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ダンボール手品。(前半)

 澄んだ霊気が沢山集まると精霊や霊獣になるように、淀んで歪めば瘴気になって、怖い怨霊や意地悪な邪鬼に変わる。そして、魔境に住まなきゃいけない。彼奴らには安心して暮らせるお社もなければ、お世話をしてくれる人もいない。

 ボクは獅子の霊獣だから、神社で皆と一緒に暮らせる。怨霊なんかに生まれなくて、本当に良かったと思うよ。

 もし邪鬼だったら、ジン兄ちゃんやトシ兄ちゃんと同じ青い毛並みもないし、じいちゃんから豊一って、名前だって貰えなかった。

 一番になれるくらい、才能豊かであるようにって言われたんだけど、一番はまだ無理かなあ。

 でも、いつかきっとなれると思う。

 その為には、沢山運動して体を鍛えて、術の練習をしないとね。


 ボクみたいな青毛は白毛の皆より、術の扱いが得意なんだって。

 どう違うのかはよく分かんないけど、ボクより年上でもミミ兄やリク兄は、まだ火球を作ったりとか出来ないのは本当みたい。

 ボクは結構前から出来るんだよ。弟のムイムイも出来るけど、ボクのほうが術式組むの早いんだ。

 体の中を流れる霊力を集めてね、空中に絵を描くみたいに式を描くの。上手に描けたら、そこに霊力を流し込んでね、発動させるんだよ。

 なんかこう、フッて感じ。霊力をフウッて吹き込む感じ。


 他にも両手に霊力を纏わせてパンチしたり、ジャンプするときに高く飛べるようにするのもあるよ。此方の術は白毛の兄ちゃんたちも得意だって言ってた。

 だけど、あれ? ボクが得意なのとどう違うんだっけ?

 術って種類が一杯あるから沢山覚えなきゃいけなくって、時々、訳が分かんなくなっちゃうんだ。

 全部覚えなくても良いような気がするんだけど、それじゃ駄目なんだって。

 『理解が足らないと、真髄に至れない』からって、ジン兄ちゃんは時々難しいことを言うんだよ。

 トシ兄ちゃんは『使うって決めた奴だけ、しっかり覚えておけば何とかなる』って言ってたんだけどなあ。



 術って言えば最近、余所の神社の霊獣がお手伝いに来るようになったんだ。

 ヒサ兄ちゃんは黒毛の狼なんだよ。ボクらと違って耳や鼻が尖ってるし、尻尾もこう、フサフサなの。

 一番違うのは、人間の姿に化けられるってこと。化けるのは狐と狸だけって思ってたけど、犬や狼も化けられるんだね。吃驚したよ。

 ムイムイがさ、『勇おじちゃん達だって、龍だけど化けてるよ。』って言ってたけど、おじちゃんは龍じゃん。凄く高位な存在って奴じゃん。一緒じゃないと思うんだけど、まあ良いや。

 それでヒサ兄もね、やっぱり色んな術を使えるの。氷系が得意なんだって。

 真似してみようとしたけど、氷はなんか上手に出来なかった。風と炎は出来るんだけどな。

 何でかなって、うっかり兄ちゃん達に相談したらお勉強の量を増やされちゃった。

 ボク、あんまりお勉強、好きじゃないんだよ。

 出来ないんじゃないよ。好きじゃないの。他のお勉強嫌いな子、テンちゃんなんかはわかりもしないし、覚えもしないもん。

 ボク、わかったやつは忘れないもん。だから、出来ないんじゃないよ。


 それにね、今は運動して体を鍛えるほうが大事なんじゃないかなって、思うんだ。

 ヒサ兄ちゃんだって、言ってたんだよ。


「沢山鍛えて体力付けないと、討伐に行けないじゃん。

 術だって大したの使えないじゃん。

 まずは体力つけるのが一番大事だよ。」


 術を使っても、走っても、体力がないとすぐに疲れちゃうもんね。

 だから、ミミ兄と一緒に走ったり、木に登る訓練を頑張ってる。

 時々、サボってるのと間違えられて、ジン兄ちゃんに捕まったりするけど、ボク、かけっこもボール遊びも大好きだし、勉強より、体を動かす方がやっぱり楽しい。

 神社の裏にある森の方にも遊びに行けるようにもなったんだよ。

 目の届かない境内の外に行くのは心配だって、じいちゃんたちは良い顔しないんだけど、ヒサ兄ちゃんが一緒の時だけだから大丈夫。

 鹿とか、イノシシとかの追いかけ方も教えてもらった。彼奴らは大きいからまだボクには無理だけど、キジなら捕まえられるかもって。

 でも、キジはなかなか居ない。もっと森の奥に行かないと駄目なのかな。



 さっきは境内の隅っこでトカゲを捕まえた。

 じいちゃんに見せようと思って拝殿の前まで戻ってきたら、宅配便が届いたところだった。持ってきてくれたのはボクがちっちゃい頃から来てくれるお兄ちゃん。

 きっと、いっぱいダンボールが貰えたに違いないって、嬉しくて飛び跳ねたらトカゲを逃しちゃった。お兄ちゃんにも見せたかったんだけどなあ。

 じいちゃんは新人とも仲良くしろって言うけど、彼奴はダンボール持ってきてくんないんだ。

 やっぱり、いつものお兄ちゃんが良いよ。沢山、箱を持ってきてくれるからね。


 宅配便には魔石とか、難しい書類とか、時々、人間用のお菓子が入ってる。ボクには何だか分からないのもあるけど、荷物が届くとじいちゃんが嬉しそうだから、きっと良いものなんだと思うよ。

 中身を出したダンボールはベッドにしてるのと取り替えたり、新しい荷物を詰めたりするもするけど、使わないのはボクらが貰える。

 中に入ったり、登ったりして遊ぶんだ。すっごく面白いよ!


 今回もいろんな荷物が届いたから、じいちゃんは整理が大変そうだった。

 早く箱が欲しくてウロウロしてたら、邪魔だからあっちへ行ってなさいって言われちゃった。

 そりゃ、確かに大きな魔石が気になって、ボール代わりにしちゃったけど……見張ってないと、じいちゃんがダンボール壊さないか心配だよ。

 油断してるとすぐに潰してゴミに出されちゃうんだ。邪魔になるからって。そんな急いで片付けなくったって良いと思うんだけどな。

 休憩所は客間としても使うから、いつも綺麗にしておかなきゃ駄目なんだって。

 お客さんが来ても、皆、社務所にいっちゃうのにねえ。



 追い出されたからには仕方がないから、他の子たちはお外に遊びに行っちゃった。でも、ボクとテンちゃんは小さい兄ちゃん達のお部屋に行って、片付けが終わるのを待つことにした。

 本殿にはお風呂や休憩所の他に、兄ちゃんたちが使うお部屋がある。鬣が生えた兄ちゃんたちは自分だけの個室を持ってるけど、子獅子のミミ兄たちにはまだ早いって、大きい部屋を皆で使ってる。

 ボクももっと大きくなったら、社務所の子供部屋からこっちに移らなきゃいけない。けど、あんまり行きたくない。

 大体同い歳のミイちゃんもサンジも、早く大きくなって本殿に行きたいって言ってるけど、皆が思っているほど良いことはないんだ。ボク、知ってる。

 だって、先に移動したテンちゃんが、『あっちは寒いし、騒ぐと怒られるし、面白くないんだよ!』って怒ってたもん。

 寒いのも、怒られるのも嫌だよ。それより、じいちゃんがいて、温かい社務所のほうが良い。

 ムイムイと一緒に、どうやったら長く社務所に居られるか、こっそり研究中。取り敢えず、なんか言われたらサンジとミイちゃんに先に行って貰うつもり。

 今だって板張りの床は冷たくって、転がる気にもなれないよ。

 でも、ミミ兄が座布団を出してくれた。座布団の上なら冷たくない。


『ミミ兄、ありがと!』


 お礼を言って早速座ったら、テンちゃんが横から割り込んできた。


『テンちゃんが座るんだよ。』

『やだよ、ボクがもらったんだよ!』

『喧嘩するんじゃないよ。ほら、テンちゃんにはボクのをあげるから。仲良く座りなよ。』


 押し合いへし合いしてたら、ミミ兄が自分の分の座布団を回してくれた。


『ミミ兄は、どうすんの?』

『ミミ兄、冷たくないの?』


 ミミ兄は優しいから、いつも譲ってくれるけど、ボクらが座布団取ったらミミ兄のがなくなっちゃう。

 それは駄目だよって思ったんだけど、ミミ兄は胸を張って自慢げに言った。


『ボクは大丈夫だよ。だって、毛皮がふかふかだからね。』


 ボクらは獅子、つまりライオンだから鬣以外の毛は短い。

 だけどミミ兄とムイムイは不思議なことに、体中から毛が沢山生えてきて、モコモコ、フワフワのタンポポの綿毛みたいになったんだ。

 急にフサフサになった時は吃驚したけど、とっても触り心地がいいし、温かいからいいことだと思う。

 それに座布団がなくても平気だって。凄いなあ、ボクの毛は伸びないのかな?



 直接、床に寝っ転がったミミ兄をみて、テンちゃんが尻尾を大きく振った。


『そんだったら、テンちゃんはミミ兄と座るよ。』

『ちょっと! それはボクとじゃなくて、ボクに座るっていうんだよ!』


 座布団をほったらかしでミミ兄のそばに行ったかと思ったら、お腹の上に座るんだもん。

 そりゃ、ミミ兄だって怒るよ。

 押しのけられたテンちゃんはめげずに突っかかっていって、そのままプロレスを初めたから、ボクも混ざった。

 ミミ兄は強いからテンちゃんと二人掛りでもなかなか勝てない。バタバタやってたら、トシ兄ちゃんが覗きにきた。


『何、暴れてるんだ、お前ら? 外で遊べばいいのに。』

『じいちゃんのお片付けが終わるの待ってるんだよ。』

『ああ、箱待ちか。』


 ちょっと話しただけで、トシ兄はすぐ分かってくれた。

 ブルブルって鬣を震わせてから教えてくれる。


『それなら早く行ったほうがいいぞ。

 さっき終わって、護矢が早速大きいのを持っていった。』

『何で! ずるいよ!』


 ダンボールはボク達、子獅子のだよ。モリヤ兄ちゃんはもう鬣生えてるくせに、何で持っていっちゃうのさ。

 慌てて戻ったら、じいちゃんは何処に行っちゃったのか居なくなっていて、箱がいくつかあるだけだった。

 空っぽのを見つけて、大急ぎで中に潜り込む。



『これ、ボクがとった!』

『あっ、ずるい!』


 ミミ兄も箱に前足を掛けてきたけど、ボクが先に入ったんだもん。二匹は入れないよ。そっぽを向いたボクに、ミミ兄は悔しそうにグルルって唸った。

 テンちゃんはそのまま廊下を走ってモリヤ兄ちゃんを捕まえたみたい。


『モリヤ兄ちゃん、ずるい! 箱はテンちゃんのだよ!

 兄ちゃんはもう大きいんだから、どうせ入れないじゃん!』

『順番だから、別にずるくない! それにワシは小柄だから入れるの!』

『嘘だ! 入れないもん! ベリッて破けるに決まってるよ!』

『入るの! 今だって入ってるだろ!』

『入ってないもん! 頭しか入ってないもん!』

『頭が入れば十分なの! 兎に角、これは兄ちゃんのだから、駄目!』


 ギャウギャウ、ミャアミャア、大きな声がしてると思ったら、フシャーってテンちゃんの威嚇と、ミギャッとモリヤ兄ちゃんの悲鳴が聞こえた。

 けど、結局押し負けたみたい。テンちゃんはふんふん鼻息を荒く、手ぶらで帰ってきた。

 怒って尻尾を振り回すのを、ミミ兄が叱る。


『テンちゃん、モリヤ兄ちゃんに何したの。打ったら駄目だよ。』

『打ってないもん! ガブッてしてやっただけ!』

『そっちのほうが悪いよ。』


 可哀想なモリヤ兄ちゃん。テンちゃんはやることが乱暴だよ。

 ミミ兄はもっときちんと叱ったほうがいいと思うな。いっつもテンちゃんには甘いんだから。

 今日も注意だけで終わりにしちゃった。ジン兄ちゃんだったら、もっと怖い顔で怒るのに。



 箱が貰えなかったテンちゃんは、当然ボクが入ってるのに目をつけた。


『なんだ、箱あるじゃん! テンちゃんも入るよ!』

『えー ボクが入ってるんだよー』


 ボクに構わずテンちゃんは無理やり上半身を押し込んできた。

 もうギュウギュウで狭いし、テンちゃんはボクの頭、平気で踏みつけるんだもん。

 腹がたったからパンチしてやったら、やり返された。痛いよ!

 モゴモゴ暴れてたら、ミミ兄に呆れ顔で叱られた。


『喧嘩したら駄目だってば。それにボクだって入りたい。

 順番に代わってよ。』

『えー ミミ兄は入れないよ。』


 同じ鬣のない子獅子って言っても、じいちゃんの膝にも乗れるし、抱っこもして貰えるボクらと違ってミミ兄は大きい。

 丁度テンちゃん二匹分ぐらいの大きさだもん。ボクに丁度良いサイズのこの箱じゃあ、小さすぎるよ。

 それなのにミミ兄は全然平気な顔して言うんだ。


『大丈夫、入れる、入れる。代わってよ。』


 大丈夫じゃないと思うんだけど、そう言われちゃったら譲らない訳にはいかないよ。

 だって、ミミ兄にはいつもお世話になってるもん。一緒に遊んで貰ったりとか、遊ぶ場所、代わって貰ったりとか。

 仕方がないからボクとテンちゃんは顔を見合わせて、ダンボールの中から出た。


『ミミ兄には、ちっちゃいと思うよ?』

『大丈夫、大丈夫。』


 ボクらは丸くなると、人が思うよりずっと小さくなれる。

 それはミミ兄も同じだけど、物事には限度があるよ。無理だと思うんだけどな。

 黙って見ていると、ミミ兄は前足をもぞもぞしたり、体を動かしたりして、こんもり丸くなった。


『ほら、入れたじゃん!』


 ミャーッと鳴いたミミ兄はとっても満足そうだけど……入ったっていうか、詰まったっていうか……長い毛がはみ出てるし、顔が潰れてるよ。



『ミミ兄、きつくないの?』

『毛が邪魔なのは仕方ないよ。だって、ボクはフワフワだからね!』


 邪魔なの、毛かなあ。モフモフの毛皮だけかなあ。

 ボクはなんて言っていいか分かんなくて、耳が頭にくっついちゃった。テンちゃんも不満そうにムフーッて鼻息を荒くする。


『やっぱり、ミミ兄にはちっちゃいよ!

 テンちゃんが入る! どいて!』

『ええーっ、今、入ったばっかりなのに。ちょっと待ってよ。』

『テンちゃんも入る! 入るったら!』


 嫌がられているのに、テンちゃんは一度言い出したら聞かないんだ。無理やり前足を突っ込んで、割込もうとする。

 ミミ兄も反撃しようとするけど、狭いから上手にパンチできなくて苦戦してる。

 バタバタもぞもぞやっているうちに、ベリッて音がして箱が壊れた。


『あーあ、テンちゃんが無理やり入ろうとするから。』

『ふんっ、箱がちっちゃいのが悪いんだよ!』


 無理やり入ったから、角からビリビリ破れて壊れちゃった。

 ダンボールは壊れるもんだから仕方がないけど、がっかりだよ。

 もっと丈夫だったら良かったんだけどね。

 壊れなくて大きくて、出来れば適当な穴が空いてて、覗いたり、通り抜けられる素敵な箱が、何処かにないもんかなあ。

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