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裏側。

 観察者となって永く経つが、平和になっても世の中は何かと忙しない。

 大陸の仕事が落ち着いたので、元自国の仕事を手伝うことにして、各地の統率者のところへ顔を出した。何処もあれこれ好き勝手なことを言うが、関東の婆さん龍は特に煩い。

 配達人の業務に関すること以上に、やれ、ちゃんと飯を喰っているのかだの、きちんと寝ているのかだの、人の顔を見るたびに口煩く騒がれる。


『加賀見、あんた一体幾つになったんだい。

 こんな婆さんに毎度同じことを言われているんじゃないよ。』と、きた。


 10代から30の間だ思うと答えたら、頭を抱えられた。

 嘘は付いていない。ただ、数えてもいない。実際、“俺”は幾つだったかと指を折ってみたが、面倒だったのですぐ止めた。


 それにしても龍族というのは、どうしてああも頭が固くて、クソ真面目で、情を掛けたものに執着するのだろうか。

 何に執着しようと構わないが、俺を勘定に入れるのは如何なものか。どれだけ心を配った所で意味がないのは知れていように。

 しかし、思えば婆さんだけでなく、使い魔の犬共も、居候先の弟子も、偶に顔を合わせる友達も、揃いも揃って同じことを言う。おかしい。どうしてそうなった。

 どうしても何も、それだけ不健康に見えるのだろうが、只、眠いだけだ。


 今日も実に眠い。

 眠りさえ足りていれば後はどうにでもするものの、この睡眠が足りない。俺は長く持たないかもなと他人事のように思う。散々好き勝手やってる上での事だ。仕方がない。

 誰が悪いと言えば自分が悪い。ただ、片付けるものを片付けなくては気になって、眠るに眠れない。

 それに皆さんお忘れかも知れませんが、大陸を挟んだ西と東では大きな時差が有るんです。伊達に移動魔法に注力し続けたわけではなく、動くだけなら一瞬だが、各地の丁度いい時間に併せていれば一日中働くことになる。

 この仕事終わったら、帰って寝よう。そうしよう。


 利権や派閥が面倒な大陸と違い、此方は特段大きな争いごとがないので気が楽だ。

 夏になると魑魅魍魎の類が発生し、各地の担当者は大哂わだが、あれは争いと言うより天災だろう。

 どの様な種族であろうと生きていれば、ある程度の理不尽は付き物。無闇矢鱈に騒ぐより、どのように受け入れ行動するかが肝心だと思う。

 それにしても涼しくなった。探れば魔境の瘴気も怨霊の動きも落ち着いている。討伐シーズンも終わりかと思えば考え深いものが……ないな。何時もと一緒だ。

 残った雑魚を片付け、各魔境の簡易封印が終了すれば、祝宴を兼ね、神社同士で御前試合が行われる。今年はどうなるだろうか。

 魔物の撃破数で言えば今年は咲零の調子が良く、出場権を獲得したはずだ。

 東側は他に何処が出るんだったか。どうせ尾雲と竈門だろう。西側は朱甲の調子が良いと聞いたような、ないような。

 咲零が出るのは久しぶりだから、獅子どもが張り切っているだろう。

 ただ、彼処はどうも脇が甘い。頑張っているのをすぐ側で見ているだけに、あまりキツい事は言いたくないが色々甘い。

 あの攻撃偏重は如何なものか。

 竈門も尾雲も霊鳥が主体。上空へ逃げられて、手を拱いているうちにやられる気がする。結界も一枚一枚はけして薄くないのだが、隙間を抜かれてボコボコにやられる気がする。


 尤も、今から心配しても仕方がなく、他者の領域に干渉する権利は俺にはない。それより自分の仕事を片付けよう。

 婆さんより預かった手紙を確認し、受け取り先に配って歩く。

 ついでに娘も連れて行く。うちの娘は小さくて可愛いから、何処へ連れて行っても喜ばれる。親馬鹿じゃありません。歴とした事実です。

 水照宮に連れて行って犬共に舐め回され、音津に連れて行って狐達に身体を擦り付けられ、咲零に連れて来たら、瞬く間に獅子の集団に攫われていった。


 今年の仕事の殆どを無事に終えた咲零神社は、夏の忙しなさが嘘のように落ち着いていた。一応、試合に向けて調整中らしいが、時間的な余裕は有るようで、宮司のじいさんものんびりしており、お茶に誘われる。

 連れて行かれた娘が少し気になったが、獅子どもに任せておけばいいだろう。何処に行くにも離さないぬいぐるみだけ、汚さないよう回収して好きにさせる。これであれらが満足するなら、安いものだ。


 神社の中は強風こそ吹かないが、葉がそよぐ程度に空気が流れている。扇風機要らずでいい。

 社務所に麦茶が冷えているそうで、まずは一息入れようと誘われるままに移動すれば、白い子獅子が待ち構えていたように縁側に陣取っていた。



「何だ、其処に居たのか天祥。」


 小うるさいのが群れの中にいないとは思っていた。

 縁側の上で胸を張り、仁王立ちしている子獅子に目を細める。挨拶を無視するように、天祥はがうと吠えた。


『加賀見の兄ちゃん! テンちゃんは、今日から本殿で寝るんだよ!』

「おう、そうなのか。」


 頷いて、頭を撫でてやれば、子獅子はふんすと鼻息荒く胸を張り、尻尾をピンと立てて偉そうに頷き返した。

 人の気配を感じ取り、子供部屋からもう一匹、青毛の無比刀も出てくる。


『加賀見の兄ちゃん、いらっしゃい。』

「ムイも、元気そうだな。」


 のったりと尻尾を揺らし、青い子獅子はみゃうと鳴いた。


『テンちゃんの話、聞いた?』

「ああ、今日から本殿で寝るんだってな。」


 子獅子は体力のなさや体調の崩しやすさなどから、ある程度大きくなるまで社務所で寝起きしているが、獅子達本来の寝床は本殿の方だ。天祥もそろそろ移動と以前より聞いていたので、特段驚きはない。

 まだ、早いんじゃないのかと思う程度のものだ。



『今朝、ニノ兄ちゃんが、テンちゃんに言ったんだけどさ。』


 口の周りをぺろりと舐めて、無比刀は所在なさげに尻尾を左右に振った。


『ムイは、別に本殿でなくても、良いと思うんだけど、』

『テンちゃんは、今日から本殿で寝るんだよ!』


 青毛の弟の言葉を遮るように、天祥がもう一度吠える。

 耳から尻尾の先までピンと立て、背筋を真っ直ぐ伸ばし、白い子獅子は前足で縁側をドンと叩いた。


『ニノ兄ちゃんが、もう本殿で寝られるほど大きくなったって言ったんだよ!

 テンちゃんは、本殿で寝るんだよ!』

『そうしても、良いんじゃないかって言っただけじゃん。』


 獅子達の長兄に認められ猛る天祥に、ビャアーと嫌そうに鳴いて答え、無比刀はブルブルと身体を震わせた。


『ムイには、ちっともわかんないよ。何処で寝たって、同じだと思うよ。』

「まあ、感覚はそれぞれだからな。」



 成長の度合いや性格もあるので、本殿に移る時期は適当で子獅子によってまちまちだ。

 兄獅子にくっついて行くなどして、割と小さいうちから移動するのもいれば、声を掛けられて腰を上げるもの、ギリギリまで粘り、後から生まれた弟に場所を取られ、追い出されるように移る奴もいる。

 一度移動して、そのまま戻ってこないのもいれば、社務所と本殿を行ったり来たりしながら、慣れていく場合もあり、無理をして体調を崩してもつまらないので、本殿に移ることは強く推奨されていない。

 それでも、大人への第一歩であることは変わりがないので、本殿へ移ることが決まった子獅子は毎回、それなりに気負う。

 むしろ無比刀の様に、興味を持たないほうが珍しい。不満げに尻尾を揺らす青毛の子獅子を撫でてやれば、低い声でギューと鳴く。

 力なく垂れた耳は、そういうことじゃないんだと言いたそうだ。何かお気に召さないらしいが、よう分からん。


 首を傾げれば、じいさんも困ったような顔をしていた。

 改めて天祥を見てみる。相変わらず自信たっぷりに尻尾を振り回している。ただ、視線が彼方を向いており、周囲に気を配る余裕はなさそうだ。

 観ていると何に気がついたのか、天に向かって吠えた。


『テンちゃんは、本殿で寝るんだよ! もう、お兄ちゃんなんだよ!』


 ガオウと吠え立てられて、枝に止まりかけた雀が逃げていく。

 小鳥にまで自慢せずとも良かろうと考えて、じいさん達の困惑を理解する。


「もしかして、奴は朝からずっとこうなのか?」


 聞けば、青毛の子獅子と宮司のじいさんは揃って頷く。


「ああ、なあ。」


 大体の状況を把握して嘆息する。

 本殿で寝ることで頭が一杯になって、それ以外のことが考えられなくなっているらしい。



 改めて見れば、尻尾をピンと立てた天祥の顔は強張っているようであり、少なくともコロコロ変わる、何時もの表情の豊かさは消えていた。

 一体、どれだけテンパっているのやら。

 思えばこいつは昔からそうだった。

 思ったまま、感じたままを素直に口に出し、誰に止められようと行きたい方へ突っ走る。そこで引かれたり叱られることもあったが、裏表のない正直な性格が俺も好きだった。今は子供なだけに視野が狭く、余計に考えていることが顕著な形で現れているのだろうが、ある程度、成長すれば落ち着くはずだ。

 ……落ち着くよな? 多分、落ち着くはず。

 誰に対してか胸を張る子獅子の隣に座り、膝に乗せて撫で回す。


「なんだよ、天祥。一寸気張り過ぎじゃないのか?」

『だって、テンちゃんは……くすぐったいよ! やめてよ、兄ちゃん!』


 こういう時は無理矢理にでも他のことを考えさせて、一度頭をリセットしたほうが落ち着く。なにか言おうとするのを無視して撫でくりまわせば、こそばゆいと笑い出した。

 ジタバタ暴れた所で、所詮体長30cmあるかないかの猫サイズ。前足が太かろうと、多少力が強かろうと、どうということはない。所詮子猫が俺に勝てると思うなよ。

 散々撫でくりまわした後で、うひひひと笑い転げるのを開放すれば、縁側下まで跳んで逃げ、ブルブル身体を振るって毛並を直しながら怒った。


『全く、もう! 兄ちゃんは、やることが乱暴だよ!

 もっと上手にナデナデできるでしょ!

 テンちゃんは、とっても擽ったかったよ!』

「そりゃまあ、そうなるように撫でたからな。」


 ぷんぷか怒るのを軽く受け流す。

 撫でるのであれば、自分も撫でろと無比刀が膝の上に乗ってきた。この流れでよく撫でて貰おうとするな、こいつも。

 断る理由もないので、普通に撫でてやる。まだ産毛の残る蒼い毛並は柔らかいが、一寸毛先がザラザラしている。やっぱり、撫でるなら同じ子獅子でも瑞宮が一番だなと思う。彼奴の毛皮はツヤツヤしっとりして触り心地が良い。肉の付き具合も柔らかさも丁度いい。



『ムイは、何処で寝てもいいと思うんだ。

 テンちゃんは大騒ぎしすぎだよ。

 社務所で寝てても、ちゃんとしてれば良いんじゃないかなあ。』

「そうな。」


 ゴロゴロ喉を鳴らしながらも、青毛の子獅子は不満げに尻尾を揺らす。

 何かと騒がしい子獅子が多い中、無比刀は冷静で本質をつく。形より行動が大事と主張する弟にむかって、天祥はヒゲをピクピクさせた。


『でも、ちっちゃかったら、本殿で寝られないんだよ。

 本殿で寝られるってことは、大きくなったってことだよ。

 それに本殿にいれば、大きい兄ちゃん達のお話だってもっと聞けるもん。

 社務所に居るより早く、立派な獅子になれるに違いないよ。』

「立派になっても、ひよこは来ないぞ?」


 単に寝る場所を動かすだけでなく、自身の成長のために行くのだと白い子獅子は吠える。

 意外に真面目な理由を語るので、逆に心配になってしまう。以前の勘違いを引き摺っていないか問えば、天祥は二、三歩後ろに下がった。


『そりゃ、ぴよこちゃんはさ、ぴよこちゃんはさ、いたほうが良いけど……

 テンちゃんは早く一人前になって、討伐に行けるようになりたいんだよ。』

「ミミ太たちと、一緒が良いからか。」

『そうだけど、それだけじゃないよ。』


 いつもの甘えん坊主の置いてきぼり拒否の延長かと言えば、天祥は不貞腐れるように吠えた。


『うちは霊獣が少ないから、兄ちゃんたちは疲れてても交代できなくて大変なんだよ。

 でも、テンちゃんが戦えればその間に休めるでしょ? 

 テンちゃん、兄ちゃん達が好きだもん。助けたいよ。

 何よりテンちゃんは獅子だもん。強くなりたい。

 強くなって悪い奴らをやっつけて、皆を安心させてあげられるようになりたい!』


 ふんすと鼻息荒く主張されて、自然と思う。


 ああ、そうだ。

 こいつはどれだけ我が儘で甘ったれで子供っぽくみえても、何時だって真っ直ぐで、大切なものを懸命に愛し、守ろうとする奴だった。

 昔から、ずっとそうだ。



「……咲零の獅子は、幼くても勇猛果敢だな。」


 やはり寝不足は宜しくない。頭が上手く回らない。

 余計な記憶と目の前の子獅子が混ざってしまった所為で上手く返せず、取り敢えずそれだけ言う。

 褒められたと天祥は、益々鼻息荒く吠えたてた。


『そうだよ! テンちゃんは、ゆうもうかかんなの!

 すぐに大きく、立派になるよ!』


 調子に乗りやすいのも相変わらずだ。勇猛果敢の意味はちゃんと分かっているのだろうか。



「まあ、それはそれとして、あまり気張るな。

 それで失敗してもつまらんだろ。」

『テンちゃんは、失敗しないよ!』


 軽くアドバイスすれば案の定、反発して唸る。木登りや出かけた先で散々やらかしといて、よく言うわ。

 只、その辺りを調整して説明してやるのが大人の努めだろう。


「そうじゃなくて、慌てて移動しようとするなってことだよ。

 合わないのを無理して本殿に居座るより、社務所と行ったり来たりしながら、徐々に慣れる方が利口なんだよ。

 狩りだって、獲物がいるからって見境なく突っ込んで失敗するより、相手の様子や状況を冷静に見定め、隙を見逃さず、確実に仕留めるほうが格好いいだろ。」

『……わかった!』


 猪突猛進より、冷静沈着のほうが見た目が良いと教えれば、早速その気になって、今度は素直に頷いた。単純な奴め。



『テンちゃんは慌てず、冷静にするよ。』

「ああ、徐々に慣らせばいい。やることは変わらん。

 寝る時本殿に行くか、行かないかってだけだ。」

『そうだね!』


 漸く気負いが取れたのかブルブルと身体を振るい、みゃあと元気よく鳴く。


『本殿に行ったらテンちゃん、兄ちゃんたちのお話、沢山聞くんだ。

 狩場の様子とか、魍魎をやっつける時のとか、そういうの。』

『ムイも早く立派になりたいし、確かに兄ちゃんと一緒の方が、勉強になるかもしれないけどさあ……』


 楽しみだと尻尾を揺らす天祥の言い分を認めながらも、ムイ、嫌だよと小さな声で無比刀は呟いた。力が入ったのか、爪がズボンの上から腿に突き刺さる。

 ここの獅子は皆、頑張り屋で無比刀もその例に洩れないのだが、随分弱気だ。


「無比刀は社務所が良いのか。」


 安心できるじいさんの側が良いとごねる程、気弱でもないので何かと思えば、青毛の子獅子は実に嫌そうにフギャアと鳴いた。


『だって、兄ちゃん。本殿は冬、すっごく寒いんだよ?』

「ああ、嫌だわ。それは確かに嫌だわ。」


 無比刀らしい慧眼に深く頷く。幾ら彼等が無機物に魂が宿った存在とは言え、暑さ寒さが平気なわけではなく、ストーブを入れるにしても限度が有る。

 温めた側から空気が隙間から逃げていくのは辛い。



「じいさん、いい加減に本殿改修しろよ。むしろ、この際立て直せ。」

 

 咲零神社は意外と歴史ある由緒正しい神社であるが、だからこそ設備が色々古い。補修で済ますも限度があり、大きな決断が必要な時期だ。

 俺が指摘せずとも神社の管理責任者である宮司が、それに気がついていないはずもなく、深く頷かれるが、必要と可能はまた別物だ。


「確かにそれができればとは思うんだが、経費がな。」


 何をするにも先立つものがなければ難しい。麓の村には何かと助けてもらっており、これ以上の負担は掛けたくないのも分かる。それならば、何処から費用を捻出させるべきか。

 嫌な話だ。結局、何をやるにも金が問題になる。もっと人の多い場所であれば参拝客からの収入も見込めるが、ここは田舎だしな。辺鄙で魔境に近い田舎だしな。討伐に集中している分、観光スポットとして微妙だしな。

 神社としてのご利益はまだしも、霊獣の姿が常にあって、時には直接対応してくれる音津や水照宮に比べ、参拝する魅力に欠ける。

 だが、金はあるところにはあるはずで、咲零は一定の結果を出している。もっと評価されてしかるべきだ。


 獅子達は毎日出来るだけの努力を積み重ね、当期2位の成績を獲得した。

 努力の全てが常に報われ、結果に繋がるとは限らないが、努力したものが認められないのであれば、何が認められるべきだというのか。

 どうにか出来ないか、周囲の状況と知りうる情報、各地域の予算などを頭の中から引っ張り出し、算盤を叩く毎に目眩を覚える。

 観察者として過度の干渉は契約違反として我が身に返ってくる。これも過剰干渉だろうか。一つの場に入れ込み過ぎだろうか。

 眠い。頭が回らない。気分が酷く悪い。


 だが、やってやれないこともない。いつものとおり、上手く調整するだけだ。

 落ちそうになるのを踏みとどまり、頭を大きく振るい、吐き気と眠気を吹き飛ばす。

 俺は何時だって俺のためにしか動かない。人は結局、自分のためにしか生きられない。

 あの日強要された契約は千年の時が過ぎて尚、我が身を縛り、幾度滅びを繰り返しても逃げる事など出来はしない。だからこそ、後悔は少ないに越したことはない。

 傲慢強欲な狂気の魔王と呼びたくは呼べば良い。清廉潔白、公平無私など、知ったことか。



 活動方針は独断と偏見故に当事者には何も言わず、算盤を叩き終える。

 俺一人なら裏口を回ってもよいが、じいさんたちの努力の対価として出来れば正攻法で行きたい。その為に可能であれば、もうひと押し欲しい。


「なあ、話は変わるけど、御前試合はどうなんだ? 優勝は狙えそうか?」


 試合で目立てば、そのひと押しになる。

 急に話題を変更したので、じいさんは驚いたように目を見開いたが、俺の気紛れはいつものことだ。すぐに強く頷かれる。


「ああ。獅子達も張り切っているし、このまま勢いに乗って、是非とも勝ち抜きたい。」

「そして咲零の黄金時代再来か。悪くねえな。」


 宮司の意気込みに二匹の子獅子もガウガウ吠えて、前足で床を叩く。

 御前試合で優勝すれば、世間の目が集まり、資金も集めやすくなるはずだ。咲零は何年も調子が悪かったため、周囲も歓喜するであろう。口に出さずとも尾雲の独走に苛立っているのは俺だけではない。


「黄金時代……?」

「なんでもねえよ。忘れてくれ。

 それより、そろそろ行くわ。」


 首を傾げるじいさんに余計な口を滑らせたと思う。契約に縛られているのは俺だけではない。

 まあ、大したことではないはずだ。

 次の配達先に出かけると言えば、早速そちらに気を取られ、失言はなかったことになった。

 天祥と無比刀が遊んでいる兄獅子達のもとへ、娘を呼びに走ってくれる。


『きいたんー! テンちゃん、今日から本殿で寝るんだよ!!』


 ガオガオと聞こえる声に首を傾げる。

 彼奴、本殿に固執するの辞めたんじゃなかったのか。良いけど。まあ、別に良いけど。

 深く考えず、戻ってきた娘を回収する。


「じゃあ、いい感じに試合を賑わせてくれ。」

「おう。任せておけ。」


 帰り際、期待していると伝えれば、じいさんも集まってきた獅子共も力強く頷いた。



 彼等の意気込みを信じることにし、俺も先んじて動くことにした。

 結果は上々で、適当な所に資金援助の予定を取り付けられた。後は試合と眺めていたら、見事、咲零は派手に目立ってくれた。


 但し、連敗という形で。

 3戦2勝制でストレート負けの上、消化試合の3戦目すら勝てなかった。何やってるんだ、彼奴ら。


 されど、勝負事とはそういうものだ。御前試合は来年もある。来年、また頑張ってくれればいいと思う。

 試合に出るためには再度成績優秀者になる必要があるが、なるようになるだろう。

 むしろ、なんとかしてください。




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