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戦国DNA  作者: 花屋青
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突入! 安土城!

 行人達が幽斎に呼び出されて田辺塔に居た頃。

 とある古びた映画館に行也達は居た。

 人影のまばらな、十数年前のマイナー映画を上演中のシアター。

 暗く騒がしい景色の中。行也達の手元が四角く光る。

 下山後小早川達と別行動をし、ネオ安土城偵察から帰ってきた栗山と母里、そして鍋島は。

グループ内通信(行也達のみ返信閲覧可能な通信)

に設定したメールを一斉送信した。

『……というわけで、明後日の一月一日にネオ安土城で大新年会をやるらしい。』

 母里の文に、細川は呆れ顔で返信した。

『俺達を捕まえていないのに呑気な奴等だ。』

 鍋島は確かに、と頷きながら補足する。

『確かに俺もそう思います。

一応、紛争地帯から帰ってきた裏日本軍の一部の帰国を労う為ということらしいですが。

『きこくらいねんじゃなかったのか』

 黒田の慌てたメールに栗山は丁寧に返信する。

『はい。明後日です。

 紛争自体はさっさと鎮圧出来たにも関わらず、AREが約束を違えて引き留めていたらしいのです。

 そこで裏日本軍は上杉少将の体調不良ということにして、半ば強行的に撤退するつもりのようですね。

 あと私達のことも理由にしたようですが。』

『裏日本は私達が何人だとAREに説明をしているのですか?

 大軍が攻めてきたと言えば十分な撤退理由になるというのに、

半ば強行的に……ということは正直に申告したということですか?』

 小早川の問いに栗山は素早く返事した。

『はい。どうやらAREには私達のことが筒抜けのようですので……。

裏日本は正直に十八人と申告したと思われます。』

『ありがとうございます。成る程。裏日本軍は随分と思いきったことをしましたね。

 仮病なんて直ぐに見破られてしまいますからね。

 私達の侵入を理由にするのもAREから見ればこじつけにしか思えないでしょう。

たった十八人相手に一軍丸々帰国させるなんて可笑しいですから。

 なるべくAREの意向に従っていた彼らにしては珍しい。』

『仰る通りです。

 ARE側も約束を違えた手前、いつもよりは強く言えないようですが、内心穏やかではなかったみたいです。

 裏日本の外交担当者が金品を手土産に土下座旅行して何とか丸く納めたそうです。』

 明智は腕組みをして唸った。

『小早川殿の仰る通り。

 AREの機嫌を損ねる事を考えたら、一軍を帰国させるのは合理的ではないと明智は考える。どうしてそこまでするのか?』

『元々奴等は体が頑健ではないからのぅ。早く帰国したいんじゃろ。

 実季が言うには、日本より平均寿命が短いらしい。

 街も旅館も老人が少なかったし、あちこちにやたら感染症対策の消毒薬が置いてあっ』

 文章を打つ手を止め、やっぱりそうか! と思わず声を出して立ち上がった官兵衛。

左右の栗山と母里は官兵衛の口を押さえて座らせた。

 二人から解放された官兵衛はカチカチと文章をまた打つ。

『奴等はワシらを敢えて泳がせているんじゃ。

 上杉の病だけでは一軍撤退理由が弱い。幹部に指揮を任せればよいと一蹴される。

 ワシらはたった十八人じゃ。しかしたった二人で佐々達八十人を病院送りにした戸次殿と高橋殿の話をすればそれなりに撤退の理由になる。』

『悔しいでござる立派に戦った戸次殿と高橋殿がそんなふうに利用されるとは』

 島津の文章を打つ手に血管が浮かび。手の中の光には透明な珠が落ちて、虹色に輝く。皆も深く頷き。携帯端末を強く握りしめた。

 一方、黒田は黙りこむ皆を他所に歯をギリリと噛み締めてメールを打つ。

『悔しいが今はさっさと友樹を取り戻すことを考えるんじゃ。

上杉達が帰国して、奴等が本腰を入れるまでにな。』

 小早川は開いた左手の人差し指を自分の額に当てながら疑問と予測を綴る。

『それにしても何故このような状況で大新年会を?

 お祭り騒ぎをする余裕があるなら軍を派遣しろとAREに五月蝿く言われそうですが……。

それとも大新年会は私達を誘き寄せる罠だとAREに説明済みとか?』

『そうじゃな。なので明日夜には攻めたい』

 黒田は時間を見た。

『鍋島殿、利安、太兵衛。お疲れ様じゃ。 この映画はあと十八分で終わる。それまで仮眠を取ってくれ。』

 三人はモモンガに変身し、あっという間に寝息を立てる。

「……面倒な奴だ……。」

 座席からずり落ちそうになった鍋島を、舌打ちしつつも隣の龍造寺はそっともち上げて位置を直す。

 一方、黒田は栗山と母里に膝掛けをかけてやりながら、太兵衛の隣の隣の行也をふと見た。

「どうしたんじゃ!」

 行也は自分の携帯端末の画面を見て、目と口を顔が変形するほどかっぴらき、固まっていた。

「……おい! 顎が外れるぞ!」

「お、落ち着くのだ!」

 左右の神崎と光紀に揺すられて正気に戻った行也は携帯端末を指さした。


『兄貴生きてるか今どこだ』

――夜八時。行也達は、行人達とカラオケ店で合流した。

「……こちらの部屋も盗聴器や盗撮器は恐らく無い。」

 部屋に入った彼らは犯罪に詳しい霧沢、春彦、探偵社に勤めていた栗山と母里を中心に二部屋をチェックし、長い息を吐いた。

「俺は武器制作をこの部屋でします。何かあったらお呼び下さい。」

「俺も……。」

 手伝おうとする行也の腕を行人は強引に引っ張った。

「兄貴には話がある!」

 兄弟に続き、ぞろぞろと出ていく皆。手先が器用な涼太は立ち止まるが。同じく立ち止まって俯いているラーシャを見ると、肩を叩いて小さな声で言った。

「手伝いは任せたよ〜。」

「エッ!」

 細川とケンカ別れしていたラーシャは、そっと振り返って細川を見る。

 細川は焦っているのか、電子がプカプカ浮いているような空気を発散していた。

 次々と道具や甲冑を取り出す彼と目があったラーシャは、ちょっと引き気味になりつつも声を絞り出した。

「ボクも手伝いマス。」

「……当たり前だッ! さっさと座れ!」

「イエッサー!」

 ラーシャは元気よく返事をすると一緒に作業を始めた。


――完全防音のカラオケ店で一番広い個室の中。山田兄弟は険悪な雰囲気で対峙していた。

部屋のカーテンもテーブルも誰も揺すっていないのにガタガタ震える。

「兄貴のバカヤロー!」 行人はいきなり行也をぶん殴り。行也は行人を般若のような顔で睨む。

「お前! 何で来たんだ! 俺達は大丈夫だから家で受験勉強しろって言ったろ!」

 立ち上がった行也の胸ぐらを掴み。行人は身体中の血液を沸き立たせたような形相で怒鳴った。

「全然大丈夫じゃねーだろ! 戸次さんも高橋さんも兜になっちゃったんだぞ! 兄貴達だって下手すりゃ死んでたぜ!

 最初から俺達を連れていけばこんなことになんなかったんだよ! 馬鹿!」

「ゆき……」

「シッ!」

 博士は自分の口に人差し指を立てた。彼は垂直になりそうな程に目を吊り上げて行人に詰め寄ろうとするラーシャ、海、輝、高木、天と文太を黙らせた。

 さらに博士は小声で言う。

「やべぇ、言い過ぎたって顔してる。俺も昔は一言多い性格だったからわかるんだ。」

 博士の言う通り。思わず口を両手で押さえ、目をさ迷わせておろおろする行人。唇を噛み締めて何も言えなくなる先行組。

 彼らの哀しみと後悔と悔しさが交ざった眼差しを横目で見た行人は瞳を大きく開き。俯いた。

「……言い過ぎた。ごめん。みんな辛いのに。

……兄貴。」

「なんだ?」

「兄貴は俺をりっぱなヤツだと思い込んでる。手紙を見てなんかもやもやしたぜ。

俺は……兄貴が思ってるように健気なヤツじゃない。

 前も言ったろ。サッカー部だって、家計の負担になるから入らなかったったわけじゃないって。

部活オリエンテーション一日目で先輩にムカついたから入りたくなかったんだ。 兄貴は勝手に家計の事を心配したからって思い込んでたけど。」

 真っ直ぐな目で真っ直ぐに思いを投げる行人。しかし行也はその思いをカーブとして捉えた。

「だってお前は他の部活にすら入らなかったろ?

 体を動かすのが大好きなお前が!」

「だって野球部で坊主にするのは夏に頭がヒリヒリするらしいから嫌だし!

バレー部はクラスのむかつくヤツが入るし!

陸上は冬寒いから嫌だったんだよ!

剣道部は竹刀振り回せて楽しいけど臭ぇし!」

「お、お前……そんなことを思っていたのか……。」

 思わずペタンと座り込む行也。行人はさらにたたみかけるように言った。

「そもそも本当に家計を思うなら洋平みたいにバイトするだろ!

っつーか兄貴の弟なんだからそんなにりっぱなヤツなわけねーよ!」

 口が半開きになったままの行也を支えて立たせると。行人は目を潤ませて行也を見上げた。

「俺は兄貴が思い込んでる程強くねぇんだ……だから一人にしないでくれよ! 兄貴にはイライラすることもあるけどなんだかんだ言っていねーとさびしいんだ!」

 目から涙が噴き出す行人を抱き締めて、行也も鼻声で呟いた。

「頼りにしていたのは……俺だ……悪かった。ちゃんとお前の話を聞かなくて……。理解しようとしてなくて……。」

「俺も…今まで…兄貴を大事にしてなくて…ごめん。」

 泣き続ける兄弟。少しして。行人は行也からそっと離れると、頭を下げた。

「いきなり……殴って…ごめん…兄貴…俺を…殴ってくれ!

兄貴はよっぽどのことじゃないと殴ったりしないのに……。」

 鼻水をすすりながら申し訳なさそうに正座する行人。それを見て、行也も思わず正座し、落ち着かない目で言った。

「いや……俺はお前に殴られて当然の馬鹿野郎だから………

俺は……罪無き人を殴って誘拐して人質にしたんだ……。宇喜多も……人質にとろうとして……宇喜多の弟分さん達が命乞いしなければ誘拐していた……。」

 行人は涙をピタリと止め。耳をほじくってから聞き返した。

「へ? じょうだんはやめてくれよ!」

「本当だ。」

 行也は嘘をつくのが得意ではない。彼の辛そうな目と、後悔と罪悪感の川の底へ沈んだような暗い表情を見て。

行人は本当の話だと確信した。

 彼は行也の肩をガシガシ揺らして問い詰める。

「マジかよ最悪! 何でそんなことをしたんだよ!

 兄貴のいいところは俺と違ってむやみに人に暴力を振るわないところだろ!

 おい! 黙ってたらわかんねーよ!」

「ゆき……」

 会議をしながらチラチラ兄弟を見守っていた皆。

彼らは思わず口を挟もうとしたが。黒田はそれを止めた。

「行也がきちんと物事を説明出来ようになるための訓練じゃ。

自分の非を認めるのも大事じゃが、そうでない所を主張するのも大切なんじゃよ。

そうでないと何でもかんでも罪を擦り付けられてしまう人間になる。

 ワシらは作戦立案に集中しよう。」


 安土城が浮かぶ陣羽織を再び囲む黒田達。

一方、兄弟達は相変わらず緊迫した雰囲気であった。

「……言い訳でも何でもいいから何か言えよ!」

 行人は行也を揺すっていた手を離す。行也は顔を上げ、行人の目を真摯に見つめて話し出す。

「……蒲生さんを人質にしたのは……どんな卑怯な手段を使っても捕まりたくなかったからだ。

 蒲生さんは援軍を呼んだし、異変を感じれば部屋の近くにいた人もくるだろう。

だからその人達が来る前に早く脱出したかった。

それには襲いかかる人をやっつけながら進むより、人質を取って道を開けさせた方が早いし怪我人も出ないはず。

それに蒲生さんは軍人だからこういうことは覚悟しているだろうし殴ってもいいかなと思った。」

「いいわけないだろ! ……他のヤツにはケガさせてねぇのか?」

「指一本触れてない。

ただ、たまたま通りがかった仲居さんは悲鳴を上げて座り込んだ。

 でも蒲生さんを担いだあと振り返ったら、助けを求めながら走る姿が見えたから、心臓発作は無いと思う。」

「それでもやっぱりひでぇよ! ……でも一応普通の人には手を出してねぇのか……。」

 腕組みをし、眉間にシワを寄せながら唸る行人へ。行也は一番言い辛いことを喉に手を突っ込んだように取り出した。

「でも……これ以上裏日本軍になめられて、こちらの情を踏みにじられるのが嫌だって気持ちも大きかった。

手段を選ばない奴には目には目を、歯には歯をって思った。

 こっちはいつも人質を取れる状況でもそれをしなかったのに……相手がそうするならこっちだって、って……。仕返ししたかった……。

蒲生さんは人質を取ったわけじゃないのに……裏日本軍だからと一くくりにして八つ当たりになってしまった……。

 膝に置いた拳も肩も震わせ。行也は唇を噛んでさらに続ける。

「宇喜多に関しては完全な私怨だった。友樹さんの怖かった思いを味わわせてやろうと思った。ハイジャックされて真冬の海にボートで漂うことになった人のことも浮かんだ。

こいつは絶対に許したくなかった。

……いや、友樹さんやハイジャックされた人が云々だけじゃなくて……俺が宇喜多の考え方が嫌いで腹立たしかったんだ……。

黒田先生や、宇喜多の弟分さんの思いを聞かなかったら絶対に拉致していた。」

「兄貴……。」

 行人は白い顔で呆然と行也を見つめる。もう怒るというより、行也がそこまで闇を抱えていることが心配になってきた。

仕返しや拉致という物騒な言葉が兄貴の口から飛び出すのはよっぽどのことだ、と。

どうしたら元の穏やかな兄貴に戻ってくれるんだろう。 悲しげに眉と目を下げる行人。俯いてため息を吐いた行也は、顔を上げると。どっしりと落ち着いた声と表情で口を開いた。

「でも俺は間違っていた。宇喜多を人質にしている場合じゃなかった。

さっさとヨッシーさんの運ばれた病院に行くべきだったんだ。

 万が一その病院が駄目だった場合に他の病院を探すなら一人でも多い方がいいし……。

 運ぶ時にも人数がいた方がいい。……到着が遅れたせいで細川さんや明智に心配をかけてしまったし……。

 それに冷静に考えたら、これから和平をしたい相手にすることじゃなかった。戦闘中ではなかったんだから……。

俺のせいで方針転換することになってしまった……。皆さんには本当にご迷惑をかけてしまった……。」

 兄弟から背を向けて会議中の皆の背中に頭を下げる。

そしてまた前を向いた行也は、リュックから銀のマフラー包みを出す。

「これからも、恨みとかドス黒い感情が沸いてしまうと思う。冷静でいられないこともあるかもしれない。

 それでもこれからはそういう感情だけに振り回されないようになりたい。

大事なことを見失わないで動けるようになりたい。

絶対に。」


 行也はいつもよりはっきりした声と強い眼差しでそう宣言し。マフラーごと強く弓矢を握りしめた。


――カラオケ店に入ってから一時間後。もう夜九時。作業に区切りをつけたラーシャ、細川、途中から作業を手伝っていた博士も一番広い部屋に合流した。

「これがネオ安土城です。」

 栗山は赤いスイッチを押す。陣羽織に、赤く透き透ったガラスで出来たような和風の城がぽっかり浮かんだ。

 幽斎から渡された小さな記憶端末、潜入した鍋島・栗山・母里によると。

 ネオ安土城は、現代風かつ簡素にアレンジしてあるものの、構造自体は安土城と似ているという。

 栗山は説明を続ける。

「ですが、幽斎博士によると、『新・利休の土』で築城されている為、

信長・上杉・武田・徳川の放つ周波で様々な形に構造を変えることもあると。

これはまだ研究段階なので実戦で変形するかは不明だそうです。」

 建築に詳しい黒田は勿論、安土城のプラモデルをバイトで良く作っていた細川、手伝わされていたラーシャ、島津、行也は城の構造が大体頭に入っていた。

「それでもまぁ、侵入するときは安土城のままだと思うでござるよ。

三十人に満たない敵相手にそんな不確実な技術を使う冒険をするとは思えないでござるし。

……それにしてもこのホログラムを見ていると、

『週刊織田信長』付属の安土城ミニ模型を思い出すでござる。

いきなりパーツ不足が発覚した時はどうなることかと思ったが、無事にお客様にお渡しできて本当によかったでござる!」

「城中が寂しくて信長様が気の毒だ、とか言い出して、忠興サンは自腹で材料を購入してミニチュア家具やミニフィギュアまで作成しましたよネ。」

「サイズが微妙に合わないパーツも細川さんが上手く微調整なさって綺麗に仕上げ、依頼者様は大喜びでしたね。」

 島津とラーシャと行也は、金切り声で出版社に電話する細川、襖のパーツの絵を上から書き直す細川、パーツの隙間をイライラしながらパテで埋める細川などを思い出し、しみじみと語る。

「島津殿、その節はありがとうございました。ラーシャ、行也もよくやった。あれが高評価で依頼が……」

「そんなこと今はどうでもよい!

 それよりさっさと侵入計画を立てるぞ!」

 黒田はテーブルを平手打ちすると、手をぷらぷらさせながら栗山に問う。

「友樹の場所は?」

 栗山はホログラムの城の二階側面に触れた。上階が消え、真上から見える状態になった二階。その中の一つの部屋を彼は差す。

「二階に専用部屋があるようです。警備兵達の話、建物侵入経験のある鍋島殿の話を総合し、この部屋だと特定しました。

夜十時〜午前六時くらいまでそこで就寝。

朝食も自室で食べているようです。

朝食後は五階のテラスで信長や来客の茶を淹れたり、茶道具他美術品の手入れや鑑定、ちょっとした英文や来客の通訳も任されているみたいですね。

 同じ赤髪ということで可愛いがられているようです。」

「……良かった…拷問とかされていたらどうしようかと思った……。」

 ほっとして涙ぐむヨッシー。胸を撫で下ろす皆。

 だが、母里は複雑な顔をした。

「かわいがられているからこそ、めんどくせえんだ!

 たまに大沢殿の勤務中に信長が顔を出すから、勤務中には救出は難しい。就寝時は警備兵が立っている。警備兵は何とかなるとしても部屋の鍵が厳重なのがな。ドアが分厚いんだ。立花殿の備前長光の切れ味が鋭いといっても時間がかかるだろ。しかも窓がない部屋だ。」 鍋島はため息を吐いて、母里の補足をした。

「そうなんですよね……。一人になるタイミングがないんです。まぁ寝所の警備は大沢殿を守るためでもありますがね。日本を嫌う過激派に狙われないようにという。

 でも、俺は夜しかないと思います。夜勤と早朝勤務が夜二十時〜二十四時と二十四時〜翌日二時と翌日二時〜四時と四時〜七時の四つに別れているって……武士としてありえません。どんだけ夜に弱いんだか!

 ただ、何とか侵入しても城内にいる足軽は精鋭揃いなのが難点ですね。」

「……そうか。じゃあ今夜侵入しよう。」

 立ち上がる黒田。驚く皆。

「この国は空気が綺麗じゃ。意外とみんな疲れてないじゃろ。映画館で昼寝もしたからのぅ。

そして兵も人間。この国は日本の文化を大切にしているから大晦日の明日は徹夜したいはずじゃ。

 したがって今日は見張りの警備兵以外はゆっくり寝ているはず。」

「そうでござるな!」

 嬉々として立ち上がる皆。だが考え込んでいた小早川は待ったをかけた。

「……私もそう思います。ただ、ちょっと嫌な予感がしてきたのです。

先程とは考えを変えて申し訳ないのですが……。

 もし、私達がそう読むと相手が予測していたら?

こんなに見え透いた罠を張るでしょうか?

 私達を捕まえても、『捕まえたという報告が上杉達に伝わらなかった』と数日なら誤魔化せるのでは?

 帰国さえしてしまえば、海底のここにはAREも中々手が出せないはず。

栗山殿の調査によると、上空のドームは分厚く、結界も日本よりは薄いものの一応あるようですし。

地下からの侵入口も完全に塞ぐでしょう。

 私達を焦らせて自滅を狙っているのかもしれません。」

「じゃあ、お前はどうすべきだと思うんだゼ?」

 早くネオ安土城へ向かいたい気持ちを抑え。なるべくゆっくりと尋ねる吉川。「とにかく今日〜正月は相手も警戒しています。

城に侵入は難しいはず。

なので、信長達が城外に出た時を狙うのです。

栗山殿の調査によると、毎年信長は初日の出を見に行くそうではないですか。

その時に城内に侵入するのです。

友樹殿は山が苦手。同行は何とか断れるかもしれません。

もし同行したとしても初心者として信長達とは別行動のはず。あの山はロープウェイや車道がありませんから。

 おまけに天気予報を見ると正月は上杉軍出発地の海が荒れています。

潜水艦で帰国するとしても、ある程度は海上を行くはず。上杉達の帰国は午後以降です。

友樹殿を救って逃げる時間はあります。」

 小早川の問いに黒田は腕組みして唸る。彼は髪の毛をかきむしった。

「そうじゃな……正論じゃ。しかしワシらは山の地理よりも安土城の構造に詳しい。

高橋殿を欠いた今、山やゲリラ戦に精通したものがこの中には居ないからのぅ……。

今回は敢えて、罠に乗るしかない。」

「……黒田殿。どうしてそんなに焦ってるんだゼ? 気持ちはわかるが。」

 黒田は行也の携帯端末を皆に見せた。

「……和平の仲立ちを頼りたい北海合衆国が、解散総選挙をするかもしれないようじゃ。

そうなると、ワシらの力になれないかもしれない、だから急いでくれと桜井さんからメールが着た。」

「申し訳ありません……。」

 頭を下げる行也。行人も一緒に頭を下げると呟いた。

「なんか世の中ってころころ変わってついて行けねー!」

「お前は意外とヘタレじゃのぅ!

 一辺倒でいかないから面白いんじゃよ!」

 黒田はこんな状況なのに元気よく微笑んだ。

 結局。行也達はさっさと友樹を助けて北海合衆国へ行こうという結論に達した。

 尚。博士、天、文太は皆の説得により北海合衆国へ先行することに。

黒田は、前もって作って置状況を説明するDVDレターも博士に持たせ。

行也達はタクシーに無理矢理眠らせた天と文太を乗せる。

博士はタクシーに乗り込む直前、振り返った。

「何とか北海合衆国の最終便には間に合うな。年末特別ダイヤさまさまだ。

お前達も早くこいよ!」


――その後。行也達は深夜の安土城の階段からちょっと離れた場所で立ち止まった。漆黒の空の下、クリーム色に輝く月に照らされ。彼らは円陣を組む。

「友樹を救出するぞ!」

「おーっ!」 モモンガ状態の黒田とヨッシー以外は手にした刀を突き上げる。

 薄墨のかかる金円を銀の直線で貫き。行也達は白雲を吐き出しながら、ネオ安土城へ続く石段を黙々と登り始めた。時々ぐねぐね曲がる、とてもとても長い階段。大分時間が経ち。やっと門が見えてきた。

 行也達は階段脇の木々に隠れ。ゆっくり進む。ある程度行ったところで。

明智は、止まれとジェスチャーしながら言う。

「射程距離だ」

 門の警備兵は神崎と春彦が同時に発射した麻酔銃で眠らせ。

明智はこちらに気がついた警備兵が居ないか銃を構えて注視する。

 入り口の門は突破。安土城敷地内に突入。

彼らは白砂が敷かれた道を小走りで行く。

 第二、第三の門も同じように突破。水が満たされた掘も渡り。

遂に安土城本体の真ん前に来た。

「……何か順調すぎますね。兵も思ったより少ない気がします。」

 首を捻る小早川に頷く皆。

「でも急がないと気絶させた兵が起きてしまうかもしれないでござるよ!」

「……某も同感だ……。さっさと大友を助けて源平歌合戦が見たい……。」

 走り出す島津と龍造寺。「師匠! あぶねーよ!」 慌てて追いかける行人達。一方。海は少し出遅れた。海を長宗我部は強く引っ張り。首を振ったのだ。

「海殿は先頭を走っては駄目だ。」

「長さん、やっと口をきいてくれた!」

 微笑む海に、長宗我部はプイッと横を向いた。

 その間に。島津達はそっと大きな木製の門を開け、中に入る。

それは予想外の光景だった。

設計図と違い、五百メートルほど先の襖まで柱も仕切りもがないのだ。

しかも傾斜しており、入り口……島津達がいる場所が低くなっている。

そして。床には水晶の小さな丸石が一面に敷かれ。壁には剣型の水晶がびっしり生えて、冷たく光っていた。

「今すぐ出ましょう!」

「門は開いたままにしておかないとだめじゃ……あー!」

 実季、黒田がそう言った瞬間にガシャンと音を立てる門。最後尾の海は嫌な予感がしたので四国の蓋を挟んではいたのだが。

ペシャンと押し潰されていた。

「……戦国一〇八計…………甲斐の虎!」

 低く落ち着いた声が微かに聞こえた直後。雄叫びを発する何かが開かれた襖の中から飛び出し。行也達の元へ駆けてきた。

「何か来るようだが見えない!」

 硬直する光紀。慌てる皆。目を瞑った高木は叫んだ。

「恐らく虎が三十六匹程!」


「……ありがとう。松ちゃん。助かりました。」

 地下牢に押し込まれた幽斎であったが。もともと幽斎に敬意を払っていた蒲生と、松ちゃんこと本多博士の尽力で何とか釈放された。

 彼は人払いをした本多博士の研究所の一室で、出されたアイスティーを口に含む。

 本多博士は時々顔を歪める彼に、しみじみと言った。

「……気持ち悪いほど自分大好きなレイ君が、こんなことをするとは思いませんでしたわ。」

 幽斎は軽く笑って言った。

「疑いを晴らすのに必死なのですよ。……ところで話とは? どうやらあまりよい話では無さそうですが。」

「……こないだ視察に来たARE軍総司令官に秀吉の兜を渡してしまったの。」

「……。」

 幽斎の目は。サファイアをホワイトオニキスで囲んだような四白眼になり。

 白い手からはグラスをすとん、と落ちた。





――甲斐名産の水晶の虎に襲われる行也達。一方、幽斎は本多博士からARE総司令官の話を聞いて、ある人物と連絡を取ろうと試みる。

次回「信玄と虎達」

 幽斎は、四白眼に成るほど目を見開いた。


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