ヨッシーと友樹
――花立先生がふと思い出した、幼なじみの友樹は。
「坊っちゃんはどこじゃああああー!」
閻魔大王系教育係に中庭まで追いかけられていた。 顔を真っ赤にし、体中から湯布院もビックリな地獄の釜の湯気を吐き出す教育係。
手にはボールペンを持っているが、むしろ鞭の方が似合うであろう。
友樹はそんな彼から逃げて、建物の影で膝をガクガクさせながら隠れている。 そこへ、兜を被ったピンク色のモモンガが近づいてきた。
モモンガはふらふらしながら泣きそうな声で呟く。
「お腹すいたよー……。熱いよー……。喉がカラカラー……。」
「モモモモンガさん喋った?」
腰を抜かして尻餅をついた友樹を見上げ、ピンクのモモンガは荒い息を吐きながら自己紹介した。
「ボクは……大友……義鎮…キミは……?」
「ぁあァァ!」
匍匐前進で逃げ出した彼だが。米袋が落ちたような音を聞いて、恐る恐る振り返る。そんな彼の目に映ったのは、萎びた花のようにへなへなと座り込むモモンガだった。
その熔け消えそうな姿を見た友樹は、ゆっくりとモモンガに近寄る。そしておでこにそっと手を当てた。
「僕は大沢友樹だよ。……熱中病かな? 大丈夫?」
友樹はモモンガを自分の上着とハンカチの上にそっと横たえる。そして近くのコンビニに走り、すりおろしリンゴのゼリー飲料、水、塩、プラ皿、うちわを購入。
息を切らせて戻った彼は、急いでプラ皿に水を注ぐ
「これ飲んで!」
水をポンプのように吸い込む大友。リンゴゼリー飲料も口にし、だんだんと生命力の灯りが戻ってくる。
友樹は、うちわで大友を仰ぎながら尋ねた。
「調子はどう? 少しは元気になったみたいだけど……一応病院で点滴を……。」
「大丈夫だよー! ありがとうー……友ちゃん!」
「どういたしまして。……ヨッシー。所で飼い主はどうしたの?」
「あのねー、ヘンなとこから逃げてー、それからのこと覚えてないの……。」
下を向いて、心細げなヨッシー。友樹は少し考えてから言った。
「じゃあ家においでよ。」
「いいのー?」
「うちはペットがいっぱいいるから、一匹……一人くらい増えても大丈夫だよ!」
「ありがとうー! あ……。」
「なに?」
「真後ろに怖い人がいるよー!」
――午後になり、黄色がかった青空が広がる中。
行也と黒田は、念のためトラップがないか点検している。
玄関、居間、寝室、風呂場、トイレの点検を終えた彼らは、台所のチェックに入る。学校から早く帰ってきた行人も加わった。
「なんだこの虹色の瓶? 戦士用サプリ? ……あ、付せんがついてる。綺麗だけど読めない字で文章がかいてあるし、怪しいぜ!」
「これも和歌。安心して飲めと言う意味じゃ。」
「行人、細川さんは料理にプライドを持ってるから。殺すとしても毒殺はないと思う。」
「ワシも殺意は今のところないと思うのぉ」
行也は冷蔵庫を開けてみた。豪華でお洒落な大皿が二つ。一つはすごくおいしそうなプリンが一ホール、もう一つは筑前煮。
それぞれの皿の下には、金箔を散りばめた和紙のカードが挟まっていた。紙には絵画を見ているような、生き生きとして鮮やかな達筆で、何やら和歌が書いてある。
行人はため息を吐いた。
「居間の壁にも和歌が書いてあったんだろ? あいつは和歌を書かないと死んじまうんじゃね!」
「困ったな。」
「だよな。美味しそうだけど怪しいぜ。」
「お皿をどうやって返そう。住所がわからない」
「そっちかよ!」
――一方、黒田は居間でコケて、見かけない白い物体に気が付いた。
彼はスーパーのチラシで作ったメモ紙に、さらさらと丁寧な達筆で物体について記し、兄弟に見せた。
『盗聴器が仕掛けられている。』
行人は絶叫した。
「盗聴器かよ! あの痛い貴族め!」
「こら! 筆談の意味がないじゃろ! 全く!」
二人が騒ぐ中、行也は長い息を吐きながら言った。
「よかった!」
「何が?」
「盗聴はやめてください!とか……お皿をとりに来て下さいとか連絡がとれる。」
「取りたくねぇよ!」
行人は盗聴器を握りつぶした。
――翌日の夕方。島津は元気になった。
「心配をかけて申し訳なかったでござる。」
「いえ、俺こそ具合の悪いときに、困った人を家に入れて申し訳ありません。回復なされてよかったです!」
「よかったぜ! それにしても、あのニセ貴族はなんなんだ?」
黒田は唸って腕を組む。
「どこかであったような……。」
島津も唸った。
「拙者も……。」
その瞬間、黒田と島津の兜が光った。島津は拳を握りしめる。
「今回のことでわかったでござる! 人間、体力が大切! 竜宮海岸までダッシュでござる!」
皆は島津の意見を無視し、タクシーで移動することにした。
……直ぐにやって来たタクシーは、海岸沿いを疾走する。
「タクシー代キツイぜ。」
「確かに……困ったな。」
黒田は島津にホワイトボードを見せた。
『立花山城と交渉しようと思うのじゃ。同行してくださらんか?』
島津は少し微妙な顔をしながら頷き、ホワイトボードに返事を書く。
『承った。細川殿もご同行願った方がよいでござるか?』
『そうじゃな。』
海岸には無事到着し、兄弟はタクシーが見えなくなってから変身した。