーんってしながら、運んでもらえば。』
『テンちゃん、歩かなくていいなら、そっちのほうが良いような気がするよ!』
陸晶に鼻先で笑われても負けずに言い返し、勝手に怒っている。ミオちゃんに対してはあんなに大人に振る舞ったのに、あれはやはり幻覚であったのだろうか。
話を聞いていた護矢が振り返って、嫌そうにグルルと鳴く。
『嫌だぞ。兄ちゃんは運ばないからな。だって天祥、もう重いんだもん。』
『八幡と言い、身体ばっかり大きくなっても仕方ない。もっと獅子の自覚を持ちなさい。』
『なんでオレまで怒られるの! なんで!』
二前も呆れた様子でフウと鼻を鳴らし、言われた八幡がガアガア怒る。
『テンちゃんは、赤ちゃん。ボクはちゃんと自分で歩く。』
『なんだよ! サンジだってフラフラだった癖に!』
ツンと鼻を高くした燦馳と馬鹿にされた天祥が喧嘩を始めた。お前ら、疲れているんじゃなかったのか。
騒がしい兄弟に溜息をついて、巳壱が背負った魚を悲しげに眺める。
『ミイチはちょっと、魚、置いてくればよかったよ。』
魚は天祥のひよこに匹敵する巳壱のお気に入りで、貰ってから片時も手離そうとしないのに、持ってきたのを後悔するとはそれだけ疲れているのだろう。
ピスピス鼻を鳴らした弟に逸信が駆け寄る。
『ミイちゃん、ボクが魚持ってあげる。だから、歩くのは頑張りな。』
『……イツ兄ちゃん、ありがと!』
嬉しそうに尻尾を揺らす巳壱の背中から、妙に長い魚のぬいぐるみを咥え取って、逸信はゆっくり歩き出し、瑞宮と陸晶がその隣にやってくる。
『イッちゃん、疲れたら言って。変わるよ。』
『交代で持てば、少しは楽だからね。』
『ミミ兄もリクちゃんもありがとう。』
『ミミ兄も、リク兄も、ありがと!』
手伝いを申し出る二匹に逸信がお礼を言い、巳壱もミャアミャア鳴いた。
歩きながら頭を擦りつけ合う子獅子たちを眺めて思う。どれだけ喧嘩しても、騒ぎを起こしても、うちの連中は仲が良い。その事自体は美徳だと思うが、揃ってルール違反を犯すのは困ったものだ。
だが、一番困るのは、もう良いかと思ってしまう自分が何処かにいることだ。
二前の話では五十嵐や陸奥も逸信に同調したそうで、戻り次第、改めて話をしなければならないが、こんな気分では、お説教もろくに出来ない。黙って気合を入れ直す。
ただ、それでも、彼らが仲良く、元気でいてくれることに幸せを感じてしまうのは、親馬鹿ならぬ、宮司馬鹿だろうか。
いや、身内が可愛いのは何処も同じであろう。何より、狼は家族の情が特に強い。それだけにシズもヒサ君も、ミオちゃんが心配なはずで、本当はどれだけ不安を抱えているのだろう。
折角、より関わる機会が増えるのだから、少しでも支えてやりたい。
此方の面でも、獅子たちと話をしておこう。
『ミミ兄ー テンちゃんも運んでー』
『嫌だよ! 流石にテンちゃんは咥えらんないよ!』
瑞宮に天祥が甘え半分、巫山戯半分でへばりつき、皆に笑われる。
あの小さな可愛い子狼も、いつか同じように笑いあえる日が来ると良い。




