start of final tale
どこか幻想的な、海の街で広がる物語。
クリスマス、お正月と恋人がいない貴方に送る切ないラブストーリー…
雨が上がった。海岸線に沿って煉瓦が敷かれた遊歩道には、所々と水たまりができており雲の隙間から差し込む夕焼けによって、どこか寂しい光を反射させている。
やがて、海が赤く染まったと思うと、すぐに白い霧が浮かびその幻想的な風景を煙に巻いた。
今日も日が落ち、一日が終わる。どこかの工場から、夕方五時半を知らせるサイレンが街に響き渡った。
柊由貴徒は、日が落ちた海に響くサイレンが止むのを確認すると、一人で歩き出した。
もうすぐ木の葉も色とりどりの鮮やかさを失い無機質な枯れ葉になろうとする季節だった。由貴斗は街灯の灯りが照らす煉瓦道を、海風に晒されながら歩き続けた。
太陽が水平線の向こうへ消えてから既に30分はたっただろうか。途中、街灯の横に佇む木製の古ぼけたベンチにさしかかった。白いコートにベレー帽を浅くかぶった女性が、ボロボロの文庫本片手に座っているのを見ると、由貴斗は何も言わず隣に座った。
「久しぶりだね」
女性は、パタンと本を閉じると、由貴斗に声をかけた。
「ああ、久しぶり。」
由貴斗は穏やかな笑顔で返事をする。
「寒かったんじゃない?そんな薄手のコートで。」
女性は由貴斗の服装を一瞥すると、彼を心配するようにそう言った。
「最近は進化してるんだよ。これだけ薄くても、風を全く通さない。流石にセーターは着てるけどね。」
「ふーん…」
まじまじと、彼女は由貴斗のコートを見つめる。量販店で売られている灰色のロングコートは、海風によって裾がなびいていた。
「綾乃、オレの心配よりも自分の心配しろよ。こんな暗い中薄暗い灯りで本なんて読むんじゃない」
「そこ心配するの?寒さより?」
綾乃はお腹を抱えるように、笑う。
「由貴斗らしいね」
瞬間、どこか寂しげな笑顔を浮かべ綾乃はそう言った
「オレなりに気を使ったんだよ」
ぶっきらぼうに由貴斗はそう言うと、綾乃はベンチから腰をあげた。
腰まで伸びた長い髪が由貴斗を包むかのようにふわりと舞う。
「元気そうで良かったよ。」
綾乃はにっこりと笑う。
「ん、安心してくれ。オレは元気だ」
由貴斗はそう返すと、綾乃の背中を見つめる。
綾乃はくるりと由貴斗の方を向き、「待ってるからね」と一言つぶやいた。由貴斗は無言で頷くと、そのまま無言で去っていく白い彼女の背中を半ば夢心地で見つめていた。
遠くで走る電車の音が風に乗って聞こえてくる。綾乃が姿を消してから幾らかの時間は経ったが、由貴斗はなんとなく、ベンチを離れる気にはなれなかった。海風と波の音が奏でる冬の音をぼんやりと聞いている彼の耳に背後から突然男の声が舞い込んできた。
「こんばんは。」
由貴斗は声のする方を一瞥すると、
「おう」と一言返す。
「ご無沙汰しております。」
端正な顔立ちで、そのまま舞台俳優にでもなれそうな男は一言挨拶を述べると、巻いているマフラーをゆっくりと首からほどいた。