留守番。
土地には地脈や龍脈と呼ばれる力の流れがある。
生命力の活性化など良い影響を与える場合は神域とよばれ、邪鬼や怨霊を生み、穢を招く場所は魔境と呼ばれる。
神域には管理のために神社が建てられ、霊獣が住み着く。
地脈の調整や異変の感知、他を蝕む瘴気の浄化、結界の維持と、その姿や特性は様々であるが、神域の保全に霊獣の助力は必須と行っても良い。
うちの神社に居るのは純白、若しくは青い毛並みの雄獅子。攻撃力が非常に高く、勇猛果敢なことで知られ、魔境から生まれる魑魅魍魎への対抗手段として関東西部で割と重要な役割を占めている。
だが当然、無敵無敗ではない。
世界は広く、彼らより強い存在はいくらでも居る。それがどれだけ可愛らしかろうと小さかろうと、強いものは強いのだ。
いつもの様に拝殿前で子獅子たちの相手をしていると、参道の方から独特な遠吠えが聞こえた。
ああ、来たなあとぼんやり考えたとおり、程なくして小さいハスキー犬のぬいぐるみが二匹、ピンと尻尾を旗のように立てて現れた。子獅子たちも心得たもので、きちんと座って出迎える。
「お前ら、出迎え、ご苦労!」
「遊びに来てやったぞ!」
茶色のほうが兄のティー、灰色のほうが弟のルー。
可愛らしい見た目と異なり、偉そうに吠える彼らは海を超えた先に有る大陸の、神に連なる太古の魔狼。器は小さいぬいぐるみだが、中身は相当やばい代物らしい。
尤も、うちに居る限りは面倒見の良い兄ちゃんわんこで、子獅子たちも遊んでもらうのを楽しみにしている。
『ルー兄ちゃんも、ティー兄ちゃんも、いらっしゃい!』
本日は殆どの獅子が出払っており、残った中で一番年長にあたる瑞宮が代表して、嬉しそうに吠える。それを皮切りに並んで座っていた子獅子達はわらっとぬいぐるみの周囲に集まり、鼻を突き合わせたり、頭をこすり付けたり、久しぶりの再会を喜んだ。
挨拶の途中に少し遅れて到着したのは、蒼い目が特徴的な郵便屋の加賀見。
何かと手先が器用なこの魔物は、難しく危険な移動魔法を自在に使いこなすだけでなく、今日のように太古の魔狼の魂をぬいぐるみに詰め込み、娘の子守として散歩に連れ出す。
考えるだに無茶苦茶だと思うが彼らの中では普通のことで、うちが受ける被害も何もない。故にそのまま、受け入れてしまっている。
「よう。」
呑気に片手を上げて挨拶する加賀見の胸元で、娘のきいちゃんが真剣な表情でに足元の子獅子たちを指差した。
「にゃー!」
「そうだな、にゃんこいるなぁ。」
いい加減に娘の言葉を肯定する郵便屋に、子獅子の一匹、陸晶がピシリと訂正の思念波を飛ばす。
『兄ちゃん、ボクら、猫じゃないよ。』
『にゃんこじゃない!』
『みいち、ねこさんじゃ、ない!』
一緒になって、弟の豊一と巳壱がにゃぐにゃぐ鳴くが、片手で振り払われた。
「そうな、鬣生えたら聞くわ。」
全く相手にされず、しょうがないねと言いたげに陸晶は口の周りを舐め、小さい弟たちはミュウミュウ鳴いて不満を訴えた。
加賀見の失礼な態度は今に始まったことでもないので、猫扱いされたことを気にせず、逸信が尻尾を揺らす。
『加賀見の兄ちゃん、きいちゃんも連れてきたの?
でも、ムツ兄ちゃん、今日は居ないよ。』
「ああ、そういや、パトロールの時間か。」
いつも娘の相手をしてくれる兄獅子が不在と聞いて、軽く郵便屋は眉を動かした。
「まあ、別に陸奥じゃなくても、きいこの相手をしてくれるのなら、俺は誰でもいいんですが。
イツ、お前がやってくれるか?」
『えっ、』
急に人間の赤ん坊の相手を頼まれて、逸信は目を丸くして一瞬固まり、考えるように頭を左右に振ってから頷いた。
『……仕方ないなあ。
ボク、お兄ちゃんだから、面倒見てあげるよ。』
「うん、予想外のことを言われて躊躇するも、兄として下の子の面倒をみなければと考え直し、きちんと出来るか不安を感じつつ、敢えて偉そうに言うことで、周囲を和ませようとした算段が良く分かる間だったな。
俺、お前のそういう所、大好き。」
淡々と加賀見に思考を読まれ、再び逸信はピタリと固まった。
何で分かっちゃったのと疑問符を浮かべている兄獅子を押しのけるように、弟の天祥がぴょいと前へ飛び出る。
『しょうがないから、テンちゃんも面倒見てあげるよ!
テンちゃんは、電車でお出かけも出来たお利口さんだから、赤ちゃんの面倒も見られるよ!』
天祥は最近、電車に乗ったことで、すっかりお兄さんになったつもりなのだ。むふーと偉そうなため息混じりに、恩着せがましく言う子獅子に苦笑して、加賀見は膝を折って娘をおろした。
「じゃあ、天祥、頼むわ。」
父親にしがみつくようにして、地面に立った小さい人の匂いをフンフン嗅いで、天祥は不思議そうに首を傾げた。
『この子は、本当にちいさいねえ。
なんで、こんなにちっさいんだい?』
うちの神社には参拝客は少なく、近隣の村の人とも一部を除いて付き合いがない。挙げ句、1、2歳そこらの赤ん坊とくれば、関わる機会は皆無に等しい。
自分を棚上げで小さいと連呼する子獅子を、蒼い目の郵便屋は眇めで眺めた。
「なんで小さいって、そういう存在だからだよ。
そんなんで大丈夫か、テン坊。ちゃんと面倒、見られるのか?」
赤ん坊が小さいことにも驚く有様で、相手をするということが理解できているのか。
不審そうな視線を向けられて尚、子獅子は自信満々でブンと尻尾を振った。
『大丈夫だよ。
テンちゃんはお兄ちゃんだから、遊んであげられるよ。
ほら、ナデナデしてもいいよ!』
他所へ出かけた際、撫でられてやると人は喜ぶと学習したらしく、天祥は胸を張って頭をきいちゃんに歩み寄り、身体を押し付けた。さあ、撫でろと身体で示す子獅子をじっと見て、きいちゃんはゆっくりと手を伸ばす。
「みゃあ!」
むしゃっと横っ腹を揉まれて、天祥は飛び上がって逃げた。撫でられる心構えはあっても、揉まれるのはなかったらしい。
『なんだい、この子は! なんで、もみもみするの!』
「はははは、甘かったな、天祥。
子供は手加減できないし、意外と力が強いもんだ。」
二、三歩、跳ねるように後退りし、叫ぶ子獅子を加賀見が笑う。
やっぱり分かってなかったなと経験不足をからかう郵便屋に、酷いと文句を言いつつも、天祥はもう一度小さい人の隣にのしのし歩み寄って、ガアと鳴いた。
『もう! もみもみじゃなくて、ナデナデだよ。
ギュッてしたら、嫌だよ。』
前足を上げて、偉そうに説明しているが、きいちゃんには伝わらないのが分かっていない。
不思議そうな顔をしている幼い娘の腕を加賀見が抑え、手を添えるようにして撫でるのを手伝ってやる。
「きいこ、掴んじゃ駄目だぞ。
そうっと撫でないとにゃんこが吃驚するぞ。」
父親に手伝ってもらって、暫くきいちゃんは天祥を撫でていたが、子獅子が嬉しそうに喉をグルグル鳴らすのに手を止めて、此方を見上げた。
「にゃー!」
「ああ、上手に出来たなあ。
子獅子さんも撫でてくれて、ありがとうって言ってるぞ。」
なんと言いたいのかは分からないのだが、何となく自慢そうな気がしたので、褒めて返す。多分そんなに外れたことは言っていないだろう。
分かっているのか、いないのか、小さい人は周囲をウロウロしている子獅子たちに視線を戻し、一頻り撫でられた天祥も胸を張って戻ってくる。
『じいちゃん、テンちゃん、ちゃんと面倒見れた!』
「そうな。」
そこまで大層なことはしていないと思うのだが、尻尾をピンと立てる子獅子の自尊心を壊さないよう、取り敢えず頷く。
「きいたんのお世話は、それだけじゃないよ。」
「きいたんのお世話は、此処からが大変だよ。」
「いや、猫にしては上出来だろ。」
子獅子は何も分かってないとぬいぐるみたちが鼻で笑ったが、加賀見は天祥を褒めた。
ただ、あくまで猫扱いであったが。
「猫はまず、触らせてくれるかが分からんからな。
犬だと逆に、潰されないように気をつけないといけないけど。」
此処の獅子は愛想が良いと真面目な顔でウンウン頷いて、その間によちよち移動した小さい人を呼び止める。
「きいこ、そっとだぞ! ぎゅってするなよ!」
ほんの僅かに目を離した隙に、きいちゃんは瑞宮たちのところまで歩み寄り、手を伸ばしていた。
伸ばされた手を鼻でつんつんと突き、子獅子達は交互に撫でられたり、小さな手のひらを舐めたりしている。
「……瑞宮や陸晶なら、大丈夫か。」
特段問題なく、親交を深めている様子に安心して、加賀見が息を吐く。
この中では比較的大きい三匹がきいちゃんを囲んで相手をしているのを良いことに、幼い子達は此方に逃げてきた。自分の後ろに揃って隠れ、みゃうみゃうと作戦会議を始める。
『どうする? なでなで、してもらう?』
『みいち、ちょっと、やだよ。』
『むしゃってされたら、こまるもんねえ。』
燦馳、巳壱、豊一の最年少組たちは額を揃えて悩んでいる。ただ、末っ子の無比刀は黙ってのんびりと尻尾を揺らし、会議に参加しようとしない。
この落ち着きは本当にどこから来るのだろう。
年齢的には天祥もこの4匹とほぼ同じはずなのだが、問題なく小さい人の相手が出来たので、ますます偉そうに吠えた。
『テンちゃんは、ちゃんと面倒見られた! お兄ちゃんだから!』
「まあ、そういうことにしておいてもいい。」
投げやりに同意して、加賀見が背負っていたカバンを降ろして手を差し込む。
「そういうわけで前置きが長くなりましたが、手紙の配達です。」
「そう言えば、お前、郵便屋だったな。」
「そうなのよ。」
いつも、遊びに来る様な態度で顔を出すので、本来の目的を忘れてしまいそうだった。
差し出された手紙の束はいつもより厚く、ここの所、配達回数が減っていることを思い出させた。ひいてはそれだけ仕事が溜まっているということで、主要都市の水都や連係先の神社からの分厚い封筒が混ざっているのに、気が重くなる。これは片付けるのに時間がかかる案件と見た。
其々特性が違うからこそ神社間の連携は重要だが、大分間が空いてしまったので、前回、何を話したか忘れた。
そう言えば、加賀見が来たら聞こうと考えていたこともあった気がするが、それも忘れた。
まあ、こっちは大したことではないだろう、忘れたんだし。
「さて、じゃあ、そういうわけでそろそろ行くぞ、お前ら。」
仕事が終わった郵便屋はカバンを背負い直し、ぬいぐるみと小さい人達を呼び戻した。今日は他にも周るところがあるそうで、本当に遊んでいくつもりはなかったようだ。
途端に子獅子たちから不満の声が上がる。
『えー! 遊んでいかないの?』
『加賀見の兄ちゃん、ボク、きいちゃんのお世話、するよ?』
瑞宮と逸信がみゃうみゃうと鳴く。
帰らないでくれとねだる二匹の頭を撫でて、加賀見は困った顔をした。
「イツ、気持ちは嬉しいが、きいこの面倒見てたらお前が遊べないだろ。
それに監督のニノが居ないのに、お前らとルーたちを遊ばせるのはちょっと心配だしな。
今度、兄ちゃんたちが居て、ゆっくり出来る時に来るから。」
『やーだー! 今日も遊んでってよう!』
『兄ちゃん、テンちゃんも遊んでほしい!』
兄獅子もおらず、時間もない。
そう断られて逸信は耳を横に垂らして黙ったが、瑞宮は諦めず、加賀見の足にしがみつくようにして駄々をこねた。天祥も一緒になって、みゃうみゃう甘える。陸晶まで不満げに尻尾を激しく左右に振った。
『そんな事言って、加賀見の兄ちゃん、最近全然来ないじゃん。』
「そうだっけ?」
『そうだよ。』
瑞宮達と違い、わかり易く愚図りはしないが不機嫌そうな陸晶に、加賀見は目を細めて首を傾げた。
「陸晶がそう言うなら、そうなんだろうな。
最近、時間が経つのが偉い速くて。歳かね?」
20歳前後の見かけにそぐわない台詞を吐く郵便屋の足元で、ぬいぐるみたちが呆れたように言う。
「お父さんは、いい加減。」
「お父さんは、忘れん坊。」
「いや、お前らにだけは言われたくない。
後、俺はお前らのお父さんじゃない。」
自分たちの妹分のきいちゃんの父親だから、似たようなもの。
そう言ってティーたちは加賀見をお父さんと呼ぶが、呼ばれる方には何か問題が有るらしい。思い出したように否定する加賀見に、ルーとティーは揃ってガウガウ吠え立てた。
「だって、お父さんは忘れてる。
お仕事行っている間に、ボクらが此処で待ってられるってことを。」
「お父さんは忘れてる。
オレらがお兄ちゃんで、ちゃんと待てるってことを。」
ここで子獅子の相手をしながら留守番すると言うぬいぐるみ達に、蒼い目の郵便屋は激しく首を横に振った。
「嫌だ。嘘だ。絶対無理だろ。
お前らが大人しく他所で留守番とか出来るはずない。」
「失礼! 留守番ぐらい、簡単に出来る!」
「とっても、失礼! いつも、ちゃんと留守番してる!」
「いや、正確にはルーはまだしもティー、お前に信用が全く置けないんだ。」
「すっごい、失礼! お父さん、凄い失礼!」
喧々諤々と言い争いをしたのが、返っていけなかったようだ。
ぬいぐるみの兄のほうがすっかり意固地になって、何が何でも留守番すると言い出した。
「もう、一緒にいかない! 絶対、ここで留守番してる!」
『そうだよ! 留守番してけばいいじゃん!』
『兄ちゃんはお利口! テンちゃんも、お利口!
だから大丈夫!』
吠えるティーと一緒に瑞宮と天祥もギャウギャウ鳴いて騒ぐ。騒ぎはしなくても、同じ様に残って欲しくてウロウロしている逸信と、無言で尻尾を振り回す陸晶にも見つめられ、加賀見は困惑を隠さずにガシガシと頭を掻いた。
「勝手なこと言うな。じいさんに迷惑がかかるだろ。
駄目ったら駄目!」
投げ捨てるように却下するのを聞いて、すかさずルーが自分ところに走り寄り、可愛らしく首を傾げる。
「ねえ、山口のじいちゃん。いいよね?
ねえ、いいよね?」
蒼いビー玉の様な目をくりくりさせ、軽く口角を上げ、少しだけ舌を出す。
あざとい。実にあざとい。
自分たちの器が可愛らしい子犬のぬいぐるみだということを、熟知していなければ出来ない仕草だ。
子獅子たちにも責めるような視線を向けられ、苦笑いする。
「俺は、別にいいけど。」
どの道、子獅子の相手はしなければならず、ぬいぐるみたちが一緒に遊んでくれるなら、返って楽なくらいだ。
わっと歓声が上がり、加賀見が残念なものでも見るように顔を歪めた。やれやれとわざとらしく肩を落としてみせるが、大げさではないかと思う。
「知らねえぞ。じいさんが、良いならいいけど。」
「でも、ルーもティーもいつも、お利口だしなあ。」
「まあ確かに俺と違って、狙って悪さはしないと思うけど。」
逆に聞き捨てならない差異を口にしつつ、加賀見は抱きかかえようとしていたきいちゃんを此方に差し出してきた。小さい人も何の疑問もなさそうに手を伸ばしてくるので、つい、そのまま受け取ってしまう。
抱っこ先が変わっても、うんともすんとも言わない娘の頭を軽く撫で、良い子にしていろよと父親は言う。
「悪いけど、こいつも一緒に預かってくれ。すぐ寝るだろうから手間はかからんと思う。
一応、彼奴らのストッパーになるし、
俺と繋ぐアンテナ代わりにもなるから。」
単に押しつけるわけではなく、きいちゃんを通じて此方の様子を伺うことが出来るらしい。異変を感じたら、直ぐに戻るとのことだ。
相変わらず無駄に器用だ。
しかし、大事な娘を預けてまで見張るようなことだったのだろうか。
自分が見ている限りはお利口なわんこでしかないと言っても、ぬいぐるみたちが太古の魔狼であるのは間違いない。万一、暴れだしたら止められるとは思えず、急に不安になってきた。
「軽い気持ちで了承しちまったけど、もしかして、結構不味かったか?」
既に皆、大喜びしており、却下出来る雰囲気ではないが、迷惑を掛けることになってもいけない。
今更ながら聞いてみれば、加賀見はゆっくりと首を横に振った。
「いや、他所で騒ぎを起こすほど、無責任じゃないし、何も起こらんとは思うんだけどな。
人ではないから、どうしても価値観が違うし、何より子供だから、突拍子のないことをする可能性がなくもない。」
本当に不味かったら預けない。但し、迷惑を掛ける心配が否めないということらしい。
普段から子獅子たちに向けている心配とあまり違いがなく、納得して頷けば、追加で注意事項がはいる。
「あとぬいぐるみバージョンは外出用で、普段は器のない霊体だからその辺の配慮も薄い。
もし、なんかやりそうだったら即座に尻、引っ叩いていいから。」
「わかった。」
霊体云々については、本当に分かっているのか自分でもしっくり来ない。ひとまず頷きながらも首を傾げれば、郵便屋はカバンを背負い直しながら思い返すように片手で顎を撫でた。
「例えば……最近、やらかしたのはあれだな。
遊んでた相手を寒中水泳に誘った。このクソ寒い最中に。
お陰で相手が溺れて心臓麻痺起こし掛けただの、風邪引いただの、弾みで湖をふっ飛ばしただの、実に色々面倒だった。」
「あれは、ヌルが悪い! どんくさいから!」
「あれは、ホムが悪い! 泳げないって言わないから!」
横からワンワン抗議がはいるのに、加賀見は怒鳴り返す。
「煩い! そういう言うの含めて心配なの、お前らは!
本当にお利口にしておけよ!」
ちっとも分かっていない様子のぬいぐるみ達に、蒼い目の郵便屋は顔をしかめつつも、気を取り直すように軽く頭を振った。
「じゃあ、後は任せた。」
「おう。気をつけて、行ってこいな。」
今更、何を言うこともなく送り出せば、いつものように瞬く間にいなくなった。
父親の姿が消えたと言うのに、腕の中のきいちゃんに動じた様子もない。ただ、大人しく抱っこされて不思議そうに子獅子を眺めているだけだ。赤ん坊らしい人見知りの欠片もないのは遺伝だろうか。
「さて、じゃあ、改めて仲良く遊んでな。」
「うん、わかった! 怪我とかさせないように、気をつける!」
「じいちゃんは、きいたんと社務所で休んでてもいいよ!
ボクらが見とくから!」
声をかければぬいぐるみ達は尻尾を振って愛想良く答え、監督する責任もきちんと理解しているようで、貫禄すら感じる。
何の遊びをするか、子獅子達はみゃうみゃうと騒ぎ始め、楽しげに周囲を跳ね回り始めた。
これならば問題なかろうと思うも、どうしても苦笑がこぼれる。
「寒中水泳はする場所ないけど、もしも社務所や本殿をふっとばされたら困るなあ。」
滅多なことはなかろうと言われたし、大丈夫と思ってはいるのだが。
何処まで分かっているのか、腕の中のきいちゃんがむふーと頷いた。




