表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無明を断つ  作者: MIROKU
4/31

第四回

「なんだ!」

 七郎は思わず叫んだ。倒れたまま栄次郎は体を震わせていた。

「お、おごご」

 栄次郎は微かにうめいている。彼の側に屈んでいた女は立ち上がった。

 月明かりに照らされる彼女はきらびやかな着物をまとい、長い黒髪が滑らかな滝のように流れ落ちている。その美しさに七郎は思わず息を呑んだ。

 その間に栄次郎はうめきながら立ち上がった。その体が徐々に溶け崩れていく。人間が溶解していく光景に、般若面の奥で七郎は絶句していた。

 ーーおおお……

 栄次郎だったものは夜空に咆哮した。今や着物も地に落ち、彼は人間ではないものに変わっていた。

 それは粘土で作られた人形のようであった。その肌は溶け出しており、流れ落ちた表面が庭を汚していく。

「あ~……」

 女は残念そうにつぶやいた。

「その魂、選ばれるものではなかった」

 四郎もまた謎の一人言をつぶやいた。が、七郎は彼らにかまっている余裕はない。目の前で人知を越えた現象が起きているのだから。

 栄次郎だったものは七郎を向き、ゆっくりと動き出した。

 腕だった部分が前に差し出されている。それはまるで生き地獄に落ちた栄次郎が、七郎に救いを求めるかのようであった。

「く!」

 叫んで七郎は駆け出した。栄次郎だったもの周囲を、素早く一周する。般若面をつけ、黒装束をまとった七郎は、この時代では失われた存在ーー

 まるで忍者のようであった。それも風魔だ、風の魔物のごとき身のこなしであった。

「むーー」

 この間、四郎は美しい顔を眉一つ動かさず眺めていたが、七郎が左手に細い竹筒を握っていた事に気づいた。その竹筒の小さな穴から、ひそかに火薬がこぼれ落ちている事も。

 七郎は栄次郎だったものに接近したり離れたりしながら、その周囲を駆け回った。そして頃合いと見るや、素早く遠退いた。その素早さに栄次郎だったものは、あっけに取られて動きを止めていた。

 七郎はその場に片膝つき、火打石を取り出して打ち合わせた。

 夜闇に火花が光って数秒のちには、七郎は火のついた導火線を棒手裏剣に巻きつけている。

 そして七郎は柄尻に火を灯した棒手裏剣を、栄次郎だったものの、足元の地面へと投げつけた。

 その辺りに七郎は火薬をまいておいたのだ。

 ゴオ!と瞬時に火薬に火がついた。栄次郎だったものは、たちまち炎に囲まれた。その溶け崩れた体にも火が燃え移る。

 ーーオオオー!

 夜空に栄次郎だったものの悲鳴が響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ