みさきの除霊再び(二)
タイミング悪く電話してきた実、どうせ僕らの様子を探るのが目的だろう。百合子はどうするのかなと思っていた。
「ごめん。後で携帯でかけ直すって言ってー! 」
百合子はみさきから目を離すことなく声を上げて、母さんに答えた。母さんから「分かったわ」と返事が聞こえる。百合子のこんな風に物事に動じない姿は頼もしいと僕は思った。
「俺をどうするつもりだ。言っておくが俺はこの体から出る気はない。無理に引っ張りだそうとしても、無駄だ。俺はこの娘の奥深くに根を張っている。いわば一体化している。この娘が壊れるぞ。ふ、ふははははっ! 」
みさきの口からは例の何とも不気味な声が発せられた。この邪な霊の言う事は本当だろうか。本当だとするとどうするのだろう、百合子は? 百合子はじっとみさきを見据えたまま、手に護符を持ち対峙している。それにみさきが何をしたと言うのだろう。ただ霊媒体質と言うだけで邪な霊に取り憑かれてしまったみさきの事が可哀そうでならなかった。
〈なるほど。百合子君、ならば分母を増やせばいいのではないかな 〉
ふいに教授が出てきた。僕は意味が分からなかったけれど、百合子は頷く。
〔でも教授。危険よ。教授の魂も影響受けるかもしれないし、彼に取り込まれるかもしれないわ。危険な事をしなくても時があれば大丈夫だけど…… 〕
百合子が教授に返答する。
〈その時がないのだろう? 私は博打は嫌いだが、一度くらい賭けてみるのもよさそうだ。それに私の計算では八十パーセントの確率で取り込まれる事はない 〉
「ねえ、何を言っているの? 」
僕は教授と百合子に尋ねたけれど、二人とも真剣な表情で黙したまま返答が返ってくる事はなかった。
《時間がないわ。下の様子を見てきたら、ケーキを用意しているわよ。もうじき、この部屋にお母さんか、妹が来るわよ。教授が何を言っているか分からないけれど、やるなら早くした方がいいわ》
礼子も何が行われようとしているか分からないようだけれど、事態の打破を促したのだ。
〈では、行ってくる。百合子君、後はお願いする 〉
そう言った教授は、なんと、みさきの体に入って行ったのだ。
「きょ、教授! 」
僕は思わず叫んだ。百合子は慌てることなく黙って同じ姿勢を保っている。みさきは苦しそうな顔をしだした。
「き、きさま、何のつもりだ! 」
邪な霊が叫ぶ。邪な霊にとっても予想外の教授の行動だったらしい。
『なるほど。そういうことか 』
《そういうことなのね 》
勇次郎と礼子も教授の意図が分かったみたいであった。そして……。
『そう言う事なら、俺らも手伝ってくる』
そう言って、勇次郎と礼子までもがみさきに入っていった。僕はまたしても驚いたが、こうなっては事の推移を見守る事しかできない。
みさきは顔を歪めて苦しそうにしている。百合子は冷静で護符をみさきの額に押しつけて呪文を唱えた。
「あびら うんけん そわか」
すると目の前のみさきは体を硬直させ口から泡を吹いて白目をむいた。恐ろしい形相だった。
「ぐ、お、おのれっ!」
邪な霊は断末魔を叫んだ。みさきの力が抜けて崩れ落ちる。座卓に突っ伏すような形になった。
「さ、終わったわよ。教授のお陰で早くけりがついたわ 」
百合子は微笑むと僕の体から抜けたのだった。気がつけば教授、勇次郎、礼子が僕の周りにいつものように揃っていた。
「ね、終わったの? 」
僕が問い掛けた。難しい問題を解けた時に、答え合わせをしたくなる感じだった。どう言う事だったのか早く聞きたかった。
【がちゃっ】
「お兄ちゃん! 差し入れだよ~っ! 」
僕が答えを聞く前に、急に由美が部屋のドアを開けた!




