BL小説に出て来る女は大抵イビリ系か腐女子
人がかなり増えてきました。
……マジに人がかなり増えてきました。
……取り敢えず、今の状況を説明しよう。
右肩側に木野がいて、何故か俺の弁当箱の中に自分の弁当の中に入っているおかずを足していっている。
左肩側には桃時がいて、さっきからあーんってしてぇなぁあーんってしてぇなぁ煩い。お願いだか何だか知らんが鬱陶しい事この上ない。
後ろからは純也が抱き付いている。すこぶる飯が食いにくい。後時々んっとかあっとか言うの辞めていただきたい。
膝の上には山下が頭を置いている。お前の番は終わっただろやめろと言って殴ってみたが、何か逆効果だったらしい。やめろ。
そして尻の下には山下持参のはんかちーふ(ピンク)。……俺にどうしろと。
場所は昼飯時の屋上。何故か桃時が鍵を持っていた。何者?
昼休み入ると同時にいきなり周囲から沸いて出た奴等に拉致られ、今に至る。
「…いや、木野いい加減お前の弁当のおかずを俺の弁当箱に入れてくんのはやめろ。いつまでたっても食い終わらんジャマイカ。」
「ジャマイカ…? メキシコの隣りの?」
「いや、そんな真面目に返されても……。」
「なーハニーあーんってしてぇなぁー。」
「…んっ……勇二…。」
「ご主人さまぁ…。」
「お前等煩ええええええええええ!!!」
……とまあ、この惨状見たら分かると思うが、この間のカラオケの件で俺がいらんことを口走ったせいで、墓穴を掘る結果に至って、まあ、こうなった訳だ。まる。
せっかく昨日安田先輩に会ってテンション戻ってたのによー。最悪だ。
「なー、ゆーじぃ。今日の放課後暇? 遊び行こうよー。」
「あ? 無理。家に従姉妹来んだよ。」
ぐははははは! 残念だったな、貴様等!! まったく、従姉妹様様だぜ! いや、今日の朝いきなり聞いてびっくりしたけど、こいつらから逃げる絶好の言い訳になった。ナイス!
「今日従姉妹の夢ちゃん来るから5時にはアンタ、家いなさい。」「なんでいきなり! 俺の意見も聞けよ!!」「アンタ昨日の夜遅くて言えなかったんでしょ!!!」ドンガラガッシャーン「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!」
……なにがあったかは語るまい。
「そっかぁ、じゃあしょうがないね……。」
純也は残念そうに微笑んだ。うむ。何故だか良心的な何かが痛むのだが。
「そんなに落ち込む事あるかいな、じゅんたん。俺、ハニーのイトコさんなら見てみたいわ。な、ハニー。ええやろ?」
良い訳ないだろ。
「いや、じゅんたんってなんなんだよ! 桃時、前から言おうとは思ってたんだがな、呼ぶ度人のあだ名変えんのやめろよ!」
……俺の必死な必死、必死必死な抵抗をものともせず、桃時は実ににこやかな表情のまま、俺にはいと言わせたのだった。
奴の台詞が少々ODOSHIーとか、IATUーとか、まあそんな感じの空気を孕んでいた事への突っ込みはあえてしないことにする。
「……ハァ、只今ー……。」
「勇二の家入るの久々ー! お邪魔しまーす!!」
「後でハニーの部屋見せてなー。邪魔しますでー!」
「ご主人様のお部屋……お、おじゃましま、お邪魔します!」
「クスクス……尋貴、貴方は何て所で噛むんですか。お邪魔致します。」
……邪魔するなら帰ってくれ。
「で!? ハニーのイトコさんはどちらかな?」
既に家にいる事は、普段余り花がない我が家の玄関に、可愛らしいパンプスがあった事から確認済みだ。
ついでに、普段智裕が通学用に履いているスニーカーが無い事も確認済みだ。……我が家には味方がいない。
ぱたぱたとリビングからスリッパの音がしてきた。母さんが俺を向かえに出たことはいまだかつて無い。親父はまだ会社。……という事は、この場に来るのは只一人。
「おかえりー!! ともく……なーんだ、勇二かぁ。」
……従姉妹の夢ちんである。
「なーんだとはなんだ!! 泣くぞ!?」
皆して俺をバカにしやがって! まあ精々かなり大目に見て中の上なのは自覚してますが!!
「へぇ、この人がハニーの従姉妹さん? 可愛いやん。」
そう言いながら俺に抱き付くのは何故だ。夢に抱き付いてやれ。コイツイケメン好きだから喜ぶだろ。
「キャー!! 何この人、カッコいいじゃん!! アンタもやるわね、勇二!」
…なにをやるんだ? しかもアンタ呼ばわりか。一応俺年上なんだが。つーか桃時だけでこの喜び様、他の二人(勿論純也はカウントしていない)見たらどうなるんだ?
「キャアアアアアアアア!!! イケメンパラダイスううううう!!」
流石従姉妹。親は違えど同じ血を脈々と受け継いでいるぜ……叫びキャラとしてのな。
「あー、これでともくんが帰ってきたら完璧よね! ちょ、勇二と……そこの人! 視界に入らないで!!」
俺等(勿論俺と純也だ)酷い言われ様だな……最早怒りとか通り越してむしろ笑い的なものが込み上げてくるぜ……。
「純也……行こうぜ……。」
モテない男二人は寂しく生きるさ……。
俺と純也は二人悲しくとぼとぼとリビングに向っていった。後ろからは夢ちんの「右!左!あ、やっぱり反対で!いやー!コレよコレ!萌えるわああ!!」とかいう叫びが聞こえてくる。……あいつ等の一体何処に萌えなんか感じるんだ。顔か?顔なのか?……やっぱそうか。
そして叫びに続く写メの連写音。「ヤバい!もー最高!!やっぱり受けは眼鏡くんよね!!!」……あれ?
今、すげー台詞聞こえなかったか?俺の聞きまちがいか?だよな、そーだよな。つーか夢、お前……。
「従姉妹さん肯定派かー!っていうかマジにあいつ等三人でくっついてくんないかなー。」
……それはそれで問題だろ。色んな所が。
「おかえり勇二。アンタあんなに友達いたのねー意外だわー。あら、純也君いらっしゃい。」
今まで俺どんな風に見られてたんだ。友達いない寂しい子か?イタ過ぎる。
「おばさん、お邪魔してまーす!」
純也は人懐っこい笑みを浮かべた。コイツは、アレだ。おばさんにだけモテるタイプ。カワイソー。
がちゃり。
「只今ー…って、何やってんだ?」
「きゃーー!!ともくんも並んでならんでーー!!!」
……おかえり智裕。そしてご愁傷様。
取り敢えず夢を落ち着かせた。その際ボディーブローとか回し蹴りとかかかと落としとか受けた様な受けなかった様な気がしなくも無いが確実にする。……泣いていいか?
「夢、流石に止めてやってくれよ。」
智裕のこの台詞がなければ、今頃俺は……くわばらくわばら。
しかしその智裕、よほどあの四人が気に入らないのか半径1m以内に絶対に近付こうとしない。で、夢も苦手ならしく、まあ必然的にか俺の隣りにいる。
俺の隣りにいるとあの四人も来る。あの四人がいると夢が寄ってくる。智裕は俺の腕を引っ張って移動する。でもついてくる。……エンドレス。
こうして俺達は狭いリビングをぐるぐる巡回していた。端から見たら完全に何かの宗教です。又は宇宙との交信?
「って言うかさー、皆座ろうよぉ。夢、疲れちゃったー。」
俺も疲れた。いい加減座りたいし何か飲みたい。母さんも微笑ましい的な目をしてないで止めろよ。
「やって、ハニー。あそこのソファ座ろうなぁ。」
「貴方には遠慮というものがないのですか、蓮斗?こういう事はダーリンの言う事を聞くのか道理でしょう。ねぇ、ダーリン?」
「勇二ぃー、ジュースないー?喉乾いたー!」
「ご主人様お疲れで無いですか?お、お、俺がおんぶして差し上げましょうか……?」
お前等好き勝手喋んのやめろ!!!
取り敢えず俺たちはテレビの前のソファに座る事にした。
「俺勇二のとーなり!」
「あ!ずるいでじゅんじゅん!!ハニーの隣りは俺や!!」
「僕もダーリンの隣り座りたいです。」
「……ご主人様…。」
うるせえ!!
ちょっとも黙れねぇのかお前等!!
俺の右手に座っていた智裕が、はぁ、と大きな溜め息を吐いて立ち上がった。行かないで!俺っち回り固められちゃう!!
案の定、開いた右側は桃時に占拠されちまった。誰か、助けてください!
「……って言うかさっきから気になってたんだけどさ、ハニーとかダーリンとかご主人様って何よ?」
ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!
そういえば、そういえば、総入歯!!……ちげぇ。
余りに言われ過ぎてて違和感無くなってたから忘れてた!!ヤバくね?これヤバくね!?
「ほれ、兄貴。」
周りを一切無視して智裕は俺にゲームのコントローラーを投げて寄越してきた。かなりゴーイングマイウェイ智裕。そしてそのまま俺の足の下っつーか間っつーか…に、座った。つーかそこ意外空きがなかった。
「ねーなんなのよー。勇二がハニーとかダーリンとかご主人様とか……なんか受け付けないしぃー。まず萌えない。」
何気に酷いぞ夢ちん。そこまでストレートにきたら、いくらハートがすでにズタボロでもう傷つけられてもだいじょーぶ、ゾウが踏んでもだいじょーぶ、な俺でもこう……ぐさっとくるからさ。もう刺し所無いけど。
「ハニーはハニーやで?かわええやん。俺、好きやねんなー、全然萌えるし。」
何言ってやがるですか、こいつは!!
おっと。ゲーム始まった。
「ん?今日はスマブラか?お前マリカの方が好きじゃん。」
「あ?兄貴よぇーしつまんねぇから。」
「なにいいいい!!?俺は弱くない!!智裕、テメェ覚悟しとけよ!!ボッコボコにしてやる!!!」
「あー?できるならやってみな。」
「きー!何この子!MU・KA・TU・KU!!」
「萌えないって!」
「いーや、萌える。ハニーやからな!」
向こうの言い合いは敢えて聞かない事にしておく。
「勇二ー勇二勇二勇二ー!!」
「煩ええええええええええ!!だまらっしゃい!負けたらどーしてくれんだ!!」
と叫ぶ俺は既に一回敗退を期してしまっていた。弱ええ……俺……。
「うしっ。」
足の間で智裕が小さくガッツポーズを作った。俺は慌てて画面を見る。
「なっ!!」
俺は早くも本日二度目の黒星。なんだこの雑魚さ。スライムか?俺スライム?軟体動物?
「なんや?大乱しとるん?混ぜてなー!勝ったらハニーのちゅーゲットでー!!」
「何だテメェエ!今俺がやってんだよ!」
「俺もやるー!!勇二のキスー!!」
テメェはジュース飲んで満足しとけ!!あとやっぱり俺は無視なんですか!?
「僕、ゲームとか苦手なんですけど……ダーリン一緒にやってもらえますか?」
「やぁーです!!」
「勇二のばーーーか!!アンタのキスなんていらないわよ!!!桃時くん〜ともくんとちゅーしてぇ!」
「あんな奴とキスするくらいなら死んだ方がマシだ。」
「お、珍しく弟さんと同意見や。俺、ハニー以外の男には興味ないんやなぁ〜。」
「……で、やっぱりそれってガチにリアルなの?リアルな萌えなの?」
「ぎゃあああ!!ピカチュウウウウウ!!!智裕テメェ余裕こいて喋ってたくせしやがって!!」
「バーカ。兄貴糞よぇえの。」
糞とか言うな!!否定出来ないんだから!悲しくなるだろ!!!
結局一勝もできなかった……。つーか木野にまで負けた……。
最後まで勝ち残ったのは智裕だった。なんだこの格差。本当に兄弟なのか俺等。
取り敢えずちゅーは免除の方向でかたが付いた。智裕ありがとう愛してる!……俺きめぇ。
「じゃあな、ハニー!従姉妹さん!また遊びに来るわ!!」
「ばいばい勇二!」
「さようなら、ご主人様。」
「また明日会いましょう、ダーリン♪また呼んでくださいね。」
「もう二度とよばねーーーよ!!じゃあな!!」
バン!!
……嵐は去った………。
俺は強制的に見送りをさせられた後、大きく溜め息を吐いてリビングに戻っていった。
「兄貴、お疲れ様。」
「マジにお疲れ様だよ……。」
「何がお疲れよ。私はボーイズラブは美形×美形じゃないと認めないの!」
知るか!!
「俺だって好きでボーイズラブやってんじゃねぇ!!つーかまだ認めてねぇ!!!」
「黙れ!」
「……さーせん。」
俺悪くねーのに。なんだこの虐げられ様。
「ま、私も帰るわ。何かあったら電話しなさい、勇二。話くらい聞いてやるから。」
「ゆめえええええええ!!!!!」
ありがとおおおおお!!何気に俺の親戚皆良い奴!!!
俺は、ニコニコと夢を見送った。その後、何故か智裕が不機嫌だった理由はその時の俺には分からなかった。