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不二、三峰来訪。(その2.ご挨拶)

 思い返せば、勇殿がいらっしゃった際にパトロールの話をした。

 邪鬼と戦う可能性もある危険な任へ、子獅子を当たらせるのかと大層心配されていたから、恐らく、そのショックで手紙の事を忘れたのだろう。

 随伴の小日向(こひなた)殿は獅子達の相手で忙しく、一言添えられる状況ではなかったのもいけなかったかもしれない。

 まあまあとなんとか場を収め、憮然としているシズを叱る。


「状況は分かったが、シズ、愛想が悪いと言うならお前もだろう。

 顔を合わせた側からその態度で、俺らも何かと思ったぞ。

 特に知流姫は女性なんだから、もう少し、なんとかならないのか。」


 余り触れたい話題ではないが、知流姫はけして見た目の良い方ではない。それ故に裏で不要な誹りを受けるばかりか、侮辱としか言えない扱いも受けている。

 その辺りの事情は、三峰も知りうるところ。

 暗に配慮が足りないと責めれば、シズは柳眉をわずかに動かし、素直に非を認めた。


「……ふん。確かに俺が悪かったかもな。すまん。」

「とても悪いと思っている風じゃないんだけど。」

「それは兄ちゃん、元々そんな大したことだと思ってないから。

 重ねて言うけど、兄ちゃんの機嫌の悪さは勇のおっさんにあるから。姉ちゃんにじゃないから。」


 表情を殆ど変えず、棒読みで謝る三峰の狼に不二の神姫は顔を歪めるが、慣れた様子で解説するヒサ君に毒気を抜かれたのか、疲れ果てたように肩を落とした。


「まあ、良いわよ。

 あたしもちょっと過敏だったかもしれないし。他所の人に会ったの、久しぶりだったから。」


 不必要に構えていたかもしれないと落ち込むのを睨み、今度こそ彼女に向かって、シズが舌打ちする。


「だから、小マメに外にでろと言っているだろう。

 下らん奴らの目を気にして引き篭もりなど、それこそ下らん。

 それで運動不足やら精神の不調を引き起こすなど愚行でしかないぞ。」

「ごめん、姉ちゃん。兄ちゃん、姉ちゃんにもちょっと怒ってた。

 昨今の生活態度について。」


 きつい言葉を叩きつけるのを後からヒサ君が抑え、再び会話に割り込む。



「姉ちゃん、幾ら地脈は管理できるからって本殿から一歩もから出ないのは、やっぱり身体に悪いよ。

 確かに姉ちゃんの神域は広い分、周りに小煩えの多いけどさ。

 なんだったらオレらのところに遊びに来ればいいじゃん。姉ちゃんくれば、ナナも喜ぶし。

 うちだったら霊気も豊富だし、姉ちゃんとこからも近いからいいだろ。」


 とてもシズの態度からはそうは見えないが、要は三峰の狼たちは不二の神姫が外に出ないのは不健康だと心配しているらしい。

 兄貴を押しのけて眉尻をさげるヒサ君に、知流姫は俯いて言い訳した。


「近くないわよ。なんだかんだ言って、あんたのところまで直線でも70kmぐらいあるのよ?

 過負盆地を迂回しないといけないし。」

「じゃあ、今日みたいに山口のじいちゃんのところだって、いいじゃんよ。

 ねえ、じいちゃん。」

「ん、ああ。」


 そうだよねと急に話題を振られて、ほとんど条件反射で頷く。

 しかし、神姫への接待とくれば、勇殿とは同じようにはいかないであろうし、どうしたものか。

 一応、うちの神社も小さい方ではないので、そこまで畏まる必要もないが格上であることは間違いない。相手は姫様であり、来るとなればそれなりに対応を考えなければ。茶菓子は何を用意すべきだろうか。

 突然のことに戸惑う自分に、知流姫は一瞬泣きそうな顔をし、そのままヒサ君を窘めた。


「他所の宮司さんを差し置いて、勝手なこと言わないの。

 あんたたちは違うかもしれないけど、あたしは咲零とほとんど面識ないのよ?」

「大丈夫だよ。オレらだって時々手紙のやり取りして、夏の討伐時期に顔合わす程度だもん。」

「だったら、尚更勝手なこと言うんじゃないの!」


 親しげにしてるから、もっと親密な関係かと思った。そう怒鳴る神姫をお付きの精霊たちが必死で止める。



 確かに常日頃より親密にしているとは言い難いが、魔境の管理で連携している事もあって、三峰と当社との付き合いは永い。自分としてはヒサ君の態度に違和感はないのだが、姫様にはわからないだろう。

 見た目だけとは言え、幼い子供な精霊たちが大慌てなのも見過ごせず、止めに入る。


「うちはお気遣いいただかずとも大丈夫です。

 なにせ神職は自分だけですし、霊獣は気の利かない粗忽者ばかり。

 歓迎どころか碌な対応も出来ませんが、それで宜しければ、この時期なら何時いらしていただいても構いません。」

『自分たちは魔物の討伐しか出来ない田舎者で、話し相手も出来るか怪しいですが。』

「本当にごめんなさい。今日だってなんの先触れも出さずに。」


 二前も一緒になって、よく来てくれたと歓迎を告げれば、狼達に向けたものとは違う妙齢の女性らしいしおらしさで頭を下げられ、かえって慌てる。


「いえ、確かに驚きはしましたが、こんなことがなければ歓迎こそしても何の問題も、」


 頭をあげてほしいと言いかけて、ふと、引っかかる。


「そうだ、今日は急にどうしたんですか。なにか問題でもあったんですか?」


 古代の神話にある天の岩戸ではないが、不二の知流姫は僅かな祭典などを除いて、御自身の本殿から出ない。それこそ、三峰の狼たちが心配するほどであるのに、一体何があったというのか。

 問えば、姫君は益々気まずそうに俯いた。



「それはその、売り言葉に買い言葉っていうか。」

「何だ。あれだけ引き篭もっていたくせに、勢いで出てきたのか。」


 もじもじと手を拱くのにシズがケチをつける。


「だって、加賀見の奴が……!」


 あれだけ言っても聞かなかったくせにと吐き捨てる三峰の狼に思わず反発はしたが、強ち間違いではないと自分でも思ったらしく、不二の姫様はすぐに肩を落とした。

 行動範囲の広い郵便屋は、当然不二にも足を運ぶ。

 どうやら彼奴にも、引きこもっていないで外にでろと散々に煽られたらしい。


「どうせ神殿でゴロゴロしてるなら、山口さんが困っているから手伝いに行け、子獅子のブラッシングぐらい出来るだろって……

 最後には彼奴、きいこまで使ってくるのよ。

 あの小さいのに『お姉ちゃん、お姉ちゃんなのに子獅子が怖いのかい? お姉ちゃんなのに、一人でお出掛け出来ないのかい?』って悲壮な顔されて、平然としていられるほど、あたし、図太くないわよ。」


 一生懸命、如何に子獅子が安全で可愛いかを説明され、そんなもの、怖くはない。なんだったら今直ぐ行って、撫でくり回してきてやると言ってしまい、口に出したからには後には引けず、その足で此方までいらしてしまったそうだ。


「ふむ、相変わらず彼奴は手段を選ばんな。」

「汚い。流石、加賀見の兄ちゃん。やることが汚い。」


 勝手にうちの名前を出して、何をやらせてようとしているのかとは思うが、らしいと言えばらしい。加賀見の名前を聞いた三峰の狼たちも納得したようだ。

 語るほど無表情となる知流姫に、シズは感心した様子で、ヒサ君は非難するような顔つきで相槌を打った。



 ただ、彼らには別の神社で感じたような加賀見への忌避感はないようだ。

 万能な性質上、過度の期待や要望を避けるために必要な情報操作の面もあるとは言え、友達が疎まれているのを聞くのは気分の良いものではない。

 この分ならそれもなさそうと少し安心しつつ、当たり障りのない言葉を選んで様子を確認する。


「彼奴は、そちらでも好き勝手してるんですか?」

「人の都合も聞かずに当然の顔で上がりこんできて、おやつを要求し、散々一方的に騒いで昼寝して、気が済んだら勝手に帰っていくわね。」


 うん、これはこれで聞きたくなかった気がする。

 仮にも若い女性な神霊の住処で、何をやっているのか彼奴は。


「最近は神術を受けているから寝付きが良いって、自ら布団敷いて熟睡していくわよ。」

「申し訳ない……その施術先は恐らくうちです……」


 加賀見は色々有って、瘴気を纏っている。

 どう考えても身体に悪いので、隙を見ては祓ってきたが、こんなことなら幾らでも歪ませておくのであった。

 本日は此方まで回って来ていないが、あの郵便屋はちょっと真面目に説教する必要があるかもしれない。

 申し訳ない気持ちで一杯となり、頭を下げれば、逆に有り難がられた。


「いいのよ。寧ろ私からもお礼を言わせて欲しいわ。

 そうでもしないと一年中、寝不足が服着た様な形で欠伸しながら彷徨いてるんだし。

 見ているこっちが具合悪くなるっての。本当に、彼奴は阿呆なんだから。」


 彼奴こそ不健康で見ていられないと腰に手を当てて怒る知流姫に、三峰の狼たちとうちの獅子達が頷く。



 なんだかんだ大騒ぎしてしまったが、改めて歓迎を伝えれば、勇殿ではないが、知流姫からも畏まらないで欲しいと頼まれた。

 仮にも姫君にどう対応すれば良いのか分からなかったので、不敬かもしれぬがお言葉に甘えることにする。

 獅子たちも一安心して尻尾を振り回し、お客さんにはしゃぎ始めた。迎えに出損ねたまま、近寄れなかった当社の筆頭、五十嵐と二前の相方である陸奥が、早速近寄ってくる。


『ヒサ、元気だったか!』

『シズ君、ヒサ君、久しぶり。』

「イガとムッちゃんじゃん! 元気、元気!」


 見知った顔にヒサ君が飛んでいこうとして、シズに首根っこを掴まれ止められる。


「後にしろ。」


 首が締まってぐえっと悲鳴をあげた弟を横に捨て、シズは此方に居直った。


「山口の。悪いが、他のも全員呼んでくれないか。」

「ん、わかった。」


 依頼に返事をしている側から五十嵐がガオウと吠えて、兄弟たちを呼んだ。

 早速、彼方此方から子獅子たちも集まる。


「あら、可愛い!」


 鬣の生えてない小さいのがちょろちょろ出てきたのを見て知流姫が顔を綻ばせる。褒められて、子獅子たちは一瞬嬉しげに足を止めたが、挨拶が先だと順番に並び始めた。

 ただ、何時までもお客を立たせておくわけにもいかない。


「ここじゃあなんだし、まずは本殿へ移動しよう。」

「いや、ここで良い。まずは先に、顔合わせだけ済まさせてくれ。」


 獅子たちがどんどん列に並ぶのを眺め、シズは少し気が抜けたように肩を落とし、何かを気にするように少し膨らんだ腹を撫でた。その懐がもそりと小さく動いたようだ。


「実際、知流姫が居てくれるのも助かった。」

「なに? なにかあるの?」

「勇のおっさんと加賀見の兄ちゃんのお陰でこんな形になっちゃったけど、オレら、新しいのの顔合わせに来たんだよ。」


 要件が一度で済むと息を吐いた兄狼に姫君が不審そうに眉をしかめ、弟狼がその袖を引っ張る。


「言ったじゃん。うちに妹が生まれたって。」

「ああ……そういえば、具合は大丈夫なの?」

「少しならね。

 それにオレらも、前線に出てくるのとは顔合わせてるけど、そうじゃない子獅子とかとは面識ないから、この機会に挨拶しておこうと思って。」


 情報共有が済んだところで全員並び終わり、当社筆頭の五十嵐が元気よく吠える。


『改めまして三峰の狼殿も、不二の姫君も、ようこそ、おいでくださいました。』

『おいでくださいました!』


 兄獅子の後について他の獅子たちも前足を揃え、胸を張り、耳をピンと立てて挨拶する。


『何もないところですが、ゆっくりしていってください。』


 ぐるると二前が歓迎を伝えれば、それを受けてシズが頭を下げる。


「咲零の眷属殿、総出の歓迎甚みいる。

 既に見知ったものもいるが、三峰のシズだ。

 そして隣が不肖の、」

「オレは弟のヒサだよ。宜しくな。」


 紹介を遮るように勝手に挨拶したのをシズが物凄く冷たい目で睨み、ヒサ君の狼耳がヒョコンと飛び出て、ピタリと下を向く。


「いいじゃん! だって、他所ならまだしも、咲零だよ?」

「……ヒサ、耳が出ている。」


 他所の神社で弟の不始末を怒鳴りつけるのは、返って不体裁だとシズはそれ以上言わなかったが、兄狼の威圧は十分伝わったようで、ヒサ君は耳を抑えて首をすくめた。


「よしなさいよ、他所の神社で。」


 呆れた口調で狼達を窘めながら、知流姫も前に進み出て、丁寧にご挨拶してくださった。


「私は不二神社の苔牟須知流(こけむすちる)です。こちらは当社の眷属、斜長(しゃな)輝石(てるいし)(あざみ)

 若い精霊だから、話すのはまだ得意ではありませんので、失礼があるかもしれませんが、どうぞ宜しくね。

 何より、今日は急に押しかけて御免なさいね。」


 眷属の精霊を紹介する優美な仕草はやはり高貴な姫君で、先程見せた気の強さは何処かに隠れてしまっている。動作だけで随分と違って感じられるものだ。

 お付きの精霊たちも揃って頭を下げ、此方は子供の姿なので初々しく可愛らしい。


『自分は、当社の代表をしている五十嵐です。』


 三峰の狼はまだしも知流姫とは面識がない筆頭獅子が、グルグルと名乗り返したのを皮切りに、順番に獅子たちも名乗り、最後に末っ子の無比刀(むひと)が元気よくビャアと鳴いたあとで、自分も頭を下げた。

 自己紹介が済んだところで本殿へ誘おうとすれば、知流姫が気が抜けたように息を吐いて、着物の裾を直しながら退席を告げられる。



「挨拶が済んで早々だけど、私はこれで失礼するわ。」

「え、姉ちゃん、もう帰るの?」

「だって、元々あんた達、打ち合わせもするつもりだったんでしょ。」


 来たばっかりじゃんと目を丸くするヒサ君に、知流姫は苦笑で返した。


「そうだけど、でも姉ちゃんだって無関係じゃないじゃん。」

「いいのよ、うちは。

 そっちに合わせるから良いようにやって頂戴。」


 自分だってそう言ったじゃないかと文句を言われても、片手で払うようにして取り合おうとしない。

 無事に顔合わせが済んで安心し、人見知りがぶり返してしまったのか、今更ながら距離を置こうとするのに、無比刀がぴょんと前に出て悲しげに鳴いた。


『お姉ちゃん、帰っちゃうの?

 ムイたちのこと、ブラシ掛けに来てくれたんじゃないの?』

『無比刀、失礼だぞ!』


 何故か一匹だけ長毛な青い子獅子を、兄獅子の湊が慌てて捕まえて咥え上げた。

 何が原因か、全身が青い綿飴のようになってしまった無比刀は、この毛並みが大のお気に入りで、ブラッシングにはまっている。のんびりマイペースにしては元気よく挨拶したと思えば、何処に隠れて聞いていたのか、梳かしてもらえると期待していたらしい。

 赤ん坊のように首根っこを咥え上げられて、フワフワ子獅子はジタバタ暴れた。


『だって、ミナト兄ちゃん、ムイ、さっき聞いたよ?

 お姉ちゃん、ムイ達にブラシしてくれるって。』

『黙ってなさい! お前たちの世話を頼めるような方じゃないんだから!』


 この方は只のお姉さんではない。高貴な神霊なのだ。

 そう言って無比刀を後に引き下がらせようとする湊を見上げ、今度は豊一(とよいち)がミャーと情けない声で鳴いた。


『じゃあ、ナデナデもして貰えないの? あっちのちっちゃい人とも、遊べないの?』

『つまんない。ミイチ、遊びたかったよ。』

『あのお姉ちゃんは偉いから駄目なんだよ。我慢しなくっちゃ。』

『仕方ないよ。テンちゃんも我慢するから、ミイちゃんも我慢しなよ。』


 続いて、巳壱(みいち)燦馳(さんじ)天祥(てんしょう)と、揃って幼い子獅子たちが落胆したように俯いたのに、知流姫は少なからず狼狽したようで、二、三歩後ずさり、頬に手を当てて悩むような素振りをした。

 お付きの精霊たちもなにか言いたげに姫君の周りに集まる。



「私は、別に良いけど……」

『いえ、大丈夫です。お気になさらないでください。』


 困惑した様子で呟くのを、今度は陸晶(りくしょう)が前に出てミャアと断った。続いて子獅子最年長の八幡(はちまん)が尻尾をブンと一振りして、頭を下げる。


『弟たちが我が侭言って、ごめんなさい。後でちゃんと言い聞かせます。』

『お行儀悪くて、ごめんなさい。』

『ボク達、ちゃんと我慢できるから大丈夫です。』

「ええっと……私は、別に良いんだけど……」


 八幡の姿を見て、瑞宮(みずみや)逸信(いつしん)も一緒になって頭を下げた。

 少し大きい子獅子たちが迷惑を掛けてはいけないとお断りするのに、知流姫はますます困惑した様子だ。


「あなた達、嫌じゃないの?」

『何が?』


 姫君からの思わぬ問いに、敬語を忘れて瑞宮が首を傾げ、隣の逸信をふりかえる。逸信も何を問われたのかわからないようで、不思議そうに耳をぴょこぴょこ動かした。

 次に視線を向けた陸晶や八幡も分からないとフスフス鼻を鳴らしたのを見て、瑞宮はもう一度知流姫を見上げ、ミャアと鳴いた。

 心底不思議そうな子獅子達に、不二の姫君は眉間に深いシワを刻まれ、悲しそうに問われた。


「あなた達は、私に梳かされるの、嫌じゃないの?」

『どうして?』


 外見のせいで長い間受け続けた評価は、姫君の根深いところまで入り込んでしまっているのだろう。子獅子にも疎まれるものとの前提で発せられた問いは、そのまま疑問で返された。


『なんで、嫌がるの? ブラシと見せかけて、毛をむしったりするの?』

「そんなことしないけど……」

『じゃあ、嫌なことなんかないよ。毛が絡まっちゃうのは仕方ないよ。

 痛いのや乱暴なのは嫌だけど、ちょっとだったらボクら、我慢できるよ。』


 だって、お利口だからねと胸を張る瑞宮に知流姫は眉尻を下げた。



「私が、嫌じゃないの……?」

『なんで? 何を嫌がるの?』

『お姉ちゃんはとっても優しそうだし、それにとっても良い匂いがするよ。』


 瑞宮は大きな目をくるくるさせながらビャアと鳴き、釣られた逸信も嬉しそうに尻尾を揺らす。

 八幡と陸晶は顔を見合わせ、構って貰えそうな気配を感じ取った他の子獅子たちも、兄獅子の足をすり抜け、大急ぎで駆け寄ってくる。


『お姉ちゃん、良い匂いだもん。嫌じゃないよ!』

『ナデナデしてくれるなら、ボクも嬉しいな。』

『ミイチも、良い匂いだと思う!』


 なんとか好意を伝えようと揃ってミャアミャア騒ぎ、最後に天祥がミャッと高らかに鳴いた。


『お姉ちゃん、良い匂い! とっても美味しそうな匂い!』


 そのまま揃ってじゅるりと唾を啜るのに、ウッと空気が凍る。



「……確かに、姉ちゃんは美味しそうな匂いするよね。」

「神霊は良質な霊気を大量に纏っているからな。」


 淡々と三峰の狼たちが感想を述べる。

 霊獣の間で一般的な認識らしくて良かった。

 うちの子獅子が食いしん坊な所為じゃなくて本当に良かった。


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