First of all...
「花總、らしくねえな。突然現れるなんざ。」
花總と呼ばれた男はクスリと上品に笑うと、由貴斗の隣…綾乃が座っていた場所にゆっくりと腰を下ろした。
「いやはや、帰省してくると言うのに全く連絡をくれない貴方にそう言われるのは心外ですよ。」
花總は、言葉とは裏腹にどこか楽しんでるような声色をしている。
「悪かったよ。花總にはあんだけ世話になったのにな…どうもここに帰るときは親以外に連絡をする気が起きないんだよ。」
由貴斗は申し訳なさそうに謝る。
「冗談ですよ。まぁ、それは仕方がない事だと思います。」
花總は若干の焦りを言葉尻に滲ませた。
「気にすんなよ。」
由貴斗はそう言って、花總の方を向いた。
「しかし、よくオレがここにいるって分かったな?」
花總は、ポケットから煙草を取り出しながら答える
「貴方のご母堂に、どこに行けば貴方に会えるかと尋ねてみたんですよ。帰省してくる日は、いつもここで数時間過ごしているって聞いたものでね。」
マッチの灯りが、独特の匂いとともに由貴斗の鼻をつく。
「そうか…つーかおまえ煙草なんか吸うのか?」
まあね、と花總は燃え尽きたマッチを投げ捨てて、煙を寒空に放つ。
「僕にも色々あるんですよ。まあ、医者の不養生とでも思ってください。」
「そうか…」
由貴斗と花總は高校の同級生だった。山の手にある校舎で、由貴斗と綾乃と花總、そしてここにはいないがもう一人、忍足の四人で写真部で活動をしていた記憶が、由貴斗の中でふわりと思い出される。
由貴斗が進学を期にこの街を出た一方で、花總は地元の大学に進み卒業した後は医師に成っているということは由貴斗も知っていた。
「なんか、同窓会あるらしいな?」
由貴斗はポケットから、既に半分切り取られたくしゃくしゃの往復ハガキを取り出した。
「ええ、高校の同窓会ですね…貴方が参加されるのですか?忍足さんが非常に気にしてましたよ。」
「アイツらしい。みんな揃う機会なんて滅多にないから!とか言ってんだろ?」
由貴斗が笑いながら答えると、花總は煙を吸い込み、ゆっくりと吐き出した後にこう言った。
「僕としては、是非貴方に参加して欲しかったのですが…その様子だと参加はされない用ですね。」
やれやれと言わんばかりに、大袈裟に肩をすくめる花總が、由貴斗にはどこか癪に思えた。
「まぁ、最後まで聞けって。」
二次会、あるんだろ?と由貴斗はポケットから取り出した携帯電話の画面を花總に見せた。
「ああ、既に彼女から連絡があったのですか。」
由貴斗の携帯電話には、忍足からのメッセージが表示されていた。写真部だけで二次会がある旨が、詳細とともに液晶に映し出されている。
「悪いな。邪魔者になっちまうけど。」
由貴斗のその言葉を聞き、花總は二本目のタバコを取り出しつつ返事をした。
「いやいや、僕と彼女はそんな関係ではないですよ。」
冗談はよしてくれと言わんばかりに笑いながらマッチを擦る。
「それに…」
紫煙が再び街灯によって照らされる中、彼は言葉を続けた。
「職場は同じですからね…毎日顔を会わせますしね」
どこか寂しそうな花總の言葉に、由貴斗は無言で頷く。
海風はどんどんと冷え込み、2人を突き刺すように吹き付けた。
「車で送りますよ。さすがに冷え込んできましたからね」
花總はそう言うと、最後の一口を吸い込み、タバコを携帯灰皿に投げ入れた。




