表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/299

袋。

 ありのままに今、起ったことを話そう。


「整頓した書類を片付けるべく新しいダンボールを用意していたら、いつの間にか中身が詰まっていて、底が抜けてしまった。」


 何を言っているのか分からないかもしれないが、ただ、言葉のとおりである。

 要は資料整理のため準備していた箱の中へ、知らない間に子獅子が三匹も潜り込んでいて、持ち上げた際に重さで底が抜けてしまったのだ。

 うちの神社の霊獣は一見生身の獅子であるが、無機物の身体を持つが故に見た目より数段重い。

 持ち上げるまで気が付かなかった自分も自分であるが、重いと思った瞬間、底が抜けて子獅子がドサドサこぼれ落ちたのには吃驚した。


 獅子達は獅子であって猫ではないが、袋や箱の中など狭いところが好きだ。

 他所の神社で聞いたところによれば虎も同じであって、犬や狼も黙っていれば当然の顔をして入るそうだ。

 更に人の幼児も同じであるとの証言を得ている。

 時折来る郵便屋の魔物が、彼の幼い娘がニコニコしながら大事なぬいぐるみたちと一緒にダンボールに詰まっている写真を見せてくれた。大層可愛らしかった。

 中へ入ろうとする基準は曖昧で調理用のボールにお尻を突っ込み、困り果てた顔で座っていたこともあったと聞く。

 他にもパンクした自転車のタイヤをその辺に放置していたら、霊犬がわざわざその中で丸くなっていただの、ゴミを捨てようとしたら屑入れに子虎が詰まっていたなどと言う話が巷には溢れている。


 そんなところに入っていたら、またゴミに出されるよ!

 また? そう言えば、以前にも出されたことがある気がするなど、忌まわしき記憶に繋がる事もあり、人ほどに賢い生き物として、止めることは出来ないのだろうかと思う。

 ただ、人型になれるため宮司を兼任している神狼に、何故箱へ入るのか聞いたところ、「寧ろ、何故入ろうと思わない?」と真顔で返されたので、無理な望みなのかも知れない。

 本能に直結した欲望なのだろうか。

 思えば、狭くて暗いところが落ち着くという感覚は自分にもあり、これの延長線上にあることなのだろう。

 嫌なことがあった際、布団をかぶって寝てしまいたくなることなども、無意識に狭い布団の中へ隠れて安心したいと思っているのかもしれない。



 ただ、分厚い布団や毛布は小まめに洗濯することも難しければ、乾かすのに時間がかかるため、うちの獅子達は冬場しか使っておらず、寝床で丸くなるだけに留まる。

 毛布代わりのタオルもあるが何方かと言えば敷いて使うもので、頭からかぶるものではない。

 また、成獣となった彼らが入れるほど大きな箱は滅多になく、すっぽり収まる丁度良いものとなれば余計に見つからない。


 しかし、いくら前向きで努力家な獅子と言えども、討伐や訓練で失敗すれば落ち込むことだって有る。

 暗く沈んだ心持ちのまま、一人閉じ籠りたい気持ちのときも有るだろう。とはいえ、当社の本殿に有る彼らの個室は、個室と言えどもドアがなく、他の獅子がいくらでも覗き込んだり、上がったり出来るようになっており、ひきこもりたくとも難しい。

 だから、ある程度は仕方ないかと思う。

 色々検討し、妥協した結果であれば、見逃してやりたいとも思う。

 確かに毎日歩き慣れた山道をうっかり踏み外して転落するなど、彼らにとってあるまじき失態でショックを受けるのも無理はない。明日には元気に笑えるのであれば、一日ぐらい凹んだって良いと思う。良いとは思うが。


 パトロールから戻ったと思ったらすぐに、護矢の奴が頭から紙袋を被って動かなくなったのは、放っておいて良いものであろうか。

 潜り込むに丁度良い箱がないのは分かるが、他になかったのだろうか。

 無言の背中からは励ましの声など掛けず、そっとしておいて欲しいというのがありありと伝わってくるが、他にやりようはなかったのか。

 っていうか、あれ、突っ込み待ちじゃないのか。

 剽軽な護矢の性格からして、誰かが突っ込んでくるのを待っているんじゃないのか。


 触れるべきか、そのままにして置くべきなのか、全く判別つかない。

 あれはどうすればいい。

 他の獅子達も判断に困り、全体に不安と混乱を引き起こしている。

 妙なことは止めろと叱るべきだろうか。静かに見守るべきだろうか。

 長らく宮司を努め、獅子達の面倒を見ているが、やはりこの仕事は難しい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ