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こんな日も終わり良ければ大体全て良し


不幸続きの哀れな民に、神は情けをかけない事は無い。………何て言ったのは誰だ。


と、今までの俺なら言っただろう。


そんなことはない。神は、我に情けをかけられた!!!だははははははははははははははははは!!!!


 


昨日、家に走り帰った俺は、哀しいかなかーさんがパートの日じゃない事に気が付いた。


ここで入ったら確実に何か悪い方向の事が起きる。つーか怒られて殴られて家から追い出される。智裕は違うらしいが……哀しくなるので余り深くは気にしない事にする。


それにしても、さっきから確信っぽい何かを俺の第六感っぽい何かが告げている。………これは…まだ家に入るべきではないようだし、さっさと移動すべきだろう。プロテクターか何かあったらいいのだが。あいにくこの場には鍋のフタすらない。鍋のフタ風情で防げる攻撃でもないが。


ぐうううう……


気付けば、もう正午は回って既に1時半だ。腹も減る訳だ。妙に納得する俺。


「チッ。昼飯位奢らせればよかった。」


悪態ついても腹は膨れぬ。


俺は仕方なく飯を食うために駅の方へと戻って行くのだった。




 

「……あれ?仙台じゃん。」


「ん……?…って、安田先輩じゃないっすか!!お久し振りっす!!!」


高校入ってからは帰宅部部長を最前線で突っ走ってきた俺だが、中学では、なんと華のバスケをやっていたのだ!どうだ、ちょっと見直したろ!!


「久し振りだな。あ、聞いたぞ。お前の弟、ヤベェな。県大会最優秀選手賞だったろ?兄弟でこんなに才能の差があるなんてな!!ははははは!」


「き、気にしてんだから言わないで下さいよ!!!それに、俺もうバスケやってませんから!!」


そんなこと言われたら、俺グレちゃうからああああああああああ!!!


それにしても、バスケ。…懐かしい単語だぜ。……やめた理由は語るまい………否、後から始めたくせに、普通に俺より上手い智裕なんですけど。あ、結局言っちまった。


中学入学当初、バスケやってたらモテる、って聞いた俺は、迷わずバスケ部に入った。ま、まぁ、動気はいいじゃないか。いいだろおお、モテたかったんだからあああああああ!!!!


安田先輩はそこの先輩。バスケはめっさか上手いわけではなかったが、何故かモテるという羨ましい体質の持ち主だ。まぁ、誰とも付き合ったことは無いらしいが。何でだよ。


今は他校でバスケやってるらしい。中学時代は、よく一緒に部活サボってた。


そんなこんなでサボりの常連だった俺だが、次第にバスケが楽しくなってきて、補欠ぎりぎりだけど、レギュラーにもなれた。本当、血が滲む努力だったぜ。超偉い、俺!


その時に、智裕だ。全く、嫌になっちまうぜ。「……ふーん。バスケ?面白いの?」で入って、あっさり俺のポジション奪いやがった。…………俺は鬱になって辞めた。


あの時の智裕の小憎たらしい顔は一生忘れないぜ。心に刻み付けたからな。ま、いらんところまで刻んじまって血みどろだがな………くはははは!!!




「悪ィ悪ィ。ま、機嫌なおせって。」


安田先輩は、俺の頭をぽんぽんと撫でた。……いや、俺は犬か何かか。


「……別に、怒ってませんよぉー。事実ですしぃー。どーせ俺なんか中の上ですよぉーだ。」


「拗ねんなよ……。悪かったって。」


安田先輩は、俺の頭をわしゃわしゃと撫ぜた。……いや、だから俺犬か何かかって。


「ところで、仙台はどーしてここに?お前もサボりか?」


……そうだ。俺自分が学校休んじまったから、先輩がなんでこんな時間に出歩いてるか、疑問にも思わなかったな…。つーか先輩サボりか。相変わらずだな。


「まーそんなもんです。」


一応曖昧に流す。男に告られて、何故か怒りを買い、カラオケで無言だったなんて言えない。何があっても言えない。


「そーか。…なあ、もう飯食った?」


「いや、まだっす。」


「じゃー今からマッ○いかね?俺、バイト代昨日入ったの。奢ってやるよ。」


マ ジ す か ! ?


「行きます、行きます、行きましょう!!!」


「奢るって言った途端態度かわんのな、お前……。」


「3分の2位気にしないでください!!」


「残りの3分の1はどーすりゃいいんだ!!?」


ラッキー!!昼飯代タダじゃん!!結局その場のノリでカラオケ代は払わなかったが、今月ピンチなのには変わりない。ナイス、先輩!




 

十分後。俺達は、Mの字の看板が脳裏に焼き付く某ファーストフード店に来ていた。


俺はフィレオフィッシュのバリューセット、先輩はハンバーガーとアイスレモンティーを購入。……そーいや、先輩って昔からかなりの少食だったな。忘れてた。


奢って貰う俺の方が値段が高い。……これはなんだか肩身が狭い感じになってきた。


「仙台。お前席取ってきてくれないか?」


「あー、そっすね。了解っす。」


俺、自分の食い物は自分で運びたい派なんだが。しかし…先輩には負い目があるしな…。普段ならぜってぇ聞かない頼みごとも聞いてやるぜ、特別だからな!!


「何だ、珍しいな。じゃ、頼んだ。」


にっこり笑った先輩は、俺に自分の学バンを押し付けた。どうやら持って行けということらしい。


「今日だけだからな!!特別なんだからな!!!」


「あーはいはい。ま、よろしく。」


軽く流された事はスルーして、俺は店の階段で二階に上がる。……先輩の鞄無駄に重ぇ。何入ってやがんだ。エロ本か!!?エロ本なのか!!!?


……気になる。が、今は席の確保が先だ。ま、平日の昼飯時後だからガラガラだけどな。


適当に、窓際の席をキープする。今日はいい天気だ。


「仙台。お待たせ。」


「あ、あざーす。」


かなり無理な体勢で二つのトレーを運んできた先輩から、自分の分を受け取る。ようやく飯が食えるぜ。




「………なあ仙台。お前、今好きな奴とかいる?」


フツーの世間話から一転、急に妙な表情を浮かべた先輩は、ぽつりと上のよーな事を述べた。


「…………は?」


余りに唐突だったんだ、多少の無礼は許してもらおうではないか。


「いや……うん、まぁ…。」


先輩はかなり言葉を濁らせる。……それにしても、これは恋のお悩みなんだろうか。俺が一緒にいた限りには、先輩はそーゆーのに疎い人間だったはずだ。モテる奴って、何だか断っちまんだなぁ……。俺には理解できん。


「…俺は最近出来ようがないんすけど………先輩、春っすか?」


俺はにたにたしながら先輩を見る。俺はもう完食したのに、先輩はまだあのちっさいハンバーガー半分しか食べていない。


「……そうか…いや、状況は冬だよ…。」


き、き、き、気になる!!!意味深発言とか!つーより、先輩の気になるアイツが気になるぅぅぅ!!!


「俺で良かったら、相談乗りますよ。」


ヤベーにたにたが止まらない。モテ男が恋に悩んでんの見るのって、何でこんなに面白いんだろう。気持ち良いんだろう。あ、コラ。勇二最低!とか言うな。元々極一部の方々にしか人気ないんだから俺!!!


「あーありがとな、仙台。でも、もう少し自分で悩んでみるわ。」


何だ、聞けねーのか、残念だ。


「そっすか。ま、いつでも連絡下さいよ。奢ってくれたら相談乗りますから。」


「ははは……奢らずに済むように頑張るさ。」


先輩は、笑顔で言った。……うむ。こりゃモテるわ。女の気持ちがちょっと分かった俺であった。





「じゃあ、先輩。ごっさんした。」


先輩のマンションの前で、俺達は少しばかり立ち話をした後、俺は家に帰ることした。何だかんだいって、後半は良い一日だったぜ!久し振りに先輩とも会えたしな!!


「ああ、気にすんな。またサボろうぜ。」


にたりと笑う先輩に、俺もにたりと笑い返す。


「いっすね。ま、俺が進級出来たらの話っすけどね。」


………あれ?


先輩って、3年じゃなかったか!?

「……先輩…、受験は……?」


「あーいいの、いいの。俺、高校出たら、ウチの店で働くから。」


ああ、そうか。先輩の家、家族でレストランか何かやってたな。


「じゃあ、遊びに行っていっすか?」


「は?来んなよー、ハズいし。」


本当に嫌そうな顔をする先輩に、何故か笑いが止まらなくなる。


「ぷっ……あはははははははははははははは!!!」


「ひでぇ!!笑うなよ!!!」


ああ、いいなぁ、この感じ。やっぱ、もう一回バスケやってみようかな。あ、でも今更無理か。俺大学は絶対無理だからなぁ……。


「俺も卒業したら先輩の所で雇って貰えませんかねぇ……。」


ま、いずれにせよいつかは働かなきゃいけない時がくる。まぁ、ニートでも大丈夫……ではないな。確実に家追い出される。




「もう少ししたら二号店出すって言ってたから、それも有りなんじゃねぇ?」


「マジすか!?おめでとうございます!!」


結構流行ってんだな。羨ましいこった。


「ん、あ、そろそろマジに帰ります。母さんキレたらヤバいんで。」


「ああ、じゃあな。」


先輩はやんわり微笑んで、俺に手を振った。俺も、笑って振り返す。


ここから家までは歩きで20分、チャリで10分。また遊びに来よう。


……前半はともかく、後半は良い一日だった。


俺はぼーっと、帰ったらつーかこれからずっと襲ってくるであろう、諸々のことに思いを馳せ、一人で身震いしながら、家に向かうのだった。



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