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Part.5

 ✿―✿―✿


「申し遅れました。私は、この店の副店主をしています。深海ふかみアリサです。お見知りおきを」

「俺は、神崎透かんざきとおる。刑事課の警察だ。ほい、これが証拠な」

「……警察」


 神崎は内ポケットから警察手帳を取り出し瑶に見せ、黒い小さなメモ帳を取り出す。そして、カチッとボールペンを押し、瑶にいくつかの質問をした。その質問は写真に写っている少女――祐希のことだった。


「君の名前と彼女との関係性を詳しく聞いてもいいか?」

「あ、はい…俺は、斎藤瑶さいとうはるか。高校二年です」


 瑶は隠すことなんて何も無いので、自分のこと祐希のことを神崎に包み隠さずに話した。

歳は、瑶と同じぐらいだろう。写真の中の祐希は、とても楽しそうに友達と笑っていた。


 瑶は写真にそっと触れる。


「彼女は、立花祐希たちばなゆうき。俺の彼女です…。お互い違う高校ですけど、半年前の学校同士の交流会で知り合いました。同じ班で、お互い名前が可笑しいよねって祐希が突然振ってきて…それから、色々共感するところもあって、仲良くしている内に付き合い始めたんです」

「名前が可笑しい、ですか?普通の名前かと思われますが…」


 アリサは小動物みたいに小さな頭をコクリと傾げる。そんな可愛らしい姿に、瑶は思わず苦笑した。


「はい。俺、昔から名前が女の子みたいだって、からかわれたりしたんです」

「確かに"はるか"って名前は女っぽいな」

「なるほど」

「それは彼女も同じで…祐希っていう名前が男みたいだって言われ続けていたらしいです。現に、小さい頃は短髪で、外を走り回っていたそうです。それもあって、よく男と間違われていたって話していました。俺なんて、昔は姉貴に女装させられていたし。それで、お互い性別が逆だったらねって、祐希のやつ笑って……」

「それで、連絡は?最後に会ったのはいつか覚えているか?」


 神崎は真剣な顔で瑶に聞く。

瑶は神崎の顔を見た後、視線をカプチーノに落とした。カプチーノはすっかり冷えて、泡もいつの間にか少なくなっていた。


「最後に会ったのは、4日前です。祐希の母親から電話がかかってきたんです.....。もう、2日も帰って来ないって。俺、祐希の携帯に電話とかメールとかしました。いつもは遅くても返してくれるのに、今回だけは全然連絡が無くて…。祐希が帰ってない前日、俺、祐希と遊んだんです。あの日は、いつも通り元気だったし帰る時も…でもっ……!」

「なるほど。それで遺体が発見された、ってことか」

「神崎さん!何、突拍子も無く言って――」

「――やっぱり、そうですか…。薄々、そうなんじゃないかって思っていたんです。でも、信じられなくて…」

「彼女は、廃屋となった工場の中で遺体となって見つかった。遺体の検査をすると、殺されたのは4日前のこと。つまり、彼女が殺されたのは、君と別れて間も無くだろう。遺体には、睡眠薬の成分と殺傷が複数。犯人の意図はわからないが気分の悪い殺し方だった……」

「そう、ですか……」

「それにしても、死亡については母親から連絡が無かったのか?」


 瑶は黙ったまま頷く。

心無しか、ショックのあまり顔色も悪く見えた。アリサはそんな瑶の様子に心配するが、瑶は下を俯いたまま話しを続けた。


「はい…今、初めて聞きました……。別れた日の晩、俺、祐希の夢を見たんです。なんか、悲しそうに笑ってて……。嫌な予感しか無かった…そんな夢見たくなかった…!でも、考えてしまうんだっ!もし、祐希が死んでいたら、あれは祐希の幽霊で夢枕に立ったんじゃないかってっ……!祐希の母親からは何も連絡は無いし…しても、出て来ないし……信じたくなかったけど、確かめたかった。もし、本当に死んでいたなら、祐希に言っておきたい事があったんだ。幽霊でも何でもいいから会いたかった!あんな別れ方、ねぇよ…くそっ!」

「だから、ここに来たのか?」

「はい…。半信半疑だったんですけど……もし、本当ならって思うといても立ってもいられなくて…」


 神崎はズボンのポケットから煙草を取り出す――が、アリサによって煙草はむしり取られてしまった。

アリサはシドー…(。¬д¬。)っとした表情で神崎を見る。


「ここは禁煙です」

「ケチなやつ…。で、どうするんだ?アリサ」


 アリサはムスッと頬を膨らませ、手にした煙草をグシャッと握り潰すと問答無用でゴミ箱の中にポイッと捨てる。


「あ!俺の煙草!」

「もちろん、貴方に言われなくても引き受けますよ。仕事ですからね。それに、放って置くことも出来ませんから」


 アリサはプイッと神崎から顔を背け、瑶の方を見る。


「斎藤さんの恋人――立花祐希さんは、まだ何処かに留まっていると思いますよ」

「どうして、そんな事がわかるんですか…?」

「勘だよ。チッ…」


 神崎がムスッとしながらテーブルに頬杖をつく。煙草を目の前で握り潰され、且つ、捨てられたのが相当気に食わなかったらしい。


「勘、ですか?」

「アリサの勘はよく当たる。幽霊がビビって怖がるぐらいにな」

「煩い、ボケ神崎」

「誰がボケだっ?!」

「ふんっ!あ、斎藤さん。こんな人は放っておいてもいいですからね?こんなゴミ屑野郎の刑事さんなんて。とりあえず、です!何となくですが、立花さんも貴方に会いたいと思っているような気がします」

「……祐希が?」

「はい。立花さんを発見したら、斎藤さんにも御連絡します。あ、それと、こちらが当店の電話番号です。どうぞ」


 アリサは小さなマッチを瑶に手渡す。マッチのケースには店の名前と電話番号とメールアドレスが記載されていた。

瑶はマッチを受け取り、自分の連絡先もアリサに教えると冷えたカプチーノを一気に飲み干す。そして、代金を払い神崎とアリサに深く頭を下げた。


「祐希のこと、宜しくお願いします!」

「おぅ」

「お任せ下さい」


 .................

 .............

 .......


 瑶が店を出ると、店内にはアリサと神崎の二人だけになった。店のBGMには心地よい時間が流れるようなクラシックが流れている。


「で、どうやって探すんだ?遺体現場の霊は、俺が多方連れて来たし。お前が祓ったし」


 ゴソゴソとポケットをまさぐり煙草を探す神崎。そして、ふと、先程アリサの手によって煙草が捨てられたことを思い出す。

神崎は無意識に舌打ちをすると、空になったコップに水を注ぐ。


「どうもこうもありませんよ。現場に行き調べるしかありません」

「ま、そうなるよなぁ」

「そ・れ・と!祓ったお代、まだ頂いてませんが?!」


 アリサは「さぁさぁ!」と言いながら神崎に両手を差し出す。

神崎は、そんなアリサの視線から目を逸らし背を向けながら水を飲んだ。


「あ〜……その、なんだ。この事件が終わったら渡す!」

「……はは〜ん?それは、忘れたということですね…」

「ギクッ!」


 アリサは、ぷくぷくもちもちな白い頬を本当のお餅のように膨らまし、その蒼く大きな瞳で神崎をキッと睨んだ。


「フェアリーケーキフェアの動物カップケーキ……」

「は…?」

「二度は言いません。それじゃないと、私、許しませんからっ!」

「わ、わかったわかった!買ってきます!あ~…それで、さ。今日は紅葉もみじはいないのか?」

「紅葉なら、あそこの椅子で寝ています!」


 不機嫌丸出しでアリサは店の端のテーブル席の方を指す。アリサが指したテーブル――いや、正確にはその席の椅子の上には、黒い小さな兎が饅頭みたいに丸くなってスヤスヤと眠っていた。


「っ!?け、携帯携帯!」


 神崎は慌ててポケットから携帯を取り出し、紅葉の所まで忍び足で歩み寄るとパシャリと写真を撮った。まるで、自分の愛娘愛息子の顔のように表情は緩みきっている。


「はぁ〜……今日も、モフモフで可愛いなぁ」

「……」

「お、尻尾がピクっと動いた!か、可愛い〜!!と、起こしちゃまずいな」


(この小動物オタクが……)


 アリサは心の中で毒を吐く。内心はどん引きだ。それもそうだろう。女みたいにルンルン気分で兎を眺め、はたまたは違う角度で写真を撮ったりしているのだから。


「相変わらず、見た目はソコソコですのに、中身はまるっきり残念ですね…」

「うるせーな。お前だってそうだろうが!顔面詐欺女!」

「ふんっ!私は、見た目も中身も完璧です!」


 アリサはそう言うと、腰のエプロンを外しカウンターと奥を繋ぐ入り口にエプロンを掛ける。


「ほら、行きますよ」

「は?」

「は?とは、何ですか。現場に行くんですよ」

「いや、それはわかるけど…。その格好でか?」

「何か問題でも?」

「いや……問題っていうか、なぁ?」


(その服で出かけると、普通目立つだろう)


 そこは敢えて口には出さない神崎。

アリスの見た目も充分に注目を浴びるが、それプラスその制服。コスプレではないとわかっていても、見た目は10代に見える少女がバーテンダー風の制服を着ているのだ。メイド服よりかは幾分マシだが、それでもコスプレ?と思う者も中にはいるだろう。


(目立つ。本人は気にしなくても、これは目立つ…はず)


「ほら、早くして下さい」

「あー、はいはい」

「それじゃぁ、お祖父ちゃん行って来ます」

「え、お前の祖父じいさん居たの?」

「今日は朝からずっと居ます。いつもの席に。一番端の左側のカウンター席です」

「へぇ」


(あー、だから、いつもあそこに座る客いなかったのか)


 そんな他愛ない話をしながら、二人は喫茶店を出たのだった。

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