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戦国DNA  作者: 花屋青
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兜モモンガを捕まえろ!

――朝。カーテンの隙間から、青い空が彼らを覗く。 昨夜、結局三人はそのまま居間でぐっすり眠ってしまった。起きてから昨日の話の続き。

「ところで、グレーのモモンガも先生の知り合い?」

「そうじゃ、良く知ってるのう! だが困ったことにワシは今、そのモモンガと交戦中じゃ。」

 行也は困惑して尋ねた。

「え、どうしてですか?」「ワシは寝床と食べ物を恵んでくれたモモンガ軍団の、縄張り争いに助太刀したんじゃ。そうしたら、争いの相手がたまたまそのグレーのモモンガ、島津義弘殿の軍での。」

「助太刀か……先生は義理堅いんですね。」

 黒田は金色の瞳を輝かす。

「まあ義理もあるが、ワシは戦が大好きなんじゃ!

 自分の策で世界の運命の欠片を動かせるからのう! 策が当たっていたら最高に気持ちがいいし、外れていたら腹立たしいがまた新しい方向を探すのも楽しい。

 そして戦だけじゃなくて様々な物事で、自分の身体中の血管や神経に情報や思考を巡らせ、自分の細胞ぜーんぶ使いこなして困難を打開する道を考えるのが生き甲斐じゃ!

 刑事が事件を解決するのが好きなのと同じじゃよ!」

「むしろ戦好きな先生が事件起こしそうじゃね!」

「……思い当たるところがあるのは認める。

 とにかくワシの腕のみせどころじゃ! 何とか講和に持ち込んで見せる。……所でご飯はまだかの。」

 兄弟は台所へ向かい、料理を始めた。野菜の皮は厚くむいて棄てている。

「勿体無いのう。お前達が食べないのならワシが食べる。」

 行也は首を振った

「今は、野菜の皮が体に悪い時代なんです。」


――朝ごはんをしっかり食べて学校に着いた行人は、動物研究会の陸奥に話しかけた。

「モモンガを捕まえる道具を貸してくんねぇか?」


――昼休み。行人はジャージに着替え、バイク登校の陸奥に借りたヘルメットを被ると、友人達と公園に向かった。

 段ボールを盾のようにソロリソロリと押し進めながら二手に別れて広い公園内を先へ進む行人達。

「どうやって捕まえるんだ? 一匹になった所を狙えばいいっていうけどよ、なんかさっきから見てると、いっつもモモンガ集団の中にいるし、トイレも誰かと一緒だぜ。」

 陸奥はチッチッと指を車のワイパーのように動かして、口の端だけ上げて笑った。

「安心しなさーい。コオロギちゃんをたくさん用意した。これでモモちゃん達を引き寄せ、その隙に一匹になるであろう島津モモちゃんを狙い打ちにするのさ。」

「なんで島津モモはコオロギの所にいかないってわかるんだよ。」

 さっきからずっとQ&Aを続ける行人と陸奥。さっさと作戦に入りたい友人を制し、陸奥はまた回答する。

「山田君の話を聞いていると、グレーモモちゃん……いや島津モモちゃんは黒田モモちゃんと同類だ。コオロギはあんまり好きではないだろう。……もしもし、島君?」

 二手に別れた先の、行人の友人が返事をする。

「はい。こちら島。コオロギを虫かごから撒きます。」

「うむ、島君。警戒されないように頼むよ。友好的な感じで宜しく。」

 島は電話を切ると、虫かごから二匹コオロギを出した。

「モモちゃん! おいで!」

 するとモモンガがファーッとそよ風のように滑空し、コオロギを捕まえて食べ出した。

 島は今度は十匹放つ。すると食べ終わったモモンガは金管楽器のピッコロのように高らかに鳴き、ふわふわした集団が島の周りに集まって着た。その中には島津モモンガも。

 島津モモはモモンガに似合わない険しい目付きで島の様子を見つめる。島は微笑むと、しゃがんで近くに居たモモンガに手ずからコオロギを食べさせた。

 島津モモはじっと島を観察していたが、島と、パクパクコオロギを食べているモモンガを見て踵を返した。

「やっと一匹になった!」 行人は咄嗟にネットバズーカを放った。緑の点が空を舞い、時間を開けて面になる。しかしその面は永遠に二次元であった。

「避けやがった!」

 島津モモはバイオリンとコントラバスを混ぜたような調べで鳴き叫び、辺りをキョロキョロと見回す。

 行人は友人にバズーカを渡し、彼らと少し離れると立ち上がって手を叩いた

「俺が囮になる!」

 行人は公園を駆けまわる。それを高速で追いかける島津モモ。少し遅れてモモ軍団。島津モモは時々ふわりと助走をつけて浮かび、行人の足を滑空しながら狙う。

 島津モモと目が合った行人は、鬼が唐辛子を目に指したような眼差しに絶叫した。

「こいつ只のモモンガじゃねえ! 鬼モモンガだ!」

 行人は灰色の刃を何とか避けながら走る。

 そしてついに。高速で走る緑の格子が島津モモを包む。行人は振り返り素早く其を掴み、また違う友人に思いっきり投げる。

 足の早い友人は其を受けとると、自転車に乗って逃げた。

 残った行人達も急いで走り、モモンガの追撃から逃げ延びた。


――放課後、動物研究会の部室。捉えられてからずっと檻の中で島津モモンガが暴れている。

「ぐあっ! このような辱めを受けるくらいなら、切腹するでござる!」

 一応、自殺防止の対策をしてから檻に入れたので、皆は無視した。

 陸奥は満面の笑顔である。

「おお、これがヒーロー勧誘モモンガか! おっ、額にマンホールのマークがあるぞ!」

 島津モモンガはバタバタしながら言った。

「マンホールのマークじゃなくて、島津家の家紋でござるよ! 拙者はいいからせめて……他のモモンガには手を出さないで欲しいでござる……。」

 動研の皆は手を高く上げて歌いだした。

「安心しなさーい。」

一方、行人はみんなをぐるりと見渡して、お礼を言った。

「皆のおかげだ! ありがとな! あと、このことは誰にも言わないでくれ! 黒田先生にもそう言われたんだ。」

 皆は頷いた。

「もちろん。だって兜モモンガの存在を誰かに言ったら、百年呪われるらしいし。」

 行人は思わず叫んだ。

「え、マジで! 藤堂は大丈夫なのかよ!」

 すると、檻の中の島津モモンガが口を出した。

「拙者はそんな噂を流したことはないし、そんな呪いの存在も知らないでござる。ただ……額にキズのある白いモモンガが、その噂を流していると聞いた。」

 島津モモが語るには。

「額に傷のある白モモンガに勧誘された友達が、兜モモンガの存在を話すと百年呪われるって言ってました。本当ですか?」

 と九十九人目にスカウトした人物が質問してきたとのこと。

 ネットバズーカの友人は笑って言った。

「でも、誰かに百年も思われるなんてある意味すごいね。」


――その後。行人は島津モモンガを連れ帰ることにした。自転車に檻をくくりつけ、夕焼けに染まる坂を走る。

「拙者をどうするつもりでござるか!」

「俺も戦士になって、兄貴を助けたい。協力してくれ!」

 少し間をあけて。島津モモンガは低い声で答えた。

「……死ぬかもしれないぞ。」

「死ぬつもりはない! バカ兄貴を一人に出来ねぇ!」

「自身の兄をバカ呼ばわりはやめるでござるよ!」

「わかった! たまにしか言わないようにする!」

 島津は一瞬顔をしかめたが、彼の素直な声に微笑んだ。

「拙者は島津義弘。そなたは?」

「山田行人! 行人でいいぜ! 兄貴も山田だから区別出来ねえし。」

「行人殿。お世話になったみなさんに挨拶して、引き継ぎもしたいから、一週間くらい待たせてしまうが……宜しいでござるか?」

「おう!」

 島津は微笑むと続ける。

「これも何かの縁。それがしの技、伝授するでござる。これからは拙者を師匠と呼ぶこと!」

「わかった! 所で師匠!」

「何でござるか?」

「ついでに黒田先生と仲直りしてくれ!」

「は? もしや黒田の手の者だったのか! 不覚!」

「いや俺はただ、師匠の力を借りたくて捕獲しただけだ。黒田先生に頼まれたわけじゃない。」

 行人は振り返って頭を下げた。

「……でも結果的に争いに介入しちゃったな。ごめん。」

 真摯に謝る行人にほだされ、島津は穏やかな眼差しで言った。

「……いつまでも争うわけにはいかないし、これも何かの機会……行人殿、前を見て運転するでござる!」

――しばらくして。

「ただいま! 黒田先生!」

「お帰り! ……島津殿もご一緒か。」

「……黒田殿とはつくづく縁があるでごさるな。」

 黒田も神妙な顔をした。

「……島津殿とは昔も戦いましたからな。」

「今さら昔の話を蒸しかえす気はないでござる。今の争いについて皆と相談したいから拙者を開放して欲しい。」

 開放された島津と、黒田はモモンガ達を根気よく説得し、縄張り争いは解決。兄弟も同行し、両陣営にリンゴと乾燥フルーツを配る。ちなみに動物研究会の皆と友人達にはマフィンを渡した。

 引き継ぎと残務処理を終えた島津は山田家に住むことになった。


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