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伝わる。

 龍脈、地脈など呼び名は様々だが、土地が持つ力には流れがある。地脈の流れが強ければ、良くも悪くも周囲に影響を与える。

神域と呼ばれるほど強い流れの中心には管理施設として神社が置かれ、大概、地脈から溢れる霊気を糧とする霊獣が住み着いている。


 ここいら一体で最も大きな都となる水都、昔は東京と呼ばれた地域を中心に、大小併せて260余りの神社や部族が存在し、龍族の長、竜堂家を統制者として一つの国の形を取っている。

 西や北の方には、また別の国があるが、魔境と呼ばれ、理由なく他を害する邪鬼や怨霊を発生させている地域を除けば、同盟という名の協力体制が整っており、争いごとの火種もない。


 ただ、各都市ごとに距離があり、徒歩、飛行、遊泳と種族ごとに方法は違っても物理的移動が基本な昨今、情報の伝達は困難で、重要事項とされる。世の中には一瞬で長距離を行き交う移動魔法というものもあるが、術の難しさや性質上、一部の例外を除いて禁止されており、移動手段として一般的ではない。

 遠方とのやり取りは手紙や電報が基本、電話もなくはないが必要な施設が整っているかは、また別の話とくれば、地方の田舎など、簡単に陸の孤島になってしまう。様々な種族が協力があって初めて、広域での連係が維持されているのだ。

 当然、距離が離れれば離れるほど、連係や連絡は取りづらくなる。


 この様な常識の中、例外として超越的に移動魔法に長けた魔物が一人、存在する。

 黒い髪に黄色い肌、小柄な体格と東洋系の見た目でありながら瞳だけが西洋風に蒼い、アンバランスな人型の魔物。高位の龍や鳳凰ですら恐れ慄く化物で、傲慢故に誰にも従わないが、統制者の要望に応え、伝言や通達を引き受けることが有る。

 依頼の引受は気まぐれで、確実性がないものの、彼の手に掛かればその日のうちに国の端から端まで手紙が届く。

 蠱惑的なまでに驚異の移動術を持った魔物の名は加賀見といい、最大限の警戒と相応の敬意を持って、対応しなければならないとされている。


 されてはいるが。

 特段何もなければ、只人にしか見えない普通の兄ちゃんである。二十歳前後の外見にしては妙に古い知識が多く、ちょっと目の色が珍しいかな程度のものだ。噂は噂にしか過ぎないと言うよりは、忌避すべき存在とでもして置かなければ、過度に寄せられた希望で収集がつかなくなるのだろう。人の欲望は無尽蔵で節操がない。

 かと言って、切ると決めたら如何な相手でも切り捨てる冷徹さも持ち合わせていることも忘れてはならず、私情に溢れた依頼などすれば、また違った側面が見られるのかもしれないが、幸いにして頼む依頼もない。

 うちは割と規模が大きい分、管理の手間も少なくないが、邪鬼が現れても神域を守るに足る霊獣が揃っており、周りの村も協力的で結構安定しています。巷で最大の禁忌とか言われる危険をわざわざ犯してまで、叶えたい事項がございません。


 従って本性が如何なる魔物であろうと、彼との付き合いに今のところ不備不足はない。

 偶にペットや小さい娘を連れてきて、霊獣に稽古を付けられたり、動物園代わりにされたりするものの、実害には程遠い。

 むしろ、霊獣達は彼の連れ共々来訪を心待ちにしているし、移動範囲が広く話題に豊富な魔物は、自分にとっても良い茶のみ相手である。

 また、先に述べたとおり、彼の来訪がないのは情報の通達が滞るのと同意語。無理のない範囲で程々に訪問してくれればいいと思う。


 だが、かの魔物は実に気まぐれ。来ない時は本当にこない。

 最近は半月に一度の割合で顔を出していたが、6週間前を最後にパタリと来なくなった。元より昨今が異常で、本来は年に数度の割合でしか訪れない者とは言え、急に来なくなると落ち着かない。

 滅多なことはなかろうが、何か事故でもあったのではと心配もなるし、一言もなく居なくなられるのは、ただ寂しい。


 霊獣たちも気になるようで、どことなく落ち着きがない。

 うちの霊獣、白、若しくは蒼い毛並みの獅子達は他の霊獣同様賢いが、生まれ落ちたときから成熟しているわけではなく、子供はやはり子供である。訪れる度に遊んでくれたり、遊び相手を連れてきたり、おやつをくれるお兄ちゃんが、最近来ないのはどうしてなのか。

 不満や寂寥のまま、ミュウミュウ、キュウキュウ鳴いている。


 そろそろ、何か気晴らしになるようなことが欲しかった。

だから子獅子の一匹、八幡(はちまん)が大騒ぎしながら来客の訪問を告げたのは、ちょうど良いタイミングであった。



『じいちゃん! 大変大変!』


 叫ぶような思念波。

 鬣の生えていない子獅子の中でも年嵩で、しっかりものの八幡にしては慌てた様子で、兄獅子の璃宮(りきゅう)と一緒に社務所へ駆け込んできた。


「どうした、八幡。」

三葉(みつば)が、帰ってきたよ!』


 言いながらも頭上を探してキョロキョロする。


 ヒュロロロロ…


 独特の鳴き声がして、美しい赤紫の翼が滑り降りてくる。

 反射的に左腕を差し出せば、バサリと羽音と風が顔を打った。左腕を強く握られるような圧力を感じるも、直ぐに離される。一旦、ふわりと浮き上がったそれは社務所の中へ潜り込み、机の上に着地した。

 キエッと挨拶代わりに鳴いたのは、臙脂色の一羽の鷲。

 喉から体下面の羽衣は白く、胸部から体側面にかけて黒褐色の横縞。猛禽類であることは間違いないが、大鷲とも犬鷲とも違う霊獣の一種。


「久しぶりだな、三葉。」

 

 東北の竈門(かまど)神社に所属する霊鳥、三葉の来訪に自分は自然と微笑んでいた。


 三葉は子供の頃より、当神社で育った霊鳥である。

 うちの神社に所属しているのは、ここで生まれた獅子ばかりだが、他所より紛れ込んでくる霊獣が全く居ないわけでもない。

 三葉の場合はまだ羽が生え揃ったばかりで飛ぶのもやっとの頃に、一羽で飛び込んできたのを保護した。巣立ちに失敗したのか親とはぐれたのかは、未だによく分からない。幸い、人の手を厭わず、獅子たちともすぐに仲良くなった。成長してからは地脈を守るためのパトロールや邪鬼の討伐にも参加し、広範囲で頭上からの鋭い攻撃や的確な援護には、何度も助けられた。

 出来ればずっと居てほしかったのだけれども、二年程前に東北の竈門神社に移住してしまった。向こうは鷲を中心とした鳥型の霊獣が揃っており、同族と一緒のほうが良かろうとの判断や、当人の希望も有ったとは言え、正直、旨旨と育てた戦力持ってかれた感がなくもない。

 環境が許すかは別として、複種類の霊獣がいれば其々の特性を活かす事が出来るため、神社間で霊獣の移動は珍しくもないが、ここ数年、うちの神社は持っていかれるばかりである。ちょっと悔しい。


 机に移ったのは、篭手のしていない腕を掴めば爪で傷つけるという気遣いだろう。

 獅子と違い鳥の表情は上手く読み取れないが、三葉は居心地悪そうに何度か足踏みした。机の上は掴むものがなく、爪が滑るのだ。

 取り急ぎ、薄手の座布団を巻いて縛り、止まり木代わりに差し出すと、臙脂の鷲はすぐに移動して、キエッキエッと短く2回鳴いた。多分、礼を言っているものと思われる。


「今日はどうした、三葉?」


 聞けばさっと右足を差し出す。

 くくりつけられた通信筒を開ければ、中には小さく畳まれた手紙。何の理由もなく遠方の竈門から来るはずもなく、妥当な要件だ。加賀見の不在で発生した思わぬ再会に苦笑する。


『じいちゃん、じいちゃん、ミツバ兄ちゃんが戻ってきたって本当?』


 羽音を聞きつけたのか、他の子獅子も集まってきた。

 瑞宮(みずみや)陸晶(りくしょう)逸信(いつしん)天祥(てんしょう)。その他の幼い子らの姿は見えないが、恐らく、下の広場にいる兄獅子達のところだろう。

 尻尾をピンと張って駆け込んできた弟たちに、八幡がみゃうっと応える。


『手紙の配達だって。最近、加賀見の兄ちゃんが来ないからだよ。』

『何時まで居られるの?』


 泊まっていけるのか、璃宮が尻尾をくねらせながら聞く。

 キュエェーと三葉が悲しげに鳴いた。生憎、長居は出来ないらしい。

 それでも、久しぶりの再会が嬉しいのは変わりなく、翼をバサバサと動かす三葉に、子獅子たちはガウガウみゃうみゃう、近況を報告し始めた。

 その間に縁側から外に出て、井戸から霊水を汲んでくる。


 生命維持の殆どを霊気に頼り、肉や魚を必要としない獅子達と違って、三葉は少量とは言え、物を食べる。

 だが、まずは霊気をたっぷり含んだ霊水が必要だろう。それに長旅で疲れているはずだ。ゆっくり出来ない分、休ませてやらねば。

 再会は喜ばしいが、彼の職務に支障をきたしてはいけない。

 水桶を持って社務所に戻れば子獅子たちが案の定、遊んでほしいと騒いでいるところだった。


「お前たち、三葉は東北から飛んできて疲れているし、すぐに戻らなきゃいけないんだから、遊べないよ。」


 子供達だけで遊んで来いと追い払う。

 子獅子たちは不満の声を上げたが、仕方がないと諦めた。


『やーだー! ミツバ兄ちゃん、遊んで! 遊んでよー!』

『テンちゃん、我儘いわないの。』


 一人駄々をこねる天祥の首を瑞宮が咥えて引っ張って嗜め、逸信がしょんぼりと肩を落とす。


『残念だねえ。でも、兄ちゃんお仕事だから、仕方がないね。』

『そうだね。でも、また今度が有るよ。』


 陸晶が逸信を前足でぽふぽふと叩いて慰め、八幡がブンと尻尾を振った。


『三葉を困らせたらいけないよ。代わりにボクが遊んであげる。』

『遊んであげる……』


 如何にも上からな物言いに璃宮がおかしそうに首を傾げ、叩かれた。



『ほら、行くよ!』


 バシッと言い放って八幡が走り出せば、弟たちはその後に付いていく。


『ハチ兄、ボール。ボク、ボールがいいー』

『テンちゃんも、ボールがいいよ!』

『ミツバ兄ちゃん、また後でね。』


 兄弟たちが去っていく中、逸信だけがととっと社務所に上がり、三葉の胸元に軽く頭を押し付け、挨拶した。


『兄ちゃん、またね。』


 みゃうっと鳴いた子獅子の頭を嘴で優しく漉き、三葉もキュエッと鳴く。


『イッちゃん、どうしたの?』

『今、行くよ。』


 待っていた陸晶に急かされながら逸信も去っていき、三葉は何度か足踏みして、ブルっと身体を震わせた。



「返事を書くから、そのまま休んでいろ。」


 水の入った器を差し出せば、キュエェー……と力のない返事。

 ついばむように水を飲むと、漸く一息付けたと言わんばかりに目をつむり、胸元を膨らませて首を引っ込める。やはり遠距離の移動で疲れていたのだろう。

 それ以上、話しかけることはせず、黙って受け取った手紙を確認する。


 一頻り目を通して内容を把握し、返信を書いている間、三葉はピクリともしなかった。目をつぶったまま動かないので、寝ていたのかもしれない。

 書き終わったのが申し訳なく感じるも、声を掛ける。


「三葉、終わったぞ。」


 準備が出来たと話しかければ、臙脂の鷲はパチっと目を開き、さっと右足を突き出した。

 通信筒に手紙を仕舞い、蓋を閉めると早速翼を動かして帰り支度を始める。


「そんな直ぐに帰らなくてもいいだろう。

 冷蔵庫にささみが有るぞ。食べていかないか?」


 思わず好物をあげて引き止めるが、キュエッと首を横に振られた。

 こうもあっさり断られては、取り付く島もない。嘴で羽の具合を確かめる生真面目な態度に、返って不安を覚える。


「三葉、お前、向こうで上手くやれているのか?」


 こんなに慌てて帰らなければいけないのは、何かのプレッシャーを受けているからではないか。

 竈門には請われて行ったのだから、疎んじられはしないと思う。だが、一切の緩みを許されない、厳しい環境に置かれているのではないか。若しくは過度の期待を寄せられて、休む余裕もないのではないか。

 そんな心配が伝わったのか、臙脂の鷲は困ったように胸元を膨らませ、ブルブルと身体を震わせた。


 その仕草に、三葉がここを出た時のことを思い出す。

 自分で決断しながらも、住み慣れた家や仲間の獅子を置いて旅経つ若い鷲は、少し不安げに後ろを振り返り、迷いを打ち切るように身体を震わせてから去っていったのだった。



 今も無言でぐるぐると頭を動かし、三葉は悩んでいるようだったが、何かを聞きつけたようにキリッと顔を外に向けて、バサリと羽ばたいた。

 途中、木の枝に止まって此方を振り返り、待っているので、付いてこいと仰せだろう。

 サンダルを引っ掛けて、後を追う。


 三葉が向かった先は拝殿前の広場で、子獅子達がボール遊びをしていた。

 飛びついて抑えてから転がしたり、そのまま叩いたり。時折、捕まえ損じた者がでると笑い声が起きる。ボールを自分より後ろにやってはいけないルールがあるのだ。

 拝殿前をのびのびと走り回る子獅子たちは楽しそうで、臙脂の鷲もキュエッキュエッと機嫌よさげに鳴いた。

 何がいいたいのかと頭上を飛ぶ三葉を見上げれば、彼はついと嘴を開けて、微笑んだように見えた。そのまま、ボールに向かって一直線に飛んでいく。


 あっという間に子獅子達からボールを横取りした三葉は、これみよがしに悠々と旋回して、ぽいっとボールを投げ捨てた。

 点々と転がるボールに陸晶が飛びついて叩く。


『えいっ!』


 叩かれたボールは綺麗に瑞宮の方へ飛んでいったが、子獅子が捕まえるより早く、急降下してきた三葉にまた持っていかれる。

 再び、ポイとボールが捨てられ、からかうように周囲を飛び回る鷲の姿に、子獅子たちのプライドが傷つけられたようだ。

 三葉に向かって集中攻撃が開始される。


 ガウッ! グァウ! ビャウ! 


 子獅子ながら力いっぱいの咆哮と共にボールを叩きつけるが、全て三葉に捕られてしまう。そればかりか隙間を縫うように投げ返され、ポロポロと取りこぼし始めた。


『相変わらず、すばしっこい!』


 グルウと八幡が歯を食いしばり、唸る。


『やっぱり、ミツバ兄ちゃんは凄いや!』

『イッちゃん、油断しない!』


 確実にボールを捉える臙脂の鷲の俊敏かつ正確な動きに、逸信が歓声をあげ、陸晶に怒鳴られる。


『負けるもんか!』


 瑞宮が必死でボールに飛びつくが、ひゅっと横を抜けられ、天祥がハッシと飛びついて止める。


『ミミ兄!』


 止めたボールを天祥が打ちやすい角度で瑞宮に飛ばし、これを待っていたと兄獅子は力一杯叩く。

 瑞宮の一撃は鋭く重い。叩かれたボールは矢を射るように、頭上の三葉めがけて飛んでいく。

 撃ち落とされると慌てたが、三葉はこれも見事に捉えた。ただ、結構な衝撃が有ったらしくバランスを崩し、驚いたようにクェエと鳴いた。


『クソッ、これも捕られた!』

『瑞宮、まだまだ! 次も行くよ!』


 くるくると頭上を回りながらゆっくりと羽ばたく三葉を睨み、牙を剥いて悔しがる瑞宮に陸晶が吠え、戻ってきたボールを捉えて飛ばす。

 絶妙な位置に飛んできたボールを瑞宮は再び力一杯叩き、白球は先程と同じか、それ以上のスピードで飛んでいく。



 いつの間にか見事な連係を見せるようになった、子獅子たちの成長に驚くと同時に、それを抑える三葉に目を見張る。

 流石に直接捉えるのは辛くなったのか、ボールを止めるのに魔法を使い始めたようだが、この短距離で複数の相手を抑える技術は並ではない。

 臙脂の鷲は風の防壁を作ってボールの勢いを殺し、羽の向きを調整して、自在に空中を飛び回る。

 うちに居た時の彼奴には出来なかった動きだ。竈門で学んだものだろう。


「上手く、やっているんだな。」


 安堵と寂しさ、双方からこぼれた独り言。

 早く帰りたがったのは、それだけ竈門を好いているから。

 確かに、ここを出たのは正しかったのであろう。不安げに身体を振るわせた若鷲の記憶が静かに消えていくのを感じた。



 それにしてもガアガアと子獅子たちの唸り声がますます激しく、乱暴なものになっていく。

 その上、いつの間にか騒ぎを聞きつけた広場の獅子たちも戻り、混ざり始めているではないか。

 当神社筆頭獅子の五十嵐(いがらし)にしても、古参の二前(にのまえ)陸奥(むつ)にしても、拝殿前で暴れていい存在ではない。

 っていうか、止めなさい。揃って集中砲火とか大人気ない。特に陸奥、お前が一番駄目だろ。お前、うちの神社で最大火力だろ。方向間違えたら本殿とか建物に余裕で穴開けるだろ。大体よく考えれば、瑞宮が全力でボール打ち込んだ時点でアウトなんだよ。ここで力一杯叩いたら駄目だって何時も言ってるだろ。


「いい加減にしなさい! ここは拝殿前だ! お前らの馬鹿力でボールを飛ばしていい広さはない!

 それに三葉はこの後、東北まで帰るんだぞ!」


 騒ぎに負けぬよう、大声を出して止めれば、獅子達は首を竦めて言い訳がましく鳴いた。


『だって、久し振りだったし……』

『だって、折角三葉がきてるんだし……』

「限度が有るだろう、限度が。」


 仲がいいのは宜しいが、何をやっても許されることには繋がらない。

 集中砲火から開放され、三葉がゆっくりと空から降りてくる。



「大丈夫か、三葉?」


 広場に丁度良い止まり木は存在せず、五十嵐の鬣に止まった臙脂の鷲はバサバサと大きく羽を動かし、クエェと鳴いた。何度も胸元を膨らませ、荒い息をしているが、疲れは感じていないらしい。


『向こうで随分、鍛えられたようだな。』


 二前が尻尾をビュンと振り、その足元で逸信が無邪気に笑う。


『やっぱり、兄ちゃんは凄いね。また、遊んでね。』


 完全に抑えられた他の子獅子達は悔しげだが、逸信は尊敬の念のほうが強いらしく、みゃうみゃうと楽しげに鳴き、三葉も自慢げに羽を広げてみせた。

 そのまま、ついついと嘴で羽を整え、バサバサと翼を動かす。身体も十分温まったので、帰るつもりのようだ。

 これ以上、引き止めるのもどうかと思い、飛び上がるのを見送る。



 別れの挨拶代わりにゆったりと旋回する三葉に声を掛ける。


「三葉、気をつけるんだぞ。ちゃんと休憩も取れよ。」


 了承を示すように臙脂の鷲はクエェーと長く鳴き、思念波を飛ばしてきた。


『たっぷり霊気も吸収したし、大丈夫。

 また来るから。じいちゃんも皆も、元気で。』


 それを最後に大きな羽ばたきの音が響く。あっという間に小さくなっていく臙脂色の翼をぼんやりと眺める。

 霊鳥は種類によっては人の言葉を操るが、難しい場合は獅子と同様、思念波を使用する。

 勿論、三葉も思念波を使える。今の今まで、忘れていたけれど。


 後ろから二前と陸奥の会話が聞こえた。


『本当に久しぶりに三葉の思念波聞いたわ。』

『彼奴、滅多に使わないからな。

 あんなんで向こうで上手くやれているのかね。』


 上手くやれているか否かは、先程動きを持って証明してくれたわけだが。それでも若干以上の不安が残る。

 あの子、何であんなに無口なんだろう。




 余談として、届けられた手紙の内容は邪鬼の発生状況や、此方への影響予想など通常の業務関連が殆どだったが、後半は要約すれば『火力足らなくてキッツイわー 強化したいし、攻防優れた五十嵐、頂戴。』との内容だった為、『ふざけんな。お前の方こそ使える奴、二、三羽寄越せ。』を、丁寧に書いて返しておいた。

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