昨日の昼飯の話
「世界が滅んだ日、お前何してた?」
俺は毎回違った回答をする。
カフェでコーヒー飲んでたとか、家で寝てたとか、街の不良と喧嘩してたとか、そんなこと。
適当な話題を作るため、気分によって変えていく。
理由なんて無い。強いていえば思い出したくない事がそこにあるから。
世界は滅亡した。
宇宙からやって来た者達によって。人類は1週間耐えて見せた。
人をある程度殺し尽くした奴らは、舟を地上に下ろし生活圏を築こうとしているらしい。
風見雄梧はそんな巨大な宇宙船を眺めながら飯を食っていた。
『サンマ缶うめぇ・・・・・・』
戦いが“奴ら”の勝利に終わって半年以上経つ。
もうしばらく生きた人間には会っていない。
すれ違うも死体、一緒に昼飯を食うのも死体、酒を飲みながら愚痴をこぼすのも死体相手ときた。
俺は明日の食い扶持のため、死体を漁り、ゴミを漁り、今日も缶詰にありついた。
どぉおおおおおおん!!!
静寂を破る。
しばらく見なくなったと思った、宇宙人の人型ロボット。
動きは単調で、薙ぐ、斬る、潰す。その三つ。
「チッ・・・・・・やかましィ。」
缶の残り汁を掻き込んで、地上を見下ろした。
『追われてるのはガキが3人、敵は一体のみ・・・・・・いけるか。』
俺は急いでマンションの屋上の反対側に回り込む。
建物は7階建て、自殺するには手頃な高さだなと思い、クスリと笑った。
「どうか誰も、死にませんようにッ!!」
そう言って思いっきり、敵の殺人ロボット目掛けて飛び降りた。
即座に銃を抜き取り、コックピットのガラスを狙って撃ち出す。
弾は全部命中したが、拳銃ごときで簡単に割るようには出来てない。
でもヒビが入れば十分だった。
突然の攻撃に驚いたのか、機体はバランスを崩し、俺の着地の勢いよって仰向けに倒れ込んだ。
「痛い・・・・・・腰打った。」
「すっげーな兄ちゃん!一瞬で倒しちまった!」
「かっくいー!!」
「はいはい、わかったからそこどいて。」
子供が群がってきた。
俺は、さっきの勢いで瓦礫と死体の上に転げ落ちたようだ。
落ちてた鉄パイプでコックピットをこじ開けて、気さくに挨拶をする。
「よう、生きてるか?兄弟。」
「うう・・・・・・?」
何を言っているんだこいつは、と言った顔をされた。
強引に男を引きずり出して、怪我がないか確認する。
所見では軽い打撲のみ。
「やったー!宇宙人をとっ捕まえたぞ!」
「こいつも拷問して敵の情報を引き出そうぜ!」
子供は嫌いだ。うるさいし。
しかもおかげで、今助け出したアンちゃんが完全にビビってしまっている。
「そんなことしねーよバカチン!」
「はぁ!?なんでだよ、そいつ悪もんだろ!」
「戦争はもう終わった。地球はとっくに負けてんの。」
「まけてねーよ!俺らが生き残ってんだから!」
「戦争の何たるかも知らねーガキが。話にならねー」
ガキは無視して、俺は今しがた殺し合いをした相手の方を向いて、まるで入学したての学生のように話しかける。
「俺は風見雄梧だ。あんたは?」
「・・・・・・」
「そりゃそうか・・・・・・ちょいと失礼。」
そう言ってパイロットスーツのジッパーを下ろし、首から下げられた認識タグに目を通した。
「ヒューイって言うのか。よろしくな!」
彼はその発音で自分の名が呼ばれた事がわかったのか、驚いたような表情をした。
「すげー!それ宇宙人語だろ?」
「も、もしかして・・・・・・兄ちゃんも宇宙人?」
「ンなわけあるか。見てわかんだろ。ちょっと前に知り合いに教わったの。」
俺は習いたての彼らの言語を使って、軽く談笑をした。
彼女はいるのかとか、昨日の夕飯の話とか。
まだ警戒は抜けきらないなりにコミュニケーションを図った。
「そういやガキども、お前らどこから来たんだ?この辺で人なんて見ないと思っていたが。」
「いいよ、ついて来ないよ。」
「おい何考えてんだよ!」
「捕虜にするに決まってんだろ!兄ちゃんは宇宙人を騙し討ちにするつもりなんだ!」
「ええ・・・・・・」
俺とヒューイは、ガキどもに連れられて地下へと向かった。
彼らの母船から近く、下手に街の外に逃げられない子供連れや老人たちは、地下のシェルターで生き延びていたらしい。
子供たちは、そんな大人達のいいつけを破って探検ごっこをしていたようだ。
壁伝いに真っ暗な階段を降りていく。
天井の隙間から入る陽の光と、明るいとは言い難い電球。
発電機の音の響く広い空間に出た。
「なるほど、こんだけ深けりゃあそう簡単には見つからないな。」
「こっちだよ!」
子供たちが駆け出す。地下のさらに奥。
心做しか、血の匂いが濃くなってきた。
鉄格子の付いた扉の前に連れてこられた。
中を見た瞬間、ヒューイは胃液を吐き出した。
夥しい死体の山、地球人のじゃあない。
宇宙人だった。
手足を絶たれた者、頭を撃ち抜かれたもの、腹から臓物がこぼれたもの。
目の前には、鎖に吊るされたままでかろうじで息をしている白髪の少女がいた。
体は痣と刺し傷まみれ、片足は本来曲がらない方向に拗じるように曲がっていた
嫌悪感と怒りに任せて叫ぶ。
「なんなんだこれはァアアアアアア!!!!!!」
「ど、どうしたんだよ兄ちゃん」
「キモイのはわかるけど急に叫ぶなよなー」
子供だけでできる事じゃない。きっとここにいる大人も全員、みんな揃ってやったんだ。
銃を抜いて、2発。綺麗に少女の腕を縛る鎖を壊して見せた。
落ちるタイミングでしっかりと抱きとめる。
「お、おい!なにやってんだよ!」
「大尉に怒られちゃうよー!」
「それはこっちのセリフだバカ!正気かお前ら!」
「何言ってんだよ!そのためにヒューイ(コイツ)を連れてきたんだろ?」
怒号が響く。
叫ばずにはいられなかった。
一度敵になってしまえば、ここまで残酷なことでも平気でやってしまうのだ。人間ってやつは。
2人を連れてここから出ようとした。
「ここで何をしている?」
眉間にひんやりとした銃口が当たった。