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邪竜を倒した剣聖ですが目覚めたら魔法使いとかいうモヤシ共がのさばっていました。  作者: 戸津 秋太


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三十話 剣聖の覚醒め

本日、二話同時投稿しております。

前話のお読み忘れのないようご注意ください。


 ――実技施設。


 ユリエルの手によって倒された三人組が地面で横たわっている。

 そこに緩くネクタイを巻き、袖を捲り、ジャケットの前を開けたスーツ姿の女性――イライザが現れた。

 イライザは三人の下に近づきその場にしゃがみ込むと彼らの首元に手を添え、脈を確かめる。


「ふむ、眠らされただけなのか」


 そう呟くと共に立ち上がる。

 そしてその場で振り返り、塔のある方を見据えた。


「……ユリエル、か。強いどころでおさまる力ではないな、あれは」


 彼女はまさしくこの場の戦闘を少し離れたところから見届けていた。

 三人に囲まれ、全方位からの魔法攻撃を浴びながらも物ともせずにその全てを薙ぎ払うユリエルの戦いぶりが今でも瞼を閉じれば鮮明に思い出せる。


「さて、私も向こうに行かなければな。と、その前に仕事も済ませよう」


 イライザは振り向くと、地面に横たわる三人組を見下ろして呟いた。


「《トレース・クイドフレメア》」


 燐光と共に三本の氷槍が現れ、三人の体をそれぞれ貫いた。


 ◆ ◆


「一体、何が起きたのです……!」


 光が鎮まり、マクドールは眩む視界の中目を細めて現状を確認する。

 自分の前に三体の合成獣がいまだ健在なのを認めてひとまず安堵する。


 が、直後その奥の光景に気付き愕然とした。

 塔の袂。そこには、先ほどまでとは比較にならないほどに輝く聖剣バルムンクを手に悠然と佇む銀髪の青年の姿があった。


 その姿に言い知れぬ恐怖を覚えて、マクドールは即座に命じる。


「何をしているのでございやすか! やれ! あの男を!」


 最早狂気的な笑みはそこにはない。

 あるのは未知の光景への焦燥。天才科学者であった彼は全ての現象が自身の理論通りに起こった。ゆえに、例外や想定外といった状況にはてんで耐性がなかったのだ。


 主の命に、再び合成獣が走り出す。

 埋め込んだ魔力回路――もとい、魔法使いの心臓が魔力を口中に集約させ、それは全くのロスなく魔法へと転換される。

 マクドールが誇る合成獣の構造の一つだ。


 放たれたのは二本の炎のブレス。

 うねりを上げ、大気を焼き、そして今まさにユリエルを焼かんとする。


「――やるぞ」


 ユリエルは一言そう呟く。

 直後、ユリエルの姿が消える。

 代わりに二体の合成獣の体から血しぶきが舞い、ズドォンという衝撃と共にその巨躯が崩れ落ちた。


 何が起きたのか、それを理解するよりも先に聖剣を携えたユリエルが視界に現れる。

 聖剣の刀身は血で濡れている。


「まさかッ、この一瞬で二体の合成獣の心臓を破壊したと……!?」


 信じられない。そんなもの、人の域を超えている。

 姿が消えたのは目にも負えない速さで動いていたからか。


 理屈は理解できても、それが実際に起きたとは到底容認できない。

 何より信じがたいのは聖剣を十全に使いこなしているということだ。


 聖剣は選ばれしものにしかその力を託さないとされている。

 そして聖剣バルムンクが選んだ人物は三百年前に死んだ剣聖ただ一人だ。


 ならば、――ならば、この目の前の青年は一体何者なのか。


「さあ、後はそいつだけだな」


 ユリエルはマクドールの前に残った一体の合成獣に聖剣の切っ先を突きつけて告げる。

 紅い瞳は鋭い殺気で彩られ、頬には僅かに返り血が。

 ユリエルの言葉に、それまで呆気に捉えていたマクドールは弾かれたように動き出す。


「ひひっ、あなたが何者であれ小生の計画の邪魔はさせやせん。こうなっては致し方ない、小生もそれなりの覚悟で戦いに臨むとしやしょう!」

「なに?」


 変化はすぐに表れた。

 合成獣が身を屈め、その背にマクドールが上る。


 そして――


「……ッ!?」


 合成獣の背が割れ、マクドールを飲み込んだ。

 直後、合成獣の全身がボコボコと異音を立て、膨れ始める。


 その容貌は一瞬にしてより凶悪なものへと変わった。


「――どういう理屈だよ、それ」


 目の前に現れたのは一回り大きくなり、首を三本生やした正真正銘の化け物。

 その化物の内部から、最早聞きなれた哄笑が放たれる。


「ひはははははは!! どうです! これこそが小生の研究成果! 新たな核を取り込むことで更に力を増し、より凶悪な破壊兵器へと変貌を遂げるのです! さあ、小生の計画を阻むものは塵と化すのでございやす!!」


 背の翼が動き出し、その巨躯が上空に浮かぶ。

 三本の口からは魔力の反応。

 マクドールの言う通り、それは破壊兵器と形容するに相応しい。


 ――だが、ユリエルには何の恐れもない。


「……やれるな」


 久方ぶりに手にする相棒に問いかける。

 バルムンクは「バカにするな」と激しく光を放つ。


 それを見てユリエルは静かに笑みを刻むと、すぐに空を舞うマクドールを睨みつけた。


「例えてめえらが邪竜を復活させたとしても、また俺が倒してやる。俺は、そのために剣をとったんだ!」

「減らず口をぉおお!!」


 ブレスが放たれる。

 三本の炎のブレスは一つに集約し、より強力な破壊力を伴って地上に降り注ぐ。


 それを見て、ユリエルは聖剣を振りかぶった。

 青い宝玉から光が溢れ、刀身を包み込む。


 そして――ユリエルは迫りくる炎のブレスに向けて聖剣を振り下ろした。


「くぉおおおおお!!!!」


 気迫の籠った叫び声と共に体を熱気が包み込む。

 聖剣はブレスをいともたやすくぶった切る。


 両断されたブレスは周囲を焼き尽くす。

 ちらりと、塔の袂を見る。


 カティーナの無事を確認し、ユリエルはグッと膂力を溜め込む。


「魔法を斬るなど、そんな、あり得ない――!」

「どうした、マッドサイエンティスト。さっきまでの笑い声はどうしたよ」


 地を蹴る。


 ひぃっという声と共に迫りくる合成獣の脚を空中で切り落とし、尚も迫る。

 そして、マクドールの頭上に到達し、くるりと反転する。


 聖剣の切っ先の狙いは口の中。すなわち心臓。

 魔法使いを材料に作られたこの忌まわしき怪物は早々に葬る。


 合成獣の肉体の中でマクドールは空を見上げる。

 銀色の髪を靡かせて紅い瞳でこちらを睨み、聖剣を振るうその姿は、まるで――


「まさか、剣せ――」

「でやぁああああ――ッ!」


 マクドールの最期の呟きは、聖剣の輝きにかき消された。

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