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不二、三峰来訪。(その5.子獅子と子狼)

『真剣なのは良いけど、うちの兄ちゃんたちは子供っぽくて仕方がないよ。』


 当社で一番の甘えん坊の我が侭坊主が、自分を棚上げで偉そうに耳を動かした。

 すぐに二前の後を追うかと思えば、そのままトコトコと中に入ってくる。


「天祥、広場に行かないのか?」

『テンちゃんは、そういう気分じゃないんだよ。』


 大小揃っての紅白戦など真っ先に飛びつきそうな性格のくせに何を気取っているのか、天祥は尻尾をひと振りして断ると、狼達、特にシズの膝に座ったミオちゃんを見つめて、ピスピスと鼻を鳴らした。


『こんちは! テンちゃんは、天祥だよ。』


 先の挨拶時では、似たような子獅子の数が多すぎて覚えられなかったであろうと、尻尾を揺らして挨拶する。

 種族は違っても似たような歳と判断したのだろう。

 興味津々と言わんばかりに子狼に近寄って、鼻を動かす子獅子に注意する。


「天祥、ミオちゃんはお前みたいな乱暴な遊びはしないぞ。」

『そんなの、わかってるよ。

 お病気だから、優しくしなくちゃ駄目だって、ミミ兄たちも言ってたよ。

 何回も言わなくったって、テンちゃん、ちゃんと聞いてるよ。』


 予め、ミオちゃんの身体が弱いことは獅子たちにも説明してあるが、天祥のことだ。兄弟たちと同じような感覚でいるに違いない。

 かけっこもプロレスも出来ないと言えば、子獅子は心外だとヒゲをピクピクさせた。

 そのまま、大人を無視するように子狼を見つめ、遊びに誘うように尻尾を揺らす。



『ねえ、今日は日当たりが良いから、こたつより縁側のほうが気持ちが良いよ。

 座布団ひいてあげる! じいちゃん、座布団出して!』


 一方的にみゃあみゃあ提案したと思えば、返事も待たずに此方に向かって吠える。

 小さな子狼は困ったように兄を見上げ、シズがそれに頷いて返した。

 了承を得たミオちゃんはもそもそと動き出し、早く早くと前脚で床を叩いて催促する天祥に、はいはいと自分も立ち上がる。

 押し入れから客用の座布団を取り出し、縁側に敷いてやれば、子獅子は位置を直し始めた。


『もうちょっと、此方のほうが温かいんだよ。

 縁側のことなら、テンちゃんが一番よく知っているよ。』


 何処が違うのやら、真面目な顔で座布団を動かす。咥えて引っ張ったり、前脚で叩いて調整してから、満足した様子でミャアっと鳴いた。


『さあ、できた! 此方においでよ!』


 呼ばれたミオちゃんはもう一度、兄狼の顔を見上げてから首を傾げ、そろそろと天祥に近寄っていった。用心深そうに子獅子を眺め、それから座布団を見て、そっと真ん中に座る。

 そのまま身体の位置を調整しながらも、視線は隣の天祥に向けたまま。見慣れない他所の神社の霊獣を相手に、少し緊張しているのがわかる。



 天祥は悪気はないのだが、行動が乱暴だ。

 ミオちゃんが座ったのを見て、自分もと押しのけるように隣に座ったりしないだろうか。

 内心ハラハラしながら、ジツと見守る。

 子獅子は新しい友達に燥いではいるようだが、普段、兄弟たちにするように身体を押し付けたり、座布団を共用しようとはせず、狼の子から少し距離を置いて腹ばいになった。


『ね、温かいでしょ?』

『うん。』

『そうだ、タオル! タオルも持ってきてあげる!』


 漸く、丁度良い具合に座れ、座布団に丸くなったミオちゃんが尻尾をパサリと揺らした。

 お日様の光に目を細め、気持ち良さそうに座布団に顎を付けた可愛らしい子狼を嬉しそうに眺め、自分も座ったばかりだと言うのに、天祥はいそいそと立ち上がる。それも、何時ものようにドタバタ移動するのではなく、音も立てずにそっとお客さんから離れてから、駆け出した。

 相手を気遣って、動きを抑えるなんて。これはうちの子獅子だろうか。

 感心した様子でシズが呟く。


「ふむ、中々気が利くな。」

「天祥が、あの天祥が……」


 驚いている此方には目もくれず、天祥は子供部屋からタオルを持ってきた。


『はい、これはまだ使ってないから綺麗だし、降ろしたばかりだから、フワフワで気持ちが良いよ。

 掛けてあげる。』

『ありがとう。』


 タオルを軽く振って広げてから、寝ている相手にふんわり掛ける。そんな器用なことが天祥に出来たとは。

 そればかりかタオルの端をそっと咥えて動かし、隙間が出来ないようにしている。

 病人の介護でもするかのような仕草にシズが首を傾げた。


「あれもまだ小さいようだが、随分丁寧に世話をするな。」

「天祥が、あの天祥が……!」


 年下の面倒を見慣れているのかと聞かれるが、普段、天祥は何方かと言わず、全力で世話をされる側。幼い子獅子の中では成長の早いほうだが、性格が弟気質でしょっちゅう仲良しの瑞宮や湊に甘えている。

 自分がやってもらって嬉しかったことを真似しているのだろうか。



『あ、そうだ! ぴよこちゃんも持ってきてあげるね!

 可愛いし、抱っこすると気持ちが良いから!』


 細々と世話を焼こうとするばかりか、今度はお気に入りの毛糸のひよこを二羽とも持ってきた。

 誰にも触らせようとしない、一番大事な宝物だと言うのに、惜しげもなくミオちゃんの横腹にそっと置く。


『可愛いでしょ。黄色と灰色がいるんだよ。』

『うん、フワフワで可愛いね。』

『郵便屋のきいたんは知ってる? きいたんが、テンちゃんにくれたんだよ。』

『そうなんだ。きいたんなら、うちにも時々遊びに来るよ。』


 説明を聞きながら、ミオちゃんが嬉しそうにひよこを鼻で突くのを見て、天祥は満足げに尻尾を揺らし、思い切ったように言った。


『ぴよこちゃんが気に入ったのなら、ミオちゃんにあげる。

 灰色でも、黄色でも、両方でも良いよ。』


 名残惜しそうにひよこを眺めるも、口の周りをぺろりと舐めて言い切る。


『ミオちゃんにあげるなら、きいたんも良いって言うよ。

 ぴよこちゃんも、ミオちゃんのところなら喜んで行くよ。』


 だって、大事にしてもらえるに決まっているからね。

 そう言って、平気なふりをしながら視線をそらした子獅子を、狼の子は見つめ、首を横に振った。


『ありがとう。でも、大丈夫。

 ひよこも、テンちゃんと一緒が良いと思う。』

『そっか。』


 断られて、手放したくない本心が出たのか、天祥はホッとした顔になった。

 安心した様子で、じゃあ、テンちゃんと一緒にいようねと、ひよこ達を鼻先でつんつんと突く。

 それでも、知り合ったばかりの相手へ大切な宝物を差しだそうとしたことに、シズが大変感心した様子で頷いた。


「随分、気前が良いな。あの歳で年下に譲ろうとするとは大したものだ。」

「天祥が……! あの、天祥がっ……!!」


 兄弟が一歩でも近寄ろうとすれば毛を逆立て、牙を剥いて怒るひよこをあげようとするとは。

 あれは本当にうちの天祥だろうか。一体いつの間にあそこまで大人になったのか。

 天祥と比べて、ミオちゃんは随分小さいと感じたが、身体以外もきちんと成長しているのだろう。自分が気が付かなかっただけで、天祥も何時までも幼い我が侭子獅子ではないという事だ。



『ひよこも、タオルも、座布団もありがとう。

 テンちゃんは、優しいね。』

『そうだよ。テンちゃんは、優しいの。怖くないよ!』


 お礼を言うミオちゃんに、天祥はわざと胸を張り、鼻を高くして戯けてみせた。

 それから、ゆっくりと隣に横たわり、お喋りを始める。


『ミオちゃんのことは、ずっと勇のおじちゃんから聞いてたよ。

 小さいのに、とってもお利口だって。今日は遊びにこられて本当に良かったよ。

 ねえ、三峰は山の向こうにあるんでしょ? どうやって来たの? 電車?』

『うん。お兄ちゃんだけなら走ってこれるけど、今日は電車。銀色で、窓がとっても大きいの。』

『それ、テンちゃんも乗ったよ! 座席が黄色くて、フワフワのやつでしょ? あれ、凄いよね!』


 尻尾を揺らしながら楽しそうに笑い合う様子は、まるで昔からの馴染みのようだ。

 ミオちゃんの身体が弱いことは教えていたし、以前より勇殿からも聞いていたようだが、初めて会った子にあんなに優しく出来るとは、驚きしかない。

 シズも安心した様に肩の力を抜いた。


「あれなら、放っておいても大丈夫だろうな。」


 ミオちゃんのことは体調上、獅子たちとは本当に顔を合わせるだけで終わらせるつもりであったようで、少しでも関われて良かったと言う。


「ああ、あの天祥が。」

「大丈夫か、山口の? 先程から同じ言葉しか繰り返していないぞ。

 泣くほどのことなのか? ……ことなんだな。分かったから、まずは落ち着け。」


 子獅子の成長に感極まっていたら、霊獣の子がきちんと客の対応をしているのに、宮司がそんな様でどうすると叱られた。

 なんとでも言うがいい。今日は赤飯炊かなきゃ。


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