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ピーコ。(後編)

 予想通り、瑞宮が隠していたふわふわの毛玉に、誰からとも無く溜息が洩れた。

 どうでも良さそうに加賀見がボリボリと頭を掻く。

 

「寄りにも寄って鳥か。しかも、雛。

 こいつは面倒だぞ。」

『ぴよこちゃん!』


 見せてみろと膝を折った郵便屋を見上げ、瑞宮は渋々と言わんばかりに腹に隠した雛を鼻で前に押しやった。

 灰色の羽毛に包まれた手のひらサイズの雛は、不審に満ちた目で自分達をジツと見つめ、寒そうにブルリと身体を震わせた。


「まだ、羽すら生えてねえ。

 鳥は初めから餌を啄める場合もあるが、これは挿餌してやらないと駄目だろう。」

『ぴよこちゃん!』


 ちっと舌打ちし、加賀見は何かを探すように左右を見渡す。


「ミミ太、こいつは何時、何処で見つけた?」

『昨日の昼間、大きな鳥を見かけたんだよ。

 珍しいから追いかけてたら、この洞でピーコが泣いているのを見つけたんだよ。』

「まんまと押し付けられたか。」

『ぴよこちゃん!』


 漸く観念したのか、下を向いて落ち込む瑞宮の頭をガシガシと撫で、加賀見は肩をすくめた。


「ある種の托卵、もう孵っているから托雛だな。

 何らかの理由で育てられないが見捨てるに忍びず、子獅子が保護するように仕組んだんだろう。

 育ってみないと何とも言えないが、恐らく下位の霊鳥だ。」


 言われてみれば、雛はわずかに霊気を纏っているようだ。尤も、指摘されて初めて気がつく程度と非常に微細で普通の鳥にも思える。そもそも霊鳥ともあろうものが子供を捨てるだろうか。

 問えば郵便屋は目を伏せ、偶にあることだと首を横に振った。

 野生の生活は厳しい。御神体から生み出された訳でもない霊獣が他所から来て神社に住み着くのも、ただ神域を守るためだけではなく、安定した生活を得たい面も有るのそうだ。

 説明を聞いた逸信と陸晶が目を丸くする。


『霊鳥って、ミツバ兄ちゃんと一緒?』

『兄ちゃんも、捨てられたの?』

『ぴよこちゃん!』


 以前、うちの神社に迷い込み、衣食を共にしていた霊鳥もそうであったのだろうか。

 親に捨てられたなんて可哀想だと、子獅子達は不安げに尻尾を揺らし、加賀見は軽く首を傾げた。


「いや、あいつは巣立ちに失敗して、落ちた先の居心地が良かったから、そのまま居座っただけじゃないのか。

 詳しく聞いたことないから知らんけど、それもまま、あることだ。」

『ぴよこちゃん!』


 やはり種類によって異なるようだが、すっかり羽が生え揃い、飛ぶのが上手くなってから巣立つわけではなく、まだ上手く飛べないまま巣を離れることも多いのだそうだ。当然、失敗して、その場で動けなくなることも有るが、放っておけば体力が回復次第、近くで待っている親鳥と合流するものらしい。

 しかし、思い返せば三葉は境内に落ちてから何処へも行かず、ずっと蹲ったままであったので、別の事情があったのかも知れない。何せ無口なので詳しいことを話さないし、聞き出す気もしなかったので詳細は不明である。

 どの様な理由であれ、現在、三葉は同じ霊鳥の仲間が沢山居る東北の竈門神社で幸せに暮らしているので、無理に掘り下げることでもあるまい。

 問題は目の前のひよこだ。



「見ちまったからには見捨てるわけにも行くまいし、取り敢えず、社務所に連れて帰ろう。」

『ぴよこちゃん!』


 寒そうに震えるひよこは弱々しくて、このままにしておくのは忍びない。一先ず、安全を確保してから考えるべきであろう。

 だが、瑞宮が猛々しく吠えて拒否した。


『嫌だ!』

「どうしてだ、瑞宮?」


 前足でひよこを腹の下に隠し、牙を剥いて全身で拒否を示す子獅子に当惑する。庇ってくれる親もなく、敵から逃げるすべもなく、地面に近いところに雛を置いて、蛇や獣に見つかれば一環の終わりだ。大体、瑞宮の手では餌も食わせてやれないだろう。挿餌をするなら人の手でなければ。

 それでも、子獅子は雛を木の根の間に出来た洞に隠し、毛を逆立て、前足を突っ張って保護を拒否する。


『だって、社務所に連れて帰ったら兄ちゃんが怒るでしょ!

 世話できないって他所にやっちゃうでしょ! 嫌だ!』

『ぴよこちゃん!』


 言われて納得し、嘆息する。

 当社は邪鬼邪霊の討伐を受け持っており、魔物は何故か夏場に大量発生する。これからどんどん暖かくなり、忙しくなる中、本来、寄り添うべき獅子たちを差し置いて、小動物の赤ん坊の世話などする余裕はない。

 只でさえ、うちの神社の神職は自分一人で手が足りていないのだ。兄獅子達の反対は当然であろう。

 せめて、もう少し大きければと額を押さえた自分を見上げ、瑞宮はそれ見たことかと吠え立てる。


『ピーコは、ボクが守るんだもん!

 守ってあげるって、約束したんだもん!

 絶対他所へなんか、やらせないよ!』

『ぴよこちゃん!』

 

 雛を守って臨戦態勢を取る兄獅子に、逸信と陸晶もおろおろと落ち着き無く足踏みをし、前足で地面を引っ掻く。


『そりゃ、出来るんだったら、ボクも庇ってあげたいけど……』

『無理だよ、イッちゃん。ボクらじゃ、お世話できないもん。

 だからって、これ以上じいちゃんのお仕事増やすなんて、駄目だよ。』

『じいちゃん、テンちゃんも! テンちゃんもぴよこちゃん、飼いたい!』


 彼等の見解を無視して、天祥が足にしがみついてくる。我が儘子獅子を引き剥がし、横に置いて瑞宮に向き直る。


「なあ、瑞宮。お前が言うとおり、その子は家にはおけない。

 けど、変なところにはやらないから。

 そうだ、同じ鳥の眷属が居る神社に預ければ、仲間も居るし、ご飯も食べさせてもらえるし、安心して暮らせるだろう。」

『そんなの、わかんないよ!』

『ぴよこちゃん!』


 仮に手が空いても、自分は雛の世話などしたことがない。

 三葉は既にある程度成長しており、餌を与えれば一人で食べ、寒さ暑さを感じれば、自分で勝手に場所を移動できた。だが、こんなに幼い雛では保護者が温度管理してやらなければならず、挿餌をと言われてもやり方も知らなければ、そもそも何を食べさせるべきかが分からない。

 わからないまま手を拱くより、餅は餅屋と霊鳥が所属する神社か鳥を飼っている施設、若しくは獣医などに連れていくのが適切で、他に方法もないと思うのだが、子獅子は首を激しく横に振った。


『だって、ピーコはこんなちっちゃくて弱々しいんだよ! 

 ミツバ兄ちゃんみたいに強くない。大きくなっても、弱いままかも。

 そんな子いらないって、こっそり捨てられちゃったら、どうするの?

 置いてもらえても、みそっかすだっていじめられるかもしれない。

 助けてって言いたいのに、ボクが側に居ないから言えないかもしれないじゃない!

 そんなの駄目だよ!!』

『ぴよこちゃん!』


 心配なのはわかるが、今からそんな心配をしても仕方がない。

 大丈夫だと繰り返そうとしたが、隣で郵便屋がボソリと呟いた。


「わかる。」



 不味いものでも喰ったように眉間にシワを寄せ、加賀見は目を細めて口端を僅かに歪める。

 

「必死で裏を取って、あちこちに協力を頼んで、漸く保護して、専門の行政や施設に預けたから安全だと安心した側から、あっさり親元に戻されて殺されたり、行った先で売り飛ばされたりとか、昔はよくあったわ。」

『ぴよこちゃん!』


 フンと鼻を鳴らしてせせら笑う、蒼い目の魔物は幼い子供の守護者としての面も持っている。

 古来より「幼子を蔑ろにすれば黒犬に喰われる」との言い伝えがあり、この黒犬とは加賀見のことを指す。

 昨今は行政を管理している龍の一族が粉骨砕身しているお陰で大事になる前に解決され、酷い話は聞かないが、一昔前は耳を塞ぎたくなるような事件が当たり前のように発生していたらしい。

 今でも、完全に0になったわけではなく、何らかの理由で親元を引き離されることになった子供は、落ち着いてから厳選した里親に引き渡すのだそうだが、どうしても、行った先で幸せになれるとは限らないようだ。

 保護対象は独断と偏見、活動理由は傲慢からくる完全な我欲と憚らないが、多くの惨事を見てきた彼の言葉は重すぎて、安易な言葉を子獅子に与えるのを躊躇させた。

 確かに、何処か適当に預ければ良かろうとは安直だったかも知れない。

 黙り込んだ自分達を眺め、加賀見は肩でも凝ったように首を回した。

 やる気無く、カリカリと頭を掻く。


「だが、抱えきれないものを抱えようとするのも感心しない。

 瑞宮、お前にその雛は育てられない。その手じゃ餌も食わせてやれないし、温めてやる羽毛も体温もなければ、飛び方も教えられんだろう。

 どれだけ嫌でも、手放すより他ないんだ。それは認めろ。」

『ぴよこちゃん!』


 出来ないものを出来ると言い張り、身の程を弁えられずに抱え続ければ、先に来るのは破滅と知れている。蒼い目を僅かに光らせて淡々と現実を語る加賀見に真正面から見つめられ、瑞宮は雛を抱えて俯いた。

 どれだけ拒絶しても事実を覆す手段がないことは理解しているのだろう。絶望し、俯く子獅子を心配するように小さな雛がヒヨヒヨと鳴き、瑞宮は守ってやれない雛にそっと頭を押し付けた。

 何時も元気な兄獅子が焦燥する様を見て、逸信と陸晶も泣きそうな顔で周囲を行ったり来たりする。



 うちの獅子は神域の維持するだけではなく、地域の平安を守る事に繋がると信じて魑魅魍魎と戦い、それを誇りにしている。

子獅子であってもそれは変わらず、前線へ赴く兄と同じように弱いものを庇ってやりたいと願うのは、むしろ当然なのかも知れないが、それを尊重してやれない状況と自分の不甲斐なさに唇を噛む。

 神社に居る間は何とか時間を調整するとして、邪鬼の討伐で留守にする間は役場に頼めないだろうか。いや、無理だなと額を抑え、それでも考える。

 なにか出来ないか。僅かでもいい。してやれることはないか。

 諦めるのはまだ早い。


 ぐっと握りしめた手に、蒼い目の魔物はどうでも良さそうな視線を向け、意地悪く口の端を釣り上げて笑う。


「だが、お前達には足らない手を補ってくれる存在が居るはずだ。

 例え、直接は無理でも何らかの解決方法を取ってくれる存在が。

 万能ではなくても、お前たちのために必死になって動いてくれる存在が居るだろう。

 その人が選んでくれた場所がそんなに信用ならないか?」

『それは……』

『ぴよこちゃん!』


 言われてハタと気がついたように、瑞宮は自分を見上げた。

 縋るようなその視線に、今度こそ大丈夫だと頷いてやる。

 やれやれと首を横に振り、自分に言い聞かせるように遠くを見やってから、フンと鼻先で加賀見は笑う。


「結局、駄目だ駄目だって言ったって、何も始まらない。

 まずは信じるしかないんだよ。」


 言いながら此方をジロリと睨み、お膳立てはしてやったと言わんばかりの彼に苦笑を返し、目の前の子獅子に向き直る。



「大丈夫だ、瑞宮。じいちゃんが見つけてやる。

 お前が安心して、その雛を任せられる所を探してやる。」

 

 確かに自分は世話をしてやれない。だが、適当に預けるのが駄目なら、きちんと面倒を見てくれる場所を探せばよいのだ。

 言葉で言うほど易くはない。瑞宮が心配し、加賀見が言うように現実は意外とシビアだ。育った所で大した役にも立たない下位の霊鳥など、そうそう受け入れてくれる所はないかもしれない。

 だが、幸いなことに神社は沢山有り、その状況も様々だ。丁寧に探せば喜んで受け入れて、大切にしてくれるところがきっと見つかる。

 また、定期的に連絡をくれることを条件に入れよう。多少手間かも知れないが、預けた後はもう知らないでは確かに無責任だ。

 直ぐには見つけられないかもしれないが、力を尽くし、伝手を辿ればきっと何とかなる。いや、なんとかしてみせる。それが出来なくて何が宮司か。


『でも、じいちゃん、忙しいでしょ?』


 グウルと不貞腐れた様な鳴き声を上げる瑞宮の不安を吹き飛ばすように、ゴシゴシ乱暴に頭を撫でてやる。


「馬鹿にするな、瑞宮。

 じいちゃんは勇猛果敢な獅子を率いる咲零神社の宮司だぞ。

 他所の神社にだって多少は顔が効く。

 何なら、水都の竜堂家に頼んだっていい。いいところを教えてくれってな。

 ひよこの一羽や二羽が安心して暮らせる場所ぐらい、見つけてみせるさ。」

『ぴよこちゃん!』


 出来ないことを出来ると言い張り、結果潰れるのは確かに愚かだ。

 だが、何も努力しないうちから、諦めるのも浅慮であろう。

 これから多忙になる予定では有るが、討伐シーズンまではまだ間が有る。

 それまでになんとかすれば済む話だ。


「まずは智知に連絡してみよう。あそこにはフクロウの雪之丞が居るし、霊鳥繋がりでいい情報が得られるかもしれん。

 他に鳥と言えば竈門だが、彼処は東北と遠いしな。けど、ダメ元で聞いてみるか。

 それから三峰や不二にも頼もう。それでも駄目なら、後はもう片っ端から聞いて回る。

 沢山探せば、喜んで迎え入れてくれるところが有るさ。

 加賀見も悪いが、手伝ってくれるか?」

「任せろ。」

『ぴよこちゃん!』


 心当たりを探しながら協力を求めれば、郵便屋の魔物は無表情にだが、力強く頷いた。

 自分達を交互に見上げた瑞宮が、力なく耳を横に垂らす。



『ボク、じいちゃんに迷惑掛けらんないって。

 どうせ、忙しいから無理って、兄ちゃんに言われると思って。

 でも、他所にやられたら、ピーコはまた独りぼっちになっちゃう。

 お母さんもいなくなったのに、ボクもいなくなるなんて、そんなの可哀想すぎる。

 絶対、守ってあげなきゃって、ずっと一緒にいなきゃって……』

『ぴよこちゃん!』


 言い訳するように弱々しく鳴き、ブルブルと震える瑞宮の頭を撫でてやる。


「馬鹿だなあ、霊獣を助けるのがじいちゃんの仕事だぞ。

 お前を助けるのだって大事な仕事だ。

 兄ちゃんたちだって分かってくれるさ。

 もし、文句を言うようなら、じいちゃんが叱ってやる。

 こんなちっちゃな雛一羽ぐらい、守ってやれなくてどうするんだって。」


 大丈夫だ。確かに兄獅子達は良い顔をしないかも知れないが、雛の命が掛かっているのだ。それで文句を言うような育て方はしていない。

 笑って見せれば、ミュウと小さく鳴いて子獅子は一直線に飛びついてきた。


『じいちゃん、ごめんなさい。信じなくて、ごめんなさい。

 ちゃんと相談しなくて、ごめんなさい……!』

「いいさ。一人で頑張ろうとしたんだろ。

 でも、次からはちゃんと相談しろよ。」

『ぴよこちゃん!』


 何度も何度も頭をこすりつけてくるのを、ぎゅっと抱きしめてやる。

 ほっと場の空気が緩み、陸晶と逸信も嬉しそうにミャウミャウと高い声で鳴く。

 そして加賀見が天祥の首をひっ掴んだ。



「っていうかさぁ! お前、さっきからずっと煩いよ、天祥!

 会話の合間合間でぴよこちゃん、ぴよこちゃんって、それしか言えないのか、お前は!

 そして場の空気を読め! 今、ぴよこちゃん言うところじゃないだろ!」


 怒られて尚、天祥は手足を振り回して叫ぶ。


『だって、テンちゃん、あのぴよこちゃん、好き!』

「知ってるよ! お前がひよこが好きなのは良く知ってるよ!

 ふれあい広場に連れて行ったのを翠蒼(みお)が後悔するぐらい、ひよこが大好きになっちゃったのは、よく存じ上げているよ!」


 欠片も自身の言動を顧みない子獅子とぎゃあぎゃあ揉めながら、郵便屋が妙なことを口走る。


「なあ、触れ合いってなんの話?」


 先に遊びに連れ出した時のことだろうか。しかし、そんな話は聞いていない。一体、何処へ連れて行ったのか。

 尋ねてみれば加賀見は「んあ?」と不可解そうな顔をし、直ぐにしくじったと口の端を歪めた。


『ぴよこちゃん! テンちゃん、ぴよこちゃん、触りたい!』

「何でもない。間違って古い記憶を混ぜた。

 気にしないで。忘れて。そして天祥、本当に煩い!」


 大きく首を横に振られ、どうでも良いことだと片手で払い退けられた。加賀見は20歳前後の見た目からは信じられないほど長く生きている。似たような場面に出くわしたり、同姓同名の人物などと付き合った結果、時々、記憶が混合してしまうことが有るらしい。

 それにしても今日は様子が何かとおかしい。言動が全体的に昏く、乱暴で落ち着いていない。後、目が座っている。

 漠然とした疑問を感じたのは子獅子たちも同様らしく、むひゅーと陸晶が鳴く。


『テンちゃんも煩いけど、加賀見の兄ちゃんもなんか変だね。

 無駄にテンションの上がり下がりが大きいよ。』

『きっと、寝不足なんだよ。

 兄ちゃんがおかしい時は大概、職業上のストレス過剰と寝不足の所為だよ。』


 騒ぐ天祥と喧嘩する郵便屋を、逸信は可哀想なものを見る目で眺め、左右に尻尾を揺らした。

 得意の移動魔法を駆使し、手紙を配達するだけでなく、世界を股にかけて活動する魔物は意外と多忙である。



「ああ、もう、この子獅子は!

 じいさん、こいつ、先に境内に戻していい?」

「いいよ。」

『じいちゃん、酷い!

 ぴよこちゃん! ぴよこちゃんー!!』


 首根っこを掴まれ、吊り下げられても、勢い衰えること無く暴れる天祥を片手に加賀見が叫ぶ。

 実際、邪魔なので許可すれば、瞬きする間もなく子獅子は移動魔法で放り投げるように飛ばされた。移動した先でちゃんと着地できたであろうか。


「ったく、あいつは何時でも何処でも煩いったらない!」


 大きく肩で息をして、加賀見は気を取り直すように頭をブルブルと振い、「さて、」と話を切り替えた。


「まずは社務所に連れて帰るとしても、事態は思っているより甘くないはずだ。

 孵化して二、三日は卵黄の栄養が残っているから飯を食わなくても良いとも聞くが、小まめに餌をやらんと駄目とも聞いた。

 あと、多いのが寒さによる凍死や病気の発症らしい。早く温めてやったほうがいい。」

「餌を小まめにって、どのくらいの頻度だ?」

「知らんけど、確か最低でも1時間おきぐらいって聞いたような、聞いてないような。」

「マジか。」


 加賀見も詳しくは知らないようだ。ならば尚更急がねば。ちょっとした遅れが取り返しのつかないことに繋がるかも知れない。


「赤ん坊は弱いけど、特に鳥は直ぐ死ぬからなー

 餌やるにも口を開けねえとか、どれだけ食べさせれば良いか分かり辛いとか。実に面倒い。」

「止めろ。そういう事言うの止めろ。」

 

 淡々とボヤく郵便屋を強く止める。今日は本当に昏くて悪い。

 急いで背負ったカバンからタオルを取り出し、雛をくるむ。

 ついでに木の洞の中から瑞宮が運んだらしい数枚のタオルや、みかん、鶏肉も回収する。

 なんとかしてやろうと一生懸命運んだのだろう。目頭が熱くなるが、今は泣いている暇はない。

 雛の確保を終えると、次に加賀見は右人差し指で地面を指し、魔力を注いで魔法陣を作り始めた。


「社務所への直行便だ。

 移動したら雛を温かい部屋に移して、お湯を沸かしておいてくれ。

 後、ついでにゆで卵も作っておいて。なんか使う気がする。」

「わかった。」

「俺は知り合いの専門家にどうすればいいか聞いて、必要なものを持って帰る。」

『じいちゃん、兄ちゃん、ボクらに手伝えることない?』


 横から陸晶がガウと吠える。

 加賀見は眉間にシワを寄せて少し考え、子獅子に指示を出した。


「天祥を筆頭として、ちび共や兄ちゃんがじいさんの邪魔しないよう、全力で引き剥がせ。」

『わかった。』


 陸晶は背筋を伸ばして了承を示し、逸信も力強く尻尾をピンと立てた。実に頼もしい。


『ミミ兄、良かったね。きっと、助けてあげようね。』

『うん。』


 ガアと嬉しそうに吠える逸信に、瑞宮は照れくさそうに尻尾を揺らした。

 そうこうしている間に移動用の魔法陣が出来上がり、駆け込むように子獅子と共に移動する。

 加賀見が戻るまでにも、やることは沢山有る。雛の行き先が決まるまでは多少なりとも当社に置かねばならない。寝床のダンボール、新しいタオル、温度を保つためにストーブもいいが、空気を汚さぬ湯たんぽも用意しよう。何処かにあったはずだ。

 ふと、抱えた雛を見やれば不安そうに首をすくめて丸く膨らんでいる。


「良かったな、瑞宮に見つけてもらって。」


 話しかければ、何処まで理解しているのか、ホッとしたようにピィと答えた。

 保護したからにはこの子もうちの霊鳥。期待に添えられるよう、まずは出来る限りの努力しよう。

 悩むのはそれからだ。諦めるのはまだ早い。

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