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戦国DNA  作者: 花屋青
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最後の茶会

仲間の友樹を救出すべく、ネオ安土城に侵入した行也達だが。

天守閣に誘き寄せられ、完全包囲されてしまう。

 彼らは小早川と黒田の策で何とかその危機を脱し。友樹を救って城を脱出する作戦を新たに立てた。

 それは行也達が城内の敵を撹乱し(できれば追っ手の頭数も減らす)、

その間に救出隊の鍋島・立花・田中・栗山・母里が友樹を救うというもの。

 別行動になった島津、吉川、長宗我部は辛くも井伊と榊原に勝ち。行也達と合流を目指す。

一方、行也達も島津達を探すが。しんがりの春彦は以前戦った蒲生が背後から追ってきたことに気がついた。


「今日こそお前達に引導を渡す!」

 蒲生の目も銀の鯰尾兜も甲冑も。前回以上に鋭く厳しく激しく光り。

行也達を糾弾する。

 蒲生がここにいるなら近くに名古屋がいるはずだと考えた春彦は。リュックを漁りながら叫んだ。

「……目を瞑るんじゃ! 名古屋じゃ!」

「戦国一〇八計・美しすぎる男。」

 皆が目を閉じた直後。影から出てきた名古屋は。光の衣を纏って輝き出した。

サングラスを掛けた春彦、神崎、霧沢は。横並びで皆を守る柵となる。

サングラスをかけた蒲生は前に進み出た。

「……健気な奴等だ!

 戦国一〇八計! 利休七哲・蒲生の茶室!」

 蒲生は素早くポリタンクの抹茶を床にぶちまけた。

「やばい! 全員で逃げるんじゃ!」

 黒田の叫びに走り出す皆。

 一方ポリタンクの抹茶を床にぶちまけた蒲生は手早く黙々と作業を続けていた。

彼は兜のチャックをあけて小さな棗を取りだす。

さらにその棗の中に入っていたミニチュアの茶道具を手に載せ。

自分の前の抹茶の池に叩き落とした。

すると。巨大な茶道具に手足が生えた生物が三十体現れた。

「オチャノジカンダヨ!」 手足が生えた生物棗、茶碗、茶筅、茶釜、茶杓は。手足をバタバタさせながら蒲生や名古屋と一緒に行也達をドタドタ追う。

小早川はすぐにピンと来た。

「挟み撃ちです! 蒲生の性格なら逃げるなとか煩いはず!」

「確かに! 龍造寺殿! あの技を頼むぞ!」

「……言われなくてもわかっている……。」

……小早川の予測はすぐに現実となった。先頭の行也達の進路の先に。

銃を構えた足軽達二十数人が現れた。

足軽の後ろのトナカイはコントラバスのような声で叫ぶ。

「撃てーー!!」

「…戦国一〇八計・宝仙院の扉!」

 先頭に来ていた龍造寺は両足で踏ん張り。小さなテーブル大の鉄塊を張り手で放つ。

パン生地のように伸びた鉄塊はあっという間に廊下ほぼぴったりサイズの鉄の扉となり。

 敵の弾丸を跳ね返した。

扉は龍造寺の体三m前で止まる。 海はお腹がなった龍造寺に鰹チップスの小さな小さな小袋を渡した。

「お疲れ!

 これ、カロリー低いしおいしいよ!」

「………いいのか。」

 龍造寺は仄かに素直に微笑んだ。

 一方。技の発動中に海の背中の黒田は天井を差した。

「細川殿。天井を埋めてくれ。」

 細川は無言でハバネロ蓮根を刺した槍を穴に入れた。

「誰かいる! ラーシャ!」

「ちょっと待ってくだサイ!」

 ラーシャはマンホールのように伸ばした卑弥呼の土を渡し。細川はそれで天井の穴を埋めた。

そのように彼らが右往左往している間に。龍造寺フォロー要員の海・行人以外はサングラスをして蒲生に向き直っていた。

「お兄ちゃん!!」

「神崎さん! 春彦さん! 高木さん!」

 手裏剣や銃弾で粉々になった茶道具がマキビシのように散らかる床。

その上を先程よりもゆっくりだが走ってきた茶筅、茶釜、茶碗、棗は。前列の茶道具がやられた瞬間に最前線の神崎、春彦、霧沢、高木に飛び掛かる。

その中の一体・棗から神崎は何とか身を交わす。

しかし。春彦達は彼らにがっちりと捕まれてしまった。

茶道具達は体当たりしてきた神崎達を蹴飛ばし。

蜂の巣になりながらも彼らを抱え。

背後の抹茶色の茶室へ一緒に入っていった。

「扉を蹴破る!」

 行也達は扉に体当たりしたが。びくともしない。

手裏剣も効果がなく。

銃弾で扉を打っても十文字斬も効果無し。

「爆弾は危ないし……」

「四国のふ」

「もう二枚使ってしまったじゃろ。扉が破れた時や鉄砲隊がまた来た時のためにとっておかないと。」

 黒田の言葉通り。背後の宝仙院の扉も悲鳴をあげてきた。

「ととと扉を補強しないとやばいっす!」

「細川殿! 私も手伝うー!」

 細川とラーシャ、そして志願したヨッシーと輝元は扉の補強に走る。

 一方行也達はガシガシ茶室に切りつけるが。茶室は壁は多少傷付いただけ。

 皆は突如現れた廊下ぴったりサイズの茶室を、固唾を飲んで見つめた。


……抹茶色の茶室の中で。春彦・霧沢・高木は座布団に正座させられ。座布団ごと足を抹茶色の紐でぐるぐる巻きにされていた。

「イマオチャヲイレルカラネ!」

 そういって刀を没収すると。正座した三人に背を向け。和菓子をこねたり、お湯を沸かすひび割れた茶道具達四体。

「茶なんか呑気に飲んでいられん……」

 部屋に焚かれた香は眠気を誘う薫りを放っていた。

 春彦と高木は重くなってきた瞼を必死で持ち上げ。慌てて刀を探す。

 霧沢はそんな彼らに冷静に答えた。

「…刀は部屋の隅のあの箱だ。これを瞼に塗れ。眠気が飛ぶ。」

 霧沢から渡された小さな丸い缶の中のクリームを瞼に塗る二人。

瞼から広がるピリピリした感覚とさわやかな香りに彼らは眠気が吹き飛んだ。 茶道具達がまだ背を向けているのを見た春彦は懐を探る。

「何か紐を切るものは……」

 懐から出てきた細長い焼き菓子『超堅焼きロングブリッツ涙味』にぐにゃりと頭を落とす春彦。

それを見てカッターを差し出そうとした霧沢だが。すぐに手を引っ込めた。

ブリッツを見た高木が小さくガッツポーズをしたからである。

 霧沢は自分の縄を切った後、胸を高鳴らせて高木を見守る。

そんな視線を他所に。高木に頼まれた春彦は歯でブリッツを鋸型に加工。

それを受け取った高木はまず春彦の紐をぶちきり、続いて反対側の霧沢を見た。

「霧……」

「…もう解けた。私はカッターを持っていたので。」

「じゃったらはよぉ言ってつかぁさい!

そうゆう態度は人としてどうなんか!」 ちょっと非難がましい目線の二人。

「確かに失礼した。

だが高木さんは今すぐご自身の縄をほどかれた方が良い。」

 霧沢は苦笑して立ち上がると。高木が自身の縄をほどいている間に部屋の隅に走る。だが。

「スワッテナサイ!」

 刀の入った箱の目前で。霧沢は茶筅に陣羽織をひっ捕まれ。壁に叩きつけられた。

 一方。慌てて走ってきた二人に。茶釜と茶碗が襲いかかる。

 お茶を持って震える棗を無視し。戦う三人と三体。茶碗の重量級ボクサーのような重い拳を避け。春彦は呟いた。

「パワーはあっちの方が上じゃな……。」

 春彦は素手での戦闘が苦手と言っていた高木をちらりと見た。

「ホワァア!」

 ブリッツを握り。フェンシングのポーズで構える頬が腫れた高木。

彼は茶釜の傷口をブリッツで突いた。まるで鷹が獲物を仕留めるような神速の一撃で茶釜は粉々。

「チャガマチャン!」

「オノレ! カタキヲトル!」

 泣き出す棗。雄叫びを挙げる茶筅。

 高城を横目で見ていた春彦はほっと長い息を吐いて茶碗と向き合った。

だがその数十秒後。

「ブリッツが!」

 高木は折れたブリッツを見て一瞬動きが固まった。

霧沢と戦っていた茶筅は霧沢を床に叩きつけ。動きが鈍くなった高木に体当たり。倒れた高木を蹴り続けた。

「高木さん!」

 なんとか茶碗を吹っ飛ばして走ってきた春彦。

だが茶筅は振り返って春彦を蹴飛ばし。再び高木を蹴り続ける。

「チャセンチャン! ヤリスギ!」

「ナツメクンウルサイ!」

 震えながら走ってきた棗を平手打ちし。再び高木を蹴る茶筅。

「大丈夫か……」

 その隙にふらふらとやってきた霧沢を見て。高木は目を見開き。立ち上がった。

「髪の毛頂戴いたーす!」

「……え。」

 高木は霧沢の硬く艶やかな前髪を一本引き抜き。 奇声を発した。

「ひぃやぁふぁー!」


 霧沢の髪の毛は高木の手により鋼の針と化し。

黒い閃光はビュッ! と風を斬る音を立てて走り。茶筅のヒビに突き刺さった。

 バラバラと崩れた茶筅。その間に春彦は茶碗をぶん投げ。仰向けに倒れた茶碗を手刀で割った。

「燃え尽きた……。」 仰向けに倒れた高木を庇うように春彦は立ち。

霧沢は刀を取り返して二人に渡す。

「降伏せぇ!」

「ミンナノカタキ!」

 棗は内股でドタドタ走って殴りかかる。

茹でたほうれん草のようにへにゃんとしたその拳。

春彦はそれを軽々と避けながら溜め息を吐いた。

棗の体には汗が流れ。足元はガクガク震えていた。

「わりゃぁどう見ても弱いけん! 降伏せぇ!

ここでわれが死んだらわれの殿様も困るじゃろ!」


「ヤサシクシテクレタトノニハ、モウシワケナイケド…ココデシニタイ……ミンナノトコロへイキタイ……。」

「……。」

 棗には顔がない。目も無い。声も静かな声だ。

しかし。春彦にはなんとなく棗が泣いている事がわかった。

 皮肉なことに。蒲生が棗達をとても大事にしていたことで、棗達には感情が宿ってしまったのである。

「……ほうか。」

 どの道蒲生を倒したら彼も消える……。だが……。 春彦が震える手で刀を構えていた時。霧沢は割って入った。

「……私達はお前を殺したくはない。心残りはないのか? 二度と殿には会えないぞ?

お前は戦力外だからここから出してくれれば、もう降伏しなくてもいい。

ぶん投げるだけで許してやる。」

「トノニアエナイノハサビシイケド……アワセルカオガナイデス……ソレニモウツカレマシタ。

 トノニナッツタチガオセワニナリマシタ、アリガトウゴザイマシタトオツタエクダサイ。

アト、ヨーグルトはチャントマイニチタベテクダサイト……。」

 そう言って手で十字架を斬り。両手を組んで膝をつく彼に、霧沢は頷いた。

「……わかった。」

 霧沢は棗の頭を一瞬でスパッとかち割った。

 茶室は崩れ。呆然とした蒲生と春彦は目が合った。

 蒲生は自分の頬を叩き。春彦の元へ走る。彼は無言で春彦へ刀を振り下ろした。

青く燃えるようなその刀を春彦は冷静に受け。

彼らは鍔迫り合いを始めた。

「殿!」

 名古屋は素早く春彦の真横に回り込もうとしたが。

蒲生は鼻声で彼を怒鳴り付けた。

「手を出すな。こいつは俺が仕留める。」

 プライベートでしか「俺」

と言わない蒲生の素の怒りを感じた名古屋は。静かに頷いた。

「……畏まりました。余程危なくならない限りは手を出しません。」

 霧沢達に向き直った名古屋は。刀を構えた。

天井が低い三階では名古屋の長槍は使いにくいのである。

「いざ尋常に勝負!」

「望む所!」 

 名古屋と斬り結び始める高木。高木の額からは汗が落ちてはいたが優勢。

彼の一打一打は宇宙の重力を凝縮したように重く。 名古屋の顔がさらに白くなる。

それに気が付いた霧沢は。近くまでやって来ていた行也達に両手で『来るな』と合図した。

 その一分後。

「ホェェイ!」

 高木は名古屋の刀をへし折り。名古屋は変身が解けた。

「山三郎!」

 さらに。瞬く間に高木は名古屋の鳩尾を素手で一発殴る。ぐわっと後ろに倒れそうになった名古屋の後頭部を支えてそっと横たえ。

手を痛そうに振りながら高木は口を開いた。

「峰打ちだ。」

 そう言って背を向けてへなへな歩いてガクリと倒れた高木を背負い。霧沢は逃げた。

「…後は任せた。頑張れ。」

 おまけに。彼は自分と入れ替わりに走ってきた行也達にも戻るように促す。

 蒲生は大きな目を更に見開いた。

「お、お前! 仲間仲間! しかも後詰めも追っ払うとは!」

「霧沢さんはそういう方じゃ! 良うも悪うも!」

 春彦は勢いよく蒲生の刀をぶっ叩き。

蒲生はそれをゆっくり押し返して行く。

「シビアな奴だな! それに他の奴等も助けに来ない!」

「それはきっとわしの思いを理解してくれとるんじゃ!

 そもそも戦いは存在そのものがシビアじゃろ!

わし達より厳しい環境で戦って来たわれならわかる筈じゃ!」

 蒲生は春彦の刃に押し返えされつつ。頭の片隅で過去の戦い……あちこちの内戦に駆り出された過去を振り返った。

そして。死んでいった仲間の一人一人を思う。

「仕方ないのはわかっているが……もう一人も死なせたくなかった……特にナッツは……気が弱かったのに…どうして彼らだけに任せてしまったのか……。

 それは彼等が志願したからなのであるが。

責任を感じていた蒲生は砂を噛み泥水を啜るような苦悶の表情を浮かべた。

そんな彼へ。春彦は静かに告げた。

「ナッツはわれの事を優しい、会えなくなるんは寂しい、負けてしまって会わす顔がないとゆうとった。

それに、もう戦いに疲れとったようじゃ。

忘れんうちにあがぁなぁからの遺言をゆう。耳をかっぽじってよう聞け!」

 疑惑が少し混ざりつつも蒲生は彼の言葉に耳を済ませた。

「殿にナッツ達がお世話になりました、ありがとうございましたとお伝え下さい。あと、ヨーグルトはちゃんと毎日食べて下さい……と。」

 春彦は少し訛りのある共通語で、ゆっくりと丁寧に話す。

「疑ってすまなかった。

お前の言葉を信じる。

いかにもナッツが言いそうなことだ……。」

 蒲生は肩を震わせ。目の下には光る筋が走る。

彼は血の通った目で春彦を見た。

「……俺は個人的にはお前達を悪い奴だとは思えない。霧沢以外は。だが!

 大事な部下の敵! 絶対に絶対に絶対に倒す!」

「わしもわれは悪い奴だとは思えんが敵は敵じゃ! 絶対に負けん!」

 彼らが交わす刀は。激しく悲しく。そして力強い。刀と刀がぶつかる度に赤い火花が派手に咲き乱れ。空気をつんざく音もする。

……その二分後。

さっさと終わらせろ! と正論を言って飛び出そうとする龍造寺を神崎は取り押さえた。

「お前が言っていることもやろうとしていることも凄く正しい。だけどちょっとだけ待ってやれ。あれはお互いの誇りと矜持の戦いだ!」

「そんなのどうでもよい! 今某達は挟まれているのだ!」

 神崎は頷きつつも二人を指す。

「もうすぐ終わる。春彦も蒲生も動きが超絶スローモー死にかけ爺だ!」

「……確かに。」

 刀をぶつけ合ううちに。春彦と蒲生は汗だくで虫の息になっていた。

そして動きも凛々しく猛々しい若武者から、ゲートボール大会の老人に変化している。

「そろそろ……降伏…せ…ん…か」

「そっち…こ…そ!」

 前のめりに倒れて床を這いつくばる二人。

春彦は瞳を閉じた。

朦朧とする彼の脳裏には。弟達、一緒に戦う仲間達、広島の美しい空、賑やかな町を走る市電、市民球場、謎の鳥、懸命に白球を追う赤い服の選手達、厳かな赤い神社、気合いの足りない鹿達、叔父、叔母、懲戒免職になろうとした自分を庇ってくれた上司、同僚、思い込みが激しい彼に注意してくれる中学時代からの数少ない友人の姿が浮かぶ。

こんな時だというのに。広島に帰りたい……とまた彼は思い始めてしまった。

だが。

「お兄ちゃん!」

「春彦さん!」

 自分を呼ぶ弟達の声が聞こえた時。彼は立ち上がっていた。

「ここが故郷じゃなくても……心にある故郷がわしに力をくれるんじゃ!」

 春彦がブツブツ言っている間に。蒲生も立ち上がった。

「……俺だって……仲間の思いを背負っているんだ!」

 最後の一合。先に刀を走らせたのは蒲生だった。

「はぁぁぁー!」

 しかし春彦は肩を掠めたその一撃に顔色を変えず。ホームランバッターのように思い切りのよさと鋭さで。刀を蒲生の兜へ叩きつけた。

「宮島さんの神主さんが! わしらが勝つと言っとるけぇね!」

 刀が直撃した兜はメリメリと音をたて。透明に光りだす。

「み、ごと……。」

 薄目を開けて気絶した蒲生をそっと廊下の端に横たえ。春彦は皆の元へ走った。

 龍造寺が春彦にブツブツ言う中。トランシーバー機能で栗山達と通話していた黒田は凍りついた。

「……利安達が危ない!」

「人の心配をしている場合ではないと明智は思う!」 

 明智の指差す先に。足軽二十人程を連れてきた岡、さらに海老のような甲冑を纏う男がやって来た。

海老は欠伸をしながら行也達を指した。

「とりあえず撃て。」

「戦国一〇八計・宝仙院の扉!」

 最前線に居た神崎は、龍造寺と同じように扉を張り手で押し出した。

銃弾が飛ぶのと同時に飛び出す扉。だが。龍造寺のものよりはサイズがやや小さく、上に十数cm隙間が出来た。

明智は慌てて隙間を塞ぎに走ろうとする細川の袖を掴んだ。

「明智殿! 放してくださらないか!」

 前よりは柔らかくなったものの、鋭い目付きで明智を睨む細川だが。

小早川はそこに割って入った。

「私も扉に近寄らないほうがよいかと存じます。もしかしたら彼等は火」

「とと扉がぁぁ両方燃えてるっす!」

 手をバタバタ目をキョロキョロさせる輝元。彼の目には朱とオレンジの塊に包まれる二つの扉が襲い掛かってくるように見えた。


 麗らかな秋空の下。三人の男達は紅葉狩りに出掛けていた。

抹茶色の髪の青年は、銀の甲冑を纏って長椅子の真ん中に座り。

左には艶のある黒髪を結い上げた憂いのある着物姿の美青年、

右にはジャケットを羽織った、褐色の肌でサラサラ髪がの精悍な青年が座っている。

尚、三人の手前には折り畳み式の木のテーブルが置いてあり。紅葉やそこらへんで摘んできた花やらが生けてあった。

「それにしても、無事に左内殿が帰ってこれて良かったです。……ところで、そのジャケットは…。」

 ブラックダイヤモンドのような美しい目を疑惑に細める着物の青年。

視線の先のジャケットの青年・左内はニヤリと笑った。

「おう山三郎、目の付け所がいいな! これは加賀の家からパクった。

アイツの服のセンスは認めてやってもいい。」

「いくら敵でも盗むのはどうかと思うのですが…。」

 秋風のように冷たい山三郎の眼差しを気にせず。左内は飄々と答えた。

「アイツは俺の財布をパクったからいいんだよ。ジャケット代も入院費も足りるはずだ。」

「……左内。今回はお前の今までの忠勤と、一応実費を置いてきたということで見逃す。

だが。もう二度と敵地だろうが窃盗行為は禁止だ。」「畏まりました。二度と致しません。直々に私を助けに来て下さった殿のご恩に報いるためにも、このような罪はもう犯しません。」 抹茶色の青年の険しい眼差しを真摯に受け止め。深々と頭を下げる左内。 

「わかったならばよし!」

 殿と呼ばれた抹茶髪の青年はおおらかに微笑む。

 そこへ、陶器の手足が生えた巨大な茶道具達がやって来た。

身長は行也達の日本の成人男性の平均程である。

「トノ、ミナサマ、オチャガハイリマシタ。」

「ワガシハイカガデスカ!」

「ありがとう。」

 基本的に綺麗好き…ある意味潔癖症な典型的裏日本人の三人は。

消毒ジェルで手首まで殺菌すると。テーブルの前に置かれた茶に手をつけた。  殿と呼ばれた抹茶色の髪の青年はお茶の香りに優しく微笑み。茶をすする。

「いい香りだし、美味しい。ナッツ、がっちゃん、腕を上げたな。口の中に日本庭園が広がる感じがする。」

「アリガトウゴザイマス。」

 手足をもじもじさせる巨大な棗と茶釜。

それて入れ替わりに今度は茶碗と茶筅がやって来た。

「サムクナイデスカ、ヒザカケハイリマセンカ?」

「ありがたい!」

「助かります。」

 裏日本人は基本的に体温が低く、寒がりであった。茶筅と茶碗は抹茶色の青年よりも薄手の服の二人に膝掛けを渡し。

一応蒲生にも声をかけた。「トノハダイジョウブデスカ。」

「ヒエルトヨクナイデスヨ。」

「大丈夫だ。センちゃんもチャーも気が利くな。」 「ホメラレタ! ホメラレタ!」

 ピョンピョン跳び跳ねる二体。

 一方、その間に棗と茶釜はクーラーボックスから三つの皿を出した。

「シサクヒンデスガ、ヨロシカッタラオメシアガリクダサイ。」

 ナッツがラップをはがすと。小さな黄色の銀杏型のムースと赤い紅葉型ゼリーが顔を出した。

「かわいい!」

「綺麗だな!」

 つるんとした紅葉やふわっとした銀杏に笑顔で手をつける左内と山三郎。

「こりゃあ店で出せそうな味だ!」

「美味しい!」

 あっという間に平らげた二人の横で。殿はしぶしぶ紅葉と銀杏に手をつけた。

「ヨーグルトぇぇ!」

 アレルギーでもないのに悶絶する殿。紅葉型ゼリーは表面のイチゴゼリーの下にヨーグルトゼリー、銀杏型ムースはマンゴーヨーグルトムースだったのである。

「トノハスグベンピニナルカラ、ナッツハシンパイデス。

アレルギーデハナイトケンサケッカデタカラ、トノハヨーグルトタベタホウガイイデス。」

「嫌だ! ヨーグルトは嫌いだ!」

 首を振り、子供のようにごねる殿。しかし、項垂れた棗を見た彼は。

顔をひきつらせながらも半分食べたのであった。


……その後。殿が皆に茶を入れたり、相撲をしたり、のんびりと過ごした三人と四体は。

ピクニックシートで円になって話し込んだ。

「……コンドモシイクサガアッタラセンポウガヤリタイ!」

 跳び跳ねる茶筅。それを見て俯く棗。殿はすこし考えたあと、明るく微笑んだ。

「……最近は手練ればかり内戦鎮圧に駆り出されてしまうからな……お前は勇猛だから良いだろう!」

「殿……それは……。」

「ちょっと嫌な予感がするんですが。」

 不安そうな左内と山三郎を他所に。殿は茶筅をポン、と叩いた。

「任せたぞ!」

 そこへ殿と同じ風貌の青年が現れた。

「駄目だ! ナッツもがっちゃんもチャーもセンちゃんも死ぬ!」

「え?」


……駄目だ駄目だという蒲生の寝言に、海老甲冑の男とやって来た岡左内と足軽達は真っ青になった。

「蒲生大佐ー!」

「速く医務室へ!」

 岡はてきぱきと指示を下すと、担架で運ばれていく蒲生、そして名古屋の無事を祈った。


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