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Part.7

 ✿―✿―✿



 ――S女子高等学校



「ここが、立花祐希の通っていた高校だ」


 通用門に着くと、神崎がアリサに言った。

 アリサは門から見える学校の校舎を見る。

 白いコンクリートで建てられた校舎は、汚れが一つ無く綺麗だった。

校舎の上部中央には、この学校の紋が刻まれている。

正に、私立の女子高。

いかにも清楚で頭の良さそうな学校――そんなイメージがあった。


「ここが女子高ですか」

「あぁ。因みに、斎藤瑶がいる高校は、ここから一駅のN男子高等学校だ。なんでも、校長同士の仲が良いらしくてな、年に二度この二つの高校で交流会をするらしい。まず、男子校での交流会.....というか、まぁ、勉強だな。で、次の日は女子高でってのが、ここの行事の一つらしいぞ」

「なるほど」


(確かに、それは恋に落ちやすいかもしれませんね)


 アリサは内心二人の恋の始まりに納得したのだった。

そして、二人は通用門を堂々と通り事務室へと向かった。

事務室に向かうと、事務員から来客用の名札を貰いスリッパに履き替える。


「さて。まずは、一階からですね」

「え.....。もしかして、全部見て回るのか.....?」

「当然です。色んな霊に聞き込みします」

「マジかよ.....」


(人でも聞き込み。霊でも聞き込みってか.....いや、俺には見えないし聞こえないからいいんだけどよ.....)


 ガックリと項垂れる神崎の肩に手を置き、ニッコリと微笑むアリサ。

神崎はそのアリサの笑みに嫌な感じがした。


「神崎さん。出来るだけ多くの霊を引き寄せて下さいね♪」

「……………」


 嫌な予感的中。

 神崎は、再びガックリと項垂れたのだった。



 .................

 ...........

 .....



 ――数時間後。


 神崎とアリサは一階から順に、生徒の聞き込みしつつ霊を集めていた。

最初は普通だった神崎の顔も次第に厳しくなり、身体も霊の重みに耐えきれず段々猫背になってきていた。

今では、壁を頼りに踏ん張っている状態だ。


「ぐっ.....ぬぬっ.....ア、アリサ.....もっもう、無理.....おっ、重っ」

「はぁ.....情けないですねぇ」

「あ.....あのっなぁ!こちとら.....余計な物もっ.....かっ.....抱えてるんだぞっ.....?!」

「わかりましたよ。そうですねぇ。あ、丁度、3階まで来ましたし屋上に行きましょう」


 神崎を残して、アリサはスタスタと屋上へ向かう。

 神崎はというと、手すりに這い蹲りながら階段を上っている。

傍から見たら、どう見ても変な人に見えるだろう。

案の定、通り過ぎる女生徒達は首を傾げて神崎を見ていた。

すると、ひょこっとアリサが顔を出した。


「早くして下さいよ」


(お前なーーー!くっそぉぉぉ!)


 アリサのその言葉にピキッと額に青筋が浮かぶ。

神崎は半場やけくそになって、階段を勢いよく上り始めた。

そして、屋上に着くと神崎はその場でバタッと倒れた。

顔にはじんわりと汗が浮かんでいる。


「はぁ.....はぁ.....はぁ.....」

「遅いですっ!」


 アリサの白い頬がお餅の如く膨れている。

まるで子供のように可愛らしい――が、今の神崎にとっては憎たらしく見えて、その頬をぶにっと潰したくい衝動に駆られていた。

しかし、身体は重すぎて腕すら上がらない。

このまま東京湾に沈めれるぐらい全身が重くて動かない。

そんな神崎の思っている事など知らず、アリサは神崎の側まで歩み寄る。

そして、神崎の頭と肩をポンポン.....と、叩いた。

 身体がスーッと楽になったのか、神崎の顔色は良くなっていた。

しかし、体力が尽きているのかバタリと倒れたまま動かなかった。

アリサはというと、早速、空に向かって話しかけていた。


「あの、皆さん。ここまで無理矢理連れて来てしまい申し訳ありませんでした。一人一人聞くと時間がかかってしまうので、このような行動をとらせていただきました。早速なのですが、誰かこの女性の事を知りませんか?」


 と言いながら、祐希の写真を鞄から取り出す。

 集まった霊は数十人。さすが学校。

 何か学生時代に未練が残っているのか、集まった霊は老若男女で幅広い。

何故か猫の霊もいる。

集まった霊達はお互いに顔を見合わせ首を傾げるか横に振るかしかいない。

そんな中、大勢の中の一人の霊が声を上げた。


「えっ?!私?!」

「.........」

「どっ、どうして、私の写真を?!何で?!」


 無言で後ろを振り返り、いまだ倒れている神崎の傍に寄るアリサ。

すると、アリサは神崎の横腹を足先でツンツンとつつく。


「神崎さん、いい加減起きて下さい。彼女いましたよ」

「なにっ?!」


 神崎は慌てて顔を上げる。

 アリサは自分の手を神崎に差し出し、神崎は差し出された手を握り返す。

そして、アリサ同様に空を見上げた。


「……うわ。また大量に釣れたなぁ。さすが俺。で、例の立花祐希は?おーい、どこだぁー?」


 神崎は空をキョロキョロと見回す。

それらしい人物(霊)に、お前か?と声を掛けても首を振る霊達。


「あ、あの。ちょっと、すみませんっ。通してください」


 沢山の霊をかき分けるように二人の現れたのは、制服を着崩していないポニーテール頭の女子学生だった。


「立花祐希か?」

「あ、はい。そうですけど――」

「あの〜.....話の途中であれなんですけど.....。私達は、もう行ってもいいですか?」


 と、他の霊達が言うので、祐希も神崎も他の霊を見る。

アリサだけはニコリと微笑んでいた。


「はい。皆さん、ご協力ありがとうございます。あ、もし、これから何処かに行くのなら、幽霊喫茶探偵事務所というお店をお勧めします。幽霊でも飲食が可能な不思議な喫茶店なので、皆さんも久しぶりに珈琲でも。場所は、渋谷の幽霊さんに聞いて下さい。もちろん、探偵業もやっているので、何かお悩みな方はご相談下さいね」


 そう告げ終わると、霊達はそれぞれ散って行った。

神崎は隣にいるアリサをジトーとした目で見る。


「密かに宣伝するんじゃねーよ」

「これも仕事の内です」


 ふんっと顔を背けるアリサ。

祐希は、自分はどうしたらいいかわからずその場でオロオロしていた。


「あ、すみません!こんなお見苦しいところを見せてしまい!」

「いっ、いえ.....。あの.....それで、あなた達は.....?」

「あぁ。俺は、警察の神崎透」

「私は、幽霊喫茶探偵事務所の副オーナーを勤めさせていただいています、深海アリサです。お見知りおきを」

「け、警察に.....探偵.....?それに、二人共幽霊が見えるの?すごいなぁ~」

「いえ。霊が見えるのは私だけです」

「へ?で、でも、この警察の人も.....」


 失礼極まりないとわかりつつも、つい、指をさしてしまう祐希。

アリサはそんな祐希にニコリと微笑んだ。

因みに、神崎は眉を寄せ苦虫を潰したかのような顔をしている。


「俺は見えねぇよ。見えているのは、こいつの力のおかげ」

「えーと.....?」

「私が説明致しますね、ふふっ」


 アリサには不思議な力がある。

 一つは、霊を見る力。霊と対話できる力。

これは、云わば"霊感"の部類に入る。

そして、もう一つは他人に霊を見せる力。

 アリサに触れた者は、一時的に霊を見ることができるのだ。

例えば、手に触れる。肩に触れる。

一瞬の接触ならば何も異常は起こさないが、数分若しくは数時間アリサに触れると、触れた者はアリサと同じ景色を見ることができる。

故に、手を握っている神崎は霊が見えるという訳だ。

 神崎の場合は、霊を無意識に無理矢理引き寄せてしまうという体質――つまり、変なところで霊感も強いので、見えるだけでなく霊の声も聞こえるのだ。


「なるほどぉ。世の中、不思議な人もいるんですね」

「だな。本当に変わってるよ、コイツ」


 祐希は不思議な物を見るような目でアリサをまじまじと見つめ、神崎は祐希の呟きに同意見なのか何度も頷きながら言う――瞬間、アリサの微笑んでいた口元がピクリと動いた。



 ――ギュッ



「いだだだだっ!」

「あれ?どうしたんですか?神崎さん」

「てっめっ!」


(この性悪女!つか、握力強すぎだろ?!)


 口に出したかったが、ここで出せば更に酷い仕打ちが来ることは想定内。

なので、悪態は心の中でグッと堪えた。

そして、神崎は意外と握力の強いアリサに少しだけ驚いたのだった。

 アリサは再び祐希と向き合い、ニコリと微笑む。


「私は瑶さんの依頼で、貴女を探していました」

「瑶の?!」

「俺は違うぞ。こっちは、事件の解決を願ってるんでね」


 祐希は、宙にフワフワ浮きながらアリサと神崎の二人を見つめた。

その表情はどこか悲しい顔をしている。


「……そう、ですか」

「それで、まず、聞きたいことがある。事件直後の事は覚えているか?」


 神崎がそう言うと、祐希は渋い顔をして頷く。

何故、神崎がそんな質問をしたか。

霊の中には、ツライ時の記憶、楽しかった記憶しかない者もいるからだ。


「覚えています.....」

「犯人は解るか?」

「.....はい.....」

「それは、誰だ?お前は、どうして殺された?」

「あ、あの.....」

「神崎さん。彼女に無理矢理問い質すのは止めて下さい。可哀想じゃないですか」


 アリサはそう言うと、空いている片方の手で神崎の口を塞いだ。

神崎はアリサの手から顔を背け溜息を吐く。


「わ、わかったからその手を離せっ!」

「全く.....。見た目は中の上ぐらいなのに、性格は皆無でデリカシー0ですね」

「お前に言われたくないわ。この甘党女」

「ふん!貴方に言われたくないですね。小動物マニア」

「んだと、こらぁ」

「なんですか、このぉ」


 バチバチ!と、二人の間に火花が飛び散る。(ように見える)

またしても、祐希はそんな二人にどうしたらいいかわからず、その場でオロオロとなる。


「け、喧嘩は.....よ、良くないです!」


 そう言うと、アリサが祐希に向かってニコリと笑い


「これは、いつもの事ですから」

 と、祐希に言った。


 神崎も同じことを思ったのか、それとも、祐希に申し訳ない気持ちになったのか.....再び溜息を吐くと無造作に頭を掻いた。


「事件のことは無理に話す必要はありません。ツライ記憶ですから」

「.....はい。でも、私.....話します。私みたいに他の子もなってほしくないし、私が不安だから.....」


 そう言うと、祐希は深呼吸を二・三回繰り返し神崎とアリサに事の成り行きを話した。

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