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戦国DNA  作者: 花屋青
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スイヘ・リーベ・フシギブネ(中編)

鹿児島本島から3.5Km先に敵が出た。

行也達は頭を下げて講和を申し出るが敵は聞く耳をもたず、戦艦から砲弾をバシバシ発射。徹底抗戦の構えを見せる。

そんな彼らと必死に戦う行也達だったが。以前倒し損ねた今川に、KY戦士変身時間が短くなる砲弾を放たれる。

それを全員で喰らうのを避けるため、左右に分かれて逃げた彼らは。

それぞれ別の敵と対峙することになった。

右に避けた行也、友樹、神崎は砲撃を喰らって兜にダメージを受け、

足軽に追われる中、一旦退却することに。

一方左へ逃げた行人、ラーシャ、光紀、霧沢はノーダメージ。バッタリ会った伊達らを倒すが、霧沢が行方不明になってしまう


そんな中。島津はモモンガの細川・栗山・母里を大きなリュックに詰め。別働働隊として夜の海をサーフィンしていた。

――行也達が敵を見つける直前。

 島津は細川、母里、兜を被った栗山などを詰めた大きなリュックを背負い、

ウエットスーツ着用で深紺色の海をサーフィンしていた。

 時計を見た島津は首を傾げる。

「おかしい……。この時間帯にはルカの旧友が居るはずでござるが……。」

「ルカって誰ですか! それからいつまで俺達はここに詰め込まれなきゃ行けないんですかッ!

 母里殿が酒臭くてきついんですッ! けほっ!」

 涙目でせき込む細川。彼はリュックから体を捻り出し、一言言うと島津の肩に乗る。

「申し訳ありません。太兵衛! お前は明日から禁酒一週間だ!」

 自分の事ではないのに頭を下げる栗山に対し、母里はぶっきらぼうに言った。

「はいはいわかったよ。細川殿、すんません。……あ、兄者! すげえ音……殿達は大丈夫だろうか……。」

 目と眉を不安そうに寄せる母里。栗山はそんな彼を静かに諭した。

「私達は私達の出来ることをしよう。太兵衛。」

 島津と細川も再び音がした方向を見つめていたが静かに頷き、作戦に意識を集中する。

「拙者もあいわかった……お! 待ち人が来たでござるよ! キュイキィイキュー!」

「し、島津殿! 頭がおかしくなられたのですかッ!」

 目を見開く細川に、母里と栗山は淡々と語る。

「もともと島津殿はおかしいから気にすんなよ。」

「あれは多分イルカ語なんだと思いますよ。この間、私と太兵衛がショーに無理矢理連れていかれた時に聞きました。」

 少しして。ザバアっと顔を出した大きな黒い生き物を見つめ、島津は首を傾げた。

「ずいぶん大きなイルカさんでござるな。ちょっと痩せたほうがよいでござるよ。キュイキィイイ~!」

「島津殿オオオオsoreは鮫ですウウウーッ!」

 絶叫する細川。栗山と母里はバランスを崩した彼を支える。

 一方島津は冷静に鮫に話しかけた。

「人違いでござった。では失礼する。」

そう言って平然とまたサーフィンを始める彼。しかし。

「キシャアーーーーッ!」

 鮫は雄叫びを上げて島津を追う。

「これから奇襲をするでござる! 静かにしてほしいでござるよ! キョアア~キュイイイイ!」

 島津の言葉を無視してその後も鋭利な刃物の生えた口を開けたり閉じたりして追いかけてくる鮫。

「……静かにしろと言ってるだろうガアアアアア! キョアアアア!!!」

 島津の顔が、変わった。

釣り上った血走る目、火山口のように湯気を吹きだす口、真っ赤な顔中に浮き出る血管。

彼は、鮫を睨みつけて鳴く。

 それを聞いた鮫は大人しくなり、小さな声でキョエーと鳴く。

「そうか。拙者を乗せて行ってくれるでござるか!!」

「キョキョキョー!」 

 島津は微笑むと鮫に飛び乗る。

一方、自分の兜を見つめた栗山は、西を指さした。栗山と母里の兜は諜報員用なので、あまり武力が上がらない。しかも変身可能時間は30分程。そのため、今日は栗山の兜を敵探知機として使用している。

「我らから見て西方に敵艦隊! 南方向……薩摩半島へ向かっています!」

「あいわかった。鮫久! 時々浮かびながら西南へ頼む!」

 島津の鳴き声を聞いた鮫の鮫久は海を上下に縫うように走る。

「水攻めの囲いが見えたでござる! あれが割れ次第突入でござるよ!」

 鮫久は勢いよく艦隊へ向かって走る。そして。島津が止まれ、といった場所でぴたっと停止。

少しして。豆腐を床に叩きつけたかのような破片が飛び、発破工事のような爆裂音が響いた。

「なんと! 馬型の艦隊が内側にあったでござるか! 鮫久! 頼むでござるよ!」

 鮫久はキュアアアーと鳴きながら破片よけつつ艦隊へ走る。

まるでリードを括り付けてこちら側へ引いてきているようにぐんぐん走る鮫久。

破片と水煙が晴れた頃には数メートルほどまで近づく。

「ありがとう鮫久! 最後に大ジャンプを頼むでござるよ!」

島津はイルカ用の餌を鮫久の口に入れる。鮫久はキュキュキュー! と鳴くと、

島津達をサーフボードごとをて空へ押し上げた。

 紺色の空に光る黄色いサーフボード。月が二つになったかのように高く高く飛び上がる。

そしてそれは馬艦隊の救命ボートに着地。栗山は口から水を吐き出しながらもなんとか狼煙を上げる。

「御三方! 変身でござる!」

 モモンガ用ウエットスーツを着ていたものの、真冬の海に浸されて半分死にかけの三人だが。

栗山は小さな小さな赤合子に水を注ぎ、母里は黒田節を歌った後に牛角型の小さな小さなデミタスカップで水を飲む。細川もラップにくるんだ辛子蓮根を頬張った。

 三人の立派な若武者は袴姿でフラフラと立つ。島津はリュックから短い棒を三本出した。

「これ、博士が作った折り畳み式の槍でござる。行人殿達の刀程の攻撃力はないが、敵の戦士とそれなりに戦えるらしいござるよ!」

 四人は月光に槍をかざして叫んだ。

「ゼッタイ敵を倒すぞ!」


 彼らは島津のリュックに入っていたフックで船によじ登る。そして無事にデッキに辿り着いた。

長い息を吐いた彼らのもとへ。足軽達がなだれ込んできた。

 島津は槍を構えて叫ぶ。

「拙者は島津義弘! 拙者は無駄な殺生をあまり好まない……が! 必要な場合はしちゃうでござるよ! 道を開けよ!」

 頭に角が生えていると思えるほどの眼差し、海を震わすほどの音波の島津。

 島津達よりも高い場所に居た美しい純白の武者は、法螺貝で叫んだ。

「足軽は精鋭十五人を残し、ケガ人を担ぎ避難ボートで退却!

 真田殿は真田丸、伊達殿は一〇八計で撃って出よ!」

「かしこまりました。戦国一〇八計レジェンド・真田丸!」

「畏まった! 戦国一〇八計レジェンド・瓢箪から駒!」

 真田は海面に小さなミニチュアハウスを投げつけ、隣の背が高い男と白髪交じりの男とともにひも付きフックですいすい海へ降りていく。 

 一方伊達も海面に向かって瓢箪を叩きつけた。割れた瓢箪から出てきたのは高さ数mの馬。

政宗と、彼の近くに居た片倉小十郎、伊達成実は艦隊から飛び降りて馬に飛び乗る。

「しまった!!」

 島津達は足軽十五人に取り囲まれる。

「仕方ない! 強行突破でござるよ!」

 四人はお互いの背中を背にし、迫りくる黒い影と斬り結ぶ。月光に照らされて、冷たい空気の中を冷たい光と音が走る船上。

「足軽の分際でエエエエエエエーーー!」

 細川の槍を持つ手に力が入る。上杉直属の足軽達は雑魚ではない。予備戦士なので腕は確か。

しかも武器の性能だけなら足軽達の方が上。

 それでも何とか銀の槍を振り回して戦う四人。少しずつ押し返していく。形勢が有利になってきた。

「あと四人でござる!!」

 しかし、島津達より武力が一段落ちる栗山は膝をついた。

「兄者!」

 思わず膝をついた栗山の前に立つ母里。栗山は荒い息で立ち上がったが、ふと真横を見た。

「馬がこっちに来る!!」

 一瞬手が止まった皆。一瞬後。インカムからの言葉に目を見開いた純白の武者は叫んだ。

「一旦休戦を願いたい!」

「あいわかった!」

 島津の言葉を聞いた純白の武者は足軽に救命ボートでの退却を指示。

島津達も余ったボートに飛び乗る。ボートが海面に落ちた直後。

「チェルシー! チェルシー! ノー! ノン! ブーシー!」

 三日月の兜の武者達の叫び声と巨大な馬が馬戦艦ど真ん中を通過した。

バナナを折るが如くあっさりパッカリ割れた戦艦。その衝撃の余波がボートを襲う。

島津達が転覆したボートによじ登っている間に足軽は退却。

 残ったのは、雪の化身のような若武者。島津はリュックを下し、サーフボードに飛び乗って叫んだ。

「拙者はあの武者をぶっ倒しに行くでござる!」

「し、島津殿おおお!」

 三人が止める間もなく島津はサーフボードでかっとぶと、タブレット端末で戦況をチェックしていた雪武者の救命ボートに飛び乗った。シーソーが跳ね上がるように浮かび上がった雪武者は。一回転しながら名乗りを上げる。

「正義の雪龍! 上杉謙信見参!」

「初めましてでござる! 拙者は島津義弘!」


「いざ尋常に勝負!」


 金色の月の下。オレンジ色のボートの上で。

島津と上杉の二人の手の先の銀色の光はビュンビュン走りぶつかり重なる。

夜空に浮かぶその銀の残像が宇宙を走る流星群に見えるほどの超高速である。

「やるでござるな!」

「そちらも。」

 思わず駆けつけようと救命ボートを漕ぎだす三人だが。島津よりも要救助者を見つけてそちらを追い始める。

「兜が半分くらい半透明でしたから、さっきの砲弾をくらってしまったのでしょう。

島津殿はもうほっといて大沢殿を助けないと!」

「……全く情けないヤツだッ! ギャーギャー煩いッ!」

「本当だぜ!」

 三人は槍で船を漕ぐ。クルーザーに近い程の高速で船を漕ぐ。

そしてなんとか友樹を追いかける今川に追いついた。

栗山と母里が必死で船を漕ぎ、最前線に立った細川が今川の背中めがけて槍を突き出す。

 しかしその閃光のような一撃を今川は何とか避けた。

「チイィッ! やるな!」

「細川殿交代だ!」

「俺がやるッ!」

「俺のほうが槍は得意だ!」

「前から思っていたが俺にタメ口を利くなッ! 酔っ払いッ!」

「おめえの部下じゃねえっつうの! キチガイ!」

 取っ組み合いのケンカを始める母里と細川。グラグラ揺れる救命ボート。

「太兵衛! 仕方ないから細川殿にゆずれ! ……ああああ! 今川がニゲルニゲルニゲル!!」

 慌てた栗山はとりあえず槍を今川にぶん投げるた。

(とりあえず一瞬でも足を止めてくれれば……あれ?)

 栗山の投げた槍は今川の背中にクリーンヒット。前のめりにぶっ倒れる。

「兄者あんがとな! トリャー!」 

 素早く立ち上がった今川だったが。そこへ母里太兵衛と細川が飛び蹴り。

 再び倒れる今川。背後からのしかかった母里と細川は彼の頭を槍でツンツン小突く。

しかし兜は封印されない。バタバタする今川の上の二人は思わず顔を合わせた。

 栗山は船を漕ぎながら叫ぶ。

「大沢…殿……戻ってきて止めを刺してください!」

「は、はい!」

 戻ってきた友樹は刀を今川の頭上に振り下ろす。

「あ、あれ? も、もう一回!」

二回目で何とか封印されたそれを見て、母里と細川は船に飛び乗る

 一方友樹はヨッシーを栗山に渡した。

「ヨッシーを避難させてください! 息が荒いんです! 僕は神崎さんと行也君を探しに行きます!」

 栗山にヨッシーを押し付けて走り出す友樹。栗山達は強風に煽られつつも船を漕ぎつつ声を掛けた。

「私達が探しますから! 一人じゃ危ないです!」

「そうだぜ! 太兵衛様に任せな!」

「お前ひとりじゃ無理だッ!」

「皆さんだと甲冑を装備できないから僕が行かないと!」

 以前いきなり森から逃げた時よりも速く。彼は駆けていく。追いかけようと必死で船を漕ぐ三人だが強風に煽られて船は転覆。

ようやく這い上がった頃には友樹の姿は消えていた。

「大沢ーーーッ!」

 一方、栗山は船の上に乗せたヨッシーの息がさらに荒くなり、

顔色が悪くなったことに気が付いた。彼はきゅっと眉を上げ、島津から預かったリュックを漁った。

「……とりあえず…大友殿を安全な場所へ…私が大沢殿のご母堂に電話します。」


――その少し前。神崎は最上と刀を交えていた。

 彼と龍造寺は息が荒い。追いかけてきた足軽の十人中七人(三人は行也を追った)を逃げては斬り、逃げては撃ち、という戦術により何とかやっつけた神崎、友樹、龍造寺だったが。

 その後に今川・最上・鮭延に見つかってしまった。友樹を逃した神崎は最上と鮭延二人相手にずっと戦っていたのだ。

 先ほどまでは戦国一〇八計レジェンド・化け猫の舞(リューニャンたちは前回途中で帰ったということで三分間だけ来てくれた。)により優勢に戦えていたのだが。彼らが帰った後は押される一方。

横から鮭延がヒュンヒュン飛ばす矢は龍造寺がモモンガ用小刀で防いでくれている。

しかし防ぎきれなかった矢が一本。神崎のふくらはぎに突き刺さり、海上に赤いインクを垂らす。

 黄金文字彫りの鉄棒を思いっきり振り下ろす最上。高層ビルから落ちる鉄パイプのような強い衝撃を刀で防ぐ神崎だったが。鉄棒をじりじりと刀に押し付けられてバランスを崩した。彼は思いっきりひっくり返る。

「んん?」 

 最上は自分の腕にぶら下がった龍造寺に視線を移す。

「…モモンガちゃん。どいてくれるかな。」

 銀狐のような厳かで鋭い眼差しが龍造寺を刺す。

 しかし龍造寺は無言で最上の腕に爪を立てた。

「殿になんてことを!」

 片頬だけぴくっと上げた最上。彼は近寄ろうとする鮭延を制し。龍造寺を腕から引っぺがした。

「龍造寺!!」

 海面に叩きつけられそうになった龍造寺を神崎上半身を起こしてキャッチ。

その間に最上は鉄棒を刀に持ち替えた。

さらに。刀を構えて振り下ろす。何千層も重なる透明な空気層をチェーンソーのようにぶった切るようなその刃。神崎はまだ刀を構える動作の途中。間に合わない。しかし最上の刃に見えない刃がぶつかった。

最上の刀は生きた魚の如く跳ねる。

「何?」 

 少し最上の意識が逸れる。その間に立ち上がった神崎。再び落ちてきた最上の刀を余裕で受け止める。

「しぶといね。」

 二人は再び刃を交える。神崎は先程のような防戦一方ではない。彼の最上を見る目も、垂れ下がった半開きの細い闇の切れ目から太陽のように熱くかっぴらいた目に変化する。

 一方、神崎と最上を底辺とする二等辺三角形の頂点に居た友樹は再び銃を構えるが、

反対側の頂点の鮭延に見つかった。

「待て!」

 大柄な体に似合わず鮭延は足が速い。逃げ足ナンバーワンの友樹にぐんぐん近づく。

「ははははははははやいはやいはやいー!」

友樹は振り返るたびに大きくなっていく彼の姿に冷や汗をかいた。

 しかし。また振り返った時。急に鮭延は前のめりに倒れた。

「な、なんだいったい!」

 事態がなかなか把握できない鮭延。彼の足首には黒い糸束が絡みついており、

それを立ち泳ぎしている男が引っぱっているのだが、後ろ向きに引っ張られている彼にはそれが見えなかった。

 黒いモモンガを頭に乗せた立ち泳ぎの男を見て、友樹は長い息を吐いて顔をほころばせた。

そして助走をつけて紺色の空に飛び上がる。

「二階崩れ斬り!!!」

 うつ伏せになった鮭延を狙う友樹。そこへ神崎を吹っ飛ばした最上が割り込んだ。

 驚きつつも体中からエネルギーを集めて腕に集中させたような一撃を最上に叩きつける友樹。

最上は仰け反りつつも踏ん張った。兜は殆ど透明に近い。しかし彼は腕や顔に切り傷を作りながらも友樹の自分史上最大限の攻撃を受け止めた。

「え! え!」

 ふらついて虫のような息を吐きつつも重い一撃を放つ最上。友樹はそれを何とかなんとか受け止めるが。彼の銀色の刀には血管の如く細い線が一本走る。  

「ギャアアアア!」

 最上の攻撃を受け止めるたびにミシッ、ミシッと悲鳴をあげながら薄い網目模様が広がっていく友樹の刀。

「友樹!!!」

 友樹に駆け寄ろうとする神崎。しかしその前に鮭延が立ちはだかった。

 目の前の事態を何とかすべく足に絡みつく黒い束をぶち切って立ち上がった彼。

渾身の一撃を神崎に振り下ろす。剛腕な彼の刀は。まるで巨大な鋼鉄ハンマーで物を叩き壊すような威力。それを何とか避けた神崎。海面には深い深い裂け目が刻まれた。

「殿! 申し訳ありません! さっさとコイツを始末します!」

「始末されるのはそっちだ!!」 

 神崎は鮭延と刀を撃ちあう。彼は気力だけで最低限の動きで攻撃を受け止めた。

このままだとやられる…何か策は…そう神崎が考えた時。海面から声がした。

「うらめしや……」

「へっ? お、おばけぇー!?」 

 不意に鮭延は下を向いた。

 一方、疲れていて海面の声が聞こえなかった神崎は。目をカッと開いて刀を握る手に全神経を集中させる。

「オリャアアアアアア!」

 神崎は自分の刀に強い意志を乗せ。刀の重さが十数倍になったかのような勢いで鮭延の兜を殴打。

相手の脳天ごと押し潰すようなその一撃。鮭延の兜は透明になり、変身が解けた。

「と…の…。」 

呻きながら最上のもとへ這いつくばって進む鮭延よりも速く。

 神崎は背後から最上に近づく。そして。最後の力で刀を振り下ろした。

「くあああ……。」

 最上は変身が解けてよろめき、膝をつく。友樹は後ろへ飛ぶと、刀を鞘にしまった。

最上が仰向けに倒れたのを見た友樹と神崎は息を整えながらあたりを見回した。

「周りに敵はいねえみたいだな。最上と……その近くに辿り着いた鮭延もへばってるし。」

「そうですね。行也君はどこでしょうか……。」

「へ? いたのか!」

 二人は海面を凝視し、刀の柄で海面を探りながら探し始めた。

「泳いで鮭延の背後に近付き、七本槍を使って転ばせてくれたんです。

市松人形の呪い……じゃなくて髪の毛が出てくる福島の穂先をセットして、

鮭延の足を絡めとったんじゃないかなと思います。

海も空もこの時間だと暗いですし、ヘッドライトは兜の疲労がたまるとだんだん光が弱くなるから、

こっそり近づかれてもわかりにくいでしょうね。特に今日の行也君は紺色の絣と袴ですからよく見えなかったのかと……。作戦には+に働きましたが、僕たちも探しにくいのが難点です……。

今日は水中用ポッカイロを背中やお腹に張り付けていましたが、そろそろ切れる頃ですよね……。」

「正解じゃが、敵が意識があるのにそんな話はしないで欲しかったのう!」

 二人が振り返ると、頭だけ浮かせてぷかぷか泳ぐ行也、そしてその頭に乗った黒田が居た。

「よかった!」

 神崎におぶられた行也。一方友樹は二つに折れた七本槍を預かった。 

鮭延の後ろで、頭だけ出して泳ぐ行也。その上に乗っかった黒田は、最上と鮭延が遠くに逃げたのを見ると、友樹に携帯端末を貸りた。

「もしもし栗山、皆無事か? ……ああワシも行也も神崎も友樹も龍造寺殿も無事じゃ。

 へ? 島津殿が飛び出したああああああ! 本当に猪突猛進野郎じゃの!

……よかった。帰ってきたのか。上杉を倒せなかったのは残念じゃが無事でよかった。

……行人達と合流したのか。……へ? 真田一家はログハウスごと高知県と宮崎県沖の間に飛ばされた? 春彦達はそこで鍋島殿と霧沢に合流して交戦中……なるほど。今山の奇襲を使ったのか。

無茶をするのう。とすると鹿児島沖の敵の残りは上杉のみか。わかった。そっちへ合流する!」


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