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Part.6

✿―✿―✿



 ――事件現場



「ここが、立花さんが発見された場所ですか」


 現場はおおかた片付いているのか、入り口に見張りの警官は居らず立ち入り禁止のテープだけが貼っていた。

 神崎とアリサはそのテープを潜り現場の中に入る。廃屋なだけあって、中は埃っぽく錆びれた機械だけが置いてあった。そんな中、アリサだけは辺りをキョロキョロと見渡していた。


「神崎さんがだいぶ引き連れて来たので、霊の数自体はやはり少ないですね。まぁ、《《今は》》ですが」

「今は?」

「ここには負が溜まっているので。多分、あまり光を浴びていないせいだと思います。太陽の光でも、霊を祓う力があるんですよ」

「なるほどなぁ。あぁ、アリサ、あそこだ。あの柱の下で立花祐希はビニールシートで包まれていた。恐らく、あの大量のビニールシートから引っ張って来たんだろう。第一発見者は、そこら辺の備品を集めているホームレスだ」


 神崎は青いビニールシートがいくつも積んである場所を指さす。アリサはその場所に歩いて行き、ジッとそのビニールシートを見つめた。すると、ふと、天井を見上げた。

 天井はそれほど高くはなくが、ポッカリと小さな穴が空いていた。アリサは天井に何かを見つけたのか、低い天井に向かって声をかけた。勿論、そこには誰も居ない。


「すみませんが、貴方は、ここにどれぐらい居ますか?」

「お前は…見える、のか…?」

「はい。ハッキリと」


 そこに居たのは、油などで汚れた作業着を着ている中年の男性だった。

その男性の首には太めの縄紐が巻かれてている。紐の先を目で追うと紐は天井の柱に括りつけられていた。

この男性は、生前、ロープで首を吊って自殺した幽霊だ。幽霊は虚ろな目でアリサを見下ろしている。


「.....そうか。どれぐらいと.....聞いたな.....。俺にも.....わからない。それぐらい.....長い時間.....ここに、居る」

「そうですか。もう一つ質問してもいいですか?」

「.........」

「この写真の女性を知らないでしょうか?」


 アリサは鞄から祐希の写真を取り出し幽霊に見せた。


「……知っている」

「詳しい事を教えてもらえますか?」

「.....あれは.....いつだったか.....。晩に.....知らぬ男が大きな女を抱えて.....入ってきた.....」

「なるほど。犯人は男ですか」

「.....女を包み、捨てると.....逃げるようにして.....消えた.....」

「ふむ.....。まぁ、確かに男と言われると納得しますね。人一人ここまで運ぶのには女だと無理があるので」

「ふーん。じゃ、その男の特徴とかわかる?身長の高さとかさ」


 幽霊の言葉はわからず見えずとも、神崎はアリサの呟きを聞いているので、幽霊が何を話しているのかは大体の予想はついていた。

神崎は片手にメモ帳、もう片方にはボールペンを持ってアリサの呟きをメモっている。

霊は神崎の質問に答えるように、今度は神崎を見下ろしている。

しかし、神崎には見えていないので互いの目線は合わないし合っていない。

霊はぼんやりとした表情で神崎を見ると、ふと、口がゆっくり動いた。


「眼鏡を.....かけていた.....スーツを.....着ていた……」

「ふむふむ。眼鏡にスーツですか」

「なんか意外と普通のサラリーマンって感じで特徴がねぇなぁ」

「.....左手に.....傷みたいな.....ものもあった.....」

「なるほど。有り難うございます」


 そう言うと、アリサはニコリと微笑んだ。

 霊はアリサをジッと見つめる。


「.....あのは.....天に還ったのか.....?」

「いいえ。多分、まだいます。まぁ、私の勘ですが」

「.....そう、か.....」

「貴方は、天に行きたいのですか?」

「わから、ない.....。俺は.....自分で.....この命を絶った.....。今更.....天に還りたいという願いも.....叶うはずが、ない.....」

「………」

「お前の連れの男にも.....俺を.....連れ去ることは.....出来なかった.....。きっと.....これは.....俺の、意志.....なのだろう」


 霊はアリサを見下ろしながら言う。

神崎はというと、どうやら話が事件から逸れたと薄々わかり離れたところでアリサの様子を伺っていた。


 アリサはフッと笑った。

それは、自信満々の笑みだった。


「私にはできます。私には、貴方を還すことができます」

「.....それは.....本当、なのか.....?」

「はい」

「.....いや.....それでも.....遠慮しよう。.....俺は.....ここで罪を犯したから.....」

「罪、ですか?」

「ここは.....俺の.....工場だった.....。あの時.....俺は.....闇に、手を染めていた.....。そして.....気づいた一人の従業員を.....殺した....。遺体は.....俺の下に.....埋めた。後になって.....彼の家族が.....行方を追って、ここに尋ねた.....。まだ.....小さい娘と若い奥さんだった.....。

俺は.....自分の欲の為に.....その家族の、未来を奪った。酷く後悔した.....。だから.....自殺した.....。彼のいる場所で.....」

「そう、ですか」

「だから.....俺は.....いる」

「わかりました。けれど、また来ます。貴方を苦しみから解放させる為に。そして、貴方の下にいる従業員さんも」


 アリサは強い眼差しで霊を見つめ返す。

霊はアリサの強い意志を感じとったのか、アリサから目線を離し何も無い虚空をジッと見つめた。

アリサはそれが返事に見え、ニコッと再び霊に微笑みかける。

そして、霊に頭を下げるといつの間に買ったのか、新品の煙草を吸おうとしている神崎を見た。


「んぁ?何だ、もう個人的な話は終わったのか?」

「はい。神崎さん、次に行きましょう」

「はいはい」

「それと、もう少しこの場所を調べてくれますか?」

「あ?何だよ急に」

「わたしが立っていた場所に男性の遺体が埋まっていますので」

「.............」


 アリサのその言葉に、神崎は咥えていた煙草を落とし口を魚のようにパクパクさせて驚いていた。


「はぁ?!あ、あの場所にまた遺体が?!」

「私が話した男性の幽霊ですけど.....昔、殺してしまったそうですよ。それと、遺体を引き出す際は私も呼んで下さい。必ず!ですよ」


 神崎は溜息をついて面倒くさそうに頭を搔く。

そして、ポケットからメモ帳とボールペンを取り出し、犯人についてアリサに改めて聞いた。


「わかったよ。で、他に何かわかったのか?立花祐希を殺した人物について」

「左手の甲に傷があったらしいです」

「ほぉ〜」

「それが古い傷なのか新しい傷なのかはわかりませんが.....とりあえず、彼女の学校及びさほの周辺も調べていこうと思います」

「だな」


二人は頷き合うと廃工場を後にし、立花祐希が通っていた高校へ向かった。

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