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カラオケで純愛ソング熱唱してる時に鏡越しに自分と目が合ったらちょっと照れる


「………………。」


「………………。」


「………………。」


「………………。」


「………………。」


俺は今日、一つ学習した。…………沈黙は、刺さる程痛い。


今の状況はおかしい。まぁ、こいつらに振り回されるようになってからは常に状況なんて意味不明だったんだが、今程異常だった事は無いと思う。


だってさ。


カラオケで全員無言だぞ!!?わざわざ防音の必要なんざ無いだろ、黙ってんならさ!!!


時々余りに静かだから店員さんが心配して見に来ては気まずそうに帰ってくじゃねえか!!そん時扉がガラスだから、反対側に座ってる俺とガッチリ目ぇ合うの!!!すげー気まずいよ!!?


「………さて、ハニー。ちょっと俺等の話聞いてもらおか。」


「あ、はい。」


でも突っ込まない。どうやら俺が悪いみたいだから。


「やけに素直ですね。……貴方なら、やあああですううう!!とか叫んで飛び出して行きそうですけど。」


酷い偏見だな。何だよ、それじゃ、俺が叫びキャラで定着してるみたいじゃねえか。


「いや……ま、俺も言いたい事あったし。」


勿論全員に対してのお断りだがな!!!俺は男とイチャイチャする趣味なんざねぇんだよ!!!




「そっか。」


何も知らないのに安心したように微笑む純也。ちょっとばかりだが良心が痛むぜ。


山下は俺の足元の床に正座したまま、ピクリとも動かない。とてつもなく奇怪だ。


「俺等なぁ、ハニー。ハニーが思てるより本気なんや。」


「は、はい。はい……はい。まあ、そりゃ………はい。」


「……分かってたんですか?」


お前等が人生棒に振るような行為をしてるって事はな。


「分かってたの!!?じゃあ何であんな事言ったんだよ!!!」


ガタッ


俺は勢い良く立ち上がった。膝が机に当たって、歌本がバサバサ山下の上に乗ったが……まあ気にしない。ぽそっと山下が頬を赤らめ「ご主人様ったら…。」とか言ったような気がしたがきっと気のせいだ。いや、全くもって気のせいだ。


「俺はオメー等と一緒にいろんなモノカッコ特にあげると平穏な日常!カッコ閉じるとさようなら、新しい俺カッコホモ?カッコ閉じるとこんにちはする気はさらさらねぇんだよ!!!」


ねぇんだよ、ねぇんだよ、ねぇんだよ……


誰だ!!マイクのスイッチ入れたのは!!!


「ダーリン。」


木野が俯き、肩を震わせながら絞り出すように声を発した。


………まさか、泣いてんのか!!?




「な、なんだよ!!」


な、泣くなんて卑怯だぞ!!絶対俺、ごめんなさい言っちゃうだろ!!!心弱いんだよ!!悪かったな!!!


「そんなつまらない理由で、あんな事言ったんですか!!?」


つまらない?


………あれ?俺が平穏な日常を望むのは、つまらないことなのか?


不安になって、他の面子も見てみる。………………あ、そうですか。俺、つまらない人間なんですか。


つーか木野泣いてたんじゃなくて、怒ってたのね!!?


「……ありえねー。勇二。お前酷過ぎだわ。」


え!!?そんなに!!?


「……お仕置が必要やろか?それとも、躾と調教かいな?」


「なっ!!なんと言う事を言うのですか君は!!ダーリンを傷付けるのは僕が許しません!!!」


「いや、でも一回ビシッとやる必要があるよ、勇二は。自覚足んないし。」


「ご主人様、歌本は元の場所に戻しておいたらよろしいでしょうか?」


……ヤベェ。皆さんご乱心の模様だ。だっておかしいもん。聞いてはならないような単語が幾つかあったもん。ここらへんの処理はひとりでできないもん!!!




「………そうですか。では、それで行きますか。」


っは、えっ!!?


何がどうなったの!!?俺はどうなるの!!!?


「ハニーが悪いんやで。」


にっこり。手には歌本。


…………マズい。


危険指数100倍!!!緊急回避せよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!


「ち、ちょっと待てええええ!!話せば分かる!!話せば分かるうう!!!だから、痛いのはやめてええ!!お金系とか、無茶なもの以外のお願い聞くからああああああああああああああああああああ!!!」


ぴたり。


「お願い……?」


「うんうん聞く聞く。大体なんでも聞いちゃう。」


「何でもするって事ですか!!?」


「うんうんするする。死ねとか、高い物買えとかいうの以外なら全然やっちゃう。」


今金欠だからな。給料日まで、あと10日。財布が寂しいぜ。


「ええ、嘘。何にしようかな。」


急に色めきだした室内。相変わらず防音の意味は無い。金の無駄だ。


「……しかし……カラオケ代か…痛い出費だぜ………。」


後には小銭しか残らないな。長財布の意味が皆無だ。


「ぼ、僕が奢りますよ!!今月はまだ余裕があるので!!!」


木野がいきなり振り返り、胸ら辺に手を当てて叫んだ。


「いや!!俺が払う!!俺も今月はピンチだけど……勇二のためなら!!!」


「恩着せがましいで!!ハニーに奢るのは、俺や!!!」


………なんか、とんでもなくややこしい事になってきた。




桃時と木野と純也は誰が俺に奢るかで揉めに揉めている。カラオケ代は払わなくてもよくなりそうだ。ラッキー。


一人言い合いに加わらず依然俺の足元で正座している山下は、少し俯いている。時々不意に戻ったりしているところから見ると、どうやら眠いらしい。


「山下……。ここのソファ誰も使ってねぇし、横になったらどうだ?」


俺は自分の隣のソファをぼすぼす叩いた。結構大きいし、人一人くらい寝転がれるだろう。


「い、いえ!!ご主人様が起きていらっしゃるのに、俺だけ寝るっていうのは……!」


山下……。お前、すげー変態だけど、何かマトモだわ。


「いや、いいから寝とけよ。何か長引きそうだしさ。」


「で、では……。」


山下は俺の方に頭を向けて、ソファに寝転がった。が、明らかに狭過ぎるようだ。


「あちゃ〜、山下身長高ぇんだった。これじゃ寝れねぇな。俺どくわ。そしたらここに頭置けるか?」


俺は立とうとして体を浮かせた。すると、山下に制服を掴まれて、また座らされる。


「……どうした?」




「いや……あの……。」


山下は半分体を起こしたまま、居辛そうにもぞもぞと腕を動かした。こうして見ると、やっぱ、コイツデカい。羨ましい限りだ。


「ん?何だよ。ハッキリ言えって。」


「は、はいっ!………あの…ご主人様、膝を貸してはもらえないでしょうか……?」


膝………?


ああ、膝枕ね。それくらいなら全然オッケィー、だ。減らねぇしな。膝は。


「ほれ、いいぞ。」


俺は頭が置きやすいように、少し山下に寄った。


「ご主人様………。」


山下は嬉しそうに膝に頭を置き、頬擦りしてきた。………何か可愛いな。


……って、ちょっとおおお!!!今俺何思った!!?何思ったああああ!!!??


「ご主人さまぁ………。」


山下はオレの制服をちょっと握って、腹の方にも頬擦りしてきた。ワックスで緩やかに整えた金髪が、柔らかそうにゆらゆらと揺れている。……やっぱちょっと可愛いかも。


って!!ダメだ!!!これじゃ、まるで俺までホモみたいじゃねぇか!!


「あっ!!尋貴!!!僕等の見ぬ間に抜け駆けとは卑怯ですよ!!!」


尋貴……?ああ、山下の事か。一瞬だれだか分からなかった。




「何やっとんねん、尋貴!!ハニーから離れろや!!」


「やめろー!!ご主人さまぁー!」


山下は俺の制服を掴んだままだ。やめさせねぇとな。服が伸びちまう。


「ほらほら、やめろお前等。嫌がってんだろ。」


俺がたしなめると、三人は山下から手を放した。解放された山下は、物凄いスピードで、俺の膝の上に戻ってきた。


「ご主人様………。」


また気持ち良さそうに頬擦りをはじめる。……お前眠たかったんじゃねぇのか。


「勇二!!どういう事だよ!!!」


「俺は悪くねーもーん。山下の"お願い"聞いてあげただけだからな。」


……そうか。


自分で言って気付いたけど、これ、"お願い"じゃん!!やった!一人消化!!!


「そうだ!!お願い!!!勇二、俺にキス、深いの!!!」


……は?


「もし……日曜お暇でしたら…僕とはデートを。」


……ちょ、え!?


「ハニー。つべこべ言わず、ヤろか。」


ちょ!!それはダメ!!!


「無理!!無理無理無理無理無理無理!!!」


「無理やあらへん。慣れたら気持ちええらしいで。」


「そういうことじゃない!!!」




ヤバい。早くここから逃げないと。かなり危険だ!!毒ガス充満中だ!!!


「無茶なのはダメって言ったろ!!!つーか氏ね!!!俺を見るな、妊娠したらどーすんだ!!!!」


俺は必死だった。見てくれ、この必死さを!!!……まぁ、こんな風に貞操が掛かってくると、誰でも必死になるだろうがな。


「しゃあないな。じゃ、昼飯、一緒に食おうなぁ。」


「今日だけな。」


「ケチやなぁ。」


ケチとか言うな!!!俺は昼飯のためだけに学校行ってんだ!!!安食妨害反対!!


「じゃあ、昼飯は皆で食うて、俺にはあーんってしてやぁ。」


「は!?悪化したじゃねぇか、バカヤロー!!!俺はそんなことやらんぞ!!!」


我が儘とか言うなよ!!?


「ご主人様には、俺があーんってしてさしあげます。」


とろん、とした目をした山下が、膝の上から上目使いで言う。声も、心なしか眠たげだ。……とろんって可愛………くねえ!!!……いや!!実際は只眠かっただけだろ!!!さっきは寝かけてたし!!!って、そんなこと思ってる場合じゃねえ!!!


「バカかお前!!バカだろ、頼むからバカって言ってくれ!!!」


……でなきゃ、俺、自分が正しいっていう自信が崩壊しちまいそうだ!!!只でさえ、こんな奴等の中に放り込まれて、常識の概念がブっ飛びそうなのによ!!!




「ゆーうじ、俺とキッスゥ、キッスキッスゥ!ナウ!!」


「死んでくれ!!!」


いや、本気で逝ってくれ。俺は止めない。手も出さない。犯罪になるし。只少し後ろから背中を押すだけだ。


「だぁりん、僕、美味しそうなイタリアンの店見つけたんです。一緒に行きましょうね。」


「……俺そんなちまちましたの無理。男なら学校裏の"らーめん鉄鍋"だろ。」


因みに俺はそこの常連で、アルバイトの人の名前も全員言える程通い詰めている。最近は、何故かネギとメンマを特盛りにしてくれるのだが、健全な男子高生としては、肉や麺を増やしてもらいたいところだ。


「たまにはそういうのも良いですねぇ。別に、僕はダーリンがお腹いっぱいになって、僕の隣りにいてくれたら何処でも良いですしね。」


「へぇ、慎ましいんだな。」


以外に何かと食らいついてくるキャラかな、とか勝手に思ってたんだが。


「いや……ハニー。騙されたらあかんで。誠はハニーにお腹いっぱいになって欲しいんやから。」


「蓮斗!!!」


……そういや、こいつら仲良かったんだな……名前で呼び合ってるし。忘れてるかも知れんから一応言っとくと、誠は木野で、蓮斗が桃時だ。


しかし、俺に腹一杯になって欲しい事が何故悪い事なのだろうか。話の流れ的に奢ってくれそうだから是非行きたいのだが。




「……?それが何かあるのか?」


「ああ、誠はな、は……」


「黙って下さい!!!蓮斗!!!」


「うわっ。」


びっくりした。木野が怒鳴るとは思わなかった。いつも物腰滑らかな印象があるばっかりに、怒鳴ったらちょっとビビった。


「ああ、すみませんダーリン。脅かすつもりは無かったんですが……。」


「あ、ああ……。」


……何か俺に良い事ではなさそーだし、聞かなかった事にしとこうか。……木野何か怖かったし。………コラ、そこ!!!ビビりとか言うな!!!!


つーか、俺的にはそれよりダーリンとかハニーとか言われて抵抗なく答えてる自分の方が恐ろしい。慣れって、コワいな。


「ゆーうじ、キッスゥ、は〜やっくプリーズぅうう!!」


「お前はいい加減くたばれ!!!」


あーもう早く帰りたい。帰ったらマリカ練習して今度こそ智裕に勝とう。……勉強や顔では一生勝てないからな……。


「せや。ここカラオケやんか。歌歌わな!ハニー!!一緒に歌おうな?」


「なんだ、よーやく思い出したか!!でもな!!!俺様はもうマイホームにお帰りになられるんですよおおおお!!!」




「ええええー!ぶーぶー!!俺もっと勇二と遊びたぁ〜い!!!」


「せめて、時間が来るまでいて下さいよー。」


「せやで、俺が奢ったるから。」


そんなこと言っても無駄だ!!!俺は帰るったら、帰るんだからな!!!


「お帰りになられるのですか、ご主人さまぁ……。」


無駄だからな!!!「俺、寂しいです……。」とか言って抱き付いても無駄なんだからな!!!ずーたいデカ過ぎて俺埋もれてるし、最早可愛いかもなんて、片鱗も無いからな!!


「やーだああああああああああああああああああああ!!!」


「せやったら俺、「お願い」ハニーにお持ち帰られがええ!!!」


「僕はダーリンをお持ち帰りたいです。」


「ご主人さまぁ……。」


「だあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!煩ええええええええええええええええ!!!シャラップ!シャラップ!!誰が何と言おうと俺は帰る!!!」


「ご主人様!?」


「ダーリン!」


「ハニー!!」


「あなたああああ!!私を捨てるのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」


「さらば、愚民共。」


 

 


 

 

 


 


本当に帰りました。


 

 



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