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戦国DNA  作者: 花屋青
28/90

馬に乗った仁王

行也達は、ラーシャの外食OKリストから、行く店を探した。

「…これで何か食べろ。私はもう帰る。」

霧沢が数万円を置いて帰ろうとした時。不思議な現象が起こった。少し遠くで舞う土埃、そして、ドスンドスンと響く大地。明らかに尋常ではない。島津は叫んだ。

「馬の音でござる! こっちに来る!」

「…えええ? 何か知らないけど怖いぜ!」

霧沢は溜め息をついた。

「…仕方ない。車に乗れ。」

とりあえず、神崎と行也は行人達を車に押し込んだ。しかし車は五人乗りだ。

「俺は走りま……あ!」

神崎は最後に行也を車にぶちこむと、友樹から大きなポーチを受け取った霧沢と一緒に車の上に立った。運転は友樹に任せる。

「と、飛ばしちゃいますよ!」

友樹は目をぐるぐるさせながら強くアクセルを踏んだ。土嵐も、パカラッパカラッと響く馬の蹄の音も、近く大きくなっていく。

「海ー! 長さん! どこじゃあぁあ! 生きとるかぁぁ!」

叫び声が気になった友樹がバックミラー越しに見たのは。馬に乗った仁王であった。

「海ー! 長さんー! どこじゃぁあァー!」

腰に木刀を下げた、やや色白で茶髪の若い美青年は、海を揺るがす大音量を馬上で発する。身体中から発せられる威圧感、見たものを焼き尽くすような猛々しく熱い眼差しは、まさに仁王。

彼は白眼に蛇の舌を走らせ、ギョロギョロと悪という名の獲物を探す。すぐに人相の悪い神崎が車の上にいることに気がついた。

「われはこないだのヤクザじゃな! そこの車止まりんさい!!」

車の上に立った神崎は、両手を上げて、ミュージカル俳優のようにバカでかく響く声で訴える。

「あれは誤解だ! 俺達は決して怪しいものではない!」

「悪いやつらぁ大抵そうゆうんじゃ!」

困ったことに、ラーシャの父ラザニアは神崎達のことを何もフォローしていなかった。戦士ということを隠すことに気をとられていたのである。一方走り出した車内で、ふと後ろを振り向いた海は、茶髪の男が知り合いだと気がついた。

「春彦さん落ち着いて! 仲間だよ!」

彼は窓から顔を出し、必死で、誤解だと訴えるが、

その声は波、風、馬の蹄の音に掻き消される。そして、逆にその必死な顔が春彦の思い込みを加速させた。彼は強く手綱を握りしめた

「あがぁに怖がって! 可哀想に……! 今すぐ助けるけぇの!」

春彦は片手で拳銃を構えた。バックミラーを見て、びびった友樹はそのまま運転続行。黒田は転がりながら、友樹に呼びかけた。

「止まった方がいいんじゃないかのぅ!」

「で、でも! あの人かなり頭に血が上ってますよ!?」

「ヨッシーもー! 春彦ちゃんと馬が疲れてからの方がー落ち着いて交渉できる気がするー!」

とりあえず皆は振り返り、春彦を見た。そして無言ですぐに前に向きなおる。細川は冷静な声で言った。

「もう少し走りましょう。」

馬はさらに加速。そしてついに。

「ぎぁあああ〜!」

涙目でハンドルを握る友樹。銃声が空に響き、車に一瞬衝撃が走る。春彦が車のタイヤを狙って発砲したのである。金色の銃弾は回転しながら唸りをあげる黒円へ命中したが……そこには刺さらずポロリと落ちた。どうやら特注品らしい。友樹は的を絞らせないようにくねくね蛇行運転する。春彦はさらに発砲。これもタイヤに当たったが、やはり無傷。友樹は悟りを開き、無心でハンドルを握る。

ラーシャは冷や汗をかいた。

「海クン。あの人ちょっとやばいのではないデスカ!」

「ちょっとじゃなくヤバいよ! すごくいい人なんだけど……。前もって電話すればよかった! こんなときに電源が切れちゃうなんて!」

「行人! 海に携帯を貸すんじゃ!」

携帯を借りた海は春彦に電話したが、突っ走る彼には聞こえない。さらに、涼太と言う男にも電話する。

「……留守電だ!」

春彦は銃を構え、身体中から湯気を発してまた叫ぶ。

「さぁ、観念しんさい!」「だから人の話を聞けよ! そもそも俺達は仲間だろ! 甲冑で気付けよ!」

「われ達は映画研究会じゃゆっとったじゃろ!

伊達政宗の甲冑はあの名作、スターウォーズのダース・ベイダーのモデルになったものじゃ! じゃけぇ、われ達はそのパロディ映画でも撮ってたんじゃろ!

銃刀法違反したり、ぶっ倒れるまで無理矢理甲冑を着せたり、挙げ句の果てに予算が足りないから海を誘拐するたぁ……絶対に許せん!」

日本語が噛み合わない中、霧沢は神崎に言った。

「…義兄上、ちょっとどいて下さい。」

「……お前誰?」


霧沢は、神崎の影に隠れて金髪のカツラを被り、顔には褐色メイクを施していた。マントを羽織り、手には十字架を持っている。まるで別人。元々の彫りの深い顔立ちも手伝い、自然な仕上がり。首を捻りつつ、とりあえず位置を交代する神崎。霧沢は十字架を手に握り締めて、裏声で言った。

「ハジメマシテ。ワタシハ、エセ・フランシスコ。キリシタンデス。イゴ、オミシリオキヲ。」

そういうと、とても丁寧で綺麗な所在で頭を下げる。春彦は思わず釣られて、馬上で軽く頭を下げた。

「こりゃどうも。わしゃあ広島県警の坂崎春彦と申します。」

霧沢は片膝をつき、祈りのポーズで続ける。

「ワタシタチハ、九州ヲマモル戦士。アナタの味方デス。嘘デハアリマセン。神ニチカイマス。ドウカ信じてクダサイ。」

鍋島も車の上にあがり、飛び跳ねながら叫んだ。

「私は鍋島直茂! どうか銃を収め、話をお聞き下さい!」

「そうだよ味方だよ! 春彦兄ちゃん!」

海も車の上に上り、精一杯の声で叫んだ。傍らの長宗我部も春彦を見つめる。

春彦は銃を収めた。その直後。海がバランスを崩した。片足が宙に浮く。

「海ーーー!」

春彦はとっさに手を伸ばしたが、到底届かない距離。……しかし海は無事だった。車上の皆が海に手を伸ばしたのだ。春彦は目を潤ませて深く長い息を吐く。そしてうつ向いて言った。

「……疑ってげに申し訳なぁ……。」

一方、春彦の絶叫で気を失っていた行也は目を覚ました。事情を聞いて目を回す。

「大変だ!」

行也は皆の話を最後まで聞かず、あっという間に車の上に上った。

「俺達は……あっ。」

霧沢の車はオープンカーになった。

天井が抜けた車を背景に、春彦は深々と頭を下げた。

「さんざん悪人扱いをして……おまけに怖い思いもさせてしもうて、げに申しわけなぁんじゃ…。」

海はうなだれる春彦の肩を叩いた。

「オイラが連絡しなかったのが悪かったんだよ。心配かけてごめんなさい!」

神崎も優しい顔で頷く。

「もういいぜ。それより皆でメシ食いに行こう。……フランシスコさんの驕りでな!」

「フランシスコ?」

行也達は、霧沢が消えて謎の外人が増えたことに気がついた。さらに山田兄弟以外は、状況や体格、サングラスから考えて、フランシスコ=霧沢だ! と理解。警察官の前なのでとりあえず話を合わせた。

「フ、フランシスコさん、お久しぶりです。」

一方、空気が読めない兄弟。彼らは黒田と島津につつかれたのにも関わらず、フランシスコに尋ねた。

「どちら様ですか?」

「お前誰だよ!」

霧沢は裏声で答える。

「…ワタシはクリスチャンのエセ・フランシスコ。スミマセンガ、用事がアルノデ失礼シマス。皆様に神のご加護がアランコトヲ。アーメン。」

霧沢は一礼して車に乗ろうとするが。兄弟は彼の腕を掴んだ。

「待って下さい。これは霧沢さんの車です。」

「勝手に乗るなよ!」

黒田は兄弟に呆れつつ助け船を出した。

「霧沢にはワシから話しとくから。急いでいるんじゃろ。行きなさい。」

「アリガトウゴザイマス」

春彦は車に乗り込むフランシスコを凝視して言った。

「……フランシスコさん、連絡先を知りたいけぇ、

名刺をいただけんか?」

「申し訳アリマセン、今日は持ってオリマセン。」

「わかった。……それにしても、どうしてあんたぁは男性にも珍しゅう化粧をしとるんか? あと、ハゲちゃぁいないようなのにかつらをしとるんは、なんでか?」

「…趣味デス。では失礼します。」

春彦は、走り去るフランシスコの車のナンバーを控えようと携帯を構えた。しかし黒田は春彦の足に、友樹は肩に咄嗟に体当たり。

「痛っ!」

「すまん! ふらついた!」

「僕もです! すみません!」

霧沢ことフランシスコの車はその間に遠くへ消える。一方、ラーシャは兄弟にメールした。

『フランシスコ=霧沢さんは春彦さんにナイショ』

兄弟が携帯を見て、声が裏返ったと同時に。パトカーが行也達に近付いて来た。窓の中から手を振る二人組がいる。

「お兄ちゃーん! 海くんー! 長さん!」

「遅れてごめんね〜。」

降りてきたのは、中学生くらい少年と、二十代半ばくらいの青年だ。春彦は二人のもとへ走った。

「われ達、パトカーをタクシー扱いにするんじゃぁない! ……お二方、すまんじゃった!」

パトカーの中の婦警は、いえいえ、と手を振った。

「パトロールのついでですから大丈夫ですよ。」

お礼をいい、走り去るパトカーに一礼すると、三人は皆の下へやってくる。坂崎以外の二人はにこやかに自己紹介した。まずは中学生くらいの少年。背は低く、少し華奢な体格。サラサラ茶髪で黒目がちな大きな目が特徴だ。春彦に似た顔立ちだが、暑苦しい春彦に対し、彼は春風のように柔らかい。

「はじめましてー。 ぼくは、坂崎輝でーす! 毛利輝元の兜の所有者です。よろしくお願いします!」

もう一人は二十代半ばくらいの青年。背が高く、清潔感と気品がある。しかし、銀縁眼鏡の奥で知的にひんやりと光る目は、一筋縄でいかない雰囲気があった。

「加賀涼太と申します。春彦と輝の従兄弟で、小早川隆景の兜の所有者です。よろしくお願いします。」

立ち話も何なので、とりあえず全員でお昼を食べることになった。馬の手綱を引きながら、春彦は涼太に問う。

「元春さん達はどうしたんじゃ?」

「彼らはモモンガカーニバルに出てるよ。父さんが保護者としてついてる。」

「はぁ? なんじゃそりゃ?」

涼太は朗らかに笑った。

「モモンガのペットコンテストだよ〜。各部門で優勝すると、五十万円が貰えるのさ! ペット扱いってことで元春さんはかな〜り嫌がってたけど、軍資金の為だから仕方ないね! ハハハ!」

皆が非難すると、涼太は俯いて小さく呟いた。

「……俺も本当はこんなことはしたくないんだよ…だけどこれから戦いは過酷になる。少しでも軍資金を貯めておかなくてはならないからね……。」

「加賀さん…。」

悲しげな顔の加賀に戸惑う山田兄弟に対し、皆は彼の目が笑っていることに気がついた。春彦は目を吊り上げる。

「われ達は何て酷い奴らじゃ! ……今すぐ迎えに…。」

輝が首を振る。彼は本当に罪悪感の漂う顔でため息をついた。

「……途中で可哀想になったから棄権しようと思ったんだけど、元春さんが途中で投げ出したくないって言い出して……。」

涼太も真面目な顔で頷く。

「元春さんは、

『どうせなら、ペットの頂きに上がってやるゼ!』と力強く言ってたよ……もう俺達には彼らを止められません!」

皆は涼太を白い目で見つめつつ、最寄りの駅を目指した。


青い空に浮かぶ太陽の熱線を背中に感じながら、行也達は最寄りの駅を目指した。歩きながら春彦は、輝と涼太にフランシスコの話をする。行也達は話題を無理矢理変えるのも怪しまれるので、黙っていることにした。輝はわたあめのように微笑む。

「讃美歌とか歌うのかなー。ぼくも会いたかったなあー。」

その後春彦は、駅に向かう途中で近くの馬返却場に馬を返しに行った。ちなみに兄弟達の日本では馬に乗る場合は免許が必要である。行也達はとりあえず近くの駅から電車に乗り、店についた。コンクリートと茅葺き屋根を組み合わせた建物で、そこそこ大きく新しい店だ。店の会員のラーシャはポイントカードの待ち時間0サービスを使い、すぐに部屋へ通された。部屋は和室。ドアを開けると。淡いクリーム色の壁、黄緑の新畳、深い茶色で縁が波うつ屋久杉のテーブル、大島紬の繊細で整った柄のクッションが目に入る。そして、白薩摩焼きの白く上品な花瓶の中で、青い紫陽花が静かに待っていた。彼らは足を投げ出したりと楽な姿勢で寛いだ。今日は和食料理。霧沢に置いていかれた鍋島も、行也達についてきていた。

「ちょっと失礼します!」

彼は携帯を持って一旦席を外し、人気のない所で霧沢からのメールに返信した。

霧沢の返信は早かった。

『置いて行って悪かった。お前は私の正体がバレていないか探れ。あとKの能力も。』

『もう怪しまれてます。携帯で車の写真を撮ろうとしてましたよ。彼は頭に血が登っていない時は普通に頭が回るようです。因みに後からまたK関係者が一人来ました。霧沢殿くらい性格が悪そうですし、多分こっちの方が厄介です。』

『写真をとられたのか』

『いいえ。黒田殿と赤い髪の方が止めてくださいました。』

『礼を言っといてくれ。それから今日は山田家に泊めて貰え。Kに跡をつけられたら困る。山田家への謝礼は明日お前を迎えに行く指宿に持たせる。』

『わかりました。』

『明日は帰りに以下の物を買ってこい。

☆DDVD

耳長教の人々・愛の筵編

風雲内ヶ島城

☆DDSソフト

ゴトベイドーの野望

ノノムラ監督のIEプロ野球(カラーはドラドラブルー。)

☆おやつ

山川漬けキャラメル

キムチチョコ


あとタイガー大隅先生のサイン会がジュンイク堂書店である。指宿と並んでサイン貰って来い。買う本は、《棺男ホウトク》ハードカバー千二百円。人気作家ではないが念のため朝早くから並べ。』

鍋島は荒々しく携帯を切った。

「やってらんねー!」

うっかり叫んでしまった鍋島は、周囲をキョロキョロ見回すと、ため息をつく。そしてちょうど、トイレから出た行也と目が合った。

「あっ鍋島さん、今日はうちに泊まりませんか?」

「ありがたいです! ちょうど……」

その瞬間、加賀もトイレへ来た。彼は腰を落とし優しい笑顔で鍋島に話しかける。

「鍋島さ〜ん。今日は俺達が泊まる宿に来てくださいよ。ペット可のホテルがとれましたし、小早川さんもいますよ〜。」

鍋島は小早川を尊敬している。しかし加賀達と過ごしてうっかり霧沢の正体を喋ってしまうのはまずいと思った。

「いえ、お気持ちはありがたいのですが、山田殿の家にお世話になろうと思っております。」

加賀は鍋島の目をじっと見て言う。

「フランシスコさんがそう言うなら、仕方ないですね。」

光の速さで否定する鍋島。「違います!」

行也は普通に口をだす。

「俺が家に来ていただきたいと言いました。処世術や武芸にお詳しい鍋島さんのお話をもっとお聞きしたいなと思ったのです。」

「そう。こちらも無理には言わないよ。また後で!」

加賀がそう言ってトイレへ向かった後、行也はため息をついて、鍋島に言った。「……時間の問題の……」

彼が次の言葉を発しようとした瞬間、鍋島は行也のズボンを引っ張った。

振り帰ると加賀がいる。

「何が時間の問題なの?」

鍋島は咄嗟に繕った。

「か、加賀殿がトイレを我慢できる時間です!」

「確かにそうだね! ハハハ!」


行也と鍋島が座敷へ戻ると、すでにサラダなどが来ており、皆、和気あいあいとした雰囲気だった。神崎が注文を取りしきり、友樹はこまめにグラスや皿を部屋の入り口へ下げていた。一方、細川は湯飲みをじっと見ている。

「これ欲しいな……。」

「盗んじゃ駄目デスヨ」

「あのときは後でお金を払ったッ!」

そして帰ってきた行也達に、海が手を振り、輝はニコニコと話しかける。

「鍋島さーん! 行也お兄ちゃん! 食べ物注文しましょうー!」

「ではさっそく! イワシのフライとイワシの南蛮漬けとイワシのつみれ汁とイワシの…」

「どんだけイワシ好きなんだよ!」

すかさず突っ込む行人に鍋島は懐かしげに言った。

「イワシを効率よく焼く、賢い妻に、私は恋をしたのです。あれは……。」

「そうか! イワシパワーすげえ! でも今はとりあえず注文な! 黒豚の角煮、桜島鳥のカレー!」

また話の腰を折られた鍋島。海酔いするわ、置いてきぼりにされるわで今日はついていない。長宗我部はそんな彼の前に、そっと自分の分のお通しも置いてあげた。鍋島が好きなこんにゃくだ。そして島津は肩を叩くと、グラスに麦茶を注ぐ。鍋島は仄かに微笑んで二匹に頭を下げた。

一方龍造寺は、隣でカロリー計算をする行也に舌打ちした。

「龍造寺さんは、焼き肉を食べすぎて、胃が疲れていますから……まずはさっぱりと、夏野菜のゼリー寄せ。主食は梅粥にしましょう。唐揚げは一個だけならいいです。夕飯は約束通りフライドチキンですから、お昼のカロリーは控えめにしましょう。」

「…某は…脂だらけで…ドス甘いものが食べたい……体に悪い物が食べたい……。」

彼はここ数日、行也が作るダイエット食を食べていた。それはそれで美味しいと思っていたのだが、たまには違うものが食べたいらしい。

「ダイエットするって約束したろ!」

「……いつからかは…言っていない…!」

神崎の眼差しが攻撃的になる。

「お前、ある意味デブが原因で死んだろ! 痩せろ!」

「……なんだと…!」

龍造寺と神崎はお互いの髪や頬をひっぱり罵りあう。「神崎さん、事情はわかりませんが言い過ぎです! 龍造寺さんも落ちついて下さい!」

仲裁に入った行也は引っ掻かれたのだった。


一方、加賀も帰ってきた。注文の品を持ってきた店員に席を外させ、個室のドアを閉めた。そして相手に言い逃れを許さない、真剣な眼差しで言う。

「行也君。坂崎刑事はあと十分で帰ってくる。その前に聞きたい。フランシスコさんてさ、何者? 後ろ暗いところがある人なの?」

行也達は飲み物を吹き出した。

「フランシスコさんの人となりは…笑い上戸で、悪くて、ずるくて、でも根はよい人で…何かよくわからない人で……。」

こりゃ駄目だ! と思った友樹がすかさず口を出した。

「前科者ではありませんよ! (多分捕まったことはないから)」

「……俺は行也君に聞いてるんだ。黙っててくれる?」

加賀は目が据わっている。友樹は一瞬怯んだが、行也では誘導尋問に引っ掛かるのは明白。

「ゆ、行也君は説明が上手ではないので、僕が説明します!」

黒田は一瞬思案したが。友樹の膝の上の手が固く握られているのを見て、彼に任せることにした。

「そうじゃ! 駄目かのぅ?」

加賀は渋々了承した。

「……わかりました。」

友樹は腹を据え、加賀の目を見て言った。

「フランシスコさんは、人材派遣会社の社長です。」 「会社名は?」

「わかりません。今日出会ったばかりなのでそこまで聞いていないです。」

「そう。メイクとカツラは何のため?」

「それは……。」

神崎が割り込んだ。

「ベースメイクは今時、男性でもすることがある。特に、社長は会社の顔だしな。 カツラは……趣味だと本人が言っていた。それにあいつは……ゲイだからだ! しかもちょっと変わっているんだ!」

神崎は海外暮らしが長い。なのでゲイも特に変わっているとか、異質には思ってはいない。しかし日本ではまだまだインパクトのデカイ言葉である。そのインパクトのある嘘でうやむやにしようと目論んだのだが。驚き係の山田兄弟が素で驚く中、加賀は神崎の話をあっさり否定した。

「ゲイだから、化粧やカツラをするとは限りませんね。単に変装をするためとも考えられます。それにしても……タイヤまで防弾仕様の車なんて珍しい物を所有していらっしゃる。命がけの人材派遣会社なんですね。」

「本当はギリギリ当たってなかったんじゃないか?」

「彼の銃の腕前は、広島県警NO.1です。」

さっきから黒田は、テーブルや加賀、輝の周りのもの、しぐさを見ていた。そしていきなり加賀と輝にポケットのもの、バッグやリュックの中の物をすべてだすように言う。

「友樹、神崎。悪かったのぅ。……本当のことを少し話すから。レコーダー等は、使わないで欲しいのじゃ。」

「黒田先生!」

「黒田殿!」

「もう騙せないから、ある程度は喋っちゃうしかないじゃろ!」

輝は録音機器を持っていなかったが、加賀はボイスレコーダーを持っていた。しかし電源は切れており、再生しても、録音分もなかった。

「職業柄、持ち歩くことにしております。俺は監察医ですが一応警察の一員なのでね。」

「わかった。フランシスコは洗礼名じゃ。本名ではない。それから……ワシらも昨日初めて出会ったから、奴のことはよくわからないのじゃ。神崎は昔からの知り合いだが、最近まで日本を離れていたしのぅ。ただ、お主の言う通り後ろ暗い仕事をしているのは確か。……ワシが言えるのはここまでだ。かなり腹立たしい奴じゃが、仲間がお縄になったら嫌じゃからな! 勘弁して欲しい。」

加賀は頷いた。

「……わかりました。警察は縄張り意識が強いですからね。基本的に所轄外の犯罪者には手を出せません。……ねぇ、春彦。」

春彦はドアの外で聴診器を当てて話を聞いていた。


春彦はドアの外に聴診器を当てて話を聞いていた。彼はドアを勢いよく開け、火のように激しい声と眼差しを行也達へ向けた。

「何だかおかしいと思うとったんじゃ! 車の写真を撮ろうとして妨害されたときからな! 犯罪者と手を組むんはわしゃあ絶対に出来ん!」

彼は歯ぎしりしながら行也達を指差して続ける。

「それに神崎さん達もフランシスコさんの正体を隠そうとした! 信頼できゃぁせん!」

「すみません……。」

一方、涼太は落ち着き払った様子で口を出した。

「……でも春彦も立ち聞きはずるいよね? 俺がそうしろって言ったけどさ〜。」

「そ、それは確かにそうじゃ……。」

目がさ迷いだす春彦に、涼太は続ける。

「俺達も皆さんを騙したんだよ〜! 春彦が来る前に話せって言ったけど、すでに隠れてスタンバイしてたし〜! おあいこだよ。」「……ぉおあー!」

春彦はよろめき、膝をつく細川は息を呑み込むと、ラーシャをつついた

「あいつは奇妙なことをするぞ! 見逃すな!」

「エッ?」

細川の期待通りであった。春彦は泣きながら木刀をかじり、身を雑巾のように捩る。唖然とする行也達を他所に、涼太達は慣れた手つきで春彦から木刀を没収した。春彦はポロポロと畳に透明な結晶を落とす。

「わしゃあ悔しい! 悔しい! 犯罪者がすぐそこにいながらを捕まえられんとは!」

春彦が少し落ち着いた頃。細川はそっと長宗我部をつついた。

「彼はいつもこうなのですか?」

長宗我部はコクッと頷いた。


落ち着いた春彦だが、やはり犯罪者と手を組むことに抵抗があると言う。そんな彼に、行人はめんどくさそうに言った。

「仕方ねえだろ! やりたがるヤツがいねぇし! 今から探しても見つからねーよ!」

鍋島もぴょんぴょん飛びながら同意。

「そうです! どれだけ大変だったか! 百五十人にも逃げられた上、不審がられて保健所送りにされそうだったんですよ!」

「な! 新しいやつを探すのは難しいんだよ! とりあえず腹へったし、食ってからにしよーぜ!」

行人の一言で、皆は中断し食事を再開。

「俺、チーズさつま揚げ追加!」

「きびなごのマリネ!」

料理を追加注文し、和やかになっていく中。未だに春彦は山葵のようにピリピリした雰囲気を纏っていた。ずっと下を向いて食べ進めた友樹だったが。春彦と目があい、思わず箸を取り落とす。そんな中、行也はのんびりと口を開いた。

「そう言えば、中国地方や四国では、どんな敵が襲って来たのですか?」

春彦はそっと箸を置くと目をつぶり、熱く語り始めた。時に顔を真っ赤にしてテーブルを叩き、時に立ち上がり、時に涙をこぼし、時に暖かく微笑み、時に涼太達に突っ込まれ。彼は今までの戦いを劇画調に熱弁。長針はいつの間にか一周していた。

「ほいで、次の敵がまたいなげな奴で……」

「まだ続くのかよ!」

「トイレに行きたいのデスガ。」

空気を読んだ涼太はそこへ割り込んだ。

「そうそう! いなげな銃使いの岡、槍使いの名古屋、石載りの蒲生、の三人が出てきました! はい! 詳しいことはこれ見て下さい。」神崎はレポートを朗読した

「岡はどうなったんだ?」

春彦は腹の底から黒く淀んだ声を絞り出した。

「……あの野郎…絶対に地獄の果てまで追いかけて…ぶちのめしちゃる……。」春彦は木刀をギリリ…と闇色の目で噛み締める。場が凍りつく中、涼太が口を開いた。

「岡ですがねぇ〜。入院費とか色々面倒を見てやったんですが。元気になった途端、俺達に果たし状を叩き付けて逃げやがったんですよ〜! 俺達……特に春彦は手料理とか着替え持ってさぁ、ほぼ毎日見舞いに行ったのですがねぇ! ハハハ!」

それはひどい! と憤る皆を見て、彼はさらに続ける。

「しかも時々、うちや春彦達の家に侵入して、冷蔵庫を漁るんですよ〜。兜狙いのついでなんでしょうがね。金めの物は盗らない分、最低限の良心はあるんでしょうが………許せないねぇ…。」


涼太の目が、氷の凶器のように冷たい光を放つ。全員口を閉ざした。時計の音、ヨッシーの寝息、部屋の延長手続きをして帰ってきた友樹の後退りする足音だけが遠く聞こえる。しばらくして神崎は口を開いた。先程の話を踏襲しつつも、微妙に違う方向の話題を振る。

「それは…ひどい話だな。所で話を変えて悪いんだが、名古屋はそんなに美人だったのか?」

春彦は首を横に振った。

「遠目にしか見とりませんが、わしゃぁ普通じゃと思いました。ちなみにちなみにあがぁなぁは男です。岡がそう言うとりました。」涼太は横から口を出した。「いやいや。絶世の美形でしたよ〜。綺麗で愁いのある大きな目、彫刻みたいな整った鼻で芸能人みたいでした。ちなみに春彦はブス専だから参考になりませんよ。」

春彦は目を吊り上げた。

「わしゃあブス専じゃぁない! ブス専は元春さんじゃ!」

「元春さんは名古屋を美形だって言ってたから違うよ。」

輝はボソッと呟いた。

「お兄ちゃんは……美的感覚が変わってるよね…海君にあげた帽子とか、今日着ているシャツとか……。」

山田兄弟達は、春彦のシャツをまじまじと見た。毛むくじゃらの不思議な生き物が大量に描かれた、蛍光ピンクの半袖シャツを。皆の視線に気がついた春彦は、満面の笑みで自分のシャツを指した。

「こがぁにたっぷり、ぶちかわいいスライルーが描かれとって、ハイセンスじゃろう!」

スライルーは愛嬌のある、毛むくじゃらの鳥のキャラクターだ。しかし大量に描かれると少し不気味。行人とラーシャは正直な意見を口にした。

「一匹ならブサ可愛いけどよ。大量にいるとこえーよ!」

「その蛍光どピンクは目がチカチカします。一緒に歩くのが恥ずかしいデス。」春彦はテーブルから身を乗り出すと、暑苦しく尖った声で反論した。

「なんじゃと! どこから見てもスライルーと目が合う、よいデザインじゃ! 色も宇宙生命体みたいに神秘的な色じゃし!」

一方、行也は時計を見て目を見開いた。

「時間オーバーだ!」

「大丈夫だよ。さっき延長したから。」

「ありがとうございます。そういえば、料金は一人いくらでしょうか。行人達は大食いだから、11人分……いや、もっと……。」

くたびれた財布からすべての札を出して数える行也に、友樹は優しく言った。

「行也君と行人君の分だけでいいよ。二人で二千円ね。黒田さん達にはヨッシーがお世話になってるから。」

「えっ! とても二千円じゃ済まない量ですよ!」

「今度、料理教えてくれればいいから。」

行也は友樹にお礼を言うと、黒田を探す。春彦の話を聞いたりして、敵への疑問が生まれたのだ。

……そう。敵には取り扱い説明動物がいないのだ。



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