出会いの森編 クー
最初は精霊人形ですが、クー創造の時、
そして、ここまで頑張ってきた「侍女ユニー(少女)」は
メタモルフォーゼの時を迎えます。
そこは、怪しい者たちが隠れ家にしている洞穴の中。
「なかなか上手くいかないようだな、さすがのレーゲルも手古摺っているな。」
「聖女様はちゃんと聖気光を操れてないのよ、ただ集めて放出することしかできないのよね、神様から貰った力をどう思っているんだろうね、驚いたわよ。そんなことより本気で危なかったザビルには言われたくないわね。」
「『覚醒の時』が迫っているとか宣っていたご本人がこのありさまとは。。。たぶん『聖女』とは公言してなかったから、ろくに能力の習得はしなかったんだろう。」
「しかし『癒し』の聖痕ではなく『兵武創』の聖痕とは珍しいしな。そんな聖痕が現れるなんて、やはり『覚醒の時』が迫っている証なのだろう。」
「あれっ、ところで、その聖女様はどこにいるんだ?」
「そこよ、時間が経って傷口が腐ってきたから両足は切り落としちゃった。そうしたら動かすのが不便になったから、荷車に立てた木に体を縛り付けて、連続放出できる術式を描いた布を巻き付けた左手を前に差し出させてあるのよ。言うなれば生きた聖気光砲塔というところね。これなら動かすのも、命令も簡単にできるわ、だって術式が術を制御してくれるのよね。」
ザビルがあきれて、「まるで道具だな、ちゃんと食事くらいは与えてあるんだろうな……」と質問する。
レーゲルはそれを聞いて「今回の襲撃が終わったら用なしだけど、今死んだら元も子もないから、餌くらいやっているわ」と答えるのだった、「ひどい話」であるとザビルですら思うのであった。
襲撃者の生き残りであり、西エリア師団、司令であるラグレンが入ってきて、話を始める。
「今、神剣を持っている連中の報告があった。」
「報告からすればマリアスとかいう侍女は、先のマクエスの功績らしいが、始末が出来たらしい。」
「ただし、もう新しい少女が世話係に雇われているらしいが、これは無視できるようだ」
「よって『神おろし』さえ押さえれば我々の、使命も終わり無事帰れるだろう。」
レーゲルが言葉をはさむ。
「そのことですが、『神おろし』への対策に『生きた聖気光砲塔』を準備できましたので、いつでもご命令を!!」と怪しい笑顔で報告する。
「準備ができたのか!!」と大きな声で歓喜する。
「マクエスは「神おろし」を軽く見すぎた結果、先の襲撃で総攻撃と称して、西エリア師団の60名を送り込んだにもかかわらず、マクエスはおろか誰も帰って来なかった、結局出撃しなかった、ここにいる6名のみが残ることになったのだ。」
「すべて『神おろし』にしてやられたということだが、今回は対策が準備できたのでだ我々の勝利は確定した。アルメシア指令の設定された期限に間に合わせるため、明日にでも最終襲撃に掛り、凱旋と行こうではないか。」
ラグレスは「襲撃準備を整えておけ、勝利はわれらに!!」と全員に声をかけた。
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昨日の錯乱の一件から、なかなか立ち直れない。
カウンセラーとまで言わないが、叱ってくれる人や、褒めてくれる人がいないということは、こういう時に辛いものだ、言い訳も言うことがでない。
マリアスが居れば叱ってくれるのだろうが、それは望み薄である。
マリアス、本当はいっぱい教えてほしいことがある。
いっぱい叱って欲しいことがある。
いっぱい褒めて欲しいことがある。
本当はマリアスは私の心の寄りどころなのだ、いつまでも消えないでほしい。
いつものように、お嬢様の朝食の準備をしているが、今日は狩りに行くことにした。
実は収納にはまだストックがあるのだが、狩りに行く理由は簡単だ、無くなってから狩りに行って「何も取れませんでした」では飢え死にすることになる。
それと夢で見たマリアスは攻撃魔法のみでなくトラップ魔法や捕獲魔法を使って敵を撃退していた、今は少しでも攻撃力があるほうが良い、一度でも使っていれば使うときの自信になると思った。
やってみると、攻撃魔法はできなくても、捕獲魔法をはじめトラップ(罠)魔法は十分に使えた。
最初に森の中で罠を仕掛けその後、捕獲魔法でも狩りや採取をしたが大量であった。
ヤギのような動物、飛ぶ鳥、飛べない鳥、トカゲ、食べられそうな野菜、薬にできそうば草花とか根っこなんかが収穫できた。
一般的な動物の生態や料理法等はメモリから記憶に入った情報にあるので、どう調理するかや仕留め方、血抜き等の保管庫に入れる前の処置方法まで分かる。
今回の量は一度に処置できないので、数匹はテント傍の広場で飼うことにした。
飼うというのは非常に危険だが、大量だったことが嬉しかったのと、すぐには襲撃がないと思ったのだ。
ヤギに似た動物からは乳を搾れたし、飛べない鳥の巣には卵があった、この鳥は朝に卵を産むようだ、まるでニワトリだな。。
あとは小麦粉であるが、これは薬を作る時に使われる粘りを出す目的で使われる穀物の粉(つまり増粘剤)が使えそうだ。
バターは乳から作り、砂糖は見かけないので代わりにハチミツならぬ「アリ蜜」を使う、アリが集めた蜜であり、ハチミツに匹敵するだろう。。
そんなこんなで、こちらの世界にないもの=ホットケーキもどきを作る。
お嬢様とお茶の時間におやつとして食べた(何というか片付けも簡単なので、本当はいかないのだろうが、食事はお嬢様と一緒である)
「これはなんというおやつ?」と聞かれたので「ホットケーキもどきです」と答えた、お嬢様は「『もどき』はおいしいね」と嬉しそうに数枚食されたのだった。
先ほど、狩りをしていてふと考え付いたことがある。
いつもお嬢様を連れているわけにはいかないだろう、特に狩りなど危ない動物が出る場所には連れていけないし、一人でお留守番というのも、その間に襲われる危険性がある。
最初は前の世界であった、子供用の防犯ブザー的なものを考えたのだが、聞こえる距離しか離れられないのでは危険な狩り現場だと意味がない。
よって離れていても、すぐに駆け付けられて、状況が分かるものということで考えていた。
その夜、思いついたのが、新しい道具(仲間かな?)であり、夜の自由時間に作成し始めた。
(時間は決めて作ります、ちゃんと寝ますのでご心配なさらないようマリアス様……)
よくラノベの異世界もので読んだ、「時空魔法」や「瞬間移動の魔法」は私にはできそうで出来ない。
そこで、4次元空間を利用している収納魔法を少し工夫すればできそうな気がしたので検討。
しかし、異世界ものでお馴染みの一度行った場所であれば移動できるという設定であるが、収納魔法では難しかった、出口にマーキングしたが入り口側から出口を魔法で開くことができず、結局誰かに開いてもらわなければならない。
考えてみれば用途的に考えて、お嬢様が迷ってしまったときなど、一度行った場所でないこともあるから、どんな時にでも、すぐに駆け付ける方法を準備しておかなければならない。
いろいろ困ったあげく思いついたのが収納魔法の出口側のゲートを開けるてくれる(鳥型)精霊人形である、名前は「クー」と名付けた。
ついでにマリアスの「チューターシステム」と同じく簡易な会話ボット機能と、周りの状況を把握したりするためにカメラ機能と、私の指輪で連絡したりできる機能を付けた。
会話に関しては簡易な会話ボット機能と精霊イベントにより天候や気温のリアルタイム情報を得られるようにした、たぶん見た目はこの「クー」が考えておしゃべりをしているように見えるだろう。
ちなみに指輪から会話する時は、ビデオトランシーバとして動作し、動画は、簡易のWebカメラ並みの品質だが現場の状況が映像で見えればいろいろ都合がよい。
鳥型にしたのは、お嬢様の肩に止まったり、ポケット中に入れたり、飛んだりすることが可能で、ゲートの位置とか制御するとか、いろいろ都合がよいかと考えた結果である。
何時ものように魔石に魔力を蓄積して、クーが動き始める。
「おはようございます、ユニー」
さすが会話ボットだ、「まだ、おはようではないし。。。」
会話テスト……「OKスマホ、今日の天気を教えて・・・、あっ、間違えた」
「面白い冗談ですね、私はクーですよ。ユニー様、お気を付けあそばせ。」
なんか精霊イベントで処理されたようだが、もしかすると、「ふざけたやつ」が出来上がったような気がするのだった。
精霊力はまだよく理解できていない。
微調整は明日にして、少し寝よう。。「お休みクー」
「ユニー、明日また会いたいですね。」とクーが答える。
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恐れていながら、なかなか来ないので忘れかけていた。
しかし、結局その時はその日の朝にやってきた。
朝ご飯を作りながら、クーをお嬢様に紹介する。
クーは、精霊力を使って飛べるので、お嬢様の周りを飛んだりするが、呼べば帰ってくる。
お嬢様も気に入ったようであり、「クー、おはよう・・・、クー、こっちだよ・・・」といろいろ声をかけて遊んでいた。
作った私も驚くのだが、時間が経つにつれクーの語彙が増えて行っているような気がする?
暢気な時はここまでだった。
突然、大きな爆発音がする、驚いてそちらを見ると5名の男女がこちらに向かってきていた。
その中の一人が、「突然大きな音を立ててごめんね『怖いだろ』そう怖い人たちが来たんだよ、そちらのお嬢様を置いて、お姉ちゃんは逃げていいよ」と私のほうを向いて言う。
「お嬢様逃げますよ」と言ってお嬢様の手を取り逃げる、クーは空に舞い上がりどこかに消える。
『襲撃が来た』、最早出来ることをするしかない、お嬢様を全力で守るのだ。
5人の大人が向かってくるのだ、すぐに追いつかれそうになるので、攻撃魔法を打つ。
「なんだこりゃ、こそばいね……」というと私たちの近くに爆発が起こる。
「どうですか?攻撃っていうのはこんな風にやらないと威嚇にもならないよ、お姉ちゃん……」
「お嬢様、あちらに逃げてください。」お嬢様を先に逃がし、攻撃者と対峙する。
出来るだけの攻撃魔法を連続で駆使するが、ほとんど相手に影響を与えない。
敵は、私を無視しお嬢様の方向に向かう。
結局すぐに、私は魔力が底を付き、少しすると、攻撃魔法は全く打てなくなった。
魔力不足になると動きすら怪しくなるが、お嬢様の逃げた方向へ進む。
「なぜなんだろう……、だめだ、……」と呟きながら、それでもお嬢様のところへ急ぐ。
その時、あることを思い出した、「そうか、日常使う魔法でも攻撃になる。」
そして「焼肉!!」と言って敵に目前に調理魔法で火を傍に出した。
「うわっ、熱っつ。。。」と敵はひるんだ。
大丈夫だ、日常魔法なら、魔力は殆ど使わないからまだ出せる。
次に「カップラーメン食べたい!!」と叫ぶ!!
敵の上からラーメンを作るのに適した90℃以上のお湯が降り注ぐ。
「子供だと思って、見逃してやろうと思ったが、いい加減にしろよ。。」と敵の一人がこちらに向かってきた。
再度「焼肉!!」と叫んだが防御魔法を展開されたようで全く効果がなかった。
その間にもお嬢様を追っている、残りの連中はお嬢様に追いついてしまい、お嬢様は捕まえられたようだ。
「悪いね、少し痛い目を見たほうが良さそうだな!!」、と言いながら男は剣を振り下ろしてきた。
<<絶体絶命>>
そう思ったその時だ、私の体が勝手に左を前に向けるように少し捻ろうとする。
男の剣は「アクリス」にあたり、私は弾き飛ばされた。
目の前には剣で切られたアクリスが落ちていた…というか切れているわけではなく、
十字形のアクリスは鞘(?)から抜け、ペーパーナイフ状態で転がっていた。
なんだろう体が勝手にアクリスを手に取る。
その時、……アクリスから何かが、私の体に入って来るような気がする。
私は「お嬢様を助けたい」その気持ち以外はもう何も考えてはいなかった。
ふらつく足でアクリスをかざしながら立ち上がり、男の前に対峙する。
男は、「冗談だろう、これは『古代宝剣』だ、当たれば腕くらいは無くなっているだろ?」と呟きながら、私を見ていたが「おやおや、そんな小さなプチナイフでは倒せないよ」と余裕を見せていた。
男はアクリスもろとも私の腕を切り取ろうと再度剣を振る。
「カキーン」……、大きな音と共に折れたのは男の「古代宝剣」だった。
驚く男であるが、私の体は何者かに操られるように、この隙を見逃すことなく男の急所に向けてアクリスを突き立てた。
防御魔法も強化魔法も効かないのか、あっさりと急所にナイフが刺さり男は倒れた。
返り血を浴びながら、私は「えっ、なにが起こっているの……」
しかし、そんなことはどうでも良いように、体は勝手にお嬢様に向けて走り出す。
「ジョルカ、どうした」と仲間の男が叫び、こちらに向かって走ってくる。
私は走りながら「魔石から魔力を回収すれば、体の魔力を回復できるはず」そう考えポケットの中を探していた。
やがて探し出した魔石から魔力を回収すると、体に魔力が戻ってきた。
安心したその瞬間、回復したはずの全ての魔力は、アクリスに一気に吸い込まれるように流れていった。
そして私の全身を痛みが走りを「うわあぁぁぁぁぁっ~」と叫び私はその場にうずくまる。
アクリスに流れた魔力以上のなにかが、アクリスから私に流れて込んで来るのだった。