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鈴木一郎の頼み

 僕は付きまとわれても嫌なので鈴木一郎に会ってみる事にした。家では妹が邪魔をするかもしれないし、近くの公園に行く。しばらくすると百合子が一人の男を連れてきた。物理学者だったらしいけど、恰幅が良く、髪は七三分けで黒ぶちの眼鏡、何処かの大会社の重役の様ないでたちだ。教授とは違い名誉を重んじるタイプの学者に見える。


〘龍君。すまないな、君に頼みがあるのだ。〙


 鈴木一郎は唐突に話しかけてきた。頼みがあるといいながら態度は尊大で人を見下した感じがした。


「はあ、どういう事なんでしょうか? 」


 僕は内容を聞こうと思って返答をしたのだが……。


〈どうせ、ろくなことではあるまい。大体、それが人にものを頼む態度かね、鈴木。〉


 急に教授が割りこんできた。


〘お、お前、南久松か? まだ、この世にいたのか! 〙


 鈴木一郎は苦々しい顔をしている。


〈私は彼の守護霊だよ。君の様なエセ学者の言う事など聞かせるわけにはいかない。お引き取り願おう。〉


〘何っ! エセ学者だと!? ふざけた事を言うんじゃない! 私が幾つ論文を書いたか知らんのか! 〙


 教授と鈴木一郎の言い争いが始まった。


〈論文は数ではない。中身だよ。それに君の論文は人に書かせたものばかりじゃないかね。〉


〘くぬっ! 人を盗人扱いする気かっ! 助手に手伝わせて何が悪い!? その為の助手だ! 〙


〈ふん、物はいいようだな。君の磁気単極子を扱った論文には大きな矛盾がある。そもそもの仮定に問題がある。私は数学的観点から、それを解明したぞ。〉


〘何っ! 数学的観点だと!? よかろう、私の論文の何処に矛盾があるのか説明してもらおうではないか! 〙


 なんか変な方に話が転がり出した。僕は慌てた。


「ちょ、ちょっと、待って! そう言う話なら僕は帰りますよ! 教授も少し黙ってくれないか。」


〈……。〉


〘すまない。ともかく話を聞いてくれ。〙


 鈴木一郎は先程の様な尊大な態度ではなく、眉間にしわを寄せてうなだれた。


「いいですよ。聞きますから。」


 僕は公園のベンチに腰掛けて話の先を促した。


〘君の学校に鈴木充という教師がいる。彼は私の甥っ子なのだ。〙


 確かにそう言う教師がいる。物理の教師で僕は教わった事はないが、同じ学年の他クラスの担任をしているので何度か目にした事がある。小柄で神経質そうな先生という印象だ。


〘彼、(みつる)の守護霊なのだ、私は。だが、変な奴が取り憑いてしまった。だんだん彼は自我が無くなって来ているのだ。私は以前、君が邪な霊を祓ったのを見ていてな。それで君の手を借りられないかと……。〙


 どうやら僕に除霊をしてほしいということらしい。羽田みさきに憑いた邪悪な霊を祓ったのを見ていたらしい。一郎氏は百合子が祓ったという事は知らずに、僕に除霊する力があると思っているようだ。

 僕は百合子の事を説明して、僕には除霊する力など持っていない事を話した。その上で、僕にできる事がないか考えてみる事にした。一郎氏は百合子の事を聞いて驚いていたのだが、頭を下げて改めて「何とかしてやってくれ」と頼み込んできたからだ。


 あと少し夏休み期間であるのだが、その教師は新学期の準備のために学校に出ているという。僕はちょっと覗いて見る事にして学校に行った。

 学校に行くとすぐに、その教師が職員室にいるのを見かけた。僕は開け放たれた扉から覗きこむ。


「どうだい? 百合子、何か感じるかい? 」


〔いいえ。特に何も感じないわ。霊らしき者も全く居る気配がない。だとするとちょっと厄介かもしれないなぁ。完全に自分の存在を隠せるのだとしたら、相当な力を持っている霊という事になるわ。少し様子を見ましょう。〕


 百合子は真剣なまなざしで教師を眺めていた。僕は頷いてそっと職員室を離れた。


《やばいわよ。とても嫌な予感がする。回避できない何かに巻き込まれるわ。》


 礼子が何かを感じて呟いた。

 僕が振り返ると鈴木充は僕を見ていた。


 僕はぞわっと鳥肌が立ったのだった。

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