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戦国DNA  作者: 花屋青
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貴族と細川

 杉谷騒動後の休日朝。

 黒田は眉間に皺を寄せ、山田家の家計簿をテーブルにバサッと広げた。

「お前ら! このままじゃ、家計が火の車じゃ!」

「マジで? タクシーを使いまくったからか。」

「そんなに贅沢はしてないつもりですが……何故でしょうか?」

 黒田は溜め息をついて言った。

「タクシーの件はワシの対処が遅かったせいじゃ。すまぬ。しかし他にも無駄な出費が多い。

 まず新聞だ。八紙も取る必要があるのか? 特に意味不明なのがパエリア新聞じゃ! 読めない言語の新聞をとってどうする! 勉強をしている訳でもない! あと、埋蔵金新聞とかプラモデル新聞ってなんじゃ! わけのわからない新聞をとるな!」

 行也は頭を掻きながら言った。

「契約件数のノルマが達成出来なくて、クビになりそうだと言われまして……。」

「それじゃあしょうがねぇよなぁ。」

「このご時世でクビは、しんどいでござるからな。」

「お前らバ……何でもない。まずは自分を救え。自分の足場がしっかりしてこそ、相手の手を取って立ち上がらせることができるんじゃ。」

 黒田は諭すように続けた。

「それに行也、新聞代を節約すれば、行人に美味しいものを食べさせてやれるぞ!」

 行人は目をキラキラ輝かせる。

「兄貴! 俺、謎屋の嘘カレーが食べたい!」

「わかった! 来月で全部解約だ!」

「極端じゃのう! 二紙くらいは取って、世の中の動向を知るべきじゃ。昨日は近所で事件があったんじゃぞ! 

 食材の値上げ、謎の病が流行っていること、通信衛星が落ちたこと、来年のネオ大河ドラマで伊東祐兵とか……世の中はめまぐるしく動いておる!」

 その後も黒田は延々と家計のアラを指摘した。

「それにしても、よく行也は連帯保証人にはならなかったのぅ。致命的な詐欺に遭わなかったのもまさに奇跡じゃ。」

 兄弟の顔に影が落ちて、沈黙が広がる。なにかを察したのか悲しげな島津、首を傾げる黒田に、行也は静かに口を開いた。

「……連帯保証人にだけはならないことにしています。」

「それがよい。あと……飼い主ペット共用ダイエットマシーンてなんじゃ!」

「訪問販売で来たお母さんが、子供の薬代にするから買って欲しいと……。」


 朝食後。行人はコンビニに雑誌を買いに、島津はまたモモンガ相談へ。黒田はてきぱきとテーブルを人間の雑巾がけのように拭いていた。

「よし! 完了じゃ!」

 黒田はテーブルからそーっと飛び降りる。そして台所で皿洗いをしている行也の元へ向かった。お礼を言う行也に、黒田は真剣な顔で彼を見上げて話しかけた。

「戦士の任務を押し付けたワシが言うのも難じゃが……将来はどうするんじゃ? 警備員は中年以降は厳しいのではないか? 行人もいるし、すぐ仕事を変えるのは無理じゃろうが……。 ワシも情報収集や資格取得の勉強には付き合うぞ。引き出しに職業訓練校や資格の学校のチラシを入れて置いたから、後で読みなさい。」

「ありがとうございます。……ただ、資格とか転職よくわからなくて……。」

「焦らず考えるんじゃ。とりあえずお前は料理が好きだから調理師免許を取るとか、やりたいことを考えなさい。ワシはちょっと教会に行ってくる。」


――水色の地に様々な模様の曇が浮かぶ磁器のような空を見上げ。黒田は歩きながらポツリと呟く。

「将来、か。……まぁとりあえず今は九州を守ることが大切じゃな!」

 そう思い直して歩きだすと、額にキズのある白い兜モモンガと出会った。公園で騒いでいた細川忠興である。白モモンガは毛を針のように逆立てて唸った。

「黒田ァァ! ……失礼しました。大殿でしたか。」 細川忠興は黒田の息子の長政と仲が悪い。頭を下げる細川に黒田も会釈する。

「お久しぶりじゃ。細川殿。島津殿から(迷惑行為の)話は聞いておる。元気そうで何よりじゃ。ところで戦士は見つかったかの?」 細川はため息をついて下を見た。

「……はい。服のセンスなど、細川という名にふさわしくない気もしますが……。」

「失礼ですネ。」

 背後から、巻き尺を鞭のようにしならせたイタリア貴族風の少し小柄な少年が走ってきた。十六才くらいだろうか。金髪の緩い巻き毛で美しい顔立ちだが、無表情である。

「黒モモさん、お怪我はございませんカ。」

「大丈夫じゃ。ワシは黒田官兵衛と申す。お主は?」「ラーシャ・カーソンと申しまス。以後、お見知り置きヲ。」

 黒田は恭しく頭を下げる少年と細川を見上げた。

「立ち話もなんじゃし、うちでゆっくりお茶でもどうじゃ?」


 ラーシャと細川は居間に通され、行也はお茶と手作りのマドレーヌと裏ごしした薩摩芋の茶巾を出した。

「細川殿はキチ……繊細じゃから丁寧に接するんじゃよ。それからニセ幽斎の話は禁句。ワシがそれとなーく話しただけでキレたからのぅ! 

 ガラシャ殿の話はもっと禁句じゃ。 今日は昼間からガラシャ殿のドラマをやるから1582チャンネルだけはつけるなよ。」

 島津を探しに行った黒田の伝言通り、丁寧に対応する行也。しかし。


「何だこのお茶は! 濁った池のような味だ!」

「すみません! 入れ直します!」

「茶葉が悪い! 違うのを出せ!」

「うちはお金がなくて、このお茶も一応、奮発したものです。ご容赦下さい。」

「まったく!」

「屋久島たんかんジュースはいかがですか?」

「いらん!」

「ではモモンガ用ミルクとか水とか……。」

そっぽを向いて黙る細川。ラーシャはため息をつくと、彼を持ち上げた。

「貴様は失礼デス。」

「ギャー! 何するんだお前ッ!」

 ラーシャは無表情で細川を巻き尺でベランダのさんの内側に縛り付けた。

「ラーシャ君! 俺は気にしないから!」

 ラーシャは首を振った。

「時には厳しくするのも大切デス。忠興サンのためデス。」

「細川さんのために……。」

 行也は思案して、とりあえず薩摩芋の茶巾を皿ごと細川に渡した。

「お口直しにどうぞ。」

 躊躇しつつも器用にフォークで口に運んだ細川は、一瞬目を見開き、花が辺りに咲き広がるように微笑んだ。

「……美味しい!」

 その後部屋に戻った二人と一匹。

「小倉城のライトアップキットつきプラモか……。でも安土城限定モデルも捨てがたい……。」

 細川はプラモデル新聞の世界に入り込んだ。

 彼がこっちの世界に帰ってきた頃。黒田、島津が帰ってきた。


――みんなが集まった所で、ラーシャと細川は自己紹介を始めた。

「細川忠興です。趣味は茶道、特技は水泳、絵を書くこと、あと兜のデザインなど。一言で言うと文武両道の美男子です。よろしくお願いします。」

「今日から戦士にナリマスラーシャ・カーソンデス。。高校一年生で、趣味は手芸デス。よろしくお願いしマス。」

「こちらこそよろしくお願い致します。でも……ラーシャ君はまだ高校生だね? ご両親の許可は得たのか? あと戦士は危険な事が多いし、装備の甲冑すら安全かわからない。よく考えた方がいい。」

 真剣な眼差しの行也にラーシャはハッキリと言った。

「大丈夫デス。細川サンにも同じコト言われまシタ。日本人はしつこいデスネ。……それからこれは忠興サンからお土産です。無駄に手作りデスヨ。」

 ラーシャは青い石でチューリップが刺繍されたリュックから、小箱に入ったモモンガ用帽子を取り出した。島津と黒田の兜を簡略化したデザインの麦わら帽子だ。


「すごい! お店で売っていてもおかしくないですよ! 黒田先生の兜のメタリックな赤も再現されているし、よく見ると赤い透明なビーズで藤がワンポイント刺繍されている!」

「ガーネットだ。」

「すげぇ凝ってんな! 師匠の兜も前についたかざりだけじゃなく刺繍まで再現されてるぜ!」

「徹夜した。」

 黒田と島津はそれぞれ帽子を被って見る。

「ぴったりじゃ!」

「頭が蒸れないからこれからの季節に重宝するでござるよ!」

 その刹那、黒田達の兜が光った。

「皆、出陣でござる!」

 島津は腕を突き上げて叫んだ。


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