Part.1
人が次々と行き交う渋谷のスクランブル交差点。
信号待ちする人は数知れず。青になると一斉に歩き出すその様子に初めて訪れる人は、ぶつからないのだろうか?と不思議に思うだろう。
そんな人混みの中を四人の男子学生が歩きながら会話をしていた。
「なぁ、お前らさ、この話し知ってるか?」
「は、何?」
「唐突だな」
「何かさ、幽霊関連の仕事を受ける店がこの渋谷のどこかにあるんだと」
「へ~」
「胡散くせぇーww」
「だよなぁ~。俺も、ネトサしてた時にたまたま見つけたんだよな。そもそもさ、幽霊なんて誰が信じるかよ。なぁ、瑶」
男子学生は一番端で黙って歩いている瑶という友達に話しかけた。瑶はハッとした様子で慌てて返事を返す。
「あ、あぁ!そうだな!」
「お前、ボーッとしてるけど大丈夫か?」
「あぁ。ちょっと考え事してただけだよ」
「お!なぁなぁ、あそこのゲーセン行こうぜ!」
真ん中にいるもう一人の男子学生が人で賑わうゲーセンをさした。
入り口にはガチャガチャが設置されており、数名の女の子達がガチャを回している。
「あぁ~、タブったぁ」
「推しが当たりますよう…当たりますよう…」
「やった!カラ松きた!」
どうやら、設置されているガチャは乙女関係の物らしい。中には、その場でトレードする者いた。
「いいな、行くか!」
「今、ラブライブフェアやってるじゃん!やるしかないな」
「お前、本当にオタクだなww」
「うるせぇ!かよちんの良さをお前も知れ!」
「因みに、俺は海未派」
「あ、なぁなぁ。それ終わったらさ二階で対戦しねぇ?」
「やるか!」
三人は笑いながらゲーセンの中へと入って行く。瑶もその後に続くが、どうも浮かない顔だった。顔色も少し悪く見えた。
瑶はボンヤリとした表情で澄み切った青空を見上げる。
「幽霊関連の仕事を受ける店かぁ……」
………………
…………
…
「今日も暇じゃな」
無精ひげを生やし、バーテンダーの服を着た年配のお爺さんがカウンターの席で頬杖をつきながら呟いていた。
カウンターの奥では、白い珈琲カップを磨いている女が一人立っている。
その女もお爺さんと同じ服を着ていた。
カップをクリーム色の布巾で磨く度に、キュッキュッと心地よい音が鳴る。女性は長い睫毛の奥にある瞳を細め、ぷっくりとした可愛らしい口を開く。
「……お祖父ちゃん」
"お祖父ちゃん"と呼ばれたお爺さんの名は――徹三。この女性の祖父にあたる人だ。
徹三はビクリと身体を震わせ苦笑する。内心焦っているようにも見えた。
「あ、あはは!すまんすまん。別に悪気はないからの?そうじゃな〜、ここは客引きをしないといけないな!」
「違う!」
「はい……?」
徹三はポカンと口を開け、女性を見ている。女性はカップをガンッと鳴らしながら思い切りテーブルに置くと、徹三はカップが割れていないかヒヤヒヤしていた。
しかし、そんな徹三の気持ちとは裏腹に、女性は目を釣り上げ徹三に向かって怒鳴り始めた。
「逆に忙しかったら私が大変やろ?!そんなん嫌や!!そりゃぁ、儲かることはええかもしれんけど、バタバタとアタフタとするのはウチ、嫌やで?!嫌やろ?!――って、お祖父ちゃん聞いてるん?!」
「アリサ、お前――」
「な、なによ……」
「怒った顔も中々可愛いのぉ〜♪」
その場でガクリと女性は項垂れる。
この美しい女性の名は、深海アリサ。この喫茶店の副店長(またの名を店主代理)みたいなもの。ヘラヘラと笑っている孫娘馬鹿な祖父(徹三)そこが、この店の真の店主である。
――カランカラン
店のドアベルが鳴ると、徹三はニヤリと笑い無精ひげを撫でた。
「お客様じゃのぉ」
「わかってるわよ、もう」
アリサは接客用の笑顔でニコリと客に向かって微笑む。
その微笑みは、まるで、女神や天使のように美しく可憐な微笑みだった。
客はアリサの微笑みに思わず足が止まる。しかし、アリサは気にせず、いつも通りお客様に接した。
「いらっしゃいませ、お客様。幽霊喫茶探偵事務所へようこそ。さぁ、奥へどうぞ」




