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邪竜を倒した剣聖ですが目覚めたら魔法使いとかいうモヤシ共がのさばっていました。  作者: 戸津 秋太


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二十話 放課後の鍛錬②

「っぁ、はぁ……っ、ぁ。――全く、手加減というものを知らないのかね、君は」


 地面に大の字で横たわりながら、イライザは横に立つユリエルを見て毒づいた。


「なんだ、手加減されたかったのか?」

「……ああ、今のはただの意地悪だ。言葉の綾みたいなものだよ。今後も気にせず同じように頼む」

「だったら言うな」


 軽く伸びをして空を見上げる。

 空の朱はすでに薄まり、代わりに青みがかった黒が空を覆いつつある。


 夜の訪れを感じながらユリエルはイライザに手を貸す。


「さて、そろそろ俺の番だ。ご指南いただこう、イライザ先生」

「……なるほど、私が君を師匠と呼んだときに寒気が走ると言っていた理由がわかったよ」


 イライザの言葉に、ユリエルは「だろ?」と不敵に笑い返した。


「――さて、魔法についてだったな。ふむ、君はそもそも魔法の仕組みそのものを全く理解していないらしいな」


 イライザの確認に、ユリエルは頷く。


「ならば、まずは魔法そのものについて説明しなければならない」


 ユリエルの頷きにイライザは淡々といった様子で呟く。


「理屈はひどく簡単なものだが、ここに辿り着くまでに相当な苦労をしたと学園長は言っていたな。そもそもいくら魔法が使えると言っても、我々人族が扱える魔法はエルフが使えるソレと比べると圧倒的に劣るものだ。ごく一部の例外は存在するが」

「劣るか。確かに同じ魔法であってもエルフの上位者が放つ魔法はそもそも次元が違ったからな」

「エルフの上位者?」

「いや、こっちの話だ。続けてくれ」


 ユリエルの呟きにイライザが目ざとく反応する。


 彼が脳裏に思い浮かべたのはかつて、邪竜討伐の戦場で飛び交っていた無数の魔法、その威力。

 現代にもエルフは存在するとはいえ、実際に彼ら彼女らの本気の魔法を目にする機会は今の時代の人間にはあまりないだろう。

 その強大な力を振るう機会が、そもそもこの時代にはない。


 ユリエルの返しに、イライザは「まあいい」と説明を続ける。


「魔法を発動する際、心臓から生成され全身の魔力回路を巡る魔力を一箇所に集め、そしてそれを解き放つことで魔法を行使するわけだが……そういえば君は、もう魔力回路測定を終わらせたのかね」

「ん、ああ。編入する直前にエレナに言われてな。結果は散々なものだったが。……なんだったっけな、抵抗が大きすぎるだったか。そんなことを言われたよ」


 編入当日に学園長室でエレナの口から直接聞いた言葉を朧気ながら思い出して口にする。

 それを聞いたイライザはなるほどと頷いてみせた。


「魔力回路を巡る魔力。それを一箇所に集める際に魔力に対してかかる負荷が魔力抵抗だ。この抵抗が大きいほどに魔力回路を巡る魔力は疲弊し、分散し、体外に滲み出してしまう。――まあ要は、魔力消費が激しいということだ」

「つまり、一つの魔法に必要な魔力が他の奴らよりも多いってことか?」

「簡単に言えばそういうことだ。もっとも、君はまだ運がいいほうだ。そもそも魔力回路自体が脆弱で魔力を集めることすらできない者も多くいる。そういう者は往々にして魔法使いにはなれない。……ふむ、ともかく一度見たほうがわかりやすいだろう」


 そう言って、イライザは実技施設の壁に向けて右手をかざす。


「この場合、魔力を集約する場所は右手付近だ。意識を集中させ、体中を巡る魔力を一点に集める。そして――《アン・クロディ》」


 詠唱とともに一つに土塊が右手の先に現れ、超音速で射出された。


「と、こんなところだ。わかったかね」

「いや、これだけでわかるわけがないだろ。これで理解できたなら、俺はとっくに魔法を使えている」

「ふむぅ……物分りの悪い弟子をとってしまったな」

「おいあんた、もしかして教師のくせに教えるのが下手なのか」

「失敬な! 他の生徒はこれを見せれば大抵やってのけるものだ!」


 イライザが心外だと抗議の声を上げる。


「つまりはだな、一つの魔法の行使に必要な放出魔力、それに必要な魔力はその者の魔力回路が持つ魔力抵抗によって変動するということだ」

「あー、その辺りの理屈は大体わかったよ。じゃあまあ本題だ。その魔力を放出するにはどうすればいい」

「そうだな、早速実践を……といいたいところだが、今日はこれぐらいにしておいた方がいいだろう。もう暗い、続きは後日」

「おいおい、そりゃあんまりだろ。結局今日はあんたの時間に大半を割いたじゃねえか」

「わかっている。次は君から始めよう。この時間にこれ以上ドンパチすれば、流石に誰かが様子を見に来るかもしれない。それは君の本意ではないだろう?」

「…………」


 多少の不満は残るが、イライザの言うことはもっともだ。


 ユリエルは渋々頷いた。


 ◆ ◆


「魔力を放出って言っていたが、その肝心の魔力を全く感じないんだが、これは特訓でどうにかなるのか?」


 学生寮のある居住区へ向かう道中、イライザと別れたユリエルは一人自分の手のひらを見つめながら小さくぼやいた。

 とはいえ、魔力回路がある以上いずれ魔法を使うことができるだろうというイライザの言葉を信じるしかない。


「ま、そう焦ることはないか。かつてと違って、今は時間がいくらでもあるんだ」


 仮に魔法が扱えるようになったとして、得られるものはかつて叶えられなかった夢を達成したことへの満足感だけだ。決して、邪竜討伐の力になるわけではない。


 と、その時、ユリエルは立ち止まった。


「――なんだか嫌な気配がするな」


 邪気、とでもいうのだろうか。

 ユリエルの直感が何かを感じ取る。同時に、足は自然とその方向を向いていた。

 魔法学園の中心に屹立する塔へと。


 少し走ると、すぐに塔へ辿り着いた。

 昼間とは打って変わって人気のないそこには、しかし数名の人影があった。


「そいつには触れない方がいい。悪しき者が触れると何をするかわからないぞ」

「――!」


 塔の入り口の台座に丁重に飾られている一振りの剣。言わずもがな、剣聖ユリエル=ランバートが用いた聖剣、バルムンク。

 その台座の前に経っていた黒い外套を羽織りし人影がその聖剣に手を伸ばした。


 ソレを見たユリエルは、特に咎めるような声色を含ませることなく淡々と警告する。

 人影は、弾かれたようにユリエルの方を睨みつけた。


(……こいつらが嫌な気配の原因か。五人。格好といい、時間帯といい、行動といい、このまま見逃しておいていい奴らだとは思えないな)


 こちらを警戒する人影を見て、ユリエルは総判断する。


「どうしてお前らはこんな時間に、聖剣に触れようとしている。ああ、もしかして剣聖の――、なわけないよなっ」


 剣聖の信仰者なのか。そう言い切る前に暗闇の中何かを投げつけられて、ユリエルは右手で掴み取った。

 顔面めがけて飛んできたそれは、一本の小型ナイフだった。


 その攻撃の意味することなど、命を狙った攻撃である以上は明瞭だ。


「先に仕掛けてきたのはそっちだからな。後でどう言い訳してこようがしったことじゃねえぞ」


 ユリエルの言葉に、五人の人影は身構える。

 それを見てユリエルは僅かに息を吐き出すと――レンガで舗装された地面が凹むほどの膂力で地を蹴った。

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