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戦国DNA  作者: 花屋青
15/90

俺を倒せ祭り

 島津は夜の神社にいた。深紫の空より更に暗い闇へ、金色の小さな円盤を投げ、手を合わせて深く目をつぶる。

「本当に不甲斐ないでござる……。」

 島津は今までの出来事を反芻し、空を見上げてため息を吐く。

 その時、島津の近くてガサゴソと音がした。

 社殿から出てきたのは。両手にポリタンクをもった幽斎。首から下げられたペンダントライトが流れ星のように揺れて、奇妙な服装の彼を浮かび上げる。

 花や蝶々の飾り付の緑色の帽子。狐の毛皮の陣羽織。その下に、紺色の地に花火が色石で刺繍が施された浴衣。そして紺色のスパンコールがしきつめられた袴。落ち葉が組合わさったデザインのブーツ。

 まさに罰ゲームのような服装である。

「今晩は。」

 身構える島津に、幽斎は大きなポリタンクでダンベル体操をしながら会釈する。

 島津は思わずポリタンクを指差した。

「……そのポリタンク、神社の名前が書いてあるでござるが?」

 幽斎は優雅な溜め息を吐きながら答えた。

「私は電気を止められた上、油も買えません。これでは夜に世界への手紙を描くことが出来ないのです。

 神様ならそんな私に油を恵んでくださるでしょう。」

「それを盗みと言うでござるよ!」

「………幽斎さん! もうこういうことはしないと約束したじゃないですか!

 今すぐ油を戻してきて下さい!」

 島津が振り返ると。行也が般若顔で竹馬に乗り仁王立ちしている。夕飯なので島津を呼びにきたのだ。

 行人と黒田も島津を心配してついてきていた。

 幽斎は溜め息をつくと、油を神社に返してきた。

「電気を止められたって何かあったのですか?」

 幽斎は愁いのある眼差しで言った。

「国宝展や展覧会などに行ってたらお金が……。ライフワークの陶芸、書道にもお金が掛るし、あと目の栄養のために美術品とかいろいろ買いました。」

「無駄遣いしすぎじゃ! その服装も色々とおかしい!」

 幽斎はスタイルのよいシルエットで一回転すると、黒田の指摘に心外な顔をした。

「これはコーディネートで四季を表現しているのです。

 ……ところでこの間置いて行った、戦士サプリは飲んでいますか?」

「飲んでいません。身体に悪いという検査結果が出たので。」

 行也は黒田に言われて、サプリを検査機関に出していた。幽斎は険しい表情になり、懐から出した虹色の瓶を投げる。

「今すぐ飲んで下さい。サプリは、体に溜め込んだ有害物をデトックスするものです。

 私を信じられないのは当然でしょうが、この件に関しては信じて下さい。」

「有害物ってなんですか?」

「主に重金属とかです。

 とにかくこの国は空気も海もとても汚いのですよ。特に海の汚染がひどい。だから海の上で戦っている貴方達は、とてもとてもアンチヘルシー。

 戦士サプリで有害物を排出しないと行けないのです。」

「マジかよ!」

「そ、そんなに汚いのですか! あんまり実感がないのですが……。」

 驚いて大声を上げる兄弟に、幽斎は淡々と説明を続ける。

「兜を身につけること自体は恐らく無害でしょう。

 サプリを飲んでデトックスをすれば、健康に影響は殆どないと思います。完全に保証はできませんが。」

 幽斎のいつになく真剣な表情を見て、行也は深く頷いた。

「わかりました。」

「お主は何でそんなに詳しいのじゃ?」

 黒田の問いに、幽斎はクイズを出す子供と、何かを追究する大人が混ざった目で答えた。

「さぁ。ただ私にわからないことも沢山あります。」

 行也は、先程よりは穏やかな眼差しで幽斎を見つめて言った。

「……サプリの件はわかりました。幽斎さんに二つお聞きしたいことがあります。

 夕飯はお食べになりましたか? あと失礼ですが無職ですか?」

「夕飯は食べました。仕事は休職中です。」

「そうですか。お金に困っておられるようですし、バイトをした方がよいと思います。

 多才な幽斎さんならすぐ見つかるはずです。俺も一緒に探します。」

 行也は幽斎の目を見て続ける。

「正直言って、俺は貴方をまだ信用しきれません。

 しかし料理をごちそうになりましたし、何かの縁です。お腹がすいた時、相談したいことがある時は連絡を下さい。」

 行也は自分の携帯番号をメモに書いて渡した。

「お心遣いありがとうございます。お礼に貴方達に稽古をつけて差し上げましょう。」

 疲れた兄弟達は唐突な展開に戸惑った。

「え? 今日はいいです。」

「何で電話番号を渡すとそう言う展開になるんだよ!」

「私は運動不足なので、相手になってください。手加減しますから。」

 幽斎は左腕を捲る。そして懐から出した扇で、左腕の細川家の家紋を強く擦った。

 彼はまばゆい光に包まれ変身。五月人形の鎧を薄く、スリムにシンプルにしたデザインの白銀の甲冑と兜を身に纏う。

 兜は阿古蛇型。兜の前面についた緩いV字型の飾りは金で真ん中にサファイア、縁にはパール。甲冑の中は白銀の鎖帷子。その下に青い立て襟シャツフリル付き。下は白銀の鎖帷子のロング袴。その下に青い袴。白銀のブーツ。

 陣羽織は外は青い生地にパールの縁取り。背面は九曜紋が白抜き。

 内側は巻物のように和歌が書かれている。兄弟達の鎧と明らかに予算が違った。

「我が言葉(ことのは)は 宇宙の音色 細川幽斎 万理を彩る!」


 幽斎に続き、兄弟も眩い光に包まれて変身した。

幽斎は手をコキコキ鳴らす。

「まずは行也君から。こちらは素手ですが、刀でかかってきて下さいね。」

「出来ません。例え貴方が強くても。」

「解りました。ではこちらから参ります。」

 幽斎は先に尖った水晶の付いたニ〜三m程の白銀の巻物を槍のように構えた。 そして短歌をオペラ調で詠いながら巻物を勢い良く行也の頭上へ振り下ろす。 巻物は金属の丸太の如く大気をぶったぎりながら行也の頭上に落ちる。

 行也はそれを何とか受け止めた。

 巻物にジリジリと力を込める幽斎。行也はあまりの重さに体が石畳の床にめり込みそうになる。それでも何とか踏みとどまると、巻物を精一杯押し返した。

 月明かりの下。行也と幽斎は斬り合う。

 刀と巻物のぶつかる音、プラチナとシルバーが空中ブランコの様に重なり離れる回数は百回。

 そして木々がざわめく中、行也は吹っ飛ばされた。

 美しく長い金髪を掻きあげ、幽斎は講評する。

「素晴らしい。しなやかで臨機応変な太刀筋です。しかし、相手を倒す気迫が足りません。……次、行人君」

「兄貴の仇!」

 行人は刀を強く握って斬りかかる。刀から火花が出そうな勢いでプラチナとシルバーの光は何度も何度も激しくぶつかる。幽斎は行也の時よりも、巻物を握る手に血管が浮き出ていた。

「……逸材ですね。今は無駄な動きが多いですが。」

 行人も百合目で吹っ飛ばされた。

「二人とも鍛錬して下さいね。ではご機嫌よう。」

「待って下さい!」

「何ですか?」

「戦士の能力は兜に宿る武将の武勇+本人の基本能力+αと聞いたのですが、+αとは何ですか?」

「私にもはっきりとはわかりません。相性的なものや、どれだけ兜の特性を理解し生かすことが出来るか、だと思いますが。」

「ありがとうございます。……それから、プリンと筑前煮もご馳走様でした。美味しかったです。」

「どういたしまして。……それから変身中は絶対に気絶しないように。」



――残された兄弟と黒田、島津は。

「とりあえず、友樹さんとラーシャ君にも今聞いた話や一応こないだの検査結果を伝えて、サプリを渡した方がいいと思う。」

「でも検査結果は身体に悪いと出ただろ! 俺はアイツを信頼できねえ! 約束を破るやつだ! 盗聴器をしかけてくるし、部屋に落書きしやがるし!」

「確かに細川さん自体はまだ完全には信頼出来なそうだが、今回の件は信用していいと思う。それに得た情報はすぐ伝えるべきだ。」

 そう言うと、行也はサプリを一粒口にした。全員、息を飲む。

「大丈夫です。細川さんは、自分がプライドを持っていることや興味のあることには嘘やごまかしのない人です。

 一緒に料理を作ればわかります。自分が食べないトマトサラダも、薔薇型に盛ったりと丁寧に作る人ですから。

 とりあえずサプリは他の機関に送ってみて、その検査結果と俺の体調を合わせ判断するしかないですね。」

 島津は目と眉を近付け、不安そうに言った。

「行也殿、自分の体で人体実験なんてやめて欲しいござる……。行人殿!」

 島津は慌てて行人の手からサプリを払い落とす。

「何すんだよ! 兄貴だけに危険を負わせるわけにはいかねーよ!」

 黒田は真っ直ぐ行人の目を見て言った。

「飲まないのも飲むのも、どっちもリスクがある。

人に合わせるんじゃなくて自分の判断を信じるんじゃ。疑うのも正しい。」

 黒田は下を向いた行人に続ける。

「まぁ、あやつはナルシストで懲り性じゃ。地味な毒殺は可能性が低い気もするけどな。

 だが罠だった時の事を考えて、行人は今日は飲むな。」

 兄弟はラーシャの両親と友樹にサプリの件のメールを送る。

 そして、竹馬で行也と黒田はラーシャ宅、行人は島津と友樹宅へ向かった。


――しばらくして行人と島津は友樹宅へ到着。

 行人は夕飯をごちそうになった後、ソファーに寝っころがりながら幽斎の話をした。

「行人殿! 行儀が悪いでござる!」

「だって師匠、疲れた!」 彼は友樹の方を向いて続ける。

「と言うわけだから! 一応友樹さんの分預けとく!」

「わかった。ところでその変な人、何者なのかな。

 とりあえず僕はその人が言っていることは当たっていると思うよ。」

「何で?」

「日本の海の汚染がひどいのは本当だよ。大気も汚いし。だから日本の食べ物は外国じゃ売れにくくなってるよ。

 うちの会社は昔、自社ブランドのお菓子や缶詰めを輸出してたらしいけど、父の代で止めたよ。」

「そういえば聞いたことある気がするな。」

 二人が話していると、細川がやって来た。やはり少し寂しそうな顔である。

「細川さん、大丈夫か?」

「今日は体調を崩したと聞いて心配だったでござる」

「大丈夫です。それより、変な噂を聞きました。」

 細川は顔から影が消え、生き生きと島津を見て続ける。

「極悪モモンガ集団がいるらしいです。薩摩芋詐欺をしたり、子モモンガを恐喝したり、路上に落ちているお金も集めているとか!」

「モモンガが金を集めてどーすんだろうな。まぁいいか。こらしめなきゃな!」

 細川は溜め息をついて続ける。

「それが、リーダーがすごいデブモモンガらしくてな。捕獲は難しいだろう。」 お祈りを終えたヨッシーもきた。

「ヨッシーもー! 近所で聞いたー。頭に兜を被ってるらしいよ。

 きっと龍造寺ー。……島津も来てたのかよ!」

 睨むヨッシーに行人は注意した。

「師匠をいじめんなよ! ところで龍造寺ってどんなヤツ?」

 細川が答える。

「才気換発、冷酷無比。肥前の熊と言われる男だ。」「難しくてよくわかんねー! 友樹さん簡単に説明してくれ。」

「ずるがしこいデブだよ!」

 一方、行也と黒田はラーシャ父指定のマンションの公園にいた。

 そこはとても広く、茶色い土の上に様々な木製の不思議な形の遊具が立っている。

「珍しい遊具が一杯ですね。それにしてもこの竹馬、すごく便利です。今度お礼にいかないと。」

「……かなり奇異な目で見られたがの。」

「竹馬は流行っていませんから。……しまった! 腹ペコ行人を向かわせてしまった。友樹さんにタカってるかも!」

「だから明日にしろといったのじゃ! ……電話じゃぞ。」

 行也は携帯の画面を見て首をかしげた。

「ラーシャ君からです。え? にげろ?」

「こないだの武装メイドがくるもしれんぞ!

 ここは帰ったほうがいいんじゃないかの。疲れているじゃろ?」

「大丈夫です。サプリを渡さないといけませんし。」

「全くこんな時間ニ迷惑な奴ダ! しかも不気味なメールを送りやがって。何がサンタさんからダ! 偽名を使う卑怯者メ! 

 お前達のメールアドレスは危険リストに入っているから分かってるんダ!」

 行也が振り返るとラーシャの父親が立っていた。

 頭にはベネチアンガラスのビーズで編まれた月桂冠。

 軍人のような筋肉質の体格を古代ローマ人のようなシーツ巻き服で包んでいる。

 その服の色はイタリアの国旗色。

 足にはトマトのマスコットがついたロングシューズ。

 彼は鋭い眼光で行也と黒田を見据えた。

「息子には合わセン!」

「……かしこまりました。ではお手数ですがこの手紙とサプリを渡しておいて下さい。夜遅くに失礼しました」

 手紙とサプリを渡し、頭を下げて竹馬に乗る行人だったが。

 ラーシャの父上は行也を竹馬ごと持ち上げた。行也はスラッとした体格だが、身長がとても高いので重い。

「待て根性ナシ! 友人が親に閉じ込められているかもしれないゾ!

 それでも黙って帰るのカ!」

 黒田は慌てて行也にしがみつくと、ため息をついた。

「今日は俺を倒せ祭じゃな!」 


 竹馬ごと持ち上げられた行也。

 ラーシャ父は行也をバーベルのように高々と持ち上げて叫ぶ。

「お前がラーシャの友たる資格がアルカ見極めル!」

 行也は持ち上げられたまま頭を下げた。

「チャンスをくださってありがとうございます。とりあえず下ろしていただけるとありがたいです。」

 ラーシャの父親は行也を下ろすと、不思議な構えをとった。足は左足を前に出しやや前傾姿勢で、両手を体の前でクロスさせた。

 そして。ラーシャの父親は不思議な構えのまま動かない。行也も同上。黒田が様子を見ろと言ったからだ。

「何故掛かってこない! まさか『友人の父親を殴ることは出来ません』とか言うノカ!」

「いいえ。相手が本気で戦うのを望むならこちらも本気で戦います。それが礼儀です。」

「では何故掛かってこナイ!」

「相手の行動が意味不明な場合、無闇にこちらから仕掛けない方がよい。というアドバイスをいただき、俺もそうだと思いました。」

「ならば、こっちから仕掛けてヤル!」

 ラーシャの父親は、ゴツイ見た目から想像できない速さで拳と蹴りを繰り出す。行也は目を見開いて言った。

「速いし隙がない!」

「私はイタリアの戦う芸術集団ゴールデントマトの一員!

 只の痛いオッサンではないのダ! そんな練りケシのような緩い反撃など通用シナイ!」

 ラーシャの父親の拳と蹴りの速さは電車の準急から急行へ。行也はもう喋る余裕がない。

 二人が戦っている付近は土がココアパウダーのように舞い上がり、小さな小石が炭酸の泡のようにパチパチはぜる。

 黒田は少し離れた場所で手を汗ごとぐっと握りしめ、行也の一挙一動を見守る。

 行也が少しふらついた時。彼は無意識のうちに声を発していた。

「行也ガンバレ! 汗臭い奇妙なオッサンに負けるな!」

「誰が汗臭くて奇妙ダト!」

 行也はラーシャ父が黒田を見た瞬間を見逃さなかった。思いっきり右手でラーシャの父親を平手で打つ。

 ラーシャ父の顔に大きな紅葉が印刷された。

「……本気で相手してやる。」

 ラーシャの父親の目が武人の目に変化。黒田は嫌な予感がした。息を飲み行也を見る。

 ラーシャ父は行也に急行のスピードで襲いかかる。その拳と蹴りは猛獣のように激しく的確に行也の手足を薄い赤に染める。

 行也は防戦一方となった。


 そんな状態がしばらく続き……。行也は遂に避けることすら出来なくなってきた。

 致命傷を避けるための最低限の受身は出来ている。

 しかしそれでもラーシャ父の凄まじい蹴りと拳は、土に染み込む水のようにじわじわとダメージを与えた。

 行也はふらついている。そしてついに。ラーシャ父の攻撃をまともにくらった。彼は低い声で苦しそうに呻く。

「ぐあっ!」

「……トドメダ! くらえ! トマトの産毛拳!」

「行也!」

 拳が発射される直前、黒田はとっさにラーシャ父に飛びかかった。

 運動神経が微妙な彼にしては素早い動きであったが。彼はちいさな虫のようにアッサリ払いのけられる。

「……黒…田先生!」

 行也はふらつきながら駆け寄る。黒田は顔をしかめ、よろよろと立ちながらラーシャ父を見上げた。

「……そろそろ勘弁してくれないかのぅ…行也が根性があるのはわかったじゃろ?」

「いや、コイツは根性ナシの中途半端な偽善者だ! さっき、俺に隙が出来た時の平手うちで分かっタ!  攻撃しないのならそれはそれで仕方ナイ! 殴るならグーでしっかりと殴るべきだっタ! どちらも選べないコイツは覚悟が足りナイ!」

 うなだれて拳をぎゅっと握る行也。

 しかし黒田は荒い息で反論した。

「偽善だろうが……なんだろうが……九州を守るために身体を張る……行也は立派な武人じゃ…… お前にとやかく……言われる筋合いは…ない! バカクソ野郎!」

「何ダト!」

ラーシャ父は両手で黒田を持ち上げて首を締める。

 行也は力を振り絞って体当たりしたがビクともしない。「どうした! このままではこの失言モモンガは死ぬゾ!」

 行也は一生懸命黒田の首を締めている手をほどこうとするが、これもなかなか上手く行かない。

 疲れと焦りで顔からの水滴が目に入り、視界がかすむ。

 それでも行也は必死できつく絞めた縄の結び目のようなラーシャ父の指先を剥がそうする。

「どうすれば……。」

 彼は自身の知恵を檸檬を絞るように抽出した。そして目をぱちっと開くと、行也は突然、ラーシャ父を背にして走りだす。

「仲間を置いて逃げるのか卑怯者!」

 ラーシャ父は黒田を放りだして追いかけて来た。行也は黒田を見る。黒田はケホケホと咳をしつつもラーシャ父を指差した。

 行也は頷き、思考を巡らせながら走る。

「くらえ! リコピンキック!」 

 行也はラーシャ父の鋭い飛び蹴りを避け、ぐるぐると公園を回る。

 風は向かい風。超強風。そんな中、行也は突然、メリーゴーランドの歌を歌いだした。昔行った遊園地のメリーゴーランドの歌だ。懐かしくて、目にまた水が滲む。 

「……メリーゴーランドは人じゃないよな。」

「貴様はふざけているのカ!」

 怒り狂ったラーシャ父から稲妻のような飛び蹴りが飛んでくる。

 何とか避ける行也だが。次に来たみぞおち行きの拳は避け切れず。まともにくらって気絶した。


 翌朝。青空に輝く太陽の光に起こされた行也は、ゆっくり目を開いた。そこは病院の個室であった。

 黒田、島津、行人、細川、友樹、ヨッシーが彼を囲んで見守っている。

「……ここは? …黒田先生は!」

「心配したぞ! ワシは大丈夫だ!」

「行也殿! よかった!」

「兄貴! 大丈夫か?」

「お前用の辞世の句を詠んでやったが、必要が無かったな。」

「細川さん、不吉なこと言わないでよ! とにかくよかったよ! 本当に!」

「ヨッシーもー! ちょっと心配したよー!」


……その後。診察を受けた行也は帰り支度を始めるが。そこへラーシャ、ラーシャ両親がやって来た。

 ラーシャとラーシャ父は顔や腕に少し怪我をしていた。

「……ラーシャ君、手と顔どうしたんだ?」

「秘密デス。」

 ラーシャ母は、行人と黒田に深く頭を下げた。

「申し訳ありまセン。夫がこんなことをして……。」

 行人はベッドから下りて頭を下げた。

「いえ、俺に関しては大丈夫です。お互い合意の戦いでしたから。

 それにラーシャ君のお父さんは手加減してくださいましたし。

 こちらこそご迷惑をおかけして申し訳ありません。」

 行也はラーシャ父に視線を移す。彼にしては珍しく、少し厳しい眼差しを向けた。

「俺に関してはいいのですが……黒田先生にはやり過ぎです。黒田先生も失礼なことを言いましたが……。」

 ラーシャ父は素直に頭を下げた。

「黒田さんには確かにやり過ぎマシタ。申し訳ありまセン。

 ただ手加減したのは信じテください。

 ちなみに行也君へは最後の方はガチでした。ゴメンネ。」

「確かに、本気だったら黒田先生はとっくに天国行きだったですね。ところでその傷は……。」

「妻に殴られましタ。」


 みんな一斉にラーシャ母を見る。おしとやかな美人でとてもそんなことをするように見えないが。

 ラーシャ母は柔らかい声で言った。

「ちょっとお灸を据えましタ。それから、バトルボランティアの件ですが。いくつかのルールを守ってくれるならデス。」

「ありがたいですが…本当によいの…うっ」

 黒田が口を押さえる。

ルールってなんだろう。皆はラーシャ母を見つめた


 ラーシャ母は皆を見回して続けた。

「戦士に復帰するための条件は三つデス。

一、体内の毒物をデトックス出来るサプリが本物であること

二、健康や学業に支障がないようにすること

三、健康や学業に支障を来すことが発覚したら直ちに辞めること。」

 ラーシャ母は淡々と続ける。

「以上デス。ミナサンよいですカ。」

 全員頷く。ラーシャ両親はそんな彼らに頭を下げた。

「どうか、ラーシャのことをよろしくお願いシマス。」

「こちらこそよろしくお願いします!」

 その他いろいろ話し合い、細川はラーシャ宅にまた住むことになった。

 友樹はホッとした。彼は細川が嫌いではないが苦手なのだ。むしろ得意な人がいるのであろうか。

 行也はみんなにお礼を言うと、すぐ仕事へ…行こうとしたのだが。

「さすがに今日は休まないとやばい。」

 と皆の意見が一致。行也は睡眠薬で眠らされ、ラーシャ宅へ搬送。

 ちなみに会社へはラーシャ父が電話してくれた。

 一方、行人達はラーシャ宅で朝ご飯をご馳走になったあと、友樹達と龍造寺モモンガゲットへ向かったのであった。


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