出会いの森編 ユニーの覚醒とシェリル
ついに襲われるユニー達、シェリル姫もユニー達に合流です。
お嬢様に襲撃者は追いつきお嬢様を押さえつけている。
魔力を回復しようとしたその時、アクリスがその魔力を取り込み、何かが始まった。
アクリスから何かが私に入って来る。
その瞬間、私は体の全身に激痛が走り、服が急に窮屈になってくる、特に胸が苦しい。
髪が急に伸びていくのが分かる。
こちらに向かってきた男が驚いて、たち止まっている。
立ち上がると少し成長しているようだった、成長に合わせ服は伸び縮みするのだが、成長に追いつけず、少し破けている。
結局、魔力は底を付いたままであるので体を回復できていない。
ただし、成長に合わせ、体力は上がっているようで動くことはできた。
とは言え、それほど長くは戦闘はできないだろう。
それより驚いたのは、アクリスはショートソードになっていた。
男は気を取り直し、剣を抜き私に向かってくる。
どうやら、先ほどから、私の体はアクリスの戦闘支援機能により動かされているようだ。
アクリスがショートソードになったので、より明確に動かされているのが分かる。
ただし、私の運動性能をはるかに超える運動をさせようとしており、私の体は完全に追従できていない。
それでも、相手の剣を避け、相手の急所を確実に攻撃し止めを刺す。
テレビでよく見た正義の味方のようにカッコイイ戦い方ではない。
「殺すしか出来ない」それが今の私の姿だろう。
そしてそれは明らかに狂戦士だと思った。
そうか、理解したよ、私は弱いのだ、弱いから敵を殺すしかないのだ。
手加減など出来ないのだ、だからアクリスは殺すことを選択している。
向かってくる男を始末した後も、目的(お嬢様を助ける)を目指して邪魔な次の獲物を狙い走り出す。
最早、襲撃者など敵ではない、彼らの剣などアクリスの前では役には立たないし、魔法も直前予測なのかあっさりと避けてゆく。
あとはお嬢様を捕まえている男を倒せば終わりだという段階で足がもつれる倒れる。
さっきから「あらぬ方向」に曲がっているなと思ったが、やはりアクリスの支援は無理があったようで足が先に動かなくなった。
お嬢様はその男に連れ去られようとしたが、なぜか私の方を見た瞬間心配したように「ユニーっ」と叫びをあげる。
その瞬間お嬢様の髪が赤くなり始める。
「レーゲン『神おろし』だ、すぐに対処しろ」というと、どこからともなく女が荷車に乗せた「それ」を押して現れた。
荷車の上に立っている塔ようなものから、棒のようなものが見え、その棒から白い光が放射される。
お嬢様は、そのまま光に包まれ赤い髪になり切れず動けないようだった。
お嬢様は動けない、そして動けない私、祈る思いでもう一つ魔石を取り出し魔力を回復させてみる。
今度はアクリスには吸い取られず、私の魔力が回復する。
女は慌てていただろう、魔力防御していなかった。
今できる魔力で「焼肉!!」「お湯!!」と生活魔法をありったけ叩き込んだ。
女は「ぎゃ~~っ」と悲鳴をあげ、一瞬光が止まった。
そして、その隙にお嬢様の髪が赤くなり、赤い光が広がっていった。
その光に1人残った男と、女は消し飛んだ。
光を出していた塔の様なものは分解され、中から人のようなものが転がる。
その頭部に付いていたヘアバンドのようなものがはじけ飛んだ。
しかし、人のようなものは消し飛ぶことはなかった。
やがて光が消えると、お嬢様が心配そうな顔をして、元気にこちらに走ってくるのが見えたが、私の意識も薄れていく。
逃げていた、クーが飛んできて「だらしないぞ、ユニー」と悪態を付く。
前回のこともあり、自分を叱咤激励する機能を付けていたのだが、そう言われるとなぜか「むっかとする」。
そんな機能を付けたことを少し後悔した。
「いいんですよ、こんな状態で、何とか凌げたんだから合格点よ。。。」と呟きながら気を失った。
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何度目だろうこの状況、気が付くとベッドに横になってお嬢様が心配そうに座っていた。
私が気が付いたことを確認すると、「お腹すいたよ、ユニー」と呟く。
「すぐにお食事の準備をいたします」と立ち上がろうとするが、立ち上がれない。
体全体を負傷している、重症なのは足で、骨折した上に腱が切れているので歩けないな。
とりあえず魔力は回復しているので回復魔法で治療していく。
骨折部分と、腱が切れている部位を修復するようにイメージしながら回復魔法で治す。
余談であるが、回復魔法は魔法とつくが、イメージがうまくできないと治療にならないことが多い。
当たり前である、体の見える傷は治るイメージが出来るが、内臓疾患は見えないから、どう悪いのか分からない、痛いところだけ治しても根本原因が治ってなければ完治しないのだ。
また精神的な原因で病気になっているのに病気のみ治してもすぐに再発する、よって回復魔法だけではなく、診療や治療が必要になる。
とりあえず足と全身の治療後、少し動けるようになると、お食事の準備に掛る。
お食事の準備をしながら、状況を整理していく。
襲われてどのくらいの時間が経ったのだろうか?
再度の襲撃に備えなければならないが、この場所は移動しておいたほうが良いのではないだろうか。
あれ以降、アクリスは元に戻らずショートソードのままである。
魔力が無くなれば元に戻るということではなかった、そしてアクリスには支援機能があることが分かった。
今の私にとってはとってもありがたい機能だが、全面的に判断をアクリスに任せるのは怖い。
現在の私の実力では、任せていると狂戦士になるのだ、無暗な殺生だけは避けたい。
訓練場でアシスト機能と身体強化魔法と組み合わせながら特訓が必要だな。。
私に関しても一時的に成長したのではないようだ。
年齢的に18歳くらいだろうか、身体は少し伸び、驚くのは身長の伸びもあるが、胸の大きさである、こんなに悪意を感じるほど「豊か」である必要はあるのかと考えてしまう。
そして着るものであるが。。。
侍女服は成長に合わせて伸び縮みする魔法が施してあるが、今回は成長に追いつけなかったのだ相当破けてしまったので修復魔法で修復する(胸は少し緩やかにする。)
修復後、着てみたが胸が自由運動するのでまずい。
ここまで大きいと、揺れも大きく擦れると擦り傷になりそうだった。
前の世界でいうところのブラが必要なのだろうこの世界にあるのだろうか?
それと着るものと言えば、魔法ではなく剣で戦うのであれば、戦うときにこの侍女服ではダメだ。
戦闘服も含め要検討である。
ところで、落ち着いて分析しているように思えるだろうが、一番驚いたのは、動けるようになって食事の準備を始めると、ベッドに見知らぬ女子が寝ていた。
「誰……」思い当るのはあの時荷車の中から出てきた女子だ。
しかし見知らぬ女子は意識がなく非常に危険なようだ。
外見からも右腕と両足が太ももから欠損しており重傷だ。
少し診察してみると体中傷だらけの上に、魔法で内臓を透視すると内臓も相当傷んでいる。
現状は命が危うい状況である、呼吸は不規則で弱く、しかし意識はないにも拘らず、「サ、リ、ア、・・・」と譫言のように1度呟いた。
状況からみて、この人は襲撃者とは違い、被害者ではないだろうか?
私たちを襲撃するために、狙われ傷ついたのだろうか?
そうだとすれば、この痛々しい姿も私たちの責任だ。
「命が危ない」……
私はあの時、狂戦士状態だった、きっと私だけだったら、この人も殺してしまったに違いない、巻き込まれただけの人を殺してしまう……
許されることではない、だからこそ助けないといけない。
いや、もっと単純だ、お嬢様がこの人を助けたのだ。
それだけの理由でもこの人は助けなければならない。
収納魔法で回復薬を取り出す。
下級、中級、上級、最上級と4種類の回復薬を取り出す。
そうそう、最上級回復薬は見つけたとき、「触るな、お嬢様以外に絶対使うな、使うと罰が当たる」とか注意書きが派手にしてあり、大げさなので、「附子の毒」とか思い、たぶんこの琥珀色は、ブランディーだなとか勝手に思っていた時期もある。
今はマリアス自体が酒など飲んでないことは分かるので、本当に薬だと考えている。
でもなんでそんなに大げさに注意書きが必要なんだろう。
ところで、4種類も出して何をするのかと思うだろうが、回復薬は万能薬ではない。
私も、最初は回復薬は万能薬だと思っていたので、なんにでも効くとか思っていた。
しかし攻撃魔法が役に立たないので相当無茶な訓練をした結果、相当大きな負傷とかもした。
その度いろいろ試した(試さざるを得なかった)結果、回復薬は万能ではないと分かったし、治療に必要なイメージが重要で、回復魔法と回復薬を併用することが重要なのだと悟った。
回復薬は、たぶん聖女の能力の一部が薬になっているのだろう、だから上位回復薬ほど効く範囲が大きい、でも等級に関係なく症状に応じた使い方をする必要があると考えている。
まずは、傷んでいる内臓を治していく、これは最初通常の回復魔法で治す。
内臓を魔法で覗きながら、別々の傷口が勝手にくっついていないとか内臓に穴が開いてないか?血の塊が出来ていないかとか確認しながら状態を回復させ、必要な等級の回復薬を投与する。
回復薬は、その人の生命力や再生能力を高めてくれるようで治りや回復も早くなるのである。
最後に体の見える部分の数口も塞いでいく、なお欠損部分は回復はできない。
脳に損傷がなかったのは幸いだった、この部分だけは記憶や知識が詰まっているので、治すことは不可能である。
呼吸が正常になり、心臓の鼓動も強くなってきた、足りない血液は増やした、必要そうな栄養素(私の知っているものだけなので不足するものはあるだろうが……)も血管に点滴もどきな魔法で流し込んでおいた。
まだ食事は無理だ、内臓の内壁が傷まみれだから、後で回復薬を飲ませて内部から治さなければならない。
ここまでで、安静にして、お嬢様にところに戻る。
少しして、意識が少し戻ったようだった小さな声で、「サリア」と呟くと「うわぁ~っ」と泣き出したようだ。
その後、「なぜ生きている、なぜ死なせてくれない、こんな私は生きる価値などない・・・・」と叫び始めたので心配になって急いで傍に行く。
「意識が戻ったのですね」と尋ねると、「お前は誰だ!!」と食って掛かってきた。
「私はユニー、あなたはお嬢様を襲ってきた一味でしたが、襲われたお嬢様があなたを救いました」
「私が襲った一味だと……、なぜ助けるのだ、おかしいじゃないか?」
「理由は、お嬢様がお助けになりました、それで充分です。よって私もあなたの命を助けるために頑張りました」
「意味が分からない、馬鹿なのか、お前たちは……」
「馬鹿かもしれませんね、それとお腹の中を調整するのに、回復薬を持ってきましたので飲んでください、これを飲めば、お腹の中は一気に治るので、ご飯も食べらるようになりますよ。」
「そんなものは要らぬし飲まぬ、もういいのだ、このまま死なせてくれ……」
「この聖痕のために、多くの近衛たちが犠牲になった、その上、私は利用されて何の関係もない、お前たちを襲うなど何という恥さらしだ。すべては私の責任だ……」
「もう生きていても価値のない人間だ、あのまま死なせてくれればよかったのだ。」
「今からでも遅くない、犠牲になった者たちに謝りに行こう……」
この後、「もういい」「飲んで」と押し問答が続いた。
最終的に頭にきた私は回復薬を口に含み、彼女の鼻をつまんで口移しで強制的に飲ませた。
これは中身が男と分かると犯罪だなと思いながらも、勢いに任せて言葉がでてくる。
「あなたは生きています、でも犠牲になった方たちはもう何も出来ません。」
「責任ですか、あなたにしか出来ないこと、そう、犠牲になった方のため、そして残された方のために出来ることがあるはずです。」
「だから、生きる『責任』があると思います、生きることを怖がらないでください。」
その後、なぜか彼女は静かになった、一人にするのは心配だったが、お嬢様の用事もあり部屋を出て行った。
ひとり残されたシェリル姫は……
「どうするのだ、回復薬など飲ませるから、お腹がすいてきたではないか……」
「ブミャ肉か……、おいしかったよな、サリア……」
と呟いて、涙が頬を伝う……