結界の中で
『おい、百合子、どうするんだ? 龍は大丈夫なのか?』
〔落ち着きなさい、勇次郎。龍くんは大丈夫。龍くんは魂が清い。清くて強いわ 〕
ここは龍の通う学校の校舎の中。結界が張られ、龍と引きはがされた四人は邪悪な気に導かれるままに校舎へ入り二階の一室、物理室と書かれた部屋に居る。
四人は部屋の真ん中で固まって周囲に対している。
〈百合子君、あと1m窓の方向へ移動した方がいい。〉
教授がいう。
《なんでよ? 真ん中にいた方がいいんじゃないの? 》
礼子が教授に尋ねると
〈表面的にはここが中心に近いが、空気の流れ、おそらくは磁力の流れで見ると中心を外れている。詳しく話すと、まず窓の面積と教室の入り口の面積と位置。加えて、ここの緯度経度により本来の磁力を求めてみるとだ。45000nTを基本として算出すると…〉
《と、とにかく、そう言う事なのね。き、教授、分かったわよ! ね、百合子さん、取り敢えず動きましょう》
教授の呪文のような説明から逃れるように礼子は百合子へ言う。百合子も頷いて、みなが移動する。
〈ここは物理室だ。磁石があるはずだ。それをこの近くへ持って来ておきたいのだが、龍君はいないとなると物質を移動させるのは無理かな〉
再び教授が口を開く。
ここにいる四人は肉体を持っていない。魂の存在で、実際の物質を移動させるのは難しい。テレビドラマや小説などで、霊魂が物質を移動させるシーンをよく見聞きするが、実際にはほとんどあり得ない事なのである。考えられる方法としては人体を拝借して移動するという手段があるが、もう夜中である。校舎に人はいない。
四人は一軒呑気に話しあっているように見えるが、実際には周りに無数の霊魂が浮遊していて、取り込もうと圧力をかけている。それを防いでいるのはもっぱら百合子と百合子の指示で動く勇次郎だった。
〔勇次郎、右よ。右から三つの霊魂が迫って来るわ〕
『おう!せやっ!』
勇次郎は空に蹴りを放つ。三つの霊魂はぱっと散る。
教授は打開策を必死で思案している。礼子も龍への交信を試みている。
みな、それぞれ自分の役割を、できる事に取り組んでいる。
『なあ、百合子。俺らがこいつらに取り込まれたらどうなるんだ?』
〔自我が無くなる…。私たちは龍君の魂に浄化されて強い霊体となっているのよ。そう簡単には取り込まれないわ。〕
《大丈夫。私たちの少し先の未来に暗さはないから》
『そっか。なら気張るか。』
四人も龍の事を心配しながら、必死で戦っていたのであった。




