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張り切る。(前半)

 土地が持つ力には流れがある。周囲に良い影響を与えれば神域、穢れや病を招き寄せれば魔境とされる。神域には管理施設としてを神社が置かれ、大概、霊獣が住み着いている。

 眷属、神使と呼ばれる彼らは、調和のために地脈が乱れぬよう務め、その補佐として周囲の村などから派遣された神職が一人以上つく。霊獣と神職はお互いに協力して、神域を守っていく。


 当社では御神体が生み出す雄獅子が所属している。稀に青い毛並みも出るが、その多くは純白の獅子。獣の姿はしていても人並み以上に賢く、言葉を発せない代わりに思念波を操るため、通常、他種族との意思疎通も問題はない。

 それを良いことに、動物園代わりにする奴がいる。



 参道の入口を掃き清めているところに、今日もその魔物はフラフラやってきた。

 黒い髪に黄色い肌、小柄な体格と東洋系の見た目でありながら、瞳だけが西洋風に蒼い、アンバランスな郵便屋。

 魔術に優れ、特に移動魔法を得意とする加賀見は、周囲との伝令役を担っているが、本日の訪問は職務と関係なさそうだ。


「よう。」


 片手を上げて挨拶してきた郵便屋は、前と後ろ、それぞれに荷物を抱えている。

 覗かずとも父親に抱えられた1歳程度の幼児が、不思議そうな顔でこちらを見ているのと眼が合った。


「今日は、きいちゃんも連れてきたのか。」

「うん。」


 顔見知りの訪問に、門番として定位置に座っていた二匹の獅子達も、挨拶しようと台座から降りて、ピタリと固まる。


「仁護も湊も、どうした?」


 青獅子の仁護に白獅子の湊と、二色揃った本日の門番は、黙って数歩後ろに下がり、双方、物言いたげな顔をするばかりで返事をしない。

 その様子にピンとくる。


「お守りも、連れてきたのか。」

「うん。二匹とも。」


 聞けば加賀見はあっさりと頷き、その背のリュックがわざとらしくモゴモゴ動く。


「出しても良い?」

「むしろ、早く出してやれよ。」


 許可を求められたので了承する。

 加賀見はリュックを肩から降ろし、チャックを開けた。

 早速、灰色と茶色の毛むくじゃらが顔を出す。



「やあ!」

「やあ! 山口のじいちゃん、こんにちは!」


 シベリアンハスキーの子犬のぬいぐるみ二匹が、元気よく挨拶してくる。


「久しぶり。ルーもティーも元気そうだな。」

「うん! ボク達、元気!」

「オレ達は何時も元気!」


 灰色が弟のルー、茶色が兄のティー。

 加賀見の娘、きいちゃんの子守役で、動いて喋る可愛らしいぬいぐるみの彼らは、無機物に何らかの理由で魂が宿った存在、付喪神によく似ている。だが、宿っている魂が相当拙い代物、西洋で有名な双子の悪神らしい。

 ただ、悪神とされていても好んで悪事を行うわけではなく、傍から見ている分にはきいちゃんの面倒をよく見る、お利口なわんこだ。悪と言うより、人の常識や都合が通じない動物神なのだろうと思っている。


 太古の魔狼な彼らは、人は人と別括りに勘定してもいるらしく、宮司で人間の自分にはある程度の無礼を見逃すなど、甘い対応をする反面、同種の存在である霊獣の礼儀作法には厳しい。

 リュックからぴょいぴょい飛び出たぬいぐるみ達はブルブルと身体を震わせ、毛並みを整えると、きちんと座って固まっているうちの獅子たちをじろりと睨めつけた。

 仁護と湊がさっと目をそらす。

 彼らのルールでは、下の者は上位と眼を合わせてはならず、公式には先に声を掛けてもいけないらしい。

 フンと偉そうに鼻先で笑い、ティーが尻尾を旗のように立てて言う。


「お前ら、久しぶり!」

「元気だったか?」


 隣のルーも胸を張り、自分より何倍も大きな仁護たちに臆する様子は全くない。

 それどころか、獅子達のほうが自ら小さくなって頭を下げる。


『はい、お久しぶりです。』

『兄さんたちも、お元気そうで何よりです。』


 小さいぬいぐるみのティー達に、大人の獅子である仁護たちが頭を下げるのは、何も知らなければ異常に見えるだろう。

 しかし、実際にはぬいぐるみ達のほうがずっと年上。最古参の二前や陸奥ですら子獅子の頃から遊んでもらい、時々稽古を付けてもらっている間柄なのだ。

 神に連なる魔狼の凄さは、歳を重ねるごとに実感できるようで、大人の獅子ほど彼らの前で畏まる。


「っていうか、久しぶりだったっけ?」

「うん、割と。

 年寄りほど時間が経つのがあっという間だからなー」


 以前、彼らが来たのは何時だったか。ぼんやりと思い出せないままに呟けば、加賀見がやる気ないくせに悪態に近い相づちを打った。



「多分、覚えていないだろうことを踏まえれば、瑞宮以降は初見になるはずだぞ。」

「え、そんなに来てなかったか?」


 感じていた以上に間が空いてきたことに少し驚く。

 日々、似たような生活を送っているせいか、記憶がはっきりしない。


「まあ、大したことじゃねえよ。

 それより初見の連中と揉めそうなことのが問題。」


 加賀見が彼らしい認識と共に不安材料を指摘し、さもありなんと自分も肩を落とす。

 見知った加賀見の連れとは言え、知らない魔獣がやってくるのだ。

 瑞宮たちはきちんと正しい対応が出来るだろうか。


「なるようになるだろう。」


 半ば諦めて適当に返せば、加賀見も肩を竦めた。


「ある種の通過儀礼だしな。」


 どの道、大きくなれば他の神社や集落の他種族などと、付き合い方を学ばねばならない。

 周囲の反応や相手の態度、体格差、種族などから、自分との力量の差や望む関係性などを把握し、適切な行動を取れるようになるための、良い実習のようなものだ。

 今回も黙って成り行きに任せることにする。



「じゃあ、そういうことで後はよろしくな。」

『はい、じいちゃん。』


 引き続き、門番を頼むと獅子達の頭を撫でてやれば、二匹ともぐるぐると喉を鳴らして了承を示し、台座に戻った。

 改めて参道を進み、当神社の特徴でもある蒼い鳥居をくぐる前に、ティーとルーが立ち止まり、尻尾をぶんぶんと振る。


「先に挨拶する。」

「先に、遊びに来たって挨拶しとく。」


 彼らは大きく息を吸い込み、交互に遠吠えを始めた。


 アルルォーンッー……

 アアルウォーオォーンー……


 高くなったり低くなったりする、狼特有の鳴き声。

 感性のないものは犬と大差ないというが、響き方も使われる音程も、非情に複雑で独特だ。

 ぬいぐるみが元々それに似た犬種だけに特別おかしくもないのだが、小さく愛らしい姿に不釣り合いで不思議なものを感じる。


 ガルルルルル…… グアゥルルルル……


 彼方此方から、うちの獅子達が応える声が聞こえ、ルーもティーも満足げに耳をピクピク動かした。

 何度か鳴き交わし、満足した様子で、再び歩き出した彼らの後をまったりと着いていく。

 自信満々の足取りで進んでいくぬいぐるみ達を眺め、加賀見が鼻先で笑った。


「まったく、他所様の霊獣相手に偉そうに。」


 ぬいぐるみ達がそれを聞き逃すはずもなく、即座にガウと怒られる。


「偉そうじゃなくて、偉いの!」

「仲が良くても上下関係は大事!」


 お父さんだって、分かっているでしょと交互に怒り、ルー達はずんずか進んでいく。


「なんて言ってたんだ?」


 普段、獅子たちとは思念波で会話するため、鳴き声だけでは良く分からなかった。

 多分、あの声はうちの筆頭獅子、五十嵐だと思うのだが。

 その点、加賀見は流石できちんと内容を把握していたらしい。


「五十嵐とかが、挨拶に戻るって言うから、わざわざ来なくていいとか言ってた。

 わざわざも何も、彼奴らパトロールに出たところだってのに邪魔しちゃいけねえやな。」


 ざっくりと遠吠えでのやり取りを教えてくれる。


「で、二前が元々拝殿前で子守してるから、代表で相手するって。

 後、陸奥も来るとか来ないとか。」

「ふうん。」


 途切れ途切れの鳴き声だけで、よく分かるものだ。それとも、わからない自分が不勉強なのか。

 若干、宮司としての自信が揺らぐ。



 参道の階段を登り終わり、拝殿へ向かうと早速子獅子たちが駆け寄ってきた。

 と、思う間もなく、全員前足を突っ張って急ブレーキを掛け、大きく口を開けたまま、毛を逆立てて固まるもの、即行で来た道を戻って逃げるものと分かれる。

 固まったのは瑞宮、その足元に状況が分からず戸惑う天祥と巳壱。

 逃げたのは陸晶と逸信。陸晶は逃げる咄嗟に燦馳を咥えていった。

 陸晶、偉い。

 瑞宮もまともに動けないものの、何とか前足を動かして弟達を足元に隠そうとする。偉い。


『ミミ兄、何? どうしたの?』


 瑞宮の腹の下からはみ出した天祥と巳壱が、不安げにみゃあみゃあ鳴くも、兄獅子に答える余裕はないようだ。


 逃げ損ね、戸惑う子獅子たちを眺め、ティーが偉そうに尻尾をブンと一振りし、ルーは素知らぬ顔をしている。

 ぬいぐるみ達は特別、何をしているわけでもないが、自分も僅かに威圧のようなものを感じ、不安になった。

 加賀見がぼそりと呟く。


「おい、あんまり脅すな。」


 不機嫌そうな物言いにティーがシシシと笑い、その隙に瑞宮が前足で天祥を叩き、巳壱を咥えてタッと逃げた。


『テンちゃん、早く!』

『え? 何で? ええっ?』


 叩かれた天祥は何故、逃げなければいけないのが分からず、もたついて瑞宮に再度叩かれた。

 拝殿の方へ逃げていく子獅子達を眺め、ティーが偉そうに言う。


「なかなか鋭い。でも、ちみっさいのは鈍感。」

「まだ小さいから。きいたんと変わんない。」

「子供相手に大人気ない。」


 フシシとルーが笑い、加賀見が大袈裟に溜息を付く。



 大地には龍脈や地脈と呼ばれる力があるように、生き物にも同じように魔力や霊力と呼ばれる身体の中を巡る力がある。

 いわゆる魔法とはこれらの力を使って、様々な現象を引き起こす事だ。

 使用者や効果、術式の組み方によって呼ばれ方が異なっても、本質は変わらず、犬や狼が吠え声で邪霊を祓ったり、蛇が睨んだ相手を石化させるのもその一例にあたる。

 故に魔力の強さはその個体の強さに直結している事が多い。

 普段は自ら抑えている為、分かりづらいが、ルーもティーも太古の魔狼だけあって、保有する魔力の量と質は相当なもの。

 それを僅かながらも子獅子に分かるように放出したらしい。

 言わば、熟練の武道者から、出会い頭の挨拶代わりに殺気を当てられたようなものだ。


「そんな意地悪して、遊んでくれなくなったらどうする。」

「遊んでもらうんじゃないの! 遊んであげてるの!」


 加賀見に叱られて尚、ティーは偉そうに胸を張って立場の違いを主張するが、幼い巳壱や燦馳もいたのだから、もう少し手加減してくれてもいいと思う。

 この茶色のぬいぐるみは灰色の弟より若干気が荒い。

 他所のぬいぐるみに文句を言うのもはばかられ、どうしたものかと困っているのを見抜いたのか、ルーがこちらをちらりと見て、シシシとまた笑った。

 彼らに悪気はなく、うちの子獅子がどの位なのか試して、面白がっているのだろう。

 事実、灰色のぬいぐるみは嬉しそうに尻尾をゆらゆら揺らした。


「あれだけ大きければ、一緒に遊べる。

 何で遊ぼう? ボール? かけっこ? 楽しみ。」

「お手柔らかに頼むな。」


 取り敢えず、最低限をお願いすれば、元気よくウォンと返事があった。

 併せてジャリジャリと玉砂利を踏む音がして、豊かで長い立派な鬣を携えた白獅子がゆったりと現れる。



『加賀見さん、兄さん達、いらっしゃい。お久しぶりです。』

「二前だ!」

「二前、元気だったか!」


 古参の白獅子の登場に、大喜びでルーとティーが駆けていく。

 親しげに鼻を突き合わせて挨拶し合う様子は、体格差があるだけに余計に微笑ましい。

 挨拶が済むと、二前は後ろ足元を振り返り、がうと吠えた。


『ほら、お前たちもご挨拶しなさい。』


 促されて、二前の後ろに隠れてついてきた子獅子達がおずおずと前に出る。


『瑞宮、です。』

『陸晶です。』

『逸信です……』


 最初に前に出たのは逃げたり、固まった三匹。

 ぬいぐるみ達が見た目通りではないことが分かるらしい。けして、目を合わそうとしないばかりか、耳が完全に横に寝ている。

 二前に言われ、渋々出てきたのが分かる彼らの緊張などお構いなしで、一匹ずつ、ティーとルーが匂いを嗅いでいく。



 まず、最初に瑞宮。

 自分より一回り大きい瑞宮の周りをぐるぐる回り、ルーとティーは不思議そうに首を傾げた。


「何処かで、嗅いだことのあるような匂い。」

「知ってるような、気がする匂い。」


 加賀見がいっていたように、覚えていないから初見扱いなだけで、小さい時に会っているのだろう。


『ボク、覚えてないよ……』


 瑞宮は申し訳なさそうに俯いた。


 次に陸晶。

 素知らぬふうを装っているが、毛が逆だっており、がちがちに緊張しているのが見て取れる。


「これも嗅いだことのある匂い。」

「八幡だ。八幡の匂いがする。」


 陸晶と兄獅子の八幡は仲が良い。匂いも移っているだろう。

 彼奴は元気なのかとルーとティーに揃って聞かれ、陸晶は難しい顔のまま蹲った。


『ハチ兄がいればよかったのに。』


 そしたら、直接聞いてもらえたのにと言いたそうだ。


 最後に逸信。

 子獅子特有の暗色班のせいで元々困っている顔に見える逸信だが、今日は見えるだけではなく、確実に困っている。


「これは特段特徴のない、普通の子獅子の匂い。」

「でも、なんか果物の匂いがする。」

「りんごの匂い。後、みかんの匂い。」

「子獅子は果物なんか食べない。何で果物の匂いがするんだ?」


 それは今朝方、おもちゃ代わりに前足で転がしていたからです。

 必要以上にクンクン嗅がれ、逸信は悲しげにみゃあと鳴いた。


『じいちゃんに駄目って言われた時に、コロコロするの止めればよかった……』


 そうな。果物痛むから、もうやらないくれな。


『お前たちもおいで。』


 三匹の挨拶が終わると、二前は更に小さい子どもたちを呼んだ。

 よく分かっていなさそうな顔をしたのが五匹、ちょろちょろと前に進み出る。



『テンちゃんは、天祥だよ。』

『みいち、です。』

『さんじです。』

『ぼく、とよいち。』

『むひと。』


 自分とさして大きさの違わないぬいぐるみに、兄獅子たちが緊張している理由が分からず、困惑した様子のもの。わからないながらも不穏な雰囲気を感じ、怯えているもの。何を考えているのか、よくわからないもの。

 其々な子獅子を纏めて、ぬいぐるみ達は匂いを嗅いでいく。


「白が三匹、青が二匹。」

「天祥が、少し大きい。残りは皆、きいたんと同じくらい。」


 ふんふん嗅ぎ回って満足したのか、ルーとティーはそのまま加賀見の足元に戻り、むふーと偉そうに鼻で息を吐いた。


「これで全員?」

「これで新しいのは全員?」

『はい、兄さん。』


 他にはいないかとの確認に二前が首肯し、我慢できなくなったのか、天祥がチョロチョロ前に出る。



『それで、あんた、誰? 何で兄ちゃんより偉そうなの?』

『こら、天祥! お客様にそういう口の利き方しない!』

『だって、テンちゃん、わかんないよー』


 すぐさま二前に叱られるが、天祥はにゃぐにゃぐと言い返した。


『だって、テンちゃんと同じぐらいに見えるよ?

 それにしちゃ、なんか変だけど……でも、同じで、ちっちゃいよ?』


 子獅子の質問に二前は耳を横に垂らし、顔を引きつらせた。


『天祥、お前ねえ、』


 格の違いを感じ取れていない子獅子に、二前が何か言い聞かせようとして途中で止め、顔を上げる。


「誰か来たよ。」

「この足音は、きっと彼奴だよ。」


 ルーとティーが尻尾を大きく振り、他の子獅子たちも揃って参道の方へ顔を向けた。



 ザッザッと大きく砂利を蹴る音がして、大柄な白獅子が現れる。


「陸奥だ!」

「やっぱり、陸奥だ!」

『やあ、兄さん、久しぶり。』


 二前と並ぶ古参の白獅子、陸奥の到着に、ぬいぐるみ達は声を掛ける代わりの体当りして再会を喜んだ。

 乱暴な挨拶の後、改めて鼻を突き合わせ、それも終わると陸奥は加賀見の側にもやってきて、尻尾を揺らした。


『加賀見さん、いらっしゃい。』

「よう。」

『それにおちびちゃんも来たのかい。随分、久しぶりだね。』


 眉だけ動かした父親の腕の中で、小さな赤ん坊が、突然現れた巨大な獅子に目を丸くした。

 普通の子供であれば泣き出しそうなものだが、きいちゃんは一度父親の顔を見上げてから、小さな楓のような手を陸奥に伸ばした。

 その手を陸奥が鼻先でちょんと突き、そっと舐める。


「にゃー!」

「うん、大きなにゃんこだな。」

『だから、にゃんこじゃないってば。』


 目を丸くしたまま、獅子を指差して叫んだきいちゃんに、どうでも良さそうに加賀見が応え、陸奥が否定する。

 そのまま古参の白獅子は仲間たちのもとに歩み寄り、のんびりと言った。


『ただいま。兄さんたちが来たって言うから、帰ってきたよ。』


 二前よりも大柄な兄獅子に子獅子達がわっと群がり、天祥がミャオミャオ吠える。


『ムツ兄ちゃん、あのわんこ、誰?

 なんでテンちゃんと変わんないのに、兄さんって呼ぶの?』


 納得行かない様子の子獅子に、二前を始めとした兄獅子達があーあと言わんばかりの顔をし、陸奥がふむと口周りを舐めた。



『うん、天祥にはティー兄さん達が自分と同じに見えるかい?』

『同じじゃないよ。あれ、わんこだもん。

 でも、テンちゃんと同じぐらいの大きさだよ?』

『そうだね。

 でも、兄さん達と喧嘩したら、兄ちゃんも勝てないよ?』

『えっ!』


 ぬいぐるみが陸奥より強いと聞いて、天祥はぽかんと大きく口を開けた。


『ムツ兄ちゃんより、強いの?』

『うん。』

『じゃあ、ニノ兄ちゃんは?』


 繰り返し肯定され、口を開けたまま天祥は兄獅子を振り返った。

 二前が首を縦に振って、事実だと認める。


『勝てないよ。五十嵐も仁護もね。

 うちの獅子全員より、ティー兄さん達は強いよ。』

『ええっ!』


 兄獅子の誰よりも強いと聞いて、ショックが大きすぎたのだろう。

 天祥はちょんと座り込んでしまった。

 驚きを隠せないまま、ぬいぐるみたちを振り返る。


『テンちゃんとおんなじなのに、兄ちゃん達より、強い……』


 そして、自分の前足を持ち上げ、爪を出して眺めた。


『じゃあ、もしかして、実はテンちゃんも兄ちゃん達より強い……?』

『ない。』

『それはない。』


 あくまで自分中心の天祥に、逸信と陸晶のツッコミが即座にはいる。



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