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成長度合い。(後日談)

 どれだけ必死で駆けたところで、子獅子は子獅子。まして燦馳はまだ最年少組だ。

 大人の兄獅子達から逃げられるはずもなく、程なくして首根っこを咥えられ、本殿まで回収されていった。


 その後、どのような話し合いが行われたかには敢えて関与しなかったのだが、燦馳は機嫌良く社務所に帰ってきて、早く寝てきちんと身体を休めるのだと、いそいそ自分のダンボールに潜り込んだ。

 見るからに嬉しそうなのは何故か。何か良いことがあったのか。

 不思議がる兄弟に鼻で突かれ、問われた燦馳は何処か誇らしげに語った。


『ニノ兄ちゃんもね、ずっと小さいままの子獅子だったんだって。

 ムツ兄ちゃんとかが大きくなっていくのをみて悔しかったけど、黙って頑張ってたら、ある日、急にどんどん体が大きくなって、大人になれたんだって。

 それで今は一番だもん。凄いよね。

 ボクも頑張って、ニノ兄ちゃんみたいになるんだ。』


 話を聞いて、足を突っ張って震えていた小柄な子獅子の姿を思い出した。


『じいちゃん、何でボク、小さいままなのかな? 悔しいよ。』


 兄弟に置いていかれ、泣くまいと歯を食いしばっていた幼い子獅子。

 黙って頭を撫でてやることしか出来なかった彼は今、獅子達の長兄として胸を張っている。

 どうして忘れていたのだろうと思ったが、それが自然だとも感じた。あの威風堂々とした立派な獅子に、幼い子供を重ねるのはおかしかろう。

 ただ、懸命に目標に向かって邁進するのは変わらない。


 最も敬愛する二前が、親身になって話をしてくれたのが余程嬉しかったのか、燦馳は今もご機嫌で、今回の件で親しみを感じたらしい璃宮と、一緒に行動することが増えた。

 八幡に遅いとからかわれながらも、二匹して境内を走り回っている。



 次の日、獅子達に後を任せ、村の役場との打ち合わせに出掛けた。戻ってくると、参道入り口まで仁護が待っていてくれた。

 門番役でもないのに直立して固まっている青い獅子の鬣を撫でてやる。


「仁護、出迎え、ありがとうな。」

『うん。じいちゃん、留守中に加賀見さんが来たよ。

 じいちゃんがいる時にまた来るって、すぐ帰ったけど。』

「そうなのか。」


 何時もの郵便屋がきたが、手紙は受け取れなかったらしい。とてもそうは見えないが、加賀見はあれで対面で受け渡しが必要な重要書類も扱っている。

 ただ、彼奴は仕事が早い。配達先を一回りして、直ぐに戻ってくるであろうから、大した問題ではない。

 報告に頷き、参道を上がろうとして、なんだか仁護の様子がおかしいことに気がつく。どうも、顔が青いのは毛並のせいだけではなさそうだ。


「どうした、何かあったのか?」


 動きが何だかぎこちない。

 加賀見は思いつきでしょうもないことをやらかす。また、あのいたずら好きにからかわれでもしたのだろうか。

 聞けば仁護はグルウと唸った。



『俺、加賀見さんに聞いてみたんだ。大きくなる方法はないかって。

 だって、キュウは頑張ってるのに、小さいままなんて酷いじゃん。

 何か、良い方法が有るんじゃないかって。』


 確かにあの妙な知識にばかり長けている郵便屋なら、いい方法を知っているかも知れない。

 しっかり者の仁護らしい判断に納得しながら、ぽつりぽつりと途切れがちな話を黙って聞く。


『だけどね、逆なんだって。

 俺らは他の似たような霊獣と比べて、凄く成長が早い。付喪神系は殆ど身体が変化しないことを踏まえても、異常なほど成長が早いって言われた。

 恐らく、討伐に特化するため敢えて子供として生まれ、訓練を積みながら成長することで多様性を持たせているんじゃないかってことらしい。』

「そうなのか。」


 当社の獅子達が子供として生まれることに、その様な見解があったとは。恥ずかしながら気が付かなんだ。突然大人が生まれるはずもなく、そういうものだとしか考えていなかった。

 実に興味深い話だが、続きを促す前に仁護はブルブルと震えだした。


『だけど、そういう成長の仕方は無機物の身体には向いていない。凄く負担が掛かっているはずらしいんだ。

 だから、大きくならないなら無理しないほうが良いし、逆に成長が早すぎれば、早く身体が駄目になる可能性が有るって。』


 青い獅子の様子と同様に、話の方向もおかしくなってきた。

 嫌な予感がヒシヒシとする。

 確か、仁護こそ周りの兄弟を追い抜いて、あっと言う間に成長したのではなかったか。



 残念なことに予感は違わず、とうとう堪えきれなくなったように仁護はガオガオと吠え始めた。


『だから、だから、俺なんか正に早死するって!

 どうしよう、じいちゃん! 俺が死んだら青毛は翔士だけになっちゃう!

 早く豊一や無比刀に技、引き継がないと!

 豊一は覚えは早いんだけど、おっちょこちょいだから、誰か見てやらなきゃいけないし、無比刀は無比刀でマイペースすぎるし、翔士は教えるの適当だし! どうしよう、じいちゃん!!』

「落ち着け、落ち着きなさい、仁護。」

『まだ、魔石の種類も全部教え終わってなければ、結界の基本も説明してない!

 豊一、こないだ変なくせ付いてたから、其処も直してやらなきゃいけないのに!

 じいちゃん、俺が死んだら注意してやって!

 ああ、やってないことが多すぎて、このままじゃ死ぬに死ねないよ!』

「落ち着きなさい、ジン! まだ死ぬって決まったわけじゃないだろ!」


 この若獅子はしっかり者だけに、心配事も多いらしい。

 暴れ出さないだけいいが、すっかりパニックを起こしてしまっている。ブンブン頭を左右に振るのを、全身を使って上から抑え込む。

 しっかり頭を抱えてやれば、そのまま仁護は蹲った。


『こないだ貰ったおやつも、後でゆっくり食べようと思ってそのままだし、新しく貰ったボールも使ってない……

 そうだ、寝床のタオルも出してない……御免、じいちゃん。5枚ぐらい、溜め込んじゃってるんだ……』

「大丈夫だ。加賀見の言うことは大雑把だし、お前が死ぬと決まったわけでもない。

 タオルもこれから洗えばいい。境内に戻ったら直ぐに出しなさい。」


 傾向は有るかも知れないが、決定ではないはずだ。

 ゆっくりと言い聞かせれば、若獅子は子猫のようにみゃうと鳴いた。


『境内に戻ったら……じいちゃん、明日じゃ駄目かな?』

「今日中にと言わず、今すぐにだ。わかったな、仁護。」


 大きな身体をバシバシ叩いて歩かせる。

 このまま見過ごせば、明日も忘れるに違いない。溜め込むなとあれだけ言っているのに、どうしてくれようか。



 当然その後、手紙を片手にふらふらやって来た奴もしっかり叱った。


「俺は可能性が有るって言っただけだぞ。」

「本当にそれだけか?」

「後、ご愁傷さまとも言った。」


 聞かれたことに答えただけだと主張されるも、叩けば案の定、埃が出た。手を合わせて念仏まで唱えたらしい。

 この郵便屋は有能だが魔物なだけあって、何時でも実に悪い。


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