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戦国DNA  作者: 花屋青
17/90

戦場でしか生きられない男

 現場に到着すると。素早い動きで体操をしている人影が見えてきた。

「お前達って敵かー?」 

「はい。そうです!」

 行人の問いかけに素直に答える人影。それは女性のような優しい顔立ちの小柄でスリムな男であった。

 車掌服のような赤い鎧、帽子のような兜を纏っていた。鎧のボタンは六文銭。小さな洞貝を首から下げ、手には赤い槍。槍には青い幾何学的模様の長いリボンが結んである。

 その隣には「真田十勇士」と書いてある、太いタスキをかけた、真田の色違いの緑色の鎧の男。猿のような茶色い短髪、円らな瞳のややマッチョな男だ。

 そして男達の周りには巨大で厚い三メートルくらいの五円玉のようなもの(穴が四角い)が六枚。

 ロクモンスターと言うらしい。ご丁寧にそう書いてある。

 二人の男は、真田の「S」マークをそれぞれ手で形作りながら叫んだ。

「真田信繁と十勇士が、お前らの人生航路を運休させる!」


 真田はミニ洞貝を吹く。冬の空気のように高く澄んだ音が、穏やかな水色の空と紺色の海に響き渡る。

 それに反応して鈍く光るロクモンスタ―がタイヤのように転がり始めた。

 その錆銅色の円盤は水飛沫を上げながら水上を高速道路のように引っ掻き走る。

「コイツらしつけーよ!」 避けても避けても追尾弾のように行人らを追うロクモンスター。

 神崎は汗だくで目が半開きである。鎧の重さが尋常でないこと、さらに生ける漬物石の龍造寺が肩に引っ付いていることを考えると、立てていることだけで素晴らしい根性と体力である。

 常人だったら装着した時点で……合掌。

 風呂敷に入れられ、行人の背中に背負われた黒田は、頭だけでなく手も出して指示した。

「横方向への移動は遅い! ロクモンスターの間に挟まりそうになっても、落ち着いてすり抜けて逃げるのじゃ!」

 友樹は自慢の逃げ足で距離をとり、コンペイ銃でロクモンスターを撃つ。はんなりとした水色半透明の小さな弾丸は高音を奏でた。 しかしロクモンスターの表面をへこませただけ。

「あわわわわ……。」

「友ちゃん落ち着いてー! ……あっー猿がくるー!」

 『真田十勇士』タスキの男が、ロクモンスターの上から飛び下りて友樹に斬りかかる。

 友樹は絶叫しつつ何とか避けると、走って間合いを取ろうとする。

「逃げていないで戦え!」

 ロクモンスター二枚と十勇士の猿男は、陸上選手のような綺麗なストライドでシュッシュッヒュッと友樹を追いかけた。


 一方、行人は飛び上がってロクモンスター上の真田に刀を振り下ろす。

「ちぇすとー!」

 しかし。行人の刃が振り下ろされるよりも先に、真田は幾何学模様のリボンを一閃した。

 「真田紐体操!」

 真田はリボンで行人を絡めとる。そして手首をしならせ、海面に叩きつけた。 巨大なガラス瓶が割れたような水の塊、衝撃音、行人の叫びが辺りに弾け飛ぶ。

 その後は不気味に躍りながら行人を海上でぶん回す真田。

 行人、島津、風呂敷に包まれて行人に背負われていた黒田は。洗濯機の中の衣類のようにぐるぐる回されて朦朧としていった。

「行人殿! 黒田殿! しっかりするでござるよ!」

 島津は目が回りつつもリボンをほどこうと奮戦する。だがリボンは甲冑に凄い粘着力でへばりついており、なかなか剥がれない。

 島津の額から汗が落ちた数秒後。リボンはスパッと鋭利な刃物で切断された。

「……神崎さん……ありがとな!」

 よろめきながら立ちあがり、お礼を言う行人だったが。神崎は力尽き前のめりにぶっ倒れた。


「神崎さん大丈夫か!」

「海が……俺を愛の重力で離さない……。」

 そこへロクモンスターが四枚、間隔を一メートルくらいづつあけてシュレッダーのように高速で迫る。

 行人は神崎をかばうように前に立った。そんな彼に島津は叫ぶ。

「昨日話した弾丸切りでござる! 空から弾丸をきりぬいて最後に刀で押し出せ!」

「了解! 島津弾丸斬り!」

 風の巨大な弾丸が高速で駆け、ロクモンスターを直撃。ロクモンスター四枚の端の二枚を押し返し、真ん中二枚はメリッと音を立てて真っ二つに割れる。

 しかし二枚の割れたロクモンスターの中から『真田十勇士』と書いてあるタスキの男が四人出てきた。

 彼らはこっちに刀を構えて走ってくる。

 弾丸斬りは十文字斬りより発動が遅く、最後の押し出す動作で疲れるのが難点。今の行人は連打出来ない。

「マ、マジかよ……。」

 とりあえず発動の早い十文字斬りをする行人。十勇士四人は吹き飛んだがまたこっちに向かってくる。  行人はひたすら十文字斬りをしつつ、十文字斬りの死角(行人から見て横)から転がってくるロクモンスターを避ける。

 神崎も横からのロクモンスターの攻撃を避けた。

 前からは十勇士四人、横からはロクモンスター二枚。敵対やっつけるどころか、防ぐだけで精一杯。

「そういえば友樹と大友殿はどこじゃろ? まぁ逃げ足は速いから大丈夫だと思うがの。」

 黒田と島津はあたりを見回す。島津はすぐに友樹とヨッシーを発見し、指差した。

「あそこで猿男とロクモンスター二枚に追いかけ回されているでござる!」

「何じゃと!」


 一方、何とか刀を海面に突き立てて立ち上がった神崎は、虚ろな目で縁起でもないことを言う。

「……おい龍造寺……お前の辞世の句は?」

「……戦国一〇八計 レジェンド・化け猫の舞……。」

「戦国一〇八計 レジェンド・化け猫の舞?」

「……まず、一旦刀をさやにしまう。それを引き抜いて刀に太陽の光を当てろ。そして空に三匹の猫を描き、海面に振り落とすイメージで刀を動かせ……。」

 神崎は刀をさやから引き抜き、言うとおりにする。 すると、三匹の巨大な柔らかい光のデブ猫(三mくらい)が現れ、神崎と行人の周りを守るようにぐるぐる周りだした。

 メリーゴーランドの如く高速で回転する猫は近付いた残りの二枚のロクモンスターを破壊、真田十勇士四人と、いつの間にか背後にいた真田信繁の攻撃を撥ねかえす。

 巨大猫の一匹は雄叫びをあげた。

「ナベシマハドコニャー!」


「ちょっと疲れたニャ。」

 巨大猫は走るのを止めると、三角形に仁王立ち。果敢にも立ち向かう真田達を何度も吹っ飛ばす。

「島津弾丸斬!」

 十勇士がまたこちらに向かってくる瞬間を狙い、行人は猫と猫の間から刀だけ出してまた弾丸斬りをした。

 透明で唸りを上げる風のロケットは、真田十勇士二人をふっとばし、兜を眠りにつかせる。

「なかなかやりますね。」 真田は直ちに、鳥がさえずるような音の法螺貝を吹いた。

 十勇士二人は透明になった兜をもって凄まじい速さで逃げる。


――敵の残高は。

<行人・神崎側>

十勇士二人

真田信繁一人

<友樹側>

十勇士(猿)

ロクモンスター二枚


 神崎は龍造寺猫に尋ねた。「あの巨大猫はあと何分いてくれるんだ?」

「……七分程。」

 島津は巨大猫に頭を下げた。

「どなたか一人、あっちにいる仲間を助けに行って欲しいでござる。ピンクのモモンガが目印だ。どうかよろしくお頼み申す。」

 行人と黒田も頭を下げる。

「ワカッタニャー! リューニャンガイクニャー!」 リューニャンは白い吹き流しを足元に作りながら友樹とヨッシーの元へ走った。


――少し時間を遡る。友樹は行人達から離れた場所で逃げ回っていた。

「も、も……だめ。」

「友ちゃんーなんで岩屋城ボンバーを使わないのー。」

「忘れてたよ!」

「高橋リスペクト 岩屋城ボンバーって叫んでー。」

「た、高橋リスペクト 岩屋城ボンバー!」

「兜にくっついている黒い岩をちぎってー真上に投げて下から刀で突き上げるー!」

 しかし黒い岩はポチャリと海へ落ちた。

「あわわわわ。」

 その間にロクモンスターには並走され、真田タスキ猿と差が詰まる。

「もう一回ー。……あっー! ロクモンスターが前から回り込んできたー!」

「前から……後ろからも……ど…どっちに逃げあふぁあぃあひぃー!」

「横に逃げればーイインダヨー。」

 友樹は目をぐるぐる、口をカタカタさせる。ヨッシーの声は届かない。彼はその場で足踏みをし始める。 後ろから真田タスキ猿男、前からロクモンスター二枚に友樹は前後から挟まれる。ヨッシーは友樹の頬を平手打ちした。

「ぐほぁっ!」

「もうー落ち着いてー! 高橋リスペクト 岩屋城ボンバーだよー! ほら!」

「高橋リスペクト 岩屋城ボンバー!」

 ヨッシーが上に高々と投げた黒い岩を、友樹はこけつつも海面に落ちる直前に突き上げた。

 ハート型の岩が友樹の前後左右から飛んで行く。高橋のより小さくて威力は弱い。

 ロクモンスターには直近直撃。メリッと音をたてて大きな円盤は割れる。

 幸い十勇士は中から出てこない。岩は友樹の頭へ振りおろされた猿男の刀をもふっ飛ばす。猿男は刀を拾いに行ったため、友樹は蟹走りで横に逃げた。

「普通に走りなよー!」

 ヨッシーの声で我に返る友樹だが。蟹走りのせいでまた差がつまる。猿男は痺れた腕を擦りながらまた追いかけてきた。

「いざ尋常に勝負!」

 そんな時。巨大猫リューニャンが友樹を迎えにきた。リューニャンはつり上がった三白眼が特徴のちょっと怖い外見の猫だ。

「リューニャンニャー!」 友樹は絶叫し力尽きてへたりこんだ。

「ヨッシー達のー味方だよー。大丈夫だよー。」

 その間にも迫り来る猿男。友樹めがけて再び刀を振り下ろす。

 しかしリューニャンは友樹を庇うように立つと、猿男の刀を手で受ける。さらに猿男に三発強烈な猫パンチをし、蹴りを入れる。

 そして。リューニャンは猿男を両手で持ち上げた。

「クッチャウニャー。」

 猿男は真っ青になる。友樹は手をパタパタさせて止めた。

「も、もうそれくらいで………。」

「テキはテッテイテキニヤッツケルニャー!」

「そ、そこを何とか!」

「ショウガナイニャー!」 リューニャンは猿男を放りなげ、友樹を口にくわえると、行人達のところへ連れて行ってくれた。

「あ、ありがとうございます。」

 行人は友樹が戻ってきた頃、ふらふらしながらまた弾丸斬りをした。十勇士一人は吹っ飛び、兜を仕留める。その敵も透明な兜を掴むとダッシュで走りさる。

「足が……。」

 行人はついに膝をついた。黒田と島津は巨大猫の壁の中で相談。三人とも疲れて相手と斬りあえる状態ではないのを見て、唸る。


――敵の残高は

真田信繁

十勇士が二人

 そして猫バリアはあと三分。猫が圧倒しているものの、敵が粘り強くタフで三分で倒せるかは不明である。

 そしてこちら側三人は限界。猫がいなくなったら終わり。黒田は断言した。

「全員揃ったことじゃし、猫バリアで守って貰いながら退却! ……猫の皆さん。退却するからしんがりをお願いします。」

 しかし巨大猫のうちの一匹・リューニャンが、また騒ぐ。

「ナベシマハドコニャー! タオスニャー!」

 龍造寺は煩い……と呟くと真田を指して言った。

「……あれが鍋島だ……。」

 巨大猫は龍造寺が差した真田達を掴んで観察したが。

「……ウソツキハキライニャー! ゾーニャン、ジーニャン、カエルニャー!」

 腹いせに真田達をぶん投げると巨大猫三匹は帰った。


「あの……巨大デブ猫は一体なんなんですか……。」

「俺……クッチャウ二ャー。って言われましたよ。」

「怖っ!」

 海上に思いっきりぶん投げられた真田達は、痛みに顔をしかめつつ、海面をアメンボのように這う。

 一方、行人達は気力を振り絞って走り出した。真田達との距離は二Km程も開く。

 しかし逃げ切れそうだと安心しだした矢先。神崎が前のめりにぶっ倒れた。

 行人達は神崎を助け起こそうとするが彼は銅像のように重い。

「俺なら……大丈夫だから……先にいけ……。」

「そんなこと出来ねーよ!」

 行人達は体の軸がぶれてふらふらしつつも神崎をなんとか引きずる。

 そんな彼らを高らかで澄んだ声が追跡する。

「戦国一〇八計サナダクシー!」

 大きなサナダムシっぽい微妙に可愛いドラゴンボートのような乗りものが、真田達を乗せて走ってきた。ぐんぐんとこちらへ迫ってくる。行人達はヘナヘナと座りだした。

「……マジで。」

「母ちゃん……そちらに行きます……。」

「切腹するでござる!」


 友樹とヨッシーは手で十字を切り祈る。


「ちょちょちょ待て! ラーシャの親父にメールしてあるから早まるな! ほら!」

 黒田の言葉が終わると同時に。真田達の背後で水柱が炸裂した。

「細川いちゃもんナスビ!」

 屈強な男の手から放たれた紫色のナスビが紺色の海へ投げ込まれ、白い柱が真田らの背後に聳え立つ。

 水上バイクで海面に白いふわふわした線を後ろに描きつつ、行也とラーシャ父がやって来た。

 ラーシャ父は水上バイクを手足のように操りながら、さらにイチャモンナスビを繰り出す。

 水がはぜる音と海面から勢いよく昇りゆく白い泡のオブジェが真田達を点状に縁取る。

 真田は笛を吹いて点呼を取った。

「皆さん無事ですか!

 点呼を取るので返事して下さい。十勇士番号一、猿飛佐助!」

「はいっ!」

 その間に行也は水上バイクで行人達へ近付く。

「兄貴ー!」

 行也の腕の中へ黒い物体が悲鳴を上げながら空に山を描いて落ちた。

 行也はそれをしっかりと受け止めて変身。

 さらに彼は自分が乗ってきたバイクに行人達と協力して神崎を乗せた。

 そして直ぐに走ってラーシャ父の加勢に向かう。

 ラーシャ父は水上バイクから下りて真田達に口上を述べる。

「戦え危険な芸術家! 細川忠興 華麗にチマツリ!」

 価値観が惑星的に違う。細川は髭をピクピクさせて黙りこんだ。

 ラーシャ父の所作を一瞬見つめた後、真田は叫んだ。

「退却!」


 再び水上バイクに跨がり、サナダクシーに乗って去ろうとする真田を引き留めようとしたラーシャ父だが。顔をこわばらせて立ち止まった。

「マテ! ……ウッ!」

 追いかけてきた行也はラーシャ父に尋ねる。

「どうしました?」

 ラーシャ父は真田達に聞こえないよう小声で言った。

「私はムシが苦手ダ……。」

「うーん……微妙に可愛いと思うのですが……分かりました。俺は質問したいことがあるので追いかけて来ます。」

 黒田は首をかしげた。

「聞きたいことってなんじゃ?」

「森さんのこと、それから……ずっと考えていたことです。戦国一〇八計・中国大返し!」

「ちょちょちょま! ラザニア殿、行也の頭だけみて百m後ろからついてきてくれ!」


――行也は真田達に何とか追い付いた。


「待って下さい!」

 行也の声を聞き、刀を構えた十勇士二人に刀を収めさせ。真田はラーシャ父に警戒しながら答える。

「用があるなら手短かにお願いします。歯医者の予約が入っているので。」

「ありがとうございます。森さんは今どうしていますか?」

「ああ。怖い方の森さんですか?」

「はい。怖い方の森さんです。死ね! が口癖で、趣味が書道で……。」

 真田は可愛らしい笑顔で言った。

「お元気ですよ。そうそう、この間の書道コンクールでは『紅茶頭死ね』が朱墨部門で入選なさっていました。」

「ひ……どい…書道コンクールですね……。」

 行也は絶句したが、気を取り直し早口でさらに質問した。

「最後にあと二つだけ。杉谷さんはお元気ですか? あの方だけやる気のレベルが違う気がしました。

 ……それから和平は無理なのですか? こちらに落ち度があるのなら、政府や警察に事情を話しに行きます。俺にも出来ることがあるなら……。」

 真田は険しい表情で答えた。

「一つめの件はお答え出来ません。

 和平の件は私の力でも貴方の力でも無理です。もっと力がある人でないとどうしようもない。

 そもそも、庶民に政府を動かすなんて、出来るわけがありません。失礼ですが甘いと思います。

 貴方がすべきことは、我々に勝ち続けることです。そんなことはさせませんがね。……痛っ!」


「真田さん大丈夫ですか! だからお菓子は食べ過ぎるなって言ったのに!」

「今度からおやつはキシリカールガムにしましょう。」

「だ、大丈夫ですか? 引き留めてすみません。お大事に。」


 行也は会釈すると、彼らを見送った。

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