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無明を断つ  作者: MIROKU
12/31

第十二回

 人影は七郎だ。

 彼はこのような状況になればなるほど、生き生きとしてくるようだ。

「な、何者」

 叫ぼうとした浪人の懐に七郎は踏みこんだ。

 同時に肘で浪人のみぞおちをまっすぐに突いている。

 その浪人は声も立てずに横倒しになった。

 らしゃの側にはもう一人の浪人がいたが、七郎の迫力に後退りしていた。

「離せえ!」

 三郎も叫んだ。

 彼はいわゆる火事場の馬鹿力を発揮して、己を羽交い締めにしていた浪人を、力任せに振りほどいた。

 七郎がらしゃを解放していたからであろう、後は三郎は力の限りらしゃを守れば良かったのだ。

 三郎は呆然としている浪人を体当たりで吹っ飛ばし、らしゃの体を抱き寄せた。

「おのれえ!」

 別の浪人が刀を抜いた。竹光かと思えば、なかなか上等の刀である。浪人暮らしの中でも手放さなかったのは当然だろう。

 その浪人は三郎とらしゃへ踏みこんでいった。

「く!」

 七郎は三郎とらしゃをまとめて突き押した。

 浪人が斬りつけた刃は、七郎の右肘のあたりをかすめた。

「うう」

 七郎の顔が青ざめた。刃は僅かながら肉を切り裂いていた。

 鈍い痛みと共に血が滴り落ちる。油断であった。一対一ならともかく、相手は複数。

 ましてや通りすがりの男女を助けるとなれば、十二分な戦略が必要だったはずだ。

 これも日頃の行いが悪いからか、と七郎は唇を噛んだ。

 ーー未熟!

 心中に叫びながら七郎は三郎とらしゃの二人を背にかくまった。

「逃げろ!」

 七郎は二人を気遣うが、三郎もらしゃもこの危機に硬直していた。

 また、助けに入った七郎を見捨てることもできぬらしい。根っからのお人好しのようだ。

 助けに入って良かった、と七郎は思うのだが。

「おのれ、おのれえ!」

 浪人は刀を構えて七郎を見据えた。怒りの形相が月明かりに照らされた。

「あの世への道連れにしてやる!」

 浪人の狂気じみた殺気が凄まじい。

 それを受けて七郎は苦笑した。彼の闘志は失われてはいない。

「なかなかの剣気だ…… 何ができるか見せてみろ!」

 七郎に怯んだ様子はない。

 ただ、この危機に無心に挑むようだ。

 斬られた右肘のあたりがじんじんと痛んだ。

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