幸せの裏で
「攫われる日を待ってます」の裏側、香奈サイドの物語となります。
活動報告に上げた短編の再掲ですが、実はこちらの方が「攫われる日を待ってます」より先に発表されています。
「あ…っ!」
ガシャン
この前買ってきたガーベラの鉢植えが落ちて割れた。
花屋で見付けて、なぜだか心惹かれて買ってしまったピンクの鉢植え。
なんとなくあたしの想いの象徴みたいな気がして、気に入ってたのに。
今朝の会話が頭をよぎる。
「今時珍しい、しっかりしたお嬢さんよね。挨拶も気遣いもできるし。
親御さんがきちんとなさってるのね。
あんな子が亮介のお嫁さんに来てくれるなら、大歓迎だわ」
朝食の席で、母さんが父さんに話してた。
この春、兄貴と真理先輩は大学を卒業してそれぞれ就職したけど、まだ付き合いは続いている。
先輩は、ミスコンで2年連続優勝しちゃって、それなりにあちこちからアプローチがあったにもかかわらず兄貴一筋だった。
兄貴も、何人かから告られたらしいけど、「ごめん、俺、彼女いるんで」と一言で切り捨ててた。
気に入らないが、2人はラブラブカップルだ。
既にお互いの家族にも紹介済みで、うちの親は言わずもがな、先輩の親からも好印象を持たれてるらしい。
甚だ面白くないことに、と言うべきか、ありがたいことに、と言うべきか、2人はバカップルにはならず、周囲からは、礼儀と節度を持った良識ある理想的な恋人同士と評価されている。
あたしとしても、兄貴と結婚するのは先輩であってほしい。
いろんな意味で。
「あたしがキューピッドだからね」
と鼻高々に言うと、母さんは
「いい仕事したわ、香奈。
次は香奈の番ね。あんた、実は隠れてこっそり付き合ってる人がいるとかないの?」
なんて聞いてきた。やぶ蛇だ。
「いいな、と思う人がいないから。
友達に言わせると、あたしは理想が高いらしいよ」
言ってることは嘘じゃない。
「ね、あそこ、結構いい男じゃない?」なんて友達に言われても、「そう? 好みじゃないな」の一言で終わり。
そんなあたしを見て、友達連中は「香奈は理想が高すぎだよね。どっかで妥協しないと、彼氏いない歴=年齢になっちゃうよ」と笑ってる。
あたしも否定はしない。理想が高いのは本当だから。彼氏いない歴=年齢も構わない。
ただ、理想の相手には、どう頑張っても手が届かない、とわかっていても諦められないだけだ。
あたしは、絶対に諦めない。諦められるわけがない。
あたしは兄貴への想いを抱いて生きてきたんだから。
あたしの幸せは、兄貴抜きには得られない。
一瞬でいい、あたしの思いが成就するなら、何があろうとその後の人生を笑って生き抜いてみせる。