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昔語りのエコー  作者: ラウンド
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昔語りのエコー・Ⅰ 外縁部


今は遠いある日、人間の社会は一度壊滅した。ある科学者が完成した夢の発明の副産物によって。

 その構造に致命的な損害を負った人間の社会は、しかし、完全に滅びたわけではなかった。残存した存在たちによって一部が復元。辛うじてその形を維持することが出来たのだった。


 そのような半ば滅びた世界の中にある、森林と建築物が融合してしまった廃墟を、一台の装甲輸送車が走っていた。運転席と思われる部分には、冷たい印象を受ける青い瞳や長い銀髪が特徴的な少女が乗っており、何やら後ろに向けて話をしていた。

「D-octor…。ドクター・リード。レーダー上に目的地が見えてきました。情念エコー反応も確認できます」

「それは重畳。今回も恙無く」

「外縁部に堆積している情念エコーは回収しますか?」

「そうだね。回収を頼む」

「了解しました。ボクス、運転を代わってください」

「よかろう。吾輩に任せるがよい」

 話を終えると、少女は運転席から装甲輸送車の後方に姿を消し、代わりにマニピュレータが付属した直方体型四脚機械が姿を現した。機械は運転席に収まると、マニピュレータを器用に動かしてハンドル、変速機、その他装置を操作。淡く輝く物質が堆積している場所の近くに、装甲輸送車を停止させた。

 すると、後方の輸送物格納庫の側面扉が縦二段で開き、中から、先ほどの少女が首までを覆うボディスーツと防御用プロテクター、そしてポシェットなどの収納を身に着けた状態で姿を現した。


『V-enice、どうだ?通信は聞こえているか?』

「こちらヴェニス。はい、ドクター・リード。鮮明に。周囲の情念エコーに通信遮断特性はない模様です」

『それは重畳。情念エコーの回収を開始しておくれ』

「了解。ヴェニス・サーチモード、起動。次いでキャプチャーモード…」

 ヴェニスは、通信機器から聞こえる女声に従い、背に付けた収納から円筒形の装置を取り出し、光っている堆積物の目の前に設置する。そして付属のキーボード型インターフェースを操作し、装置を起動させた。すると、円筒形の頂点が展開してパラボラアンテナとなり、光る堆積物を吸引するように回収を始めた。堆積物は粒子状になり、円筒形装置へと吸い込まれていく。

 情念エコーとは、粒子状の形態をとる堆積性のエネルギーで、加工することで、機械の動力源として半永久的に利用することが出来る。しかも現代の機械の大半がこれを動力源としているために、商売材料としても非常に優秀であった。

 ヴェニスたち二人もまた、この情念エコーを探索、収集するために旅をしている。

 なお情念エコーという呼び名は、それらが堆積している場所が、たいてい旧世界で人々が多く集まっていたとされている場所だったことから付けられ、その場に残された感情が実体化して生まれたものとされている。

ただ、なぜそれが半永久的な動力源になるかは知られていない。


「回収完了まで、三…二…一…完了。情念エコーとったどー」

『よし。こちらでも回収を確認。ところで、その掛け声は何だい?』

浮遊都市アルカディアの記録館にある、旧世界アーカイブで見つけた映像資料で、印象に残ったもので」

『そうか、その興味の芽生えは実に重畳。しかし、あれはもっと覇気があったような気がするけどもね』

「そうですか。しかし私はこうなので…」

『ああ、うん。まあ、それもまた重畳よ。さ、いったん戻っておくれ。新しい回収装置を用意する』

「了解しました」

 回収を終えたヴェニスは円筒形装置を背の収納に戻し、再び開いた二段式側面扉を潜り、装甲輸送車へと姿を消す。


『ボクスは目的地進入後、一時的居留地の確定後に合流させる。敵性体ノイズが出現したときの交戦は自由』

「了解しました」

数分後。ヴェニスは走る装甲輸送車の隣を並走していた。

「目的地“白洲邸”を目視で確認。先行して索敵してきますが、宜しいですか?」

『許可する。交戦の判断は先ほどの通りに』

「はい。ヴェニス・ハイスピードモード。響鳴機関ハーモナイザー出力上昇…!」

 ヴェニスは内燃機関の出力を一段上げて速度を上昇させる。体勢を低くして一気に加速したヴェニスは、装甲輸送車を抜き去り、一気に目的地である“白洲邸”へと突入した。


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