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成長度合い。(前半)

 大地から溢れる霊気には流れがあって、強い力は良くも悪くも周囲に影響を与える。霊気が淀んで瘴気となり魑魅魍魎を生み出す場合は、放って置けば結界を侵食し、周囲に影響を及ぼす。

 故に湧き出た魔物を討伐し、瘴気を祓うのも自分達神社に属する者の努めだ。



 魔境の瘴気は夏場、無限と思えるほどに湧き出すが、祓えば祓うほど薄くもなる。

 関東近域の中心である水都では、各担当神社から集計した瘴気の増減を全国的に把握し、封印完了後、成績優秀であった神社を集め、御前試合と称して霊獣同士の模擬戦を行う。

 毎回、各社異なる霊獣達の特技を活かし、激しい鎬合いが行われる御前試合は、招待されるだけでも大変な名誉だが、今年、これに当社は出場した。一回戦敗退だったけれども。


 三戦二勝制の勝ち抜きで連敗した挙げ句、消化試合でも勝てなかった。

 竈門の鷲は強かった。しかし、尾雲の鷹はもっと強かった。

 うちが手も足も出なかった竈門から、尾雲は危なげなく勝利を勝ち取り、西側のトーナメントを勝ち抜いてきた勇君の鼠達も下した。

 空中からの高スピードで正確無比な攻撃とあの防御網はちょっと抜けない。それに彼処、眷属の数も多くて次々入れ替えてくるから、対応しきれない。


 しかし、考えてみれば昨年まで、当社の討伐成績は特別悪くもないが、良いとも言い難かった。

 討伐失敗による結界破壊や邪鬼の暴走などは許していないが、戦線は動かず、拮抗を維持しているだけ。所属する霊獣の数と受け持つ範囲の大きさからすれば、よくやっている方でも、結果だけみれば普通で、取り立てて優れた所はなく、防御に難ありと多々指摘される弱点も有った。

 今年はそんな状況を打破し、多数の霊獣を抱える他の神社を抑え、試合に呼ばれるほどの結果を出した。十分褒められてしかるべきで、自分も獅子達も頑張ったと思う。


 でも、やっぱり悔しい。何度考えても無茶苦茶悔しい。

 うちの獅子たちは負けず嫌いだが、自分だって同じことを久しぶりに痛感した。引き摺ったって結果が変わらないのは分かっている。でも悔しい。

 うちの獅子たちは強い。惨敗はしたが、各自の能力自体は竈門の鷲や尾雲の鷹に見劣りするとは思わない。

 引いては指揮官である自分の責任だ。

 臓腑が沸き立つようなものをぐっとこらえ、気持ちを切り替えるべく、顔を叩いてみる。


 確かに今年は負けた。だが、来年は負けない。年間成績含め、来年こそ一矢報いてみせる。

 いくら悔しくとも、皆を率いる自分が感情的になってはならない。落ち込む暇があるなら、訓練でも座学でもやるべきことが他にある。

 子獅子たちにも示しがつかない。

 何より、自分が不貞腐れている間に、うちの子たちは何かやらかしかねないのだ。ちゃんと前を向いて、宮司の仕事に従事しなければならない。


『じいちゃーん! じいちゃーん!』


 ほら、来た。

 砂利が蹴飛ばされる音と子獅子が叫ぶ声が聞こえる。



『じいちゃん、カリカリ! 沢山運動したから、カリカリ頂戴!』

『ボクも、カリカリ食べたい!』


 何時もの台詞に、また彼奴らかと出迎えてみれば予想は外れ、騒いでいたのは幼い子獅子の巳壱(みいち)燦馳(さんじ)だった。

 まだまだ小さいくせに一人前の顔をして、揃って縁側をとんとこ叩く。


瑞宮(みずみや)天祥(てんしょう)かと思ったら。お前たちまでどうした。」


 聞いてみれば尻尾を振り回し、懸命な様子で主張する。


『だってミミ兄が、大きくなるには沢山食べなきゃ駄目って言ったよ!』

『ボクら、早く大きくなりたい! それで、来年、試合でたい!』


 みゃうみゃうと吠える二匹から、頼もしいものと同時に呆れを感じる。

 霊獣は身体の維持に霊気を必要とするが、神域にいる間は必要なだけを十分に取り込める。追加でおやつをとっても、自然吸収量が減るだけだ。

 誤った情報を伝えたのは誰だ。ミミ太か。


「おやつを沢山食べても、大きくはなれないぞ。

 どうしてもと言うなら霊水を飲みなさい。効果は同じだ。」

『でも、食べたほうが大きくなれる気がするもん。』

『カリカリのほうが、食べた気がするもん。』


 何方かと言えば、馴染むのに時間がかかる鉱石よりも、水のほうがずっと早く身体に浸透するのだが。

 今まで何度も伝えた説明を繰り返し、片手で追い払えば、みゅーっと不満げに鳴いて、縁側をバリバリ引っ掻いた。



 御前試合には子獅子たちも席を用意してもらい、目前で観戦した。

 大好きな兄獅子達が手も足も出なかったことや、自分達は何も出来ないことが悔しいと散々泣かれた。

 もっと強くなって、来年も頑張ればいいと教えたが、良い歳した自分が未だ割り切れないのだから、子獅子に納得できるはずもない。日々の訓練以上に何かしたいと、毎日忙しなく動き回っている。


『ねえ、じいちゃん。どうすれば大きくなれるかなあ?

 ミイチ、頑張ってるのに、ちっとも大きくなれないよ。

 このままじゃ、来年も試合に出られないどころか、豊一やムイちゃんも置いてかれちゃう。』


 5匹いる幼い子獅子の中で巳壱はちょうど真ん中。しかし、身体は一番小さい。

 元々のコンプレックスに試合後の焦燥が加わり、随分プレッシャーを感じているようだ。

 年齢差は極僅かとは言え、年下の無比刀や豊一が順調に大きくなっているだけに半べそをかいて、みゃうみゃうと鳴く。

 燦馳も不機嫌そうにその場でグルグル回りながら、文句を言う。


『霊獣の成長は、心がけが大事なんだよね?

 テンちゃんはそれで大きくなってるのに、ボクらは何で駄目なの?』


 自分達の頑張りが足らないのかと眉間にシワを寄せるのを、少し強めに否定する。



「確かに霊獣の成長は心的要因が大きく関わっているとはされるが、個体差も大きい。

 双子でも差が顕著に現れることもあるし、優劣をつけることじゃない。」


 霊獣は賢く、割合早い段階でコミュニケーションに不足がない程度の思考が出来るまで成長するが、寿命が長い分、身体は普通の生き物と違って成長の度合いが緩やかで、個体差が大きい。

 特にうちの獅子はそれが顕著だ。


 元々付喪神系というのは予め定まった身体に魂が宿るものを差すため、一般的には身体的な成長をしない。

 幼体で生まれ、年を経て成長する辺りは精霊系の方が近いとも言えるが、精霊は通常一つの属性に固定化される。

 うちの獅子たちであれば鉱石の身体を持つことから、土属性になるであろうが、彼等は炎弾を得意としても、土属性の魔法は使用しない。また、その炎も青白く、一般的な火属性の魔法とは若干異なること等を踏まえていけば、総合的にはまだ付喪神系のほうが近いらしい。

 尤も、そのような複数且つ独特の性質をもつ生き物こそが霊獣であり、学術的には器となる身体が2種類以上の形態に変化するかなど、分類の規定があるそうだが、知らなくても別に困らない……って、この話、誰から聞いたんだっけ。

 結論が適当なあたり、偶にくる蒼い目の郵便屋の気配をヒシヒシと感じる。


 兎に角、うちの獅子達の成長の度合いに確実性の有る法則は存在せず、年齢や努力に必ずしも直結しない。

 安易に決めつけるなと言い聞かせば、怪訝そうな顔をされる。


『じいちゃん、けんちょって何?』

『ゆうれつ……得意になって、えばること?』

「燦馳、それは優越だ。」


 使用した言葉が難しかったらしい。まだ幼い子獅子には伝わらなかった。



「大きくなる順番は決まっていなくて、どれだけ頑張っても、下の子のほうが早く大きくなる場合も有る。

 でも、どっちが偉いってことじゃないんだ。」

『嫌だ、そんなの! 下に抜かれるとかダサい!』

『ミイチ、小さいままなんて嫌だ! 絶対、絶対、嫌だ!』


 砕いて説明すれば、伝わったのは良いのだが、受け入れ難いと反発された。ヒステリックにギャオギャオ吠える。

 困ったものだと頭を掻いていたら、がさりと音がした。

 嫌な予感と共に顔を上げれば、其処に居たのは璃宮(りきゅう)

 よりにもよって、成体となっておかしくない歳でありながら、何故か何時までも子獅子のままな璃宮だった。



 なんてタイミングの悪い。

 間の悪さに血の気が引くのを感じる。

 いつまでも大きくなれない最年長の子獅子はブルブルと振るえながら、みゃあと鳴いた。


『……やっぱり嫌だし、変だよね。ちっさいままなんて。

 やっぱり、ボク、駄目な子かなあ。』

「そんな事ない。そんな事ないぞ、璃宮!」


 直ぐ様否定するが、居た堪れなかったのであろう。璃宮はたっとその場から逃げ出した。


「あ、こら、待てっ!」


 止めた所で止まるはずもない。このままではあっと言う間に居なくなってしまう。

 本殿の自室に引き篭もるくらいであればまだ良いが、万一境内の外に飛び出しでもして、事故にあったら大変だ。

 咄嗟に目に入った兄獅子の姿に叫ぶ。


五十嵐(いがらし)! 璃宮を止めてくれ!」

『ほい。』


 璃宮は確かに子獅子のままであるが、足は速く、力も強いほうだ。

 決して出来の悪い子ではない。



 だが、大人の獅子、まして当社の筆頭霊獣である五十嵐に敵うはずもなかった。

 横を通り抜けようとした際に前足で掬われ、璃宮の身体はポーンと宙を舞った。


『リキュウ兄ちゃん!!』

『キュウ兄ちゃーん!!』


 巳壱と燦馳の悲鳴が虚しく境内に響く。



 璃宮はそのままころころと境内を転がったところを兄獅子に押さえられ、子猫のように首根っこを咥えられて、引きずられて戻ってきた。


「……五十嵐、もう一寸、何とかならなかったか?」

『ん? 怪我させてないから大丈夫だよ。』


 実際、上手い具合に転がされ、目を回しただけのようだが、そういう問題であろうか。

 いや、多分違う気がする。


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