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ばれちゃったの?

 マスコミに箝口令をひいてもらったとはいえ、人の口に戸は立てられないものだ。僕が国際数学サミットで表彰され、博士の学位を貰った二日後に格闘雑誌を買いに本屋に立ち寄ると、偶然にみさきに出会った。


 「あ、龍君。聞いたよ~、すごいね。博士になっちゃったんでしょー。」


 みさきは我が事のように喜んでにこにこしている。


 「いや、たまたまなんだよ。それにしても、みさきさんは何故しっているの? マスコミには僕の名前は出ていないはずだけどなぁ。」


 「あぁ、私の妹は由美ちゃんと同じクラスなのよ。由美ちゃんが妹に教えてくれたの。」


 由美め。あれほど人には言うなって言っておいたのに。


 「そ、それでこの事は僕の学校の人は知らないよね? ]


 「知っていると思うわよ。市民プールで由美ちゃんと妹が実君に話したって言ってたから。」


 僕は頭がくらくらした。よりによって実に知られたとは。実は幼稚園からの親友だが、口が軽い。彼には内緒話はできないのだ。すでにクラスメートはみんな知っていると思った方がよさそうだ。

 名ばかりの学位とはいえ頂いたからには、それなりに努力しなければと思っている。実際に、日々教授に教わっている。


 僕は夏休み明けの学校の事を思い、ため息をつきながら家に帰った。玄関の扉を開けると、そこにはたくさんの靴が並んでいた。


 「お兄ちゃん。お帰りー。待ってたよ。」


 「ああ、ただいま。由美、お前、僕の事人に話したろう。しゃべるなと言っておいたじゃないか。」


 「まあまあ。悪い事じゃないんだから、いいじゃん。それよりさ、ちょっと来て。」


 由美は僕の手をひいてリビングに連れて行った。そこには由美の友達が六人もいた。

 何事? 由美の誕生日は半年も先だし……。


 「お兄ちゃんの話をしたらね。みんなが数学教えてってさ。一人一人だとお兄ちゃんも大変だからさ。今日、集まれって言ったんだー。」


 言い出したら聞かない我儘な妹だ。仕方ないので彼女達に付き合う事になってしまった。


 「私、数学って苦手なんです。生活する上で役に立つのかなって思っちゃって。お兄さんは面白いですか? 」


 由美の友達の一人が聞いてきた。僕も以前は同じように思っていた。


 「確かにね、普通に過ごしていれば、算数まで理解していればいいんじゃないかって僕も思っていたよ。でもね、僕達の生活の中にも関係があるんだよ。例えば携帯電話とか、何処の地域に行っても使えるでしょ。それはね基地局配置って言って同じ周波数の電波同士が混信しないようにしなくちゃならないんだよ。その基地配置は、数学の四色定理というのが使われているんだ。ひょっとしたら君もエンジニアになるかもしれないし、将来の旦那さんがそうかもしれない。どこかで数学と繋がっているんだよ。」


 「そうなんですかあ。実感わかないけどな。でも数学と生活とどこかで繋がっているって、何かいいですね。」


 半分は教授の受け売りだけど、今では僕もそういう考えになっていた。

 

 結局、僕が国際数学サミットで表彰され、博士になった事はマスコミでの公表を避けたものの、みんなの知る所になってしまった。



 〈龍。昼間、四色定理の事を言っていたが理解しているのだな? 〉


 由美の友達が帰った後、教授が聞いてきた。


 「うん。一応、理解したつもりだけどね。」


 それから僕は教授と四色定理について話をした。話をしたというより、僕の理解度を確かめるように教授が質問をして、僕が答えるといった感じだったのだけれど。


 〈ふむ。私の想像以上に龍は成長しているな。その調子だぞ。数学というのは興味を持った所から考えると良い。考えが煮詰まったら他の課題を考えるのだ。そうやって考える力が養われていく。〉


 教授はとても嬉しそうで、なんだか僕も嬉しかった。こうして僕はしばらく数学漬けの日々を過ごした。




 〔ねえ、龍君を見ている(ひと)がいるわよ。〕


 ある日、急に百合子が言った。もっとも百合子が出て来る時は、いつも急なのだけれど。


 「えー。また霊~!? 悪い霊? 良い霊? どっちなの? 」


 〔邪悪な気はないわね。取り敢えず話してみるわ。〕


 しばらくすると再び礼子が口を開いた。


 〔なんか、物理学者だそうよ。鈴木一郎と名乗ったわ。〕




 何かの記入例に使われそうな名前、鈴木一郎は何の目的で僕を見ているのだろうか……。


  

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