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戦国DNA  作者: 花屋青
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モモンガ軍師(後編)

 謎の黒いモモンガ・黒田官兵衛にスカウトされて、謎の軍から九州を守る戦士になった思慮の浅い青年・山田行也。しかし敵の一人・今川義元には歯が立たず、お玉を投げて退却する羽目に。

 帰宅後、海に落ちた黒田をねぎらう行也と弟の行人だったが。無神経な行人に電子レンジに入れられた黒田は我慢の限界を超え、泣きながら家を飛び出してしまう。

 山田兄弟は罪悪感にかられつつ、黒田の行方を追う。

 後日朝。行人は珍しくため息を何度も吐いて、呟いた。

「黒田……。」

 行也も顔に影が掛かっている。

「あれから、何度も探したけど見つからないな。保健所からも連絡がない。

 それから黒田さんと言いなさい。俺達より年長のようだから。」

「黒田……さんは濡れてたし、ご飯も食べてねぇし、野垂れ死んでたらどうしよう……。」

 行也は行人を励ますように、ポンと肩を叩いて言った。

「今日は非番だから、もう一度竜宮神社を探してくるよ。」

「じゃあ俺は、学校帰りに近所を探す。……あっ、時間だ!」


――学校についても、行人は上の空だった。昼休みになっても彼は暗い。

「なぁ、行人。よかったら相談にのるぞ?」

 行人は顔をあげると、ぽつりぽつりと一滴一滴言葉を絞り出して友人に言った。

「……モモンガの黒田さんが……俺のせいで死にかけて……泣きながら逃げた。何日探しても見つからねぇんだ。」

 項垂れ、箸を止める彼にまた違う友人は問う。

「お前何やったの?」

「公園に埋めたり、レンジに入れてあたためボタンを押そうとした。」

 友人三人は思わず声を揃えた。

「動物虐待だ!」

 行人の弁当箱に、小さな雫が落ちる。

「そうだよな……謝りたい。美味しいご飯食べさせてやりたい……。」

 友人三人は顔を目合わせると、また口を揃えた。

「じゃあ昼をさっさと食べて、黒田さんを探しに行こうぜ!」

 ご飯をかっ込むと、行人達は近所を探した。しかし中々見つからない。諦めてそろそろ帰ろうという時だった。

「あれ? モモンガが沢山いる。」

「本当だ! 何やってんだ。」

 彼らの視線の先には、金網を挟んだ先のモモンガ集団の戦。

 公園の木の上を基地にして、戦闘機のように滑空するモモンガ達がぶつかり合い、陸では砂が空に化粧粉をはたくほど激しい殴りあいや取っ組み合いが起こっていた。

 片方は黒田が、敵側は兜を被ったグレーのモモンガがそれぞれ指揮をとっているようだ。黒田は拾った傘の骨で陣形の指揮を取り、グレーのモモンガは毛を逆立て雄叫びを上げながら先陣を走っている。

 行人は叫んだ。

「黒田さん!」

 しかし聞こえない様子。行人は黒田に近寄ろうとしたが、友人は止めた。

「あぶねーよ!」

「授業に間に合わないぞ。もうすぐ中間テストだろ。また赤点とったら、お前の兄さんは泣くぞ。」

「十分特徴はあるし、貼り紙やチラシ配りでも探せる。それに集団でいるなら、直ぐにの垂れ死ぬことはない。」

 三人は行人を引き摺ると、とりあえず学校に戻った。――行人と友人達は、放課後同じ場所に戻ったが、もうモモンガたちは居ない。 そのあとも付近を探したが見つからず。行人は友人達にお礼を言うと解散した。 

 その際、行人が黒田の詳細を話すと、友人から他にも兜を被ったモモンガが居て、九州を守る戦士をスカウトしているという話を聞いた。

 噂の出どころは隣のクラスの藤堂。ちなみに断ったら、もう百四十九人だとしょげてたと言う。


――外はもう墨汁をとかした色。解散した行人は家路を急ぐ。

 走る彼の脳裏には、友人の言葉がちらついていた。

「……この話はあまり人には話さない方がいいかもな。」

 しばらくして家につくと。玄関前に黒田がちょこんと座っていた。

「黒田さん、ごめん!」

 黒田は泣いて謝る行人に優しく言う。

「もうよい。気にするな! ただ、ワシは狭くて暗い所がダメなのは、知っておいて貰いたい。それから……。」

「わかった! 許してくれてありがとな!」

 行人は力にまかせ、思いっきり抱き締めた。黒田は白眼を剥いて窒息死寸前。 そこへ、買い物袋を抱えた行也が帰ってきた。

「行人お帰り。あ……黒田さん! 帰ってきてくれたんですね! 無事でよかった!」

 兄弟は喜びのあまり、黒田を胴上げした。

「黒田さんばんざい!」

黒田は目をぐらぐら回しつつ、苦笑いした。


 一息つくと、黒田は説明モードに入った。山田兄弟は正座して、上座に座る黒田の話を聞く。

「正直ワシも思い出せないことだらけじゃ。わかる部分だけ説明するぞ。」

「かしこまりました。」

「ワシは、九州を守るKY戦士の兜の取扱説明動物であり、戦国武将の生まれ変わりじゃ。

 そして兜が傷ついた時、修復する力がある。まぁ大抵、兜は自動的に光合成したりして修復するし、栄養ドリンクとか金属元素が沢山入ったものをぶっかけて元素を補給して修復するという方法もあるぞ。」

 兜を不思議な目で見つめる兄弟に、黒田は続けた。

「この兜は特殊な素材・『卑弥呼の土』で出来ている。

さまざまな植物、鉱物が混ぜられた粉末と、植物から栽培した何にでもなれる万能細胞、水を大量に含んだゼリーとを混ぜた素材じゃ。

 ちなみにこの万能細胞は、四重螺旋構造になっていて、片方が活動している時は、片方が冬眠して自己修復するんで永遠に生き続ける細胞じゃ。

 まぁ簡単に言うと、植物と鉱物で出来た甲冑じゃな。植物にモーツァルトの曲を聞かせたり、話しかけると綺麗な花をさかせるように、装備者の放つ波長により様々な形態に変化出来る素材じゃ。

 で、その土にプラスして、それぞれの戦国武将の魂が込められているらしい。」

行人は手を上げた。

「魂ってなんだよ?

 つうかよくわかんねえがその素材不気味じゃね。」

「ワシもわからん。確かに不気味であるが便利な素材じゃ。

 とにかく兜を被ったものはその戦国武将の身体能力と特殊能力がプラスされる。

 で、一定条件……取り扱い説明動物に教えてもらうか、脳内で何か閃いた時にその武将に因んだ技が使えるのじゃ。」

 行人は頭を捻った。

「何で兜を被ると鎧や刀が出てくるんだ?」

「ワシもよくわからん。不思議な力じゃ! ……あと刀は補充がきかないらしい。一人一本ポッキリじゃ。まあ二本持っている武将もいるらしいがの!」

 行也は腕を組み、考えこむような顔をして言った。

「……行人、さつまいもを買ってきてくれないか?」

「何で今?」

「黒田さんはさつまいもが好きだから。」

 黒田は行也の話に乗った。

「よくわかったな。あ、買いにいくならスーパー有馬にするんじゃぞ。ポイント二倍デーじゃからな!」

 行人は訝しがりながらも買い物へ。行人が家から出ると行也は黒田に尋ねた。

「……人体への影響はどうなのですか?」

「わからん。安全という保証はできん。」

 行也は黒田の目を見て、いつものおっとりとした話し方でなく。きっぱりと言った。

「説明、ありがとうございました。俺は仕事があるので毎日は無理ですが、非番の日ならお役に立ちたいです。

 ……ですが。行人は一切関わらせないというのが条件です。俺はバカですが、よくわからない力で、よくわからない敵と戦うなんて不安です。まだ十七歳の弟にはさせられません。」

 黒田は目と眉を寄せた。

「うーん……正論じゃが……。敵はもう現れてしまった。それに今は兜が一つしかないからいいが、もう一つ兜が手に入ったら弟さんにも協力して欲しい。怪力じゃからの。」

「では俺が毎日戦います! 行人は勘弁して下さい!」

 行也は黒田に詰め寄り、彼の肩を強く掴んだ。手と言葉と見開いた目に力が籠る。

 行也がその気になれば、潰されてしまうだろうと思った黒田だが、行也を真っ直ぐに見上げた。

「あやつは思慮は浅いが、怪力の上、バカなりに物事を考える性格で戦士向きじゃ。……それにもう時間がない。」

「警察の方に頼むとか……。」

「忙しいと断られた。」

 二人の考えは平行線。時計の音だけが、静かな部屋に響く。そんな中、行人が帰って来た。

「ただいま! さつまいもは田山さんに貰ってきた。」

「ありがとう……って貰った? いつも何かいただいてばかりだからお礼をしなきゃな……。」

「そうだな! …それから兄貴。事情はわかった。俺も戦うぜ!」

 行也は目を見開いた。

「今の話、聞いてたのか!? 人体への影響すらわからない道具で戦うんだぞ! 未成年でまだ成長期のお前には無理だ!」

 行人は真剣な顔で言った。

「……やっぱそういう話だったんだな。急に買い物に行け、なんてヘンだと思った。どっちみち誰かがやらなきゃ行けないことだぜ。それなら正義の味方が夢だった俺がいい。」

「でも……お前じゃなくても……他の大人を……。」

「見つからないと思うぜ。違うモモンガもヒーロー勧誘をしてて百四十九人が断ったって聞いた。」

「……そうか。」

 行也はしばらく黙り混んで天井を見ていたが、行人の目をまっすぐに受け止めた。

「わかった! 行人、よろしくな!」

 兄弟は拳を突き上げて叫んだ。

「我ら山田兄弟、九州のために戦うぞ! ちぇすとー!」

 黒田もつられて笑顔で跳び跳ねて叫んだ。

「今日からワシがお前らの人生の軍師じゃ! ちぇすとー!」

二人と一匹は大いに語り、歌った。


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